ボタンを押すと即立ち読みできます!
初の野原作品。人気作はあれど、日常系や日本を舞台にしたものの方が親しみやすい読者なので、初めての作品は時代物の本作をピックアップしました。
遊廓もの。うーん、遊廓もの好きなので期待してたんですが、どうもメインカプに入り込めず苦戦しました。時代物を読んでみて作者の個性も見えたような気がします。
貧農出の姉弟、清子と志津夫。器量の良い姉は遊女として、弟はいつか姉の鎖となることを予言されながら共に遊廓「朱屋」へ自ら売られていく。二人の深い姉弟愛を土台に遊廓で雑夫兼用心棒として働く志津夫と、世良商舩の庶子で阿蘭陀人の血を引く糸夜との身分差愛が描かれています。
時代や歴史背景、遊郭に売られる子供たちが題材ということもあり、姉弟の境遇は艱難辛苦の極みです。覚悟して読んでいますので物語の背景はさておき、まず、なぜか受け攻めのヴィジュアルが全然イメージできなかったんですよね…。もちろん容貌の描写はあります。けれど人物の内面とリンクせずキャラが掴めない。セリフがしっくりこなかったのかな…。読んでいても絵が浮かばなくて、もっと苦しく切なくなりそうなシーンに違いないのに、胸に迫る感触がなくて…。エロはエロかったですが(そこかい)。
振り返ると、キャラの心の動きが身体的なリアクションと顔の表情ばかりで綴られているような気がするのです。目元の動き。口元の動き。ふにゃりと唇を緩ませるとか、唇をはくはくと上下させる、ぺたり、ぽつり、ニタニタなどなど擬音がたくさん出てきます。キャラの内面に入っていけないのはそのせいなのか。表情が豊かなのは素晴らしくても、顔芸だけでは限界があります。作者の現代ものは似つかわしい文章でとても自然でしたので、時代物には時代物に相応しい文体にガラッと変えられたらめっちゃ食いついたと思う。
糸夜が、学が無くまっすぐで無垢な志津夫を愛しいと思う気持ちもわかりますし、糸夜の兄も悪者じゃなくて本当によかったと心から思いました。春音姉さんの一件と絡めて迎える結末も涙を誘います。三人称ではなく受けか攻め一人称で読めたら、どちらかの生々しい心情に触れられたのかな?
お話はとてもよかったけれど、萌えとはちょっと距離があったかも。糸夜と志津夫がキャラとしても男性としても、生身の人間としての魅力がダイレクトに伝わりづらかったのが残念でした。