muueba
オメガパンチシリーズを愛読していたので、春庭で商業番外が出るということで楽しみにしていました。
しかし、なぜ漫画ではなく小説なのか、不思議でした。
シナリオなのか、没ネームの転用なのか、などと勘ぐってしまいましたが、今作は、小説の形がとても似合っています。
高飛車アルファの四門はやらかしたせいで謹慎中。
その四門を誘ってドライブに行け、と嵯峨野に命じられた岸。
岸は大物ではないけれど、小物ではなく、アルファの、社会の、警察の、いろんな世界の中を、うまい具合に浮遊しながら、要領よく生きていくタイプだったのだと思います。その岸は、異能オメガの高森と関わったことでいろいろ調子が狂い、大失態はないものの、思っていたよりうまく世の中を渡れていない状態です。
個人的に、岸の姦計を巡らし、自分が第一で、計算高いけれど、ちょこちょこ憎めないところがある人となりが、お気に入りです。
そんな2人の、本人同士が望んでいないドライブ、絵面だけで笑えて来ます。
車内の空気感と岸の内心を想像しただけで、にやついてしまいます。
本作は車内の2人の盛り上がらない会話と、岸のぼやき、が大半です。
絵はないので表情は見えませんが、文字の濃淡やフォントの違いで、声色が伝わるのがおもしろいです。
ドライブ後半にちょっとした事件があり、四門のハイアルファとしての強つよなところと、意外な人間味が見えてきて、少し元気になった、というか調子を取り戻した感じがしました。
岸は今後も姦計を巡らせてはうまくいったり、うまくいかなかったりして、昇進したり、ペナルティを課されたりして、上層部と本人が望まないつながりを持ちながら、警察組織の中を漂って行くのだろうなと思いました。
りーるー先生の作品はストーリーの魅力ももちろんですが、絵も好きなので、小説での新作は購入しようか実はちょっと迷いました。
岸がメインの1人ということで、これは読むしかないと思ってお迎えしたのですが、大満足でした。同じように迷っている人がいたら、ぜひ手に取ってみてほしいです。