電子書籍限定版
小説


だんだん意地悪や暴力シーンが苦しくなる今日この頃。とんでも設定のお笑い系?って思ってたら、歌舞伎町のネオンに生きる男の粗暴さにうっ…と手を止め日を置く。ちびちび読み進めていくうちにチャロの純真爛漫と健気さに見守ってあげたい気持ちがむくむく。ラストに近づくにつれ号泣!こんなに泣かせるなんて思わなかった。でも悲しくて寂しくて………ん?終わらない。まだ終わってない!最後の最後まで心を離さないお話でした。蟹だもの、掴んだら離さない!
蟹でも、人間でも、ままならないことってあるじゃないですか。「自分はダメなやつだ」「誰にも期待なんかするもんか」そう思ってしまうじゃないですか。みんな違ってみんな苦しい。だからすれ違い、傷つけあったりする。生きてきた時間も生活ぶりも何もかも違って、それぞれの痛みを抱えているのにわかりあえることなんてあるだろうか……。
そこに希望を与えてくれるのが、チャロと龍治です!
種族が違っても、生きる時間の長さが違っても、癒し合うことができる。そんな心強いメッセージを送ってくれる作品です。
蟹っていうのが斬新で、物珍しさに読み進めるうちに、いつの間にかのめり込んでしまいましたね……。チャロと龍治の最初で最後のア◯カンシーンは胸に迫るものがありました。
そしてチャロの「食べて」という願いと龍治がそれに応えたこと。龍治がチャロの過去にまつわる罪の意識と孤独を受け入れてくれた時に、そうなることは決まっていた気がします。
賛否両論あるみたいですが個人的には「蟹と人間だからできたことでもあるよな」と思っています。チャロと龍治だけの愛の証なのです。
いしだ赤月先生の物語をもっと読みたいな〜!と思わせられる良作でした✨️
カニ料理屋の生け簀の中から「俺を食う気か?やんのか?」と睨みつけてくる強気なタラバガニとか、子どもの頃に釣り上げたザリガニが赤ちゃんで「まだ小さいから」と逃してもらい、数年後に「あの時助けてもらったザリガニです」と恩返しにくるとか、そういうカニの話ですらBLにはならんだろうと思うのに、まさかのサワガニ。
どうやったらサワガニでBLを書こうと思うのかいしだ先生の思考に興味が湧きました。
そしてその想定外の設定で泣かされるとは思いもしなかった。
サワガニに泣かされるとはどういうこと?
横にしか進めないサワガニ・チャロが人間の姿になった時に自分の脚で前に進む。
そのいじらしさが愛おしいのです。
秀逸なタイトルに偽りなしです。
読んでみてください、一泡吹かされます。
人の体液を飲んで蟹が人になるという設定は斬新でした。生まれ変わりではなく、人に変身するだけで、腕の先は蟹の爪です。途中で引っ張られて「自切」という蟹の特性で両腕の先が失くなります。蟹ならば新たに生えてくるようですが、人の体を維持している弊害か生えてこなかったので、両手は失くしたままです。
寿命も早くに来てしまい、最後は蟹の姿に戻ります。
死ぬ前に受けは攻めに、自分が死んだらその時は脚一本残さず食べてほしいと願い、攻めはその願いを叶えます。
亡くなった人の魂を受け継ぐために信仰としてそういう風習を行っていた部族もあると聞いたことはありますが、それと似た感覚に思えます。そういう思想的なものはなしに蟹の習性だからと考えると、愛情のない単なる生存本能に思えて余計にグロテスクです。
蟹だから食べてもいいとは思えず、自分に置き換えて考えたら、その蟹が愛する人本人ではなく愛する人の生まれ変わりであっても、到底無理な話です。
食べられて攻めの血肉となり生きていきたいという思いや攻めの究極の愛に涙するよりも、受け入れがたい気持ちのほうが勝りました。
現代日本人の常識を完全に頭から排除して、ファンタジーと割り切れる人には楽しめるのかもしれません。
イラスト担当の笠井先生が連日サワガニネタをポストされていて気になっていた本作。設定だけ見れば、BL史上屈指の異物感を放つ作品だと思います。
人間になりたかったサワガニのチャロは、人間が捨てたゴムの中の精液をすすって人間になります。かなり衝撃的なオープニングですが、読み進めるうちに、まるで幼少期に読んだメルヘン童話のような感触へと変わっていき、けなげなサワガニの姿に思わず涙腺が緩みます。人魚姫オマージュの作品と言えますが、ややグロテスクな描写もあり、残酷童話の系譜とも感じられます。
この作品が、単なるコミカルな童話オマージュで終わらないのは、終盤の凄みにあります。前段として、蟹の父が脱皮した母を食べるという描写があり、人間から蟹に戻ってしまう受けは、自分が息絶えたら攻めに食べてほしいと願います。人間の倫理の際を強く揺さぶる展開で、ラノベやBLの枠を超え、オマージュを超えた意欲作だと感じました。
特に攻めの人物描写が素晴らしく、愛した蟹を食べるという狂気と純粋さを併せ持つ人物像がきちんと提示されており、強い説得力があります。自分だったら、とても相手の望みを叶えてあげられないだろうと思うからこそ、攻めが背負う壮絶な孤独と腹の据わった覚悟に感情を揺さぶられます。
とんでも設定にこわごわと読み進めた本作ですが、倫理観と感情を揺さぶられつつ、世界観に引き込まれたまま一気に読了しました。創作を読む醍醐味を味わうことが出来ました。純度の高いラブストーリーであることは間違いありません。
ラストには祝福と救済が用意されており、大きな余韻を残しつつ、読後感よく物語は閉じられます。
