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地味で堅実な生活をしている大学生の日夏櫂は、誕生日に高級ビストロで待ち合わせをしていたが、すっぽかされてしまう。
そんな中、偶然、居合わせた美貌の男・執行芳彦と出会う。
蝶の飼育と鑑賞が趣味だが、美しい恋人も育ててみたいと言う執行に「私の蝶になりませんか?」と問われた櫂は、執行の洗練された物腰と成熟した魅力に抗えず承諾してしまう。
執行の屋敷で美しく着飾られて、彼の蝶となった櫂だったが……
という話でした。
まあ、簡単に言ってしまうとお金持ちの男の人が、年若い男の子を飼っちゃう話なんですけど、その男の子が控えめでおとなしい子なのだけれど、どんどんお金持ちの男の人に惹かれていってもどかしくなっちゃって、そうなると逃げ腰になっちゃって……という感じでグルグル。
執行も執行で、人をうまく愛する方法を知らないから、うまくいかなくて……と。
でもやっぱり、最後には櫂の大事さに気がついてハッピーエンド! でした。
まあBLとしてはとてもベタな話でした。
まず、弓月さんには珍しい受一人称でした。
私は受一人称がものすごく苦手なので、この時点で下がりきったテンションが、結局最後まで少しも回復しませんでした。設定もストーリー展開もキャラクターも、何一つ好きになれませんでしたので。
執行(攻)がなにを考えているのかよくわからない。櫂(受)も、ネガティブ・ぐるぐる受は本来苦手ですらない私でもうっとうしい。
どちらにも共感も理解もできないしまったく好きになれないから、切ないはずのすれ違いも『あ~、そう』という感じで醒めきって読んでました。
ベタなのはいいんです。弓月さんにはいわば『ベタならではの面白さ』または『ベタだけど面白い』というようなものを求めていますから、私は。←褒めてます。結構好きな作家さんですし。
でもこれは、ベタはベタなんですが、なんというかいつもの弓月さんのいいところが少しも感じられなかったんです。
もともと私が『調教』ものがまったく好みじゃないどころかかなり苦手なのもあるかもしれません。
続編の当て馬・京哉も、(作家さんがこのキャラクターで)言いたいことはわからなくもないけどこれもまた半端。
あとがきで作家さんが『耽美がくるりと輪を描いた』と言われてましたが、耽美にもベタ甘にも物足りない、なんとも中途半端な感じがしました。
あとイラストですが、イメージに合う・合わない以前の問題でした。『絵』が不安定で、見ててイライラしました。
それと、環さんのあとがきの京哉のイラスト。キャラクターのデフォルメそのものはまったく抵抗ないんですが、このイラストには嫌悪感しか覚えませんでした。
申し訳ないんですが、挿絵としてはどうしようもなかったですね。
昨年辺りからの弓月さんの勢いを見てると「ベタだけど面白い」を「ベタだから面白い」に変えて行くんじゃなかろうかとさえ思ってしまっておりますです。
異論はあるでしょうが、弓月さん作品は基本的にベタです、今までは「だけど面白い」と称していたんですが、どうやらそうではなく「ベタだから面白い」事に気付きつつありますです。
ベタの面白さ、こんな単純な事を弓月さん作品はそれを思い出させてくれました。
ベタ「だけど」ではなく「だから」面白い。こんな当たり前の面白しろさを忘れかけてましたよ、自分!!
今回もお気に入りの地味な少年を艶やかに蝶のごとく孵化させ愛でる話、ベタ要素もふんだんに取り入れつつも、ベタ枠にははめられない勢いもある。
蝶好きの攻がドームボタンを押すシーンはカタルシスー!!!
弓月さんには是非これからもベタだからこそ面白い作品をどんどん書いて貰いて欲しいですー。このベタさ、たまらんです、くせになりますーー!
ゴージャスな攻めが、なんにも知らない受けを磨き上げて手ほどきするっていう王道テンプレなんですが、微妙に上滑りしちゃって乗り切れなかった。残念。
受けの魅力は伝わってこなかったし、攻めも何を考えてるんだか、よくわからないんだけど、お話だけは盛り上がっておわっちゃったかも。
当て馬も出てくるけど、ただ掻き回しているだけで、だからなに、という展開。
一事が万事、ありがちなエピソードを並べているだけで、弓月さんらしさみたいな、おもしろみが感じられなかった。
期待しすぎたんでしょうか?
イラストも大味だった。合っているようでいて、なんだか物足りない。
磨けば光るものを持っていながら、本人は全くその自覚がなく、自信もなく、家族もなく、たったひとりで生きている櫂を、一目見て自分好みの“蝶”に羽化させたいと思った執行。
ヒギンズ教授の『マイフェアレディ』を思い浮かべるところですが、実際はもう少し湿った空気感があって、本文にも出てきますが、レクター博士なんだそうです。
うん、確かに丁寧に育てているけど、育ちすぎたら捨てちゃってたんですね、今までは。
だから、そういうところがレクター博士なんでしょうねぇ。
執行に出会うまでは、地味で真面目で臆病で面白みのないただの学生だった櫂が、執行に手をかけられると、本当に羽化していくんです。
ですが、執行は綺麗に着飾らせてはくれるけれど、気持ちはくれない。というか、最後まで抱いてくれないことに、不安を持ち始めます。
好きなのは自分だけで、執行は愛してはくれていないのではないかと。執行の自宅にある温室に飛ぶ、執行が育てている様々な蝶と同じなのではないかと。
そうなると、元々自信のない櫂は、どんどんと後ろ向きになっていき、執行からの連絡を拒否し始めます。携帯の連絡さえ途切れたら、もう二人を繋ぐものはないという薄っぺらな関係だと自嘲する櫂の姿が、切ないやら哀しいやら。
また、執行が昔付き合っていた男・京哉の登場により、以前の執行が誉められた人間ではなかったことがわかっちゃうんです。
櫂も感じたのと同じように、京哉は『温室を飾る人形』として扱われていたらしいんですよ、執行から。だから、好みからはずれると即捨ててしまう。
プライドの高そうな京哉は、今でもそれが許せなくて、櫂にちょっかいを出してしまったわけです。
執行といういい男に愛され、自信をつけた櫂は、京哉だけでなく、画壇の重鎮にまで気に入られちゃってます。執行が嫉妬の嵐を巻き起こさないといいのですが。