05/10発売日本最大級のハイブリッド書店
すごい世界だよ、これ。
なんという重い愛。
なんという深い愛。
一途とも執着とも言える狂気じみた愛。
分かりにくくて分かりやすい…そんな男に激しく愛された愛の物語は、エグさもあるけどピュアさもあって。時代が時代なんで適切な表現じゃないかも知れませんが、ものすごい純愛でした。
凶暴すぎるほどの想いの強さに驚き、戦慄き、そして相手をめちゃくちゃに傷付ける行動の意味が紐解かれていく頃には、なんて美しい恋なんだと思ってしまいました。
資紀が希に対する言動や残虐な仕打ちを前にして、"美しい"と形容してしまうことに違和感がないわけでもないのですが、でも物語全体をみると、やっぱり"美しい"が一番しっくりくる。戦争という死を引き換えとした美化フィルターがかかってるせいとかじゃなく、あの時代、ああでもしないと免れない兵役事情でしたから、自分の身代わりであった希の"身代わり"となることで、希を守ったことはやはり美しいと思うのです。
好きな人に生きていて欲しい。死んで欲しくない。この身を捧げても…と思う気持ちに、どんなに胸が締め付けられたことか。愛国心を盾に逆らえない事情が2人の気持ちをすれ違わせていることにとても苦しい思いです。
守り抜く手段は過激ですが、今の時代の尺度で考えずに見守る必要がありますね。時代的なもの、お国事情的なもの、彼らを取り巻く背景への理解なくしてこの物語の本質に触れることは難しいでしょう。
希の"片割れ"を大事に持ち続けていることにしてもそうだけど、資紀の行動は常識の範囲を超えていて、普通の状況なら異常です。でもこの作品の中なら許せてしまうそんな雰囲気があるんですよね。
相手の身体の一部を持っていると聞くと、私なんかは阿部定事件をパッと思い浮かべてしまって、相手への執着が強ければそういう行動もあるのかなと納得できてしまうのです。
現代を生きる私には分かりかねる感覚でも、それを理解させるだけの見応えと文字のパワーを感じました。
痛いことや辛いこと、切ないことがたくさんあるストーリーだけど、どうか誤解しないで欲しい。それは表面的なもので、その裏に隠されたものは、とてつもない愛のカタチがあるんだということを知ってもらいたいです。
中盤までは想いが噛み合わないシーンが多いけど、後半にかけての回収劇はどえらい見事です。それまでのモヤモヤや哀しい気持ちが一気に吹き飛んでいくので注目下さいね。
希の右手のホクロの星から全てが始まった恋でした。側にいなくても、その特別な星がいつでもあるべき場所やあるべき想いを導いてくれる、そんな特別な繋がりを拠り所に深まっていく愛に感動です。
縛りのなくなった彼らが遅すぎる春を迎えた姿を見て、ホッとし安堵感を抱いたのは当然として、時代に翻弄された2人がようやく望む場所に落ち着いたことが一番の幸せでした。
戦争もの、苦手だなんて思ってすみせん。
ただただ圧倒されました。すごかったです。