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大正時代、貿易商と執事の十数年の歳月を描いた作品。
大正のビジネス界における一商家の一進一退も描かれており、大河小説のような壮大な物語が展開されます。
あらすじ:
文官の父を亡くし、執事見習いとして貿易商の宗方家で働き始めた弓削(受け・14歳〜)。
嫡男の鉄真(攻め・15歳〜)、弟の一誠と打ち解け、将来の夢を語り合う仲に。
しかしある夜、宗方家当主の部屋に呼び出されたことから、弓削の運命は大きく変わることに…
タイトルの「トロイメライ」とはドイツ語で「夢想」の意。
鉄真が弓削に贈ったオルゴールに使われている曲名です。
作中幾度か登場するこのオルゴールは、二人の失われた少年時代の象徴。
そして、当時の夢を糧に厳しい現実を生き抜く二人のひたむきな姿とも連動しています。
当主に犯され、その後も彼に様々な性的拷問を受ける弓削。
当主は阿片に精神を侵されており、息子の鉄真にも暴力を振るっています。
ある日、当主の刃から鉄真と一誠を守ろうとした弓削は、あやまって当主を刺殺。
鉄真は、罪人の弓削を屋敷に匿う代わりに、弓削が他の使用人に妬まれぬよう必要以上に辛くあたるように。
一方で、彼を他家に引き渡し自由の身にしてやろうと画策します。
そんな鉄真の優しさを全力で拒む弓削の異様なまでの頑固さが、本書が普通の純愛モノとやや異なる点。
鉄真にどんなに殴られても彼を愛し続け、何度追い出されても自力で戻ってくる弓削の執念は、やや常軌を逸しています。
先代当主に吸わされた阿片や性的虐待の影響か、どこか精神的に壊れてしまった弓削。
しかし、狂いつつも鉄真への愛だけは失わず、その愛を原動力にタフな大人の男性へと成長していく姿には、ある種の爽快感も感じさせます。
鉄真も、縋ってくる弓削を見ることで彼の愛情を確かめているような節があり、結局非情になりきれず。
かつて彼に語った、岬に灯台を建てるという夢のため、なりふり構わず事業拡大を図ります。
やがて優秀な執事に成長する弓削ですが、先代を殺した罪人という立場は変わらず。
鉄真とは相思相愛で身体の関係もあるものの、互いの立場上、接吻さえ自重するという関係性です。
二人の極端な行動にやや作為を感じる点もありますが、狂気と紙一重の純愛に圧倒され、ページをめくる手が止まらず。
言葉以外の様々な手段で間接的に想いを伝え合う二人の姿にギュッと切ない気持ちになります。
終盤、台湾マフィアが出てきてからの展開はややご都合主義的ですが、ラスト数ページは圧巻。
タイトルの意味合いが効いてくる結末は充足感と虚無感に満ちており、余韻が残ります。
粗筋だけを辿ると陳腐な物語かもしれませんが、伏線使いや心理描写、情景描写が秀逸。
十数年の歳月の一瞬一瞬を全力で生きる二人の姿から目が離せず、読後もふとした瞬間に各シーンが胸に蘇ります。
二人を取り巻く様々な登場人物の描写も印象的。
阿片に溺れた先代当主も、立派な青年に成長する一誠も、宗方家に仕える他の執事たちも、エピソードは短いもののそれぞれにドラマを背負っており、善悪の一言では括れない人間味を感じます。
冒頭にも書いたように、大河小説を思わせるような大変濃密な物語。
ぜひ初回封入ペーパーと一緒に入手されることをお薦めします。
待ち遠しかった尾上さんの新作。
表紙の美しさにまず打ち抜かれ、口絵の扇情的な様にうひょーっと舞い上がる。
本の厚みに期待いっぱいに読み始めるともうダメでした。
何度も何度もこみ上げてくるものを飲み下しながら一気読み。
時代は大正、貿易商を営む宗方家に執事見習いとして奉公に上がった弓削は、そこの跡取り息子である鉄真と強く惹かれ合います。
少年特有の淡い恋心をお互い胸に秘め、ゆっくりとその想いを育んでいた2人ですが、当主であり鉄真の父の陵辱によってその想いは無残に引き裂かれてしまいました。
日々繰り返された地獄は、鉄真とその弟を守るために当主を斬り殺した弓削の主殺しによって唐突に終わりを迎えます。
醜聞をもみ消すため、そして弓削を側につなぎ止めておくために鉄真は弓削を監視下に置き、長い長い贖罪と淫蕩の月日が流れるという感じなのですが、もう中身が凄い。
重いし苦しいし切ないし痛いしぎりぎり胃を圧迫してくる辛さが半端ないし。
それでも全く読むことをやめられない程ふたりの執着が強烈で、はやくこのふたりを解放してあげて欲しいと何度も願いながら読み切りました。
作中、鉄真から弓削に贈ったオルゴールが作品のキーとして何度もでてくるのですが、これがもう絶妙に効いていて、涙がぼたぼた落ちてきて仕方がなかったです。
不憫健気と執着を絵に描いたような弓削と、そんな健気な弓削をどうしても手放すことが出来なかった鉄真の想いが消化されたラストの余韻は言葉では言い表せないほどに強烈な印象となって放心状態。
読みながらずっとトロイメライを流していたのですが、BGMにするとより一層この世界の彩りが鮮やかに蘇るようでおすすめです。
余談ですが下着が褌なので、褌好きさんは飛びついて欲しい。下帯という文字だけで滾りました。もっと褌描写があれば神評価突き抜けて宇宙のどこかに行ってたと思います。
尾上さんの新刊という事で楽しみに待っていましたが、挿絵が笠井さんと知ったとき正直びっくりした。笠井さん大好きなんですよ、絵師さん買いするくらい。でもイメージがちょっと合わなかったので。
でもでも、読後は笠井さんの挿絵しかイメージできないほどストーリーにぴったりだった。美しく、儚く、そして切なく。笠井さんの挿絵が萌え度を確実にアップしました。
内容はすでに書いてくださっているので感想を。
尾上さんらしい、というか、自分の意志ではどうにもできない激動の時代の流れに流された二人の恋のお話でした。
父親の死と同時に保護してくれるべき存在を失った弓削。
そしてそんな彼を引き取ってくれた家の子息である鉄真。
彼らが少しずつ、大切に育ててきた淡い初恋を踏みにじることになった事件。
お互いがお互いを大切にしていたからこそ起こった悲劇に思わず泣いた。
何も持たなかった弓削が宗方兄弟と過ごした時間。
そしてあの嵐の夜にかわした約束。
それだけを心の拠り所にして夢想(トロイメライ)する弓削に思わず落涙。
鉄真が弓削に渡したオルゴールが、そしてトロイメライが、実に効果的に使われていて、文章の構成のうまさに圧倒されました。
鉄真と弓削の二人の執着心はすんごいドロドロなのです。ほかにも弓削に嫉妬心を燃やす執事がいたり、貿易商である鉄真と、彼を出し抜き利益をむさぼろうとする特権階級のおっさんたちとの戦いがあったり。なので始終シリアスな雰囲気が流れるのですが、鉄真の弟の一誠が癒しキャラなのでそこはほっこり。彼が弓削に渡した木の実。良かった。すんごい良かった。
鉄真と弓削。
激しく求めあいながらもすれ違う彼らに幸せになってほしくてページを捲る手が止められなかったが、あの最後は…。
バッドエンドだと感じる方もいるかもしれない。
実際メリバなのかな?
けれど、あの終わりが、この二人の最後にふさわしいと思った。
最後の最後に、何もかも捨ててお互いだけを選んだ彼ら。
最後に彼らがどうなったのか読者にゆだねる結末だったけれど、最後に笑顔で穏やかに暮らす彼らを私は想像しました。
ストーリーも、登場人物たちも、そして挿絵も。
全て素晴らしかった。
文句なく、神評価です。
久しぶりに重苦しいお話を読んでしまいました。
尾上さんは評判の高い1945シリーズを知っていましたが、重くて薄暗く最後が二人の幸せな未来というのではない結末とか、哀しい出来事が多そうなので手が出せませんでしたがいつかは読んでみたいリストに記しています。
ですが、作家さんや内容に関わらず絶対に読んでしまうイラストレーターの笠井さんのカバー絵を見て、尾上作品初体験です。
とても美しい文章と写実的な描写で庭や花の美しさ、屋敷の古色蒼然とした雰囲気が思い浮かぶようで映画のワンシーンのようでした。
一番好きな場面は終盤の桜の舞い散る坂道を足早に歩く弓削の足元で激しく花びらが弾かれる様子を描いたところです。そして目に浮かぶようだなと思ったってページを開いたらなんと見開きでそんな二人のイラストが目に飛び込んでくるのです。
激しく儚く美しいシーンです。
弓削の不遇な年月が長く、使用人達からも蔑まれ時には暴力的ないじめもありながら、彼は決して不幸でも嫌がってもなかった。というか他人の感情などどうでもよかったんじゃないかと思います。
待遇が悪かろうが罵られようが叩かれようが痛くもかゆくもない、鉄真のそばに居られればその他はなんでもよかったから本人はさして不幸ではない、むしろ幸せな生涯だったんだと思えました。
そして最後の最後には二人とも望むものを手に入れて最高な時間を過ごしたと信じます。
明るくキラキラとしたハッピーエンドな作品は、日常を忘れ癒されるので大好きですが、こういった読後感が重く色々考えさせられる作品にどっぷりと浸ってしまうのもたまにはいいなと思いました。
とてもいいお話でした。
貿易商を営む宗方家に執事見習いとして入った弓削は、執事修行に励む中、宗方家の嫡男・鉄真に惹かれていく。鉄真もまた弓削の勤勉さや生真面目さを愛おしく思い、二人は淡い初恋を大切に育てていた。いつか灯台を建てる鉄真を傍で見守る事を心の支えにして精進していた弓削だったが、ある日宗方家の現当主である鉄真の父に身体を暴かれてしまう。
阿片に毒されていた鉄真の父に諫言は通じず、他の使用人も見て見ぬふりをする中、人形のように身体を好き勝手に弄ばれる日々にただ絶望する弓削。それでも鉄真と語り合った夢を心の拠り所にし、ひたすらに耐えていた。しかし遂に阿片に狂った当主は鉄真に言いがかりをつけ、鉄真を手にかけようとする。鉄真を守るために当主を斬り殺す弓削。宗方家で起こった全ての事の顛末を弓削に被せ殺そうとする宗方家の家人たちだったが、鉄真はそれを制し、弓削に「一生傍で罪を償え」と告げる。
以来弓削を守るために使用人たちの前で彼を罪人として扱い、辛く当たる鉄真だったが、事件前よりも強い愛情と執着を弓削に寄せるようになっていた。いつか弓削を宗方家から解き放ちたいと願う鉄真と、鉄真の傍にいたいとただただ願う弓削。二人の愛の行きつく果てはいかに。…という感じのお話です。
文章の構成、表現、ストーリー、どれをとっても洗練されていて、物語の世界観にグイグイ引き込まれていきます。また、情景描写も素晴らしくそして美しく、読後はまるで映画を一本見終わったかのように、1つ1つのシーンが映像として浮かびあがります。漫画を読んだ後に絵が思い出されることはよくあると思うんですが、文ですべてを構成される小説において、場面や登場人物の行動が文でなく映像として思い出される体験というのが私はあまりなくて。尾上先生の稀有な表現力を堪能することが出来る名作です。
物語のキーパーソンは主人公の弓削だと思うのですが、彼がなかなかに一言では著せない難しいキャラクターです。ちるちるでは不憫・健気受けにカテゴライズされている彼ですが、執着受けもぜひ加えたいところ。弓削は事件以来身体に癒えない爪痕を残され、心が砕けてしまい、鉄真を全ての行動原理として過ごすようになるんですが、同時に異様なまでの執着を見せるようになります。
鉄真は深い愛情から弓削を宗方家から追い出そうと何度も画策するのですが、弓削はそれらを全て跳ねのけ、ただ鉄真の傍にいようとあらゆる手段を使います。毒を自ら飲み、地図のない山道を夜通し歩き、折檻を甘受する。これが相手のためを思う行為ならばただの健気受けであり、美談だと思うんですが、彼は違うんです。鉄真の傍にいるのは自分のため。たとえ鉄真から疎まれていたとしても、自分が宗方家にとって害をなす者であっても傍にいたいと願うんです。なかなかのエゴイストだなと思わされるのですが、鉄真以外の全てを望まないから彼を取り上げてくれるなという狂気にも似た彼の悲しい愛し方が頑固で潔くて私は物凄く好きです。
弓削は事件前の自分が愛されていた自覚はありながらも、鉄真の父親に身体を汚され殺人を犯した自分は醜いと蔑み、鉄真の愛情を信じ切ることが出来ません。しかし物語を通して十数年もの間、鉄真への歪んだ愛し方をひたすらに貫く弓削は健気で可哀想で…。読めばきっと惹かれるものがあると思います。
鉄真もなかなかの執着攻めです。弓削を何度も彼のためだと宗方家から追い出しますが、何度も戻ってくる弓削の姿を見て弓削の愛情を試し、安心しているような部分もあるのです。弓削を不幸にさせまいと必死で家業をこなす鉄真。愛の重さや深さは同じでありながらも、弓削を宗方家の呪縛から解き放つことが彼の幸せだと信じて疑わない鉄真と、ただ鉄真の傍にいることを望む弓削のすれ違いがもどかしいんです…。切ない…。
そして鉄真は建前上、弓削を父の仇として弓削を扱わなければならないため、彼への愛情を日の下で表すことは出来ないのですが、だからこそ他者の目を忍び、互いだけが分かる表現の仕方で弓削を大切に扱ったり、愛情を伝える鉄真がすごく素敵なんです…。桃だけでこんなにも二人の狂おしいほどの愛を表現できるのかと唸りました。本当にぜひ読んでほしい。
好きなシーンは本当にありすぎて選べない。苦渋の決断で挙げると、弓削が最初に屋敷を追い出されるシーンと、先ほども言った桃の描写、そしてラストシーンが本当に美しくて好きです。耽美…。
本文は余韻を残して終わるラストなのですが、彼らのその後や本文中で語られなかったシーンが描かれた同人誌が4冊ほど出されています(本文中に登場した人物のスピンオフのような同人誌も一冊)本文が人によって様々な捉え方が出来る本当に美しい締め方なので、購入をためらわれる方もいらっしゃるかもしれませんが、本当に素敵なのでぜひ読んでほしいです。
いつか出る電子版を夢見ていたのに久しぶりに来た情報が絶版で本当に本当に悲しいです…。間違いなく名作なので手に入らなくなる前にぜひ本当に読んでくださいお願いします。いつか読もうかな~と思う方はぜひ購入だけでも。