深呼吸

shinkokyuu

深呼吸
  • 電子専門
  • 非BL
  • 同人
  • R18
  • 神59
  • 萌×240
  • 萌10
  • 中立3
  • しゅみじゃない7

--

レビュー数
25
得点
488
評価数
119
平均
4.2 / 5
神率
49.6%
著者
木原音瀬 

作家さんの新作発表
お誕生日を教えてくれます

イラスト
あじみね朔生 
媒体
小説
出版社
リブレ
レーベル
ビーボーイノベルズ
発売日
ISBN
9784862639066

あらすじ

谷地健司は20年近く勤めていた外資系の会社をリストラされてしまい、40歳を過ぎて弁当屋でアルバイトを始めた。
リストラのショックが癒え、穏やかに過ごしていた彼の前に突然、榛野が現れる。
榛野はアメリカの大学院を卒業したエリートで、谷地に冷酷に解雇を言い渡した年下の上司だった。
無能と宣告されたような気持ちを思い出すので二度と会いたくないと願っても、彼は毎週末やってきては弁当を買って話しかけてくる。
その真意は…?

(出版社より)

※電子版もイラストが収録されています。
 尚、イラストは紙書籍と電子版で異なる場合がございます。ご了承ください。

表題作深呼吸

谷地健司,43歳,弁当屋でバイトのリストラ社員
榛野佳久,34歳,外資系企業の元上司

その他の収録作品

  • 深呼吸2
  • あとがき

レビュー投稿数25

木原先生の描く受けってなんでこんな刺さるんですかね..

ちるちるの質問箱で、美しいことの松岡さんと似た受けが出てくる作品を質問したところこちらを教えてもらいました。
まず、リストラされた×リストラしたの組み合わせ本当に最高です。私は受けがステータス高い作品が性癖で普段から強気受け、高飛車受けを好むのでクリーンヒットでした。

でも、それだけじゃないです。やっぱりなんていうんですかね、、。木原先生の描く受けってなんかもう本当にいじらしくて可愛いんですよね。自分が攻めに嫌われたと思うと、電車から飛び降りて死にたくなる、みたいな思考回路とか。普段受けはそういうキャラじゃないのに凄く健気に攻めの事を好きでいて、恋するってこんな感じなのかな、、って凄く目頭熱くなっちゃうんですよね。感情移入させるのがとっても上手いなって思います。


攻めの谷地もゆったりした温厚なキャラで良かったです。やっぱり、40すぎて年下の上司にリストラ勧告食らうという屈辱も勿論持ち合わせているし、卑屈になったりもするけど、少しずつ榛野を受け入れていく様子も徐々にだからこそ読んでてなんだか心温まるものがありました。

最後のロンドンでの5日間も良かったですね。谷地はノンケなのにわりとスルッと男同士のあれこれを受け入れてましたね。もともと榛野の自分に対する好意は気づいていたから心の準備の時間が確保できてた分拒絶したりすることがなかったのかな。木原先生の作品は攻めが絆される事が多いと思うんですけど、私はそれが大好物です。

木原音瀬先生の作品は4作品くらいしか読んだ事ないですが、木原先生にしてはかなり優しい作品だと思います。おすすめです。

0

漂う空気感が好き

リストラされた職場の元上司が自分のバイト先に通い詰めているところから物語は始まります。
いい大人同士なのに、くすぐったくなるような初々しさ。
そこに猫がプラスされ素敵な時間を共有できます。


受けの榛野は情に流されず効率重視で動ける有能な男。
それは日常生活でも同じなはずが、谷地が絡むことにより歯車がズレていく。
相手を意識するほど、胸を張れるいつもの自分らしさがおかしなものに変わっていく。それに動揺し恥じる姿が可愛かった―。

谷地はゆったりとした独自の空気感、居心地の良さがこっちにまで伝わってきました。

注目すべきはラスト。

イギリス生活が終わる時は進展したどころかベストな関係になったにも関わらず、榛野があじわった喪失感のようなものに、こちらまで悩まされました。
幸せなはずなのにとんでもなく寂しい!!
それだけ谷地の存在を色濃く感じさせてくれたんですよね。
ハッピーなのに切ない!!
絶妙な塩梅の終わり方が新鮮でした。

イラストもベストマッチだったと思います。
谷地の容姿を見て某走り屋を思い浮かべたのはきっと私だけですよね(笑)
でも所々無意識ながら三木さんボイスで変換されていた気がしてきた(笑)

二人の空気感を身近であじわえる読みやすいお話でした。

0

ヤチさんと猫チャン

「たくさんあげたから、お腹がいっぱいになったはずだ。あの鳩は今晩、寝床できっといい夢が見られるよ」

そこまでネタバレはありませんが一応付けました。
木原さんのお話では地獄や性悪な人間を読むのが楽しく、「ほっとする」「癒し」は求めていなかったので後回しにしてしまっていたのです。それが読んでみたら本当に素敵で。無駄を省き合理的な現代人の榛野と同じように、ほっと谷地さんに癒され、家に居つきたくなりました…

ちるちるさんの作品評価基準は「万人にお勧め」なのが神評価との事。ですが私を含め多数の方々は、一部の人は受け付けないけど抜きん出て素晴らしい作品を神と評価する事も多いと思います(違っていたらすみません)。この作品はどちらに於いても神評価だと思いました。

自分と違う性格や考え方に触れて視野が広がるお話が好きです。木原さんの描く、側からみれば特別な特徴の無いような主役然としていないおじさんがどんどん魅力的な人になって好きになるお話も大好きです。
リストラされて弁当屋のアルバイトをする谷地さんは、きっと現実で出会っても会計を終えれば忘れてしまう人に過ぎないのですが、彼の時間の過ごし方、生き物との向き合い方に触れるとどうしようもなく『好き…』となります。

完璧なエリートで仕事人間の榛野が、聞きたいこと言いたいことをスッパリというのも気持ちが良いし(谷地さんも鈍感だから二人の会話が面白い)、話が進むにつれてどんどん甘ずっぱくなっていくのも良いです。彼の人間らしい部分、甘い部分が谷地に触れられ撫でられて猫のように流れていくのがとても可愛い。この猫という表現はありふれていますが、この作品にとっては根底に流れているキーワードであり、榛野の変化であるので、読み進めると何だか胸がいっぱいになります。

谷地の数々の台詞と行動が繋がり、本当に優しくてあたたかくなるのですが、それと同じく恋の切なさも凝縮されたラストは悲しいとか嬉しいとかでなく、愛に涙しました。

情事シーンは多くはないですが露骨具合も繊細さも、相手が好きで大切にしている感じがしてとても好きです。台詞も甘い…!
榛野の周りがちょっかい出すのも楽しいです。要らんことを谷地に吹き込む(勘違いで)医師、榛野とのワチャワチャも見てみたかった。イギリスの同僚も。

4

心情がとてもリアル

何度も読み返したくなるお話ですが
間を空けると序盤の谷地さんが気の毒なのと
坂口に「あいつは(榛野が)リバだから楽しいでしょ」って言われて
リバを若者の流行言葉だと思ってしまうどノンケ谷地さんに
わぁああああってなってしまうんですよね。
そして「坂口てめぇ何言ってくれてんだ!」になるまでセットですww
途中まで、リストラされた43歳の悲しさが書かれているので
妙な話ですがBL作品と意識しない感じなので
読み返すたびに驚くんですけど私だけかもしれません…。

谷地さん視点だと榛野の考えてることがわからず、
榛野視点だと谷地さんの考えてることがわからないので
随分もだもださせられるんですが
すごくリアルな心情でぐいぐい引き込まれてしまうんです。
自分でリストラを言い渡しておいてわざわざ弁当屋に来るなんて無神経だな、とか
あまりにも歯に衣着せぬ物言いが凶器みたいで
もう関わらないでいてくれたらいいのにと榛野に対して思いますが
榛野は榛野で初めての本当の恋に戸惑っていたなんてなぁ…。
自分の根底をひっくり返してしまうほどの相手が谷地さんだというのが
つい後からじわじわ来てしまいます。
ロンドン編ではとにかく谷地さんが絶望的に鈍いな!!と思ってしまうww
だけどそれも込みで榛野はどうしようもなく好きだから
自分の落ち度を呪いたくなったり恥ずかしさで消えたくなったり
日本人観光客の女性に嫉妬したり忙しいんですよね。
幸せの意味を知ってしまったあとの寂しさがまたしんどくて
あの榛野が…………と感慨深くなるのです。

谷地さんがあんなに頼りない感じだったのに
榛野視点だとなぜか別人のような余裕のある年上のひとに見えてしまうのは
もしかしたら榛野フィルターなのかなぁww
いやいや、実際谷地さんはいい人ですからね。
真面目過ぎて榛野の行為を途中で拒んだ時はつい怒りを覚えてしまいましたけども。
あんなに非効率的なことが嫌いだった榛野にずいぶんと人間味が出て、
ラストはちょっと切なくなりますがとても充足感を得られます。
もしかしたら木原作品で一番好きかもしれません。

6

じれったい!もどかしい!!

イタイお話が大の苦手で、なかなか手を出せない木原先生。これは大丈夫な方と答姐で書かれていたような記憶があり手に取ってみました。はい、イタくはなかったです、じわじわ萌えーとする作品でした。教えてくださった皆様、有難うございます。
b-Boy2002年11月号に掲載されたもの100Pほど+その続きの書き下ろし140Pほど。40代と30代という分別あるはずの大人のもどかしい恋模様 です。色っぽいシーンは少なく、地雷として40代おっさんに少々女子が絡むこと でしょうか。
とにかく年齢層がほんのちょっと高い・・・ので萌どまりです。この年齢でないとこの味はでないと思うんですけどね・・・やっぱり美しい~★というビジュアルの方が好き・・・・

継続して淡々と業務を行うという点において優れている40代さん。評価としてはやはり劣後となりリストラ対象になります。そのリストラした方が30代さんで、40代のおっさんが始めたバイト先(お弁当屋さん)に弁当を買いに来る。1回のみならず何度も・・・。
登場人物はこの二人と40代さんの親戚筋(♀)、30代さんの同僚、セフレ等 です。

弁当何回も買いに来てるやん、なんか気がつけよ と思うのですが、このおっさん、もともとの性格に加えて40代だからか、とことん気がつかない。そんな二人がちょっと近づくところまで が前半で、後半はロンドン赴任した30代さんのところへおっさんが電撃訪問してくるというもの。そんな行動力あるんやったらもうちょっと早くに動けよ という気もしますが、ここまで焦らしてくれたからのこの最後の感動かもしれないです。

とにかく最後がいいです。じれったくて途中苛々もしたのですが、この最後で全部OK!と思ってしまいました。

1

何度でも読み返したくなる

大人の男たちの切ない恋のお話。

温厚で多くを求めない谷地、冷徹で向上心の塊の榛野。二人は、リストラされた者とリストラした元上司。
真逆な二人が静かにゆっくり近づいていくのがよかった。
表紙イラストも、片思いする榛野と戸惑う谷地の関係をよく表しているなあ、と思いました。
とても好きで、読み返すたび、じっくり眺めてしまいます。

表題作の「深呼吸」では、谷地と榛野がやっと友人のようになったと思ったら、榛野は谷地から遠く離れてロンドンに行くことを決め、自爆のように想いを告げます。後日談の「深呼吸2」では、半年後に谷地がロンドンの榛野を訪ね、一緒に観光したり料理をしたりといい雰囲気に。小さな波乱はあるものの最後は恋人同士に。

「深呼吸」は谷地の視点で書かれていて、一読目は、榛野がなぜ、どのように谷地を好きだったか分からなかったのですが、「深呼吸2」で種明かしのように榛野の気持ちが書かれているので、あらためて「深呼吸」を読み返すと、榛野が驚くほどいじらしい人物に見えました。榛野の気持ちを思い出しながら読み返すと、すごくドキドキします。

一番好きなのが、野良猫にエサをやる谷地の話。
猫にエサをやるのは自己満足のためかと問う榛野に、谷地は、自分が野良猫ならその時だけでもお腹いっぱいになりたいし、誰かがエサをくれると期待するのは希望ではないか、と答えます。
谷地の深い優しさに触れて、榛野は「猫なんかじゃなく自分を見てほしい、自分に優しくしてほしい」と切なく、自分の恋心を自覚したのですが、ロンドンに発つ前、谷地には「そういう考えの人もいるんだと思いました。」と、淡々と話しています。
こういうことがあったから、あなたを好きになった、と素直に言えなかった。
猫みたいに素直に甘えられない榛野が、すごく可愛い。

猫が、この二人を結ぶ小さなキーワードのようです。
日本で、夜遅くに谷地の家を訪ねたいことがあったときも、榛野は「猫にも会いたいので」と口実にしていたし、ロンドンで谷地を誘惑しようと膝に乗り上げても気づかない谷地に、「猫の真似です」と。

ハラハラしましたが、最後、両想いになれて、よかった。
谷地は榛野の家の冷蔵庫を食材で満たしてからロンドンを発っていきます。
榛野がそれに気づいたのは、谷地を空港に送り一人寂しく帰宅してから。料理が苦手な榛野のために、そのまま食べられるものをたくさん。日本にいた時より痩せた榛野を心配して。
谷地は本当に榛野を好きなんだな、と分かるエピソードの一つなのですが、正直言えば、谷地がなぜ榛野を好きになったのか、もっと知りたいと思いながら読み終えました。

ネットで、その後の話は何かないかしら、と探していたら、「plus story」を電子書籍で読めると分かり、思わず喜びの声をあげてしまいました。
それを読んだら谷地の気持ちが分かり、「深呼吸2」を読み返したくなり、また「深呼吸」に戻り、続きの「深呼吸2」、「plus story」を読むという無限ループにはまり…。
何度でも読み返したくなります。

11

何度も

何度も読んでしまう私の中の一冊。
執着具合とか、なぜか私のドツボ。短いスパンで4度目の再読。

読むものがなくなると、ついつい読んでしまう不思議な作品。

そしてほっと〇っとの前を通ると、想像して楽しんでしまう変態な私。
攻め様の懐の深さなのかな、私を捉えて離さない理由。大人なんだよな~
自分にリストラを言い渡した相手なのに...その受け入れ方が...(私なら受け入れられない)
なんかね、胸がきゅっと苦しくなるのです。
谷地さんが怪我をしたバイトの代わりに夜のシフトになり、榛野さんが来て「夜の時間帯に勤務を変えたのは、私のせいですか?」の場面、息苦しくて死ぬかと思いました。執着具合がたまりません!

木原さん、素敵な作品が多い。でも、この作品は上位ではないのですね。
私的には木原作品断トツのNO.1なんですがね(笑)

多くの人に読まれるといいな。

12

大人のラブロマンス♪凄く素敵 (*'艸'*) ドッキン

今度はどの本を読もうかなー、ちょっとリラックスしたい気分。「深呼吸」というタイトルは、正にそんな私に打ってつけのそれに思えて手に取りました。お話ごとに視点が変わるというのは木原先生お得意の手法。ですが、皆様も仰っておられますように、視点が変わることにより、ここまで作品の印象がガラッと変わる作品も珍しく、驚き戸惑いつつも楽しく拝読致しました。あらすじは割愛させて頂きます。気づくと長文になってしまい、文字制限に引っかかってしまうため。 (〃⌒ー⌒〃)ゞ アー、マタヤッチマッタ

目次
深呼吸(谷地視点)
深呼吸2(榛野視点)

● 深呼吸
まず、タイトルの「深呼吸」ですが、この単語が出て来たのは作中ただの1度きりでした。私はこの作品を読む前は、きっと作中の人物たちがいろんな所で溜息をついては深呼吸するシーンが、山ほど出てくるに違いないと思っておりました。ところがそんなシーンは皆無に等しく…。たった1度きりの深呼吸、それはこんなシーンでした。

会社を変わり海外赴任することになった榛野が、谷地を前に、リストラした経緯を語り始めます。榛野は谷地に対し、実に露骨に無能の烙印を押した後カミングアウトするのですが、その直前、唯一の「深呼吸」のワードがもたらされます。

―――榛野は大きく、深呼吸してから谷地の目を見た―――

この深呼吸をした後の告白で、ようやく榛野の本心をうかがい知ることになります。でもそれまではどこか心の冷たい嫌な人物に見えておりました。年配だけど温厚で優しい谷地とは正反対。本当にこんな二人が恋愛関係に発展するのだろうか。第一こんな冷血人間の様な榛野に感情移入など出来るものではない。そのように思っておりました。この時はまだ谷地視点で見ていたため、余計にそんな気持ちを強く持ちました。

ところが谷地自身が榛野から告白された後、「この男を嫌いにはなれない」と思い、「この男に、自分はどう見えているんだろう」と興味を持ち始めたことで、私も谷地同様どんどん興味が沸いてまいりました。何が面白いと言って、好きになった者も好きになられた者も、どちらもその理由が分からないと言う事。

最初は「そんなバカな」と驚いた私。でも…そもそも人を好きになるって案外そう言う事。理屈じゃなく、不思議だけど気付いたら好きになっていた、そう言う事だと思うのです。むしろ打算的じゃなく、逆にこの方が本物だと思えるのです。男女の恋愛はとかく打算的で、それが本当の愛なのか計算なのか分からなくなることがあります。BLを好きになったのも本物の愛を体感したくなったから。それゆえ、好きになった理由が分からないってアリだと思えるのです。

話を戻します。海外赴任することになったため、お別れの前にカミングアウトをした榛野。その際、谷地が可愛がっていた「別宅の猫を、いただけませんか」とか、谷地の所有する「本をください」などと言うのです。榛野のそれまでを見て来た私からは想像もできない意外な面が次から次へと現れ、面白ーい!ナニコレ?と思った頃、「深呼吸」は終わります。おぉ!これからと思った矢先に「END」 (>_<)

● 深呼吸2
こちらは榛野視点。よって今までは分からなかった榛野の気持ちが手に取るように分かり、私の中でも、冷たい人間から血の通う温かみのある人間に変化していきました。

―――日本語と同様、英語でも谷地の喋り方はゆっくりしていて、音の取り方がいい。響が心地よい。ずっと聞いていたくなる―――

これは榛野の心の中の言葉。谷地の流ちょうな英語、私も聞いてみたいと思った瞬間です。そう言えば、谷地の元職場は外資系。英会話が得意でも何の不思議もないのですよね。

―――谷地は男前というほどではない。けど女を引き寄せる。これまで一人でいたのが不思議なぐらいだ―――

とありますが、私も同感です。観光名所などを歩いていると、案外あちらこちらに日本人の姿をお見掛けします。こちらの小説でも例外なく声をかけてくる女性の存在が。すると女性の視線が谷地に注がれ…榛野の何気ない嫉妬の気持ちが手に取るように分かり、可愛いと思える瞬間がありました。

思うに谷地は、恋愛事情には疎い方だったのではないでしょうか。そんな谷地も榛野によってドンドン開発されていきます。とはいえ、どちらかと言えば榛野の方が谷地によって翻弄されていたような気がします。

―――「私は死ぬまでに、一度ぐらいあなたと寝ることができるんでしょうか」―――

こう言いながら、榛野は谷地を襲い始めます。ところが拒絶はなかったものの、受け入れられているわけでもなく、途中から愛の行為は尻すぼみになってしまいます。落ち込んだ榛野が「地球が滅亡すればいい」とか、「記憶喪失になりたい」などと一人涙を流すシーンが可愛いく、思わず笑ってしまいました。

でも、何から何まできっちりしている谷地は、成行きで体を結ぶのではなく、きちんと話し合い、合意の上でお付き合いをしたかったようで…まどろっこしいけど、決して榛野を拒絶したわけではなかったのですよね。それを証拠にその後は甘い甘い抱擁が待って居りました。もちろん、当然の成り行きとして最後まで行くのですが、それまでのじれったさが嘘のように目茶苦茶に甘いのです、これが。

何か…大人のラブロマンスを見せつけられた感じです。ほんわか甘くってスイートで、私の心もグチャグチャにとろけてしまいました。

12

視点の変化で人間まで変わったような。

表題作が受け視点で、後日談あるいは同時系列が攻め視点、というパターンはBL小説ではよくあると思われます。そしてもちろん視点は違えど破綻などはないのが当然…
ですが、この「深呼吸」。
表題作「深呼吸」と後日談「深呼吸2」では、視点の変化とともに受けも攻めもまるで別人のように立ち現れる。
「深呼吸」では、リストラされて今はお弁当屋さんでバイトの40代谷地が、その向上心のなさや慣れに流されていく勤労意欲が、職業差別ギリギリの描写で描かれる。
そこに通ってくる10も年下のエリート上司榛野。何を考えているのか全くわからない。無表情で、日本的な曖昧さを排した、合理的現実的でストレートすぎる物言いの人物として描かれている。
榛野は、谷地の怪我をきっかけに谷地の家に出入りするようになるが、相変わらず何を考え何をしようとしているのか、谷地には全く見えない。
「深呼吸」のラストは、(谷地にとっては何故なのか理由もわからないが)家に来なくなった榛野が突然やってきて、私は会社を変わってこれからロンドンに行く、私があなたをリストラ人員と判断したがあなたに恋愛感情を抱いて恋人になりたかった、と唐突に話し始める。
読者も谷地と共に混乱し、榛野と共に自爆してしまったかのような終わり方。

「深呼吸2」は榛野がロンドンで働き始めて半年後の榛野視点。どうやら榛野と谷地は週一で文通(!)をしているらしい。
榛野は「深呼吸」での無表情男とは打って変わって、いつもいつも谷地の事を考えている男として描かれている。
『ロンドンに旅行することにしました』の一文だけで眠れなくなり地下鉄も乗り過ごし。そして翌日、行きつけのサンドイッチ店で谷地を見つける。
それからの数日は、冷徹有能なエリートとは思えないドジとボケと失敗の連続。何と鼻血まで出してしまう!何とも人間臭くて恋心ダダ漏れの榛野。
榛野視点での谷地は、物静かで落ち着いていて、誰にでも優しく、そしてどこかミステリアスで色っぽいのだ。
2人で過ごす2日目の夜、勝手に巡らす嫉妬の妄想の末に谷地を襲ってしまう榛野!(榛野は受け。つまり襲い受け!)
いきなりの性交を拒み、話をしよう、と言う谷地。拒まれて羞恥と絶望にまみれる榛野の手をまず握る。次に手の甲に口づけ。目尻を指でなぞられ、背を向けると後ろから抱きしめてくる。『いい匂いがする』と耳許で囁き目を閉じるように告げてキスをしてきた……
この一連。これは一体「深呼吸」での谷地と同一人物でしょうか?エロい。
そしてそれからは甘い甘い行為の連続。甘いのは好きだから大歓迎だけど。
そしてもう次の日は谷地の帰国の日。空港で別れ、フラットに戻るがどうにもならない涙が溢れる、というラスト。
視点によって全く人物の見え方、捉え方が変わる2篇から成る「深呼吸」。
心の無かった男の「初恋」という内容と共に、小説の構成の面白さを感じました。萌x2と迷ったのですが、今回は「萌」で。

2

胸がいっぱいになった

この作品は、ほんのり渋みのある甘酸っぱい作品でした。大人の初恋を読みたい方にオススメです。

木原さんの作品は、ダークなイメージしかなかったので、最悪から最善へ変わる物語の進みにまずホッとしました。

雑誌掲載の1と書き下ろしの2からなる二編。1が40代の谷地(ノンケ)。2が30代榛野(特定の相手を作らないゲイ)視点です。

1も2も落ち着いた気持ちで、あっという間に読み進めましたが、少し物足りなさがありました。2で谷地の心情をもっと盛り込んで欲しかったなと。告白されて受け入れるまでに彼の中にどんな変化があったのか言葉で付き合うことに性差は関係ないとあるが、そこに至るまでに何らかの影響があったはず。もしかすると何か匂わせる場面があったかもしれませんが、それを谷地視点で読んでみたかったなぁと思いました。

…物足りないと感じましたが、最後の数ページで吹っ飛びました。視点は変わらず榛野ですが、とても胸が締め付けられて、まだ始まったばかりの二人を見守りたくなりました。

1

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