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美しい表紙や装丁や挿絵陣が、豪華で贅沢な一冊。
書斎に飾って嬉しいBLでしょうか。
6編の短編のそれぞれが、違った雰囲気や文体で描き出されますが、
根底に榎田さんの確固たる世界観と、エロへの意志が感じられる一冊。
(afterwordでかなり語っていらっしゃいますけれど)
単にエロいだけではなくて、話として短くとも面白い。
だからこそ、「エロチカ」なのだと思います。
個人的には一番好きだったのは「クリスタル」かな。
挿絵だけだったら、えすとえむさんの「痛い靴」が素敵でした。
「ストロベリー」は可愛いリバ。
「書生の戀」と今市子さんの絵は、流石のベストマッチ。
「クリスタル」は、密室プレイ、スカトロ、主従逆転と、
多くの美味しい要素が盛り込まれていますが
ただの変態プレイ話ではなく、ちゃんとストーリーとして切なくもどかしい。
だからこそ、際どいプレイが香り高い(臭いじゃないよ!)エロになっているのだと思います。
カードが落ちて、サッと世界の色が変わる感じは素晴らしい。
・ ・ ・ ・ ・ ・
※追記: 小難しい話を語ってみる~「エロチカ」について
エロチカとは、ラディカル・フェミニズムの文脈から、
ポルノグラフィへの批判として使われるようになった用語だそうです。
差別的な価値観に基づく不平等な性行為を描写するポルノグラフィと違い、
エロチカは、人間的なセクシュアリティの悦びと
愛などの関係性を排除しない性表現である、と区別されます。
「エロチカ」と「ポルノグラフィ」は語源からして大きな差異があります。
「エロチカ」は「エロス」つまりは愛(=生そのもの)に由来し、
一方「ポルノグラフィ」という言葉は、「売春婦」や「女奴隷」を意味する「ポルノ」に由来。
したがって、ポルノグラフィの主題は相互的な愛情ではなく支配と暴力です。
それは男女間に限らず、同性愛であっても同様でありますが、
エロチカは積極的選択、自由意思、関係への熱望という観念から来ています。
最初は単にポルノグラフィーの駆逐を掲げていたフェミニズムの動きの中、
やがてエロティックなイメージによって得られる楽 しみを擁護し、
女性の手による「正しい性愛の表現」すなわち「エロティカ」 を創造しようという動きが登場しました。
BLにはエロが欠かせません。
女性の手による全ての人の為のエロティズム表現、ということでしょう。
BL万歳!! (パタッ。…と手が落ちる…、じゃなかった、ペコッ。←お辞儀)
<erotica=性愛を扱った文学>
もしかしたら、この本はうっかり普通文学の顔をしたペーパーバッグにして書店の本棚に並んでいてもきっと何の違和感もないでしょう。
ともすると、ファッション雑誌の後ろの方にある小説のページにさりげなく載っていても違和感ないかもしれません。
<性愛>に焦点を絞った作品だから、そこにあれこれ色々な余分な飾りはないから、「あ、男性同士だったのね、気がつかなかったわ」というくらいに、しがらみがないのです。
エロティカという名前に惑わされ、そこに淫靡で淫猥な世界を想像すると、実にそこからは程遠い、スタイリッシュな性愛が表現されていました。
ここまで、シンプルに抜き出すと男性同士ということも気にならないほどに洗練される。
普段、エロエロだのハァハァだのと評している某レーベルが、いかに泥臭いか、表現の違いを思い知らされた一冊だったかもしれません。
【痛い靴】SM
靴擦れは思い出すだけでも、痛い描写ですが、嗜虐と被虐の思考のマッチング。
【ストロベリー】リバーシブル
コメディタッチだけに、許容範囲がとても広がる
【10×3】3P
腹黒×ワンコ×タラシ 究極の悦楽かも♪
【カルメン】女装攻め
マッチョコンプレックスと、ドラァグクイーンの組み合わせが絶妙
【クリスタル】スカトロ
大いなるスレ違いから生まれる誤解の果ての結末に。。。
【書生の戀】純愛
プラトニックほどに、辛いのです。
イラストはシンプルに扉絵しかないのですが、各作家さんのイラストが実に的を得たイラストで、たった1枚なのに雄弁に物語を語る。
この起用は成功ですね。
特に腰乃さんにおいては、シーンのコラージュで斬新♪
ドラァグクウイーンのカルメンは、たしか小b掲載の時、岡田屋鉄蔵さんの素晴らしいカラー挿絵がついていたはず!あれが再現されていないのが実に惜しいのです!
この<性愛>をテーマにした各短編において、どの作品にも共通するのは、それがどんな始まりであろうと、全ての登場人物がそれに熱中するのです。
そして恍惚の域に至る。
これぞセックスのもたらす快楽。
エロスに解説と飾りはいらない、むしろ一枚一枚それを剥いで生身を晒していく、その様がエロティックなのでしょう。
それの再現が、この小説達だったのです。
【書生の戀】は唯一プラトニックでした。
プラトニックだけに、内に秘めた情熱は計り知れない。
その出口を求めて身のうちを焦がしていく、それが生への執念となる、松岡青年の無念が伝わって、彼の想い残しを知った小説家の心にいつまでも残る彼の熾火。
これもエロスの世界なのかもしれないですね。
マジ、角川とか幻冬舎あたりから出てても遜色ないと思います。
他人が理解出来る恋や愛は存在しない。
そういった事を教えてくれる一冊でした。
初めてこの本を見たとき、題名から、もっとグデングデンとした、エロに特化した内容を想像していました。
ですが、この本はエロではありません。「エロス」を描いた本でした。
私は最初に粗筋を読む人間なのですが、今回は粗筋から入って正解の本。
榎田先生がこの本、また「エロス」について、どういう意図や考えを持って作品を産んだのかが分かります。
最初にここに目を通した為、第一印象とは全く違った期待を抱いて読む事が出来ました。
エロスを、私は初め、榎田先生は醜悪に描くのだと思っていたのです。
実際は、人間の心の優しさと暖かさ、不安、そういったものをエロスにのせて描いてくださいました。
エロスというものは、外野から見るといつも醜悪で、滑稽で、忌み難く、嫌悪されるものです。
人間が理性を忘れ、動物に近い感覚に陥ることは、傍から見ると恐ろしいものに違いありません。
「同性愛」も、傍から見れば畏怖からくる嫌悪は大きいと思います。
でも、きっとそれで良いのだと、理解する事も出来なければ、その必要も無いのだと。
そこには愛する者同士二人の世界で構成されているのだと、そう胸を張って言えるのだと読んでて思う事がありました。
エロスを理解出来ない人間は自分が愛されていないからよ!なんて子供じみた批判はしませんが、
エロスを「悪」とする人達には是非読んで欲しいなと、勝手ながらに思います。
貴方たちが想像する世界は、あまりにもチープで、酷く狭いものなのではないかと。
また、最初、「リブレ出版にしては珍しく知的な装丁で攻めて来たな」と思ったのですが。
ここにもエロスに対する、榎田先生の精神性の深さが表れていたのですね。
中村明日美子先生のことをBL漫画界で3本指に入るほど愛してますが、今回ばかりは、表紙に何も無くても良かったかなー...なんて贅沢な事を考えてしまうほど、素敵な装丁だと思います。
ただカバー下が何故手形なのかは意図が不明(笑)
エロシーンが読みたい方、愛の優しさを感じたい方、沢山の方にお薦めします。
--------ここから結構なネタバレ------------
個人的お気に入りは、「ストロベリー」と「書生の戀」。
とてもとても優しいお話です。
ただ一個、非常に贅沢なことを言わせて欲しい!!
書生の戀だけは、挿絵無い方が良かった......!!!!!
今先生の挿絵は、勿論文句ありません。美麗です。雰囲気も最高です。作品にピッタリです。
でも、本物の二人は、そして終盤に出てくる彼は、「書生」には会っていません。
そして書生もまた、「小説家」に会った事がない。
恋人同士がお互いを知らないなら、読者にも(容姿体格など)分からないままの方が、個人的にもっと感情移入しやすかったなー...と考えてしまうのです。
はい、贅沢過ぎますね、すいません........。
それぞれ趣向を凝らした、味わいの異なる短編集。
「痛い靴」(イラスト:えすとえむ)←以下挿絵敬称略
営業部GMの上司・久我×部下・日高
内容は、愛というより執着を抱いてる鬼畜の上司に陥れられる話。
シチュエーションとしてはSMです。
陥れて籠絡させるような展開が苦手な人は注意(自分はダメでした…)
「ストロベリー」(イラスト:腰乃)
機械製造会社勤務・館野×デザイン事務所勤務・篠田(注:リバ)
内容は、誤解・思い込み話。
オチは途中でわかっちゃうけど、それでもほのぼのできてキュンときました。
最後の一文が、微笑ましい。
「10×3」(イラスト:円陣闇丸)
組の顧問弁護士・財津、舎弟・菊池×頭・辻
内容としては、これも陥れられる話(だけど愛があるし、まぁいいか…と)。
シチュエーションは、ヤクザ、3P(タイトルは指の数)。
主人公が男らしくサバサバしてるので、後味は意外と悪くなかったです。
「カルメン」(イラスト:鬼嶋兵伍)
ゲイでドラァグクィーンの後輩・桐生×小柄コンプレックスの営業マン・千歳
ほんのりコメディ調の話。
少々気弱なところもあるガタイのデカい攻めと、小柄でツンな受けという組み合わせが、楽しいです。
「クリスタル」(イラスト:中村明日美子)
親の後ろ盾で取締役に就任した狩野×教育係でもある有能な秘書・芳原
こちらも、誤解・思い込み話(ややダークですが、ちゃんとまとまります)。
シチュエーションは、裏切られた怒りと嫉妬からの、羞恥責めです。
「書生の戀」(イラスト:今市子)
愛読者である書生・松岡×作家・廿楽
内容は、戦時中が舞台の、切ない話。
日記と、書簡と、習作小説の断片で構成されていて、この中では唯一SEXシーン無しです。
ラストの展開が、泣けます。
とにかくイラスト(各一枚だけど)が豪華です。
それぞれ内容に合った作家さんを選んでるなぁ…と思いました。
というか、各作家さんをイメージして書かれたのでしょうか…?
イラスト全部ステキなんですが、個人的には腰乃センセイが大サービスカットでうれしかったです。
「今更?」という声が聞こえてきそうですが
「はい、今更ですが、初読みです。そして完璧やられました。」
あまりにも、文体が自然でテンポがいいので
引き込まれながらも、スルスルッと読み進んでしまう。
全然舌の肥えていない子供に、最高級の料理がふるまわれたら
食後、その子はどういう感想を述べるのだろう?
「あ~おいしかった! また食べたいな~」だろうか?
全然小説を読みなれていない、わたしはその子供のよう
「あ~おもしろかった! ぜひまた榎田さんの本を読みたい。」
率直にそう思うのだけれど、ここは~で…なんて正直全然語れる気がしない。
むだがなく、的確で、でもやわらかく、ちっとも気取ったところのない
その言葉たちを、
ひとつひとつのお話の、そのタッチの違い、魅せ方の違いの素晴らしさを、
わたしがどう表現したらよいのか、まるで分からない。
同じ日本語を使っているのだっけ?とさえ思ったりする。
でも、同じ日本人だから、感じられる
榎田さんが紡いだその言葉たちを
自分が母語で読めるのは、本当に幸せだと思う。
そして、その幸せをもっと感じたくて
子供のわたしはきっと、これからいっぱい本をむさぼるのでしょう。