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表題作天国までもうすぐ

元同級生で恋人のモデル 狩野暁 16歳
上京してきた元恋人 品川りす 16歳

その他の収録作品

  • 僕の帰る家
  • あとがき

あらすじ

同級生の少年と心中未遂事件を起こし、ひとり北海道から上京して叔母の家にやってきた狩野暁。彼は全てを、思い出も夢もそして心さえも、北の凍てつく最果ての地に捨ててきた。最愛の恋人、事件の相手である品川りすとともに。叔母の勧めでモデルの仕事を始めるが、虚ろなままそれでも何かにつけりすの面影を追わずにはいられない自分の心に苛立つ暁。そんな中、りすが突然上京し、ふたりは再会をはたす―――。

(出版社より)

作品情報

作品名
天国までもうすぐ
著者
五百香ノエル 
イラスト
藤たまき 
媒体
小説
出版社
心交社
レーベル
ショコラ文庫
発売日
ISBN
9784778113346
4.1

(21)

(12)

萌々

(3)

(4)

中立

(1)

趣味じゃない

(1)

レビュー数
8
得点
85
評価数
21
平均
4.1 / 5
神率
57.1%

レビュー投稿数8

未熟な恋人同士の悲恋の後の光が見えるまで

ほろっと泣かせてくれる、そして恋人同士の愛情と家族愛、人と人のつながり、
複雑なようで単純な思いがある一方で、単純なようで複雑な思いも感じる作品。
大人になりきる前の危うい程の切ない恋の行くへ、心に迫るお話でしたね。

父親は不倫相手の所へいき、母親は息子を虐待する、それもアルコール依存から・・・
庇護するべき相手を死の瀬戸際まで追い詰める母親。
壮絶な虐待を受けながらも、母親を捨てきれない息子。
そんなボロボロの状況で出会った二人、互いにどこか寂しさを抱えていて、
いつの間にか唯一の、命と同等だと思える相手との出会い。
自分たちの力ではどうする事も出来ない世界で、必死に手を探り合って・・・
そして、起きてしまった心中未遂事件。
そんな二人は、大人の勝手で引き離され、子供故の愚かさで、離れてしまう。

それでも、互いしか存在しない、相手がいなければ死んだも同じ状況で生ける屍状態。
相手を思い、柵や理不尽な愛情から逃げ出す事が出来ない受け様。
しかし、共にあるはずの存在が消えた事で、全てを投げ出して攻め様の元へ・・・
しかし、目の前に現れた受け様をまるで存在していないように突き放すせめさま。
受け様がトラブルに巻き込まれた時に、何もかも忘却の彼方に於いて来たよな攻め様の
感情が爆発してしまうことになる。
10代の二人の恋愛を中心に、親子の関係や、友人、大人たちと絡まり合う人間関係が
ストーリー全体を構成している。
甘い10代の恋愛ものとは一味違うお話で、惹きこまれるお話でした。

8

青春小説のような

メインカップルは暁とりすですが、物語の最初は暁の従兄弟の五月の視点で始まります。
BL小説で視点を与えられるのはほとんどの場合が受けか攻めなので、あらすじに居なかった五月のいきなりの登場にちょっとだけ戸惑いました。

けれど、そんなあらすじに登場しない五月こそがこの作品の主人公だと私は思っています。
これは暁とりすの恋愛物語によっての五月の成長物語だと。

なので、すごく印象的だったのは五月が母の八千穂のことを「ママ」ではなく「母さん」と呼んだ場面。
多分物語の最初、五月は自分のことを冷静で、色んな社会を知っているような気になっていたんじゃないかと思うんです。
でも、あの「母さん」と呼んだ場面で、五月はりすとの関わって二人の話を聞き“自分はまだまだ何も知らない子どもだと気付く”という成長をしたのだなと感じられました。

そんな風に五月の成長物語として読んでいるので、私にとってこの作品はBL小説というよりも青春小説のような感覚で読んでいます。

なんとなく近い感覚になるのは、非BL小説ですが桜庭一樹「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない」かな。
この2つの物語の子どもと大人の立ち位置とか、なんだかそういうところにすごく同じようなの匂がするというか。
共通点は実親から虐待される子どもってくらいで、そんなにないんですけれどね。
匂いとか、印象とか、そういうぼやっとしたものが似ている気がするっていう、本当に個人的な感覚です。

私はどちらも大好きで、どちらも何度も読んで何度も泣いているので「砂糖菓子~」が好きでBLも好きな人にはぜひ読んでほしい作品だと思っています。

3

大人を信じられない子供たち

実に奥が深い物語だな。。。それが第一印象。
彼等の、特に受け子となる”品川りす”の境遇はあまりに悲惨すぎて、彼等の行動もだが大人の対応の理不尽さばかりが目について、ひどい、ひどいじゃないか!!
きっと、子供を持つ親の人が読んだらまた親としての立場で色々な想いを抱くんだろうなとも思える。
だけど、ここに登場する子供たちも特殊な環境にあるために、また普通ではないような気がする。
子供がゆえに未熟で、それを導いてやれない大人たちもまた未熟で。
色々な山谷がありながらも着実にハッピーエンドに行く普通のblストーリーからしたら、この話は現実味からは多少離れているものの、現実の人間の気持ちに近い、当身大の大きさの思考でできている物語なんじゃないだろうか?
だからそれだけに、イライラが募る。
客観的に見てしまえば、大人も子供もバカだなーと思ったりもするのだが、それだけ現実は都合良くないってことです。
主人公は受け攻めの二人なんだが、第三者として攻めの従兄弟である狩野五月視点で物語は進行している。
この第三者を使った表現はとても効果的だと思うのです。
彼は読者の代表でもあり、主人公たちを一番冷静に見られる大人と子供の間にたつことのできる人物でしたから。
キャラ萌えとか、やはりこれもそういう次元の物語ではないです。
同性愛の物語というのともちょっと違うような気がします。
互いに互いの存在が自分の一部でもあり、なくてはならない存在というのでしょうか。
そういう点でJUNE的ともいえるのでしょうか?自分の好きな展開と物語です。

心中未遂事件を起こしたとして、北海道からモデルエージェンシーを経営している16歳未婚で子供を生んだ叔母の元へ送り込まれる狩野暁。
彼は元恋人にも裏切られたと傷つき、大人も信用できないと不信感を持ち、それでも金を稼ぐため、叔母の勧めに乗り、モデルをしながら高校生活を送り始める。
もう死んでもいいとさえ絶望している彼の元に、心中未遂の相手:品川りすが現れる。
彼に拒絶されたと思い込んでいる暁は家に戻らず、声だけがりすに似ているモデルの風鈴の元に入り浸り、りすは、狩野家の家政夫として家にやっかいになることに。

その日常の中でりすが五月に語る形で彼等の本当の過去が綴られていきます。

旦那の不倫でアル中になり、りすに暴力を振るうようになった母親。
ボロボロになり人からなんと言われようとそれを受け入れ耐えているりすが、弱音を吐いているところで出会ったのが同級生の暁だったのです。
彼等の関係は、暁がりすを守ってやりたいと思ったこと。
りすは暁にだけ弱っていてもその顔を見せることのできる受け皿。
大人たちは本当の彼等を見てくれない、信用できないと、最初から彼等は大人を頼ることをしない。
二人でなんとかしようとしてしまう。
だけど、大人も子供を理解しようとしないのです。
りすは、母親への巻き込まれの共依存の関係もあったかもしれません。
彼は優しいのです。
東京へ出てきても、彼等は大人たちと腹を割って話そうとしなかったために、りすは傷つきます。
彼の虐待のあとを見て初めてわかる、暁とりすの事情。
ここでやっと、進展をみせるのです。

ただ、りすの境遇がかわいそう、とか引き裂かれた二人がわいそう、ではなくて、
彼等にはどうすることが必要だったのか、
それを知らされる物語でした。


 

7

絡まりあった感情や人間関係の中、もがく10代

藤たまきさんのファンタジックな表紙に惹かれて手に取りました。

故郷の北海道で同性との心中事件を起こし、
東京でモデルエージェンシーを営む叔母に預けられた高校生・暁。
恋人にも世の中にも裏切られたと傷つく暁の元に、相手のりすが状況してきて再会するが…

最初、いとこの五月が主人公かと思ったら、あれあれ?
視点が変わっていくのについていくのに苦労して、
ちょっと読みずらい印象は最後まで続きましたが、
逆にそれがこの話の一筋縄ではいかない分かりにくさや割り切れなさを、
感じさせてくれたかもしれません。

閉じた二人だけの世界で、理解されることを求めず、大人に助けを求めることも厭う、
暁とりす。
あまりにも若く、青く、大人から見たら滑稽な程の真剣さが、切ない。

弱くてずるいりすの両親には勿論なのだが、
虐待に気がついても通報しなかった医者や(虐待防止法以前の作品ではあるが)、
学校に腹が立つ。
歯がゆかったり苛立ったりする場面が重なっていく作品だが、
きれいサッパリのハッピーエンドじゃなく、
傷を抱えながら少しずつ明るい方に登って行く感じがいい。
結局叔母の理解があってこそ、活路が開けるところ、
人前では必要以上によそよそしい二人というのも、なんだかリアリティがある。

書き下ろしとペーパーでは、その後の二人が読める。
暁の独占欲は若いうちはかわいいけれど、いいのかなぁーw


※タイトルの「天国」を「てんごく」ではなく「てっぺん」と読ませているところに
 味わいがあると、個人的には思っている。

4

久しぶりに読み返してみて、やはり痛かった・・

この作品を初読したのは、メインのカップルの暁やりすより年齢的に少し上の時でした。それからかなりの月日が流れ、久しぶりに読み返したところ、印象が変わった所と感じ方が変わっていない部分もあり新鮮でした。五百合先生の作品の中で、個人的にいつまでも強烈な印象が残る一作です。また何年かして読み返してみたくなります。

母親からの虐待を受けるりすと人知れず愛を育んでいく暁の二人の軌跡が、暁の従兄弟の五月視点から描かれます。後半にかなり心が痛いシーンが出てきます。内容をすっかり忘れていたせいか、痛烈でした。この作品がトラウマになる大きな要素だと思います。

今回は親世代視点の心境で読みました。若さゆえに突っ走る二人が眩しくも先行きに危うさを感じつつ。自分の人生を自分の思うままに生きるには、まずしっかり自立するしかないなーと実感します。暁の選択がどうであれ、「息子を見捨てる気はない。」と言った暁の母の愛情にジーンときました。りすの母親と対象的なので余計に切なくも元気づけられました。五月の母も自分で人生を切り開いて来た女性だけに二人を積極的にバックアップする姿を頼もしく感じました。

今回も残念ながら暁のように、りすに萌える事は無かったです。暁は声フェチ??と納得しています。それでも人前では、教室で一言も話さないクラスメイトのように距離を置く不器用な二人の関係にたっぷり萌えさせてもらいました。二人がイチャつくシーンが直接的に余り描かれないのもこの作品の特徴ですが、だからこそ余計にお互いへの激しい想いが確認できる所が新鮮で良かったです。



1

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