冷たく深い山脈 捨てられた兄と弟

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表題作クリスタルパレス

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あらすじ

兄のチルチルは煙草二本で男と寝るあばずれ。
そして、自分たちを捨てた父親を待っている。
弟のミチルはそんな兄に不思議な感情を抱く。
半分だけの血のつながりが、そうさせるのか…
それとも違うなにかがそうさせるのか…
そんな思いを抱いていたある日、行き倒れそうな軍人をみつける二人。

時が止まった銀世界…しかし日々は静かに流れゆく。
通り過ぎてゆく人々、季節の中で
互いに呼応する魂の辿り着く場所は…?

作品情報

作品名
クリスタルパレス
著者
雨森ジジ 
媒体
漫画(コミック)
出版社
一迅社
レーベル
gateauコミックス
発売日
ISBN
9784758072298
4

(30)

(13)

萌々

(9)

(6)

中立

(1)

趣味じゃない

(1)

レビュー数
10
得点
120
評価数
30
平均
4 / 5
神率
43.3%

レビュー投稿数10

北の国の静かなお話

同人で知った作家さんですが、
独特の雰囲気をもったお話を書かれる事が多いです。

舞台は北アメリカ アラスカ州デナリ。
周り一面を銀世界で閉ざされた山脈でホテルをきりもりしている兄弟。
兄のチルチルは生活の為に男と寝るあばずれ。狩りなどの力仕事は弟に任せっきり。
腹違いの弟ミチルは生活の為に外に狩りに出かける。学がなく、読み書きは兄にたよりっぱなし。
「戻って来るまで弟の事を頼んだぞ」と言い残して去った父親を兄はひたすら待ち続ける。
父が戻ったら兄は自分の事を見放してしまうのではないかと不安を抱く弟。
そんな彼らの日常を静かに綴った作品です。

舞台・時代背景がしっかりしていて、世界観がとても美しいです。
雪国特有のもこもこの外套、毛皮のコート、どれもかわいいものばかりです。
兄弟を客観的に見るミルクマンもクールで魅力的。

静かながら、少し危うい関係性を持った作品。
お勧めです。

3

映画を観ているようでした

初読み作家さんです。
冒頭で居間のシーンとミチルの服装を見た時に、サーメ人かな?と思ったんですが、アラスカの方でしたね。^^;
極寒の閉ざされた世界で残された幼い兄弟たちが必死に健気に生きていくお話に感動しました。
生きていくのさえ厳しい環境で、死は決して遠い存在ではない世界なので、かなりリアルな雰囲気のお話です。
なのであまり明るいお話ではない。映画に例えるとヨーロッパのミニシアター系の映画の雰囲気に近いと思いました。
幼い弟を護るために自分の事は余り顧みない兄が男前に見えます。してることは脇役のミルクマンの言葉を借りれば「えげつない」んですけれど…。
弟にそういう「えげつない」ことをさせないために自分がするって、男前じゃないですか!
弟もそんな兄を軽蔑する台詞は吐くものの、心の中では自分が兄を守ると思っている。
お互いに相手には言葉で伝えない想いが見えてなんとも切なかったです。
2人で幸せを掴んでほしいと、最後に切に願った作品でした。

3

守りあうふたり

繊細な印象を受けるイラストで展開される物語には、やや残酷で悲しい部分がありました。可愛らしくきらきらとした(ほんとうに、瞳に光がちかちかと見えるような描かれ方です)キャラクターたちと、話しの内容との間にギャップを感じます。
私個人としては、このギャップがとても好きです。
例えば冒頭、ミチルが鹿を撃ち、その場で捌いて必要なところだけを持ち帰る、その一連のシーン。「なるほど」と納得し、同時にただ可愛らしいだけではないんだな、と読み進めたくなりました。

チルチルとミチル、なにがベースになっているかがよく分かる名前です。もちろん青い鳥も出てきます。
美しく、童顔のチルチルが煙草を口にすることもまた、ギャップです。
彼はごく幼い頃から父との約束を守り、そしてミチルを守って生きていくと心に決め、どんなときでも弟の平穏を死守してきました。そのことを思うと苦しくなります。彼ら兄弟に降りかかった出来事は、決して生易しいものではありませんでしたから。
養父に性行為をたたき込まれ、そしてホテルの客へと売られていたチルチル。
それと知りながら見て見ぬふりをしていなければならなかったミチル。
父に母とミチルのことを頼まれ、そして心のどこかで父の帰りを待ち続けるチルチル。
そんな馬鹿な、と思いながらもそうして帰りを待つチルチルのことを守りたいミチル。
弟とともに生きながらえるために、死体から盗みを働いたチルチル。
そのチルチルが大切にしている、父親から預かった水晶を怖さと悔しさと悲しみで遠ざけたくなるミチル。

……恋とはなにかを聞き、やはりそこでミチルはチルチルに対して胸の中に灯る熱を自覚してしまいました。
私個人として近親モノ、特に兄弟同士に関してはそれ以上どうにもならないじゃないか、これからどうなってどうしてしまうんだ…と思ってしまうためそういう要素が入ると一気にお話に対し虚しい気持ちが優ってしまうのですが、こちらのストーリーではそれを感じませんでした。
おそらく【チルチルが途中、女を知った】ことと【ミチルがチルチルに対し無闇に性的接触を求めない】こと、【ふたりそれぞれのどこか少し冷めているような雰囲気】が理由だと思います。近親モノだという違和感を覚える隙間がありませんでした。

あれほどに待ちわびた父との再会は、チルチルにとってとんでもなく不本意であったことでしょう。でも、父を待つ間彼らはそうしていなければならなかったし、そうすることでクリスタルパレスを成り立たせてもいたし、そこへ行き着くしか術はなかったのですよね。
ミチルが盲目になってしまった父に猟銃を突きつけたとき、彼はまだ10代の心でなにを考えていたんでしょうか。父への郷愁ではなく、恨みが大きかったんでしょうか。まだまだ幼かったミチル、父も母も失くして読み書きもできないミチル。仕方が無いのかもしれません。
その後ほんとうに、彼らの父は自ら命を絶ちました。
白い雪の中、赤い血を滲ませ絶命していた父をみつけた兄弟の姿は、とてもとても寂しげで辛くなりました。

美しい世界に溶け込む残酷さを、まざまざと見せつけられたような気がいたしました。
最後、ミチルがチルチルを にいさん と呼んだことで、ようやくふたりは過去から解き放たれるのでしょうか。守り、守られ、守られ、守り、たったふたりで営むクリスタルパレス。
繋いだ手を離さないでいられるんでしょうか。考えるほどに辛くなります。
守れるでしょうか。幸せに過ごせますでしょうか。

ほの暗い内容ですし、近親相姦・女性との接触・血の描写、なども含むため万人受けはしない作品でしょう。
しかし重さ苦しさが漂うストーリーにも関わらず、清冽とした美しさを感じる世界はなかなか希有だと思います。私はこの独特の雰囲気に魅せられました。

2

切ないけれど惹きこまれる

おすすめされて読みました。

あまりファンタジーは読まない方ですが、雰囲気が綺麗で切ない感じ。
そして意外にもお兄ちゃんがビッチ受け(男娼)で歓喜!
男娼じゃないと食べていけない、生きていけない厳しい環境なんですね。
レビュー通り人が死んだり、流血したり、
女性との行為、養父との行為がありましたが、
耐性がついたからか、あまりダメージを受けなかったです。
お兄ちゃんが養父を待つ気持ちも弟を想う気持ちも何か共感するし、
そして切ない。
まさか失明した養父と再会し、養父が自殺するとは。

誰も救われず切ないお話でした。
この際最後に弟×兄で締めくくっても良かったのではないかと
思っちゃいましたが、それがあるともっと救われなくなっちゃいますかね。

ハッピーエンドが好きなので萌×2です。

1

牛乳屋は絶対モテる

あめのジジ先生と同一人物かしら。雨野ジジ名義は同人でも同じ名前で出していたから使うのをやめたんですかね?森田ウユニ名義は一般紙用…?

gateauっぽい作品です。

兄チルチル、弟ミチルって名前で、その上青い鳥の話も堂々と登場する。なんともストレートに球を投げてくるなと。
これに限らず、創作が好きな人にありがちな、色んな要素を詰め込みました感や、既視感がじわしわ伝わってしまってちょっと恥ずかしくなる。おそらく気にならない人は全然気にならないので、気にしたことを申し訳なく思う。

そんなもやっとした中で、父親が自殺した展開は好きでした。この展開に思い切れるのはすごい。父親がどう動くか考えたときに、かなり真っ当なルートなのですが、ハッピーエンド脳だと難しい選択だと思うんですよ。ここでこの終わり方を出来るところがいい。
この兄弟がクリスタルパレスに行けることはないだろうし、明日死んでるかもしれないところも、好きだな。

0

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