ねぇ、今——弟のこと、考えてた?

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表題作青を抱く

叶宗清
外資系スーパー勤務,26歳
和佐泉
テクニカルライター(メーカー勤務),26歳

その他の収録作品

  • 青が降る
  • あとがき

あらすじ

静かな海辺の街で暮らす和佐泉は、毎朝の日課で海岸を散歩中、ひとりの男と出逢う。少し猫背の立ち姿、振り向いて自分を映した黒目がちの瞳――叶宗清は、海での事故以来、病院で2年間目覚めないままの弟の靖野に良く似ていた。旅行中だという宗清の飾らない人柄を疎ましくも羨ましく、眩しく感じてだんだんと惹かれていく泉。だが泉には、同じように好意を寄せてくれる宗清には応えられないある秘密があって……。

作品情報

作品名
青を抱く
著者
一穂ミチ 
イラスト
藤たまき 
媒体
小説
出版社
KADOKAWA(メディアファクトリー)
レーベル
フルール文庫ブルーライン
発売日
ISBN
9784040676807
3.9

(116)

(45)

萌々

(37)

(22)

中立

(3)

趣味じゃない

(9)

レビュー数
17
得点
442
評価数
116
平均
3.9 / 5
神率
38.8%

レビュー投稿数17

静かに深く 青に染む

今月出たばかりの『世界のまんなか』は、ジェリービーンズみたいに
カラフルでポップな作風だったが(百味ビーンズ風に胡椒味もあり?w)
こちらはまた色合いの違う作者の世界。

WEB連載で読んでいた時から、後半じわじわと涙が溢れたが
再度本を手にとって一気に読むと、その味わいはさらに深く
読後、潜水した世界からなかなか戻って来られなかった。

      …      …      …

東京から4時間、海辺の町。
泉の4歳下の弟・靖野(しずの)は、2年前海で溺れそのまま目覚めない。
飛び込みの選手で潜水のエキスパートだった弟は
なぜこんなところで溺れたのか……?
靖野の介護のために、在宅勤務に切り替えて実家に戻り
いつ終わるとも知れない閉じた日々を淡々と過ごしている泉の前に、
ある日弟によく似た面差しの宗清が現れる……。

透明な世界だけれど、見通しも身動きもつかないような
そんな不思議な感覚で読み進めるうちに段々と話に引き込まれ、
いつしか物語の大きな波に飲み込まれていく。


宗清が携えてきた秘密、泉が抱えていた苦悩、
小さなやりとりを重ねながら、少しずつ近ずいていく二人。
二人が惹かれ合う宿命的な必然。

どこか憂いを帯びて丁寧に生きる泉と、
おおらかだけれど繊細な優しさを持つ宗清。

泉の抱えていた苦悩の原因は、なんとなく見当がついたのだが
その後の展開は想像を越え、物語は最後奇跡のように着地する。

「所詮おはなし」という言葉で
カタをつけてしまうこともできるかもしれない。
そもそもの発端になった過去の出来事に対する
意見もさまざまかもしれない。
それでも、この物語は美しい。

善悪や常識では割り切れない人の想い、
家族にとっての血のつながりと共有した時間の意味、
セックスも含めた肉体を持った人間の、暖かさ愛おしさ、
そして切なさ。
そんなものが、作者一流の情景の描写や会話、印象的なモチーフを通じて
細やかに積み重ねられていく。


BLとして読んだ時に、評価が分かれる作品かもしれないとは思う。
でも私にとって彼らが求め合う様は、萌えを超えた萌え、
これは紛れもない純度の高い恋愛小説だった。
……神としか評価しようがない。

   「俺は、自分だけのためにこの人を好きでいていい。
   何も残らない。でも覚えてる。一人になっても覚えてる。
   そして歩いていく。」

      …      …      …

書き下ろしは、数ヶ月後東京にて。
再度それぞれの人々の優しさに涙し、
巡り会い共に生きる二人の交歓に、心満たされて本を閉じた。



*最後にボソッと……
 藤たまきさんは、好きな漫画家さん。
 挿絵も悪くなかったのだけれど……
 最後までイメージが微妙にずれた感覚が拭えなかったのは
 先にwebで読んでいたのが災いしたのか……

17

minika

*最後にボソッと
に、賛同です。私もたまきさんの絵もマンガもスキなのですが、
表紙の宗清は大人なイメージが強く、ちょっとズレていた気が
しました。作中の挿絵では少し安心しましたが。
つぶやきにコメント失礼しました。

情景が目に浮かびます

都心から少し離れた海辺の小さな町が舞台。
何度も出て来る、波が打ち寄せる砂浜。
その砂浜を散歩しながら、ごみを拾うのが泉の日課。
そして、弟が事故に合ったのも同じ海で・・・
人の命をも簡単に奪おうとする海、だけど見ているだけで
心穏やかにしてくれるのも海、2人が出会ったのもこの海で・・・

主人公泉と海で事故に合って植物状態の弟靖野
そして、泉たちの暮らす海辺の町へショートステイしている靖野に良く似た宗清。
この3人の関係が、このお話のカギとなって
読み進めるほどに、何とも言えない虚しさや苦しさ
そして逆に、ホッとする気持ちや嬉しくて泣きたくなるような気持ち
様々な感情に動かされる内容でした。

最初海辺で出会った泉と宗清。
読んでいくと、お互いを微妙に意識する2人。
簡単には恋人と呼べる仲になる雰囲気ではないんだけど
何か見えない糸でかなり強く結ばれているような・・・
そんな風に感じさせるエピソードがたくさん出てきます。
2人共、人には言えない心に秘めた何かをずっと1人で抱えてきて
それを打ち明けられるほどにお互いを必要とするまでを
とても丁寧に、表現されていました。
ほんの1か月くらいの時間、泉と宗清は一緒に過ごしますが
その中で2人の心の中を交互に覗き、ハラハラしたりじれったくなったり
楽しませてもらいました。

この2人と2年もの間眠り続けている4歳年下の弟靖野。
この3人が恋愛も含め、とても複雑な関係を持っています。
最後に「そういうことだったのか・・・」ときっと思います。
泉が驚くほど靖野に似ている宗清・・・
その謎となぜ宗清がこの町に来たかがつながるとスッキリしますよ。

何もかも受け入れて、そして心を解放した泉と
泉を想い続けた宗清が愛を確かめ合うシーンは
すごく2人らしいというか、ちょっと泣けてしまうほど良かったです。
Hの最中宗清は「泉っ」て呼ぶんだけど、
泉は抱かれている時も最後まで「叶さん・・」なんですね。
それがとても泉らしい感じがしました。
同い年なのに、いつまでも敬語感が抜けないのも泉らしくて・・

泉の想い、宗清の想い、そして眠り続ける弟の想い・・・
その全部が明らかになるとき、軌跡は起きるんですね。
号泣・・・というより
うっ・・良かった・・・ぐすっ・・・と泣けました。

「世界のまんなか」とはまったく雰囲気の違うものですが
前回に引き続き素敵なお話でした。
もちろん神で・・!!

7

物語の糸を引く

ある目的があって海辺を歩いていた攻めの宗清、目的を見失いかけた儚げな声で宗清を呼び止めた受けの泉。出会いまでの複雑さと恋に落ちるまでの優しい掛け合いに涙が出ました。
泉と宗清、それぞれの家族、幼馴染、と一穂先生ならではの広い世界観で二人にとっての大きな転機が描かれています。

一穂作品って登場人物が多いように思います。しかもそれぞれが物語の鍵を握っている。何重にも交差する登場人物たちの想いが、二人の結びつきをより強く、くっきりと浮き上がらせていたのが印象的でした。
「青を抱く」というタイトルも物語の糸を引いています。泉と宗清の会話は最後まで堅いような気もしますが、合間にのぞくくだけたやりとりに“らしさ”を感じました。

余談ですが、フルール文庫の文字組み(16行×38字)が好きです。ザ・文学という雰囲気が引き立てられていませんか。他文庫よりゆるやかな文面がこの作品にも合っているような気がしました。

4

ネタバレなしで読んで欲しい

いやいや、さすがの一穂さん、あっぱれ。

何もない海辺の街に、東京からふらっと旅行へきた宗清と、海の事故で意識不明の弟を2年間看病している泉。

2人が親しくなるにつれ、少しずつ明かされる事実。無関係に見えた糸が紡がれて…。

真実が明らかになったとき、あぁーといろいろ納得できました。

もちろん物語なので、いやいやそんな都合よく、という突っ込みもほんの少しありますが、そんなの問題じゃないぐらい読後感がいい!

最後の最後に、宗清の運転免許証の謎だけは笑いました。

海辺の情景が浮かんで、とっても素敵なお話でした。

4

かなり思い切った設定

設定がこの先生でなかったら、読めないくらいぶっ飛んだ設定で驚いた。
ネタバレはしないが、初めて読むのを投げようかと思った。
最後まで読んだのは、心情や描写がよかったから。
いつも思うのが、男男の設定より男女の設定の方がしっくりくる。
読み手を飽きさせない展開。
イラストを担当された藤先生も病気の描写が他人事とは思えなかったと書いてらっしゃるように、細々した設定に読まされた。
難しいけど、評価は神評価にします。

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