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富士見二丁目交響楽団シリーズ第5部 その男、指揮者につき…

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あらすじ

「僕の音楽に神はいない」天才として賞賛され続けてきた圭の心の闇。それを最も鋭く突きつけるのは、悠季の奏でる音楽。愛と嫉妬の狭間で、音楽に愛される悠季の体を激しく求める圭は…?

作品情報

作品名
富士見二丁目交響楽団シリーズ第5部 その男、指揮者につき…
著者
秋月こお 
イラスト
後藤星 
媒体
小説
出版社
角川書店
レーベル
角川ルビー文庫
シリーズ
寒冷前線コンダクター 富士見二丁目交響楽団シリーズ
発売日
ISBN
9784044346423
4

(4)

(1)

萌々

(2)

(1)

中立

(0)

趣味じゃない

(0)

レビュー数
1
得点
16
評価数
4
平均
4 / 5
神率
25%

レビュー投稿数1

音楽地獄の底で苦悶する天才指揮者・桐ノ院圭

シリーズ第5部の3冊目。通しで25冊目になります。非常に中身の濃い一冊でした。

《出版社あらすじ》
「僕の音楽には神はいない」―天才として賞賛され続けてきた圭の絶望。それを最も鋭く突きつけるのは、悠季の奏でる音楽。「悠季を愛しているのに、なぜこんな試練を与える!?」愛と嫉妬の狭間で、音楽に祝福された悠季の体を、激しく求める圭は―。自らの音楽を目指し、新たな挑戦を始めた圭を描く「形象と音楽と」、フジミメンバー・五十嵐の視点で描く「指揮者の本分」も収録

収録作
・形象と音楽と
・指揮者の本分
・その男、指揮者につき…

「形象と音楽と」は、前巻「ある架空の郷愁について」の続きの話で、圭視点です。雪の新潟の老舗温泉旅館で、バイオリンを弾くことで幸福な音楽世界へとダイブしている悠季に喪失感と焦りを覚えた圭は夢を見ます。
 自分を天才だと豪語する圭ですが、一昨年の4月1日にM響指揮者としてボッヘの代振りを務めた神戸のステージで、薄々気付いていた【自分の音楽には神がいない】ことをハッキリ自覚します。彼は悠季やフジミの諸君に出会ったことで自分には努力では超えられない壁があることに気付き【天才の模造品】であり続けるために努力しますが、悠季に与えられている天与の才能を目の当たりにしたとき、それを持ち得ない自分は至高レベルに到達することが叶わず悠季に置いて行かれるという思いに打ちのめされます。
 うなされていた悪夢から目覚めた圭は、悠季の才能への嫉妬と怒りから手荒い仕打ちをしてしまいます。プライドを捨てて懺悔し全てを打ち明けた圭に悠季は、芸大時代の恩師・南郷先生に相談すべきだとのアドバイスをくれます。
 その後、2人はローマでのそれぞれの日常に戻り、圭は3月13日に帰国のためローマを発ち別居生活に入ります。そして富士見町の家に戻った14日は五十嵐コン・マスと一緒に悠季の写真を飾りフジミの打ち合わせをして、翌日はフジミの練習に定演の日取り決めに常任復帰祝いの宴会、翌々日には川島嬢の見合いぶち壊しの手助けをした後に南郷先生と会って相談します。先生は「やっとその壁にきたか」と笑い「ロボットごっこをやめればミューズどもは束で降ってくる」と言い、ビリヤード勝負に勝った圭に宿題を出してくれます。

「指揮者の本分」は五十嵐くん視点です。彼がM響の楽員募集に応募する話と平行して南郷先生に出された宿題ができずに苦悶する圭の話があります。
 この3月に邦音を卒業した五十嵐くんは、チェロでの就職を目指して延原さんの弟子になり、悠季の好意で圭と期間限定の同居をしてオーディションのための練習に励み、飯田さんや圭にも助けてもらって無事に試用契約楽員として採用されます。
 そんな五十嵐くんは、練習場所提供者から同居者5月末となった圭が、音楽地獄の底で日夜七転八倒の煩悶を繰り返し狂気めいた形相で呻吟し続けるのを見続けるしかない苦しみを味わいます。終日ピアノ前で何かにとり憑かれたようにベートーベンの《第五》を弾き続ける圭の姿は、月日の経過と共に鬼気迫る様相を通り越してしまい、以前に悠季の煮詰まった稽古ぶりを聴いた時の百倍もタチの悪い辛さを感じます。圭のそれは肝心の目標が掴めない苦しみに溢れるもので五十嵐くんはコンが壊れてしまいそうだと心配します。
 また飯田さんは、五十嵐くんと共に圭を拉致って音壺に連れて行き、圭の振りにはあと1%のものが不足していることを指摘します。

「その男、指揮者につき…」は悠季視点です。11月16日のフジミ定期演奏会のため悠季は5日に一時帰国して圭が運転する車で自宅に帰ります。半年ぶりに会った圭は煮詰まったままです。らしくない振りをする圭に気付いていた市山イッちゃんが練習後に圭と悠季をモーツアルトに誘います。長谷川トンちゃん、オーボエの貝塚先生、ホルンの小谷さん、石田ニコちゃんたちとベートーベンという人物について話をした翌朝に、悠季は圭の演奏する《第五》を聴き彼が超えられず苦しんでいる壁の正体を理解します。それを【薄皮一枚】と表現する悠季。見えない皮膜のせいで内面にあるものを放出しきれないでいる圭。
 そして定演当日、悠季は圭の苦しみを【鷹が鳳凰に生まれ変わろうとしているような苦しみ】だと言って励まします。圭は開き直って本番に臨みますが《第五》の第4楽章に入ったところで突如として振りが変わり、ついてこられなくなったオケを振り切って暴走してしまいます。けれどフジミの皆からはブラヴォーの嵐。それは天才が天与の才能を花開かせた瞬間でした。振り終わった圭は涙を溢れさせ泣き笑いに破顔してタクトを両手で握りしめます。こうして圭は南郷先生の宿題をクリアして飛躍への切っ掛けを掴みました。

2

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