ふたりが旧校舎で過ごした時間には
高校生らしい軽さやドキドキがあふれ
単なる先輩後輩の付き合いとも違う関係だからこそ
生まれた恋心にも希望があって、
明るくて甘さすら感じる雰囲気もあったのに。
そこから少しずつ歯車が狂ってガラリと空気が変わるという、
メリハリのある展開に引き込まれっぱなしでした。
香港で再会したあとも、表面上はとり繕えても
心の内側に不穏さは引きずったまま。
同じ気持ちを抱えているのに同じ場所には立っていないような、切ないすれ違いは続きます。
一束の閉じた心となかなか見えない圭輔の本心、
そのどちらにもハラハラさせられたし
佐伯もうまい具合にかき回してくれるので、
ふたりが交わる道はないのかもしれないと
何度も思いました。
ですが。"諦める"という選択肢を捨てた圭輔が動いたことによってふたりの心は重なり、
13年越しの恋がようやく実ることに。
両想いになっても喜びに満ちた空気感にはならないですが、
それぞれの強い想いは伝わるので
ふたりらしく気持ちを通わせられたことに胸が熱くなったのでした。
スピンオフも読むのが楽しみです。
異世界に転生するのではなく、
タイトル通りに探索しているというのが斬新で
すごく面白かったです。
RPGの世界に入り込んでしまったふたりが
現実世界に戻るために協力して
旅をしていくわけですが、
本当に冒険しているような臨場感があり、
先に進むほどにワクワク感も増していって。
遠い昔にプレイした"元祖"的なゲームを思い出し、
同じことしか言わない村人や突然のバグにも
ほっこりしてしまうくらい、
ゲームの中の主人公目線で味わう景色を堪能させてもらいました。
そしてふたりの気持ちの変化も
ストーリーに沿ったものになっていて、
先に進むほどに親密度が増していく様子にドキドキ。
異世界に飛ばされていなければ
生まれなかった恋ではあるんですが、
だからこそこの出来事が起こって良かったと
素直に思えるような展開が素敵でした。
ただ、目が覚めて現実に戻ったあとがわりとあっさりで、やや拍子抜け。
目が覚めたあとの、生身(?)の恋人同士になった
ふたりのやり取りをもう少し見たかったなぁと思いました。
3作品の番外編+書き下ろしと
初期に発表された作品も収録されていて
ボリュームたっぷり!
3作すべて大好きなお話だったので
その後の彼らに会えるのが嬉しくて、
興奮しつつも大切に読みました。
『君に降る白』
成瀬と藍は本編で恋人同士になったときから変わらず、とても静かに穏やかな愛を育んでいて
お互いを信頼し合う優しい空気感にほっこり。
その場所に至るまでにはツラいこともたくさん
あったと思いますが、
それ以上の幸せの中で暮らすふたりに
じんわりとあたたかい気持ちにさせてもらえました。
『あめの帰るところ』
能登と千歳は"現在"を見つめた日々を過ごしていて、
その毎日がとても幸せそうでものすごくホッとしました。
あめちゃんの記憶は戻らないままですが、
それは切り離せない過去でも
忘れられない悲しい思い出でもないことが
能登の言動一つひとつから伝わります。
大変なことやツラいことにも向き合いながら
一緒に生きていく覚悟をしたふたりの愛を
見守ることができて本当に幸せでした。
『星を泳ぐサカナ』
本田と優太郎は以前よりずっと力の抜けた関係になっていて、
とても良い付き合いをしてきたのがわかります。
かつては不器用なやり取りをしていたふたりが
ものすごく自然に寄り添っている様子に感動。
一緒に過ごした時間はお互いにとってかけがえのないモノで、それはこれから先もずっと続いていく。というのを
思う存分見せつけてもらえて歓喜でした…!
この3組の中では本田と優太郎が最推しカップルだったので、
心を重ねて生きている彼らの姿を見ることができて本当に嬉しかったです。
そして。
『ココロ』もめちゃくちゃ良かった…!
切なくて悲しくて、でもたしかにある愛の温かさに涙が止まりませんでした。
番外編も3組のその後の日々も、
ただただ甘くて幸せなだけではなく。
一緒に生きていく上での困難も織り交ぜて
ふたりの道を描いている感じが本当に素敵。
読めて良かった…!と、心から思える作品でした。
ノリが軽めでほどよくチャラく、
でも仕事にはしっかり向き合っている吉嵩のキャラがすごく好みでした。
おとなしくて殻にこもりがちな凌に
グイグイいくけど引くところは引いて、
ここぞ!というときには押しまくる、みたいな。
駆け引き上手で色気たっぷりな吉嵩に
少しずつ心も身体も拓かれていく凌の変化も可愛かった…!
様々な場面でふたりの相性の良さは伝わってきて、
友達から少しずつ関係が変わっていく様子も
とても自然だったなと思います。
吉嵩の好意はわかりやすいものだったのに
凌はなかなかそれに気付かず、
自分の気持ちもわからぬままで
すれ違いそうになってハラハラしたけれど
凌自身が動いてしっかり乗り越えてくれて一安心。
吉嵩との出会いによって強くなった凌を見れたのも嬉しかったです。
吉嵩が過去の話をするとき言い淀んだり不自然になるのが気になっていたけれど、
それも最後には全部キレイに回収してくれて本当にスッキリ!
甘くてエロくてものすごーく幸せなところに着地してくれて本当に良かったなと思いました。
重たい愛を秘めている熊沢の眼差しを
気にも留めずカラッと笑っている晃一。
そんな正反対な表情が印象的で、
1巻と同じように表紙を見ただけで
ワクワクが止まりませんでした…!
前巻終わりでスルッと同棲を始めていたけれど
2巻は『ラブラブ同棲編』というわけではなく、
同棲するに至ったトラブルや
いま現在ふたりが直面している問題などが描かれているので甘さは控えめ。
そして登場人物が増えたことでふたりの絡みは
やや減った感じではありましたが、
周りの人たちとのアレコレが
その後のふたりの幸せにしっかり繋がっているので物足りなさはなく、
むしろ彼らの仲が深まっていく様子を
甘さに誤魔化されずに見ることができました。
ふたりで向き合っているだけでは得られなかった感情を知り、
お互い相手への想いがもっと大きくなって。
最後には恋人として少しステップアップした感じになっていて、
静かな朝焼けを眺めているあたたかな空気感が
めちゃくちゃ素敵でした…!
世間って狭いな。的なエピソードや
晃一のことを好きな女子の暴走など、
ふたりの恋愛部分以外にも楽しめるところが
たくさんあって大満足。
あとがきを読む限りこれで完結っぽいですが…
その後の彼らにいつかまた会えたらいいなと
思いました。
治療薬が完成するまでコールドスリープに入ることを推奨される、という
その世界の仕組みがすごく興味深くて
細かな設定が明かされるまでは
ぐいぐい引き込まれる面白さを感じましたが、
目覚めたあとの真人の扱いに「ん…?」という
思う部分が多く、
段々読むのが苦しくなってしまいました。
そもそも
いまコールドスリープに入る、というときに
2年ではなく20年の治験に参加してくれませんか?と
持ちかけるなんてあまりにも非常識すぎる気がします。
真人自身が諸々のことを同意したとはいえ、
あの場面で冷静な判断をできる人がどれくらいいるのか疑問です。
そして目覚めてみれば戸籍は抹消され、
一生会社から監視され続けるなんて。
ストーリーの中心は真人が理不尽に扱われていることではないともちろんわかっていますが、
ふたりの恋愛感情を追うよりも
コールドスリープ社のやり方に目が向いてしまい
どうにも入り込めず…。
20年という長い時間、もう会えないかもしれないのに
想い続けた渡良瀬の愛はすごく素敵だったし
カチカチに固まっていた真人の心が
少しずつ解れていく様子も良かったけれど。
彼らの置かれている環境が詳しく明かされるほどに
ふたりの感情が薄れて見えてしまったなという印象でした。
考え方が独特で
大人らしくない言動を取ることも多くて。
でもふにゃふにゃ芯がない人なのかと思っていると
しっかりとブレない大人な意見を言ったりもして。
そんな場面々々で表情が変わって見える能登を叱ったり宥めたりしつつ、
すっかり心が解されていく千歳の変化が微笑ましくて
ふたりのやり取りに愛しか無いのがものすごく素敵でした。
結構評価が分かれていますが
塾講師として失格な部分が
数え切れないほどある能登なので、
そこを受け容れられない人がいるのも
まぁ納得、という感じ。
でも。千歳と接する能登はただただ純粋で
人間的には少しも曇ったところが無いのが
読み進めると痛いほど伝わってくるんですよね。
自分が信じる愛の前では嘘を付けない
不器用な真っ直ぐさに心を打たれ、
だめなところも丸ごと愛しく思えました。
千歳が『あめちゃん』のカタチを喪ったことを知って、
自分の悲しみに目を向けるよりも千歳の幸せを願う姿には胸を締め付けられます。
あめちゃんが戻らないことで一番苦しんでいるのは彼なのに
すべてを静かに飲み込んでそばを離れる決意をして、
千歳が『あめちゃん』に囚われずに生きていくことを願うだなんて。
痛くて苦しい愛を抱えたまま孤独を選ぶのが悲しすぎました。
でも決意と覚悟を持って千歳が千歳としてまた能登のもとにやってきてくれたことに救われて、
ふたりなりの幸せにおさまってくれて一安心。
かき乱されるところもたくさんありましたが、
最後にはじんわり胸が温かくなりました。
「あめと星の降るところ」に収録されている後日談を読むのも楽しみで仕方ないです。
人付き合いが上手くないとか、
愛想よくできないとか。
自分のだめなところを認めるのが上手で
嫌なことやツラいことが起こっても
仕方ないと思ってやり過ごしてしまう藍。
彼が自分の感情に蓋をするようになった理由も
重たいモノなのに
その苦しみを淡々と受け容れている
諦めが本当に悲しくて、
胸を締め付けられながら読みました。
成瀬とは客とボーイとしての出会いなので
対等な関係にはなかなかなれないけれど。
初対面から藍自身をしっかり見てくれた成瀬は
藍にとって初めて感じる"光"の存在に
なっていくのがわかったので
どうかこのまま気持ちが交わりますように…!
と、願っていたのですが
その後もことごとくすれ違ってしまうふたり。
遣る瀬ないことばかりが起きる日々の中で
光を求めることをやめてしまった藍が
自分自身で幸せを潰し、成瀬を深く傷付けて…
正直、ここまで拗れてしまったら
もう終わりかもな。とすら思いました。
でも。遠回りして傷付け合って
もう落ちるところがないところまで落ちなければ
心を重ねられるところまで進めないような、
面倒くさくも愛おしいやり取りを繰り返すふたりだからこそ恋が生まれたのだな。と、
最後の最後で納得させてくれて。
ふたりそろって幸せを抱きしめられる結末を
見守れて本当に嬉しかったです。
それぞれの気持ちを思って読み手としても
とても苦しかったし
静かな悲しみが降り積もるような展開に
何度もかき乱されましたが、
苦しみの果てに待っていた幸せに本当に救われて
じんわり温かな気持ちを味わえた作品でした。
憧れの芸能人に一目惚れされ、
あれよあれよという間に恋人になり…
という、夢のような出来事が起こるお話、では
あるんですが
恋人同士になった椎名と玲の日々は良い意味で
ものすごく普通なんですよね。
立場が違うからうまくいかないアレコレがうまれたり
会えない時間のなかで気持ちがすれ違ったり…
という、
芸能人と一般人カップルにありがちな問題は起こらないので、
業界モノっぽさが薄くてふたりの感情にしっかり目を向けて読むことができました。
元カレからの言葉に傷付いて後ろ向きになっていた玲も、
ただ真っ直ぐに愛をぶつけてくれる椎名のおかげで
少しずつ"愛され上手"になっていく様子にほっこり。
思っていたよりずっと直情型だった椎名には驚かされましたが、
そうなるのも玲のことが大好きだからなのは伝わってくるので、
平和なバカップルのやり取りにほんわかさせてもらいました。
個人的には栗原はもっと痛い目に遭ってほしい気もしましたが(笑)
なにはともあれ、ふたりが幸せそうで良かったなーと思える結末になってくれて嬉しかったです。
2023年刊行のほうは【非BL】の括りだったので
あえてこちらを。
冒頭から漂う切ない雰囲気は
靖野のことが明かされてさらに色濃くなっていくので
重たい展開になるのも覚悟していたけれど…
心にズーンとくるような重たさはなく、
むしろだんだんスッキリと開けていくような清々しさがあって
苦しくなるところはあってもそこに引っ張られずに読むことができました。
泉の真ん中にはどんな時でも靖野がいるけれど
宗清と出会ったことで
自分自身にもしっかり向き合えるようになって
少しずつ意識が変わっていく様子にはドラマがあり、
恋なんてするつもりはなかったのに
自然と宗清に惹かれていく部分にはしっかり萌えがあり…と、引き込まれるところがたくさん。
ただ、ずっと静かな夜みたいだったストーリーが
突然恋愛モードに切り替わったことに気持ちが追いつかず、
恋愛対象として靖野と宗清を比べてしまう泉にも
戸惑ってしまって。
泉はあえてあの場面で言いたかったのだと思いますが
それならせめて想いを伝えた後にしてほしかったな…と思ってしまいました。
宗清と泉、そして靖野のことだけではなく
それぞれの家族丸ごと関わってくる終盤の展開には驚かされましたが、
詰め込まれたエピソードが渋滞することなく
スッと入ってくる感じ、すごく良かったです。
でも引っかかるところが結構あったので、
物語の世界には浸りきれずでした…。