電子版で読みました。
電子版の表紙、すごく繊細な感じで綺麗なんですよ。
これは好きな感じの作画!と思って、気合を入れて読み始めたのですが…。
本編は表紙と全く違う印象でした。
どちらかと言うと青年漫画か少年漫画の主人公のようなタッチで。
主人公がお祭り騒ぎなうるさいタイプなのも相俟って、苦手なタイプでした。
だけど、ストーリー自体は刺さりました。
書店のバイトに入って、指導係になった海(かい)に一目惚れ。
「付き合ってください!」と言ったら、あっさりOKされて、そこから大地の受難が始まります。
かつて海には忘れられない恋人がいて、そのひとと大地を重ねて見てしまう。
この理由が何とも切ない。
回想で出てくる恋人はいつも快活で、本当に太陽のような人。
大地も元気で、インドア派の海をその人と同じように外に連れ出そうとする。
大地の言葉や表情、ふとした瞬間に、かつての恋人の姿を見ては驚く展開に、嫌な予感がふつふつと。
この先は読んでください。
わたしは何だかやるせない気持ちになってしまいました。
読み終わったあとも、ちょっと消化しきれない気持ちでいっぱいです。
物語に引っ張られがちな方は、気分を切り替えられる作品を用意しておいた方がいいかも。
いい話なんだけど、どうしようもないつらさが消えないんだよなあ。
海にとって恋人が素敵なひとだったんだろうなあって思えるだけに、つらい。
主人公があっけらかんとして前向きだけど、このつらさを払拭してくれはしないんだよなあ。
胸に何かがまだ刺さってます。
萌えというのとはちょっと違うかも。
未読の方は、入り込みすぎないようにご注意を。
極限まで2人の距離が近付いたところで終わった1巻。
2巻は、疲労による熱に浮かされていたミチが、熱が下がって冷静になったところから始まります。
第三者から見たら、激しくまどろっこしい。
あそこまで気持ちが昂ったのに、まだ自分の気持ちを自覚しないミチにちょっともやもやします。
一度は思いが通じ合ったと感じたヨシカからしたら、「今まで通り」はスタート地点に戻るよりもつらいことだけど、ミチのために頷くんだよなあ。
自分の気持ちよりもミチが良い状態でいてくれるのが一番。
だけどヨシカの本心を綴ったモノローグが切ない。
そして今度はヨシカにもやる。
俳優一本で、と言うマネージャーに、ミチとの仕事を辞めたくないヨシカが渋ったことで、ミチに説得役が回ってくるという皮肉ですよ。
ミチだってずっとヨシカと一緒に仕事がしたい。
だけどヨシカの将来のことを考えたら、ヨシカにとっての自分の言葉の重みが分かるからこそ、本心では向き合えなくなってしまうんだよなあ。
ここ、ミチの気持ちが全然ヨシカに伝わらないのがまた切ないんです。
お互いが自分の気持ちよりも相手のことを尊重するって、すごく大きな愛。
なのに、どちらの愛もきちんと相手に伝わらない。
もどかしい。
この辺りまではすごく盛り上がるんです、何度読んでも。
だけどわたしの苦手なパターンがこの後にやって来るんだよなあ…。
そもそも芸能界の話が苦手。
人気俳優で、イケメンで、憑依型なんて、才能と外見とすべてに恵まれた状態。
そういう「周囲から評価される条件がすべてが揃った人間」がどうも苦手で。
ここで冷めてしまうんです。
これはわたしの潜在意識の問題なので、作品は何ひとつ悪くないんです。
ただわたしがそういう人物に魅力を感じないというだけで。
しかもミチが自分の気持ちを認めて、しっかり、理解してもらえるように話したときに、芝居を捨てられない、芝居が好きな自分に気付くじゃないですか。
ミチのモデルになるために始めたことが、自分の生き甲斐になってた。
本来であれば喜ぶべきことなんだけど、喜べないんだよなあ…。
才能があっても全力で、全人生かけて、ミチだけ!なんて理想を抱いてしまう。
好き嫌いは別として、深いなと思います。
2回目の会話の描き方が素晴らしくて、この会話を表現できる力量に感服してしまう。
伝わらない相手に、どうしても伝えたい。
盲目的に自分を選ぶんじゃなくて、しっかりとそれまで自分が築き上げてきたキャリアや人生を、自分で見て、考えて、それで選んでほしい。
どんな言葉で言えば伝わるか。
最初のときは伝わらないから、一番酷い言い方で傷付けてしまったから、今度は失敗しないようにきちんと伝えたい。
ミチがしっかりとヨシカに向き合っているのが、ひとつの台詞ごとに読者にも伝わってくる、素晴らしいシーン。
ミチのためではなく、自分のために。
そしてこれからは2人のために。
良い作品です。
わたしが人気俳優という設定にわだかまりのない人間なら、「神」評価をつけられたんだろうなと思うと、自分が残念です。
表紙がまず素晴らしい。
押し入れの天袋をBL書庫にしているのですが、表紙が好きすぎる作品を常時7冊ほど開けたらすぐに見られるように配置しています。
何度か入れ替わりはあったものの、この作品は購入した4年前からずっと鎮座しております。
素敵すぎる。本当はリビングに堂々と飾りたいくらい。
ファッション業界の話です。
大手ブランドを退社後、独立して自社ブランド・michi kashiiを立ち上げた香椎啓(みち)。
ある日、街中で自分が数年前にデザインした服を綺麗に着こなしている人を見かけて、上機嫌で店に帰ってくると、少しの時間差で本人が現れて…。
人気モデル兼俳優のヨシカでした。
「自分をモデルに使ってほしい」と言うヨシカに、「NO」と言うミチ。
だけどヨシカの決意は生半可なものではなくて、なかなか折れません。
そのうち、ヨシカと語らう時間が楽しすぎて、意気投合しすぎた結果、さらに断りにくい状況に。
ミチのファッションバカさ加減が良いんです。
何かひとつの才能に突出して、あとのことはてんでダメっていう人物が好きなので、ミチはまさにドンピシャ。
没頭すると寝食も忘れてしまったり、デザイン画でしかひとを認識していなかったり。
学生時代の自信満々で快活な姿には若さを感じるし、今の少し落ち着いた様子も、そこからいろいろあったことを感じさせてくれます。
こういう説得力のある人物描写がまた良い味になってます。
それ以上にヨシカがいいんだ!
今や引きも押されぬ人気モデル。
ドラマにも引っ張りだこで、演技力まで評価されているヨシカが、ミチに固執するのがね、特別感があって良いんです。
しかもミチの作った服のモデルになることを目標に頑張った結果、「色がつきすぎて使えない」と断られる辺りの、「何のために頑張って来たのか…」という虚しさも良い。
挫折を知る人間は、味わい深いものです。
あああ、さっき書き終わったのに、エラーが出たから下書き保存したのに後半がばっさり消えてる…。
ヨシカはミチの才能と情熱に惚れ込み、ミチはヨシカの体に惚れ込む。
体っていうと語弊があるけど、そういう意味ではなくて造形としての体です。
ミチの作る服に合うように、ヨシカが努力して作り上げて来た体からインスピレーションを得られる、創作意欲が湧くというのは、最高の褒め言葉。
お互いが、そのひとだけが持っているものに惚れ込むって、最高だよなあ。
ヨシカがキスしたりハグしたりするのを、嫌じゃないと思う。
パパラッチ予防にしばらく会わないのは、嫌だと思う。
そういう気持ちがどういう感情から来ているのか考えないのが、またミチらしい。
だけどかなり極限まで距離が近付いた2人が、ここからどうなっていくのか。
先が気になるところで終わっています。
未読の方は、ぜひ2巻も購入してから読むことをおすすめします。
オルタナティブ。
いろいろな意味がありますが、この作品では「身代わり」的な意味と、そのときどきの「選択肢」のダブルミーニングなのかな?と感じました。
会社の後輩の結婚式で、後輩がずっと好きだったという友人・志田と出会った水原。
知り合いのいない二次会に参加したことを後悔していた水原に、志田が近付いてきて…。
という始まり。
バイだけどゲイ寄りな水原は、そのまま志田をお持ち帰り、というか志田も積極的に一夜を共にします。
そもそもこの最初の時点で「誘いをかける/かけない」「乗る/乗らない」という選択肢があって、その後も「待ち合わせ場所に行く/行かない」、「帰る/帰らない」という選択肢が随所に散らばっているように感じて、巧いなあと唸ってします。
お互いが腹の探り合いをしている感じも良くて。
平然としてみたり、本心を出してみたり、相手の反応を探りながら最善策を選んでいくみたいな進め方が何とも大人の恋愛!って感じで痺れます。
冷静に状況を判断しつつも、やっぱり感情は出てしまうものだし、ゲームの駒を進めるようには行かない辺りの心理描写も良いんだよなあ。
惜しむらくは時間の経過が短いことかな。
結婚式で出会って、その後に2回会って。
でも2回目は有村も一緒だった上に、水原の元カレまで参戦してくるし。
さらに志田の元カノまで登場するので、いっぱい詰め込まれてすぎていて、半年くらい経っているような感覚に陥りますが、たぶん長めに見積もっても2ヶ月くらい?
もう少し時間をかけても…と思うものの、終盤でそこも天禅先生の意図だと気付かされて、「なるほどなあ」とはなるけど、偶然が重なりすぎるとちょっと残念に感じてしまうのも事実。
出てくる登場人物が有村を中心に対照になっているのも面白いなあと思います。
元カレ→ー水原ー→《有村》→ー志田ーー元カノ
どちらも同じような条件が出て来て、そこから選ぶ選択肢が違うのも面白い。
お互いに誤解して、すれ違うのも、素敵なジリジリ感を味わえる演出。
ただ天禅先生の作品全体を通して言えるのは、過去の情報を全部明かさないんですよね。
水原が大学時代に付き合った元カレの話も別れた理由は出て来ません。
謝らなければいけないことをした→元カレの心変わり?という深読みは出来るけど、はっきりは分からない。
その相手のせいで「本気に好きにならないようにしている」というガードができたのかな?とも思うけど、描かれていないから分かりません。
そこがややもやっとはするけど、いつものことだからなあ。
何もかも追求して解明しようとすると、萌えが削がれかねないのでご注意を。
本編の終わり方からの描き下ろしが秀逸です。
大体、タイトルの回収はラストのモノローグで行われることが多いように思うのですが、この作品では描き下ろしで回収。
しかも志田のやきもちと水原のデレまで見られる素晴らしさ。
ストーリーの組み立てが絶妙です。
細かいことは突っ込まずに、心理描写を楽しむ1冊。
この作者さんの作品を2作品ほど立て続けに読んで、こころがやられておりました。
人間の黒い部分や、知らない方がしあわせに生きていける類の感情に、精神が抉られまくりで…。
この作品もタイトルに「ビッチ」とあるので、読むか迷ったのですが、結果、読んでよかったです。
父子家庭と母子家庭で、アパートの隣同士。
両親が再婚したことで兄弟になった久希と譲だったが、しあわせな家族生活は長くは続かず、久希が大学に上がった年に両親は他界。
それから譲を立派に育てることだけを考えてきた久希だったが…。
選んだ職業が売り専でございます。
弟を学校に通わせるために体を売る設定自体は珍しくありません。
両親の再婚で血の繋がらない兄弟設定も、両親が他界して2人きりになるのも、そんなに珍しくない。
でも身構えていたようなビッチじゃなかったことで、萌えることに成功しました。
いや、でもよく見たら「処女ビッチ」って書いてあるじゃないかと。
思うところが一切ないと言えば嘘になります。
S女王キャラで人気No.1になった久希が、実は服も脱がずに、体を触らせることもなく、No.1っていうところがまず奇跡。
Mのひとたちはそれで料金を払うことに喜びを感じるのか…。
それに自分のお気に入りのボーイが想像通りじゃなかったからって、集団レ◯プを目論む神経が、地下アイドルの推しに彼氏がいた!みたいな反応すぎて…。
そういう久希の仕事関係の諸々に目を瞑ると、長い間両片思いを拗らせてきた2人が残るわけで。
作画が変わった印象で、譲がなかなかのイケメンです。
久希は顔も体つきもちょっと女性っぽい。
嫉妬に駆られる年下攻め、愛が深すぎる故に苛立ちを相手にぶつけてしまう年下攻めが好きな方には素敵な展開です。
『パブリック・セックス』には「中立」を、『濡れねずみたちの恋』には「萌」をつけたので、こちらの作品、「萌-●ーーー萌2」くらいなのですが、譲の作画と性格に「萌2」を。
金メダリストになって侑を迎えに行ったところで終わった本編。
その続きが2話と、描き下ろしが収録されています。
本編で気になっていた侑の体質、改善されてなかったんですね。
でも特に取り沙汰されることはなく、今回のメインになるのは広瀬のメンタル。
メダリストになるという侑の夢をかなえるためだけに、メダルを獲ったら会いに行けるという自分の中の区切りのために、きつい練習にも耐えて来た広瀬。
だけどいざ侑を迎えに行って、サポートチームに入ってもらったら、自分の目標を見失ってしまいます。
自分は何のために泳ぐのか。
根本的なところで壁にぶち当たる広瀬を支えるためにも、侑が出した答えがカッコいい。
途中、またヒヤっとする展開があるものの、例の2ダブくんでした。
登場は最悪だったけど、何だかんだいい味出してます。
描き下ろしのラストまで広瀬がカッコいいです。
溺愛系好きの方、水泳アニメとかが好きな方はぜひ。
しあわせなオメガバースは、いくらでも読めますね。
メダリストだった叔父に憧れて、水泳に道を進んできた侑。
叔父の母校であるαばかりの高校に転校してきたものの、同じクラスで水泳部の広瀬に、侑がΩであることがバレてしまって…。
という始まり。
広瀬が問答無用に良いです。
侑の匂いにだけ反応する自分の体と、侑の様子から「運命の番」を意識し始めるものの、侑の了解を得ないうちは噛まない。
さらにΩであることがバレたら退学になってしまう侑を守りまくる。
カッコいい。
αの中では力不足でカースト下位な広瀬が、守るべき者に出会って変わっていく姿が、まあ、とにかくカッコいいです。
バックハグ好きにはたまらんシーンがちょこちょこ出てきますよ。
侑も広瀬にだけ反応することに気付いているけれど、それよりも自分の夢!っていう感じで、この子のせいで拗れます。
いや、この子のおかげで話が進と言うべきか。
たしかに「αに負けたくない!」という一心で練習をしてきたのに、憎いαに守られるのは屈辱かもしれない。
だけどそのせいでトラブルが起きるのが、ぐぬぬ…ではあります。
ヒヤッとする場面はいくつかあって、まずは水泳部の部長。
そして2ダブのクラスメイト。
水泳部の部長は仕方ない流れだとしても、2ダブのクラスメイトが面倒くさいです。
結果的にしあわせなオメガバースではあるものの、この子が登場してしばらくはかなり荒んだ気持ちになるのでご注意を。
その上、何だか面倒な生徒会長も出て来ます。
この子、広瀬に認識すらされていないけど、キーパーソン。
物語の大きな転機をもたらすものの、その理由が「…え」って感じなので、何だかなあという感じでした。
まあ、感動的な展開のためには仕方ないのですが、何かもうちょっと、広瀬との絡みとかあったらスッキリしたのになあ。
何だかんだと切ないポイントがモリモリあるので萌えました。
ただ一個気になることがあって、番になっても妊娠できる期間はフェロモンがだだ漏れになる1000人に1人の体質だと分かった件。
あれ、解決してないんですよね。
その辺りはafter storyで回収されているのかな?
そこだけモヤっとするので、after storyで確認して来ます。
説得力がすごい。
「カッコいいなあ」から「好き」になる過程が、「そう!そういうものだよね!」ってヘドバンばりに頷けてしまう作品。
同性でも目を引く存在感。
同じ会社に勤めているのは知っているけれど、名前も部署も知らない相手が気になっていた営業の浅田。
そんな中、新規プロジェクトで制作部を訪れた浅田は…。
プロジェクトのチームを組む観月が、自分が見ていた相手だと知ります。
仕事絡みで知り合っていくのって良いですよね。
お互いに有能だと阿吽の呼吸で仕事が進んだり、相手に頑張りに惚れ直したり。
ノンケ設定の場合、「男が惚れる男」=仕事ができるという部分の説得力が増すのがいいなあと思います。
あといきなりプライベートで親しくなるのは難しい社会人でも、仕事を通して気が合うという流れも自然で引き込まれやすい。
とは言え、浅田からしたら元から意識していた相手だけに、素性が知れてくるとさらに興味が湧いてくるもので。
オープンゲイで「浮気はしない」と公言する観月相手に、自分の中の何とも言えない感情の処理に戸惑うのも良いんです。
「漠然とした憧れ」が相手を知るごとに「確固たる何か」に変わっていく様子が手に取るように分かる心理描写は必見です。
ただ物語のメインは中盤から観月の方の問題に重きが置かれる感じ。
観月が恋人に別れを切り出される、偶然再会してしまう、というイベントごとに、観月と浅田の関係性が少しずつ変化していくので、ノンケがゲイに恋をする他の作品に比べて、「同性を好きになって…しまった?かも?しれない?」みたいな逡巡よりも、行動やそれを裏打ちする性格の描写の方が多いかな。
一貫して浅田という人間が、洞察力と行動力のひとという描き方なので、違和感なくストーリーにのめり込めると思います。
観月と元恋人の詳しい回想シーンは出てきません。
回想はあるけど、出会いのことと付き合うようになるまでの経緯なので、どんな恋人関係だったかははっきりは分からないけれど、想像はつく感じ。
ある事情からボロボロに傷付いた相手にただひたすら寄り添って、甘やかして、包み込んでっていう付き合い方をしていたんだろうなあ。
それこそ腫れ物に触るような。
自分を好きになってほしい、自分だけを必要としてほしいと願いながらも、相手の負担になるようなことは絶対に言えない、みたいな。
それが何となく感じ取れるからこそ、素の状態で甘えられる浅田の存在がありがたい。
あの恋があったから、浅田に惹かれたんだなというのが感じられるんですよ。素晴らしい。
天禅先生の作品はいつも〆め方に痺れます。
この作品も例に漏れず、痺れる。
言葉選び、コマ割り、全部が読者の気持ちを最大限に煽ってくるんだなあ。
良いです。
タイトル回収の仕方も良いです。
ぜひ。
攻める!!
みなさまの中で「攻め受けの暗黙のルール」ってあると思うんです。
「好きな攻め受けのタイプ」ではなくて、あくまで「暗黙のルール」。
たとえば「美人は受け!」とか、「短髪は攻め!」とか、「体格大きい方が攻め!」とか。
暗黙のルールっていうより、固定概念って言った方がいいかもしれません。
この「固定概念」を打ち破ってくる作品に出会うと、ひとは驚いたあとに「受容」と「拒絶」のどちらかに進むしかないと思うのですが、頭固めなわたしはたいてい「拒絶」の道へ迷いなく進んでしまうことが多いです。
そんなわたしは、『か◯や』ならヒレカツ丼、『ほっとも◯と』なら特のりタル弁みたいな感じで、絶対新メニューは試さない派。
どうせ食べるなら確実に美味しいと分かっているものを、確実に美味しく食べたい。
「わたしも!」という方で、もしこの作品を未読の方がいらっしゃったらぜひ読んでほしい。
ふだん「新しいものを好きになる」体験をあまりしていない分、きっと貴重な1冊になるはず。
前置きが長すぎますが、本編について語らせてくださいませ。
リーマンの柏木が、年に数回見る夢。
それは高校1年生のときの、全く接点のなかった同級生を送って行った記憶。
おとなしいクラスメイトの倉沢に感じた熱が、その後の性志向の原点になっていて…。
という始まりで、偶然の再会から始まる初恋のやり直しの話です。
倉沢が圧倒的美人。
高身長で、女性と見紛う長い髪に美しい顔。
モデル!?と思われそうな外見でございます。
一方の柏木は、後輩が「その気になればすぐ彼女ができる」と太鼓判を押すイケメンな上にキッパリした性格と、趣味でフットサルをやるようなリア充。
完全に攻めタイプであります。
だけどこの2人がいざえろすってなったときに、「あ、そっち!?」という驚きが。
固定概念の観点で見ると、要素が混在してはいます。
体格→倉沢の方が大きい、外見→柏木の方が男っぽい、という面で、美人が攻めるというふつうなら「NO!」な展開が受け入れやすいのかも。
しかもこの美人、なかなかの変態であります。
勤務するバーの床、コスプレ、屋外と、回数を重ねるうちに、柏木が完全に受けにしか見えなくなってきて、「YES!」でしかなくなるという不思議。
わたしと同じような方にはぜひ、この体験をしてほしいなあ。
同時収録は同じクラスの陸上部員と金髪くん。
表題作の攻め受けがわたしの固定概念と違っていたので、この作品を初めて読んだときは相当身構えました。
身構えなくて大丈夫です。イメージそのままです。
それにしても高校生に見えない攻めの色気はなんなんだろう。
陸上部にあるまじきちょい長めのうねらせ系黒髪から溢れる色気がすごいです。
攻め目線→受け目線っていう2話構成も良い。
わたし的にはこの作品のセールスポイントは「固定概念の打破」だと思っていたのですが、読み返してみたら、あんまりそこを気にする方はいないかもと思いつつ…。
自分の意見を残すことに意義がある、はず。