本誌連載時から話題を呼んだ平安愛憎劇、ついに単行本化。

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表題作華なるもの

大貴族の息子 智実
武家三男からの成り上がり者 高前

同時収録作品そののちは

近衛中将 藤原敦満
従者 高前

同時収録作品雅楽師の恋

雅楽の師匠
院御所に呼ばれた雅楽師 由陽

同時収録作品いと、おそるること

北面の武士 高前
蔵人 千里

その他の収録作品

  • つきあかり
  • ひびくもの
  • しのぶれど
  • さくら
  • おまけまんが

あらすじ

院御所を騒がすは美しい犬。

「私がすがるなど」

時は平安末期。
武家の三男と卑しい出自でありながら、
権力者たちの寝所を渡り歩き、上皇の寵人となった高前(たかさき)。    

美しい成り上がり者として
畏怖と羨望の視線を集める高前だったが、
有力貴族の御曹司・智実からは素直な好意を寄せられ、その余裕を不愉快に感じる。

しかしある日、二人の関係が決定的に変わる
事件が起こりーーー。

引けぬ意地と激情が絡み合う
切なく底深い大人の恋愛劇、
〝数年後〟を描く掌編を描き下ろし。

著者:西つるみ

作品情報

作品名
華なるもの
著者
西つるみ 
媒体
漫画(コミック)
出版社
祥伝社
レーベル
on BLUE comics
発売日
ISBN
9784396783303
3.7

(69)

(31)

萌々

(12)

(13)

中立

(7)

趣味じゃない

(6)

レビュー数
25
得点
249
評価数
69
平均
3.7 / 5
神率
44.9%

レビュー投稿数25

とにかく読んでみて!

待ちに待った1冊が登場しました!!
OnBlueで連載が始まった時、あっさりした顔と雰囲気が平安の装束に今一つ合わなくて絵柄的にちょっと苦手意識を持っていたのですが、
毎号毎号読み進めるうちに、この本の主人公・高前のあまりに頑なでそして器用貧乏な生き方が切なくて、そして御所内の愛憎・策略のそのストーリーが実に時代背景にマッチして、いつの間にか期待して待つほどの作品になりました。
そして、、、このラスト!!
何度読んでも涙があふれてきます。
彼のそのとうとう折れることのなかったプライド。
いや、そういう形でしか生きることができなかった哀しさが。
狡猾な男と憎しみを抱いた男の不器用なすれ違い愛?
陽のあたる道を堂々と歩く男と、夜の月明りの下を歩く男?
太陽と月のような二人の男の対比と言えばいいのでしょうか?
うまく言葉にできないのですが、思い切り心を鷲掴みにする作品です。
一点、注意するならば若干バッドエンド気味ですので・・・

見目の綺麗な高前は近衛中将の従者であり、寵愛を受ける者として側にあるのだが、高前の評判に院近臣たちからも目をとめられ院の寵愛を受けるように。知らぬは中将ばかりなり。
そして中将は地方の国司に任命され、高前は北面の武士としてとりたてられることに。
ここから高前を巡る、朝廷内の愛憎劇が始まるのです。

権力欲に囚われた成りあがり物語だったらとても簡単だったでしょう。
しかし、高前がここから先、有力公卿達と関係し、上皇の寵愛を受けてはいても、それ以上身分が上がることはないのです。
誰もが高前を欲しているのに、上皇から愛を受けているはずだと思われるのに、彼は決して「愛」を返しません。
まるで何も望んでいないかのように。
しかし、自分を貶めようとする策略には敏感にその相手に対しまるで呪詛返しの如くに相手を落としていきます。
そんな彼の前に、公卿の家柄ながら自ら望んで武士になった智実が現れます。
彼だけは、他の男とは違う。
送られてくる文も無視し、彼の好意を不快に思い、しかし多分に意識しまくっている。
その感情は高前でさえ気がつかない知らなかったモノなのかもしれません。
自分が不愉快にさせた相手からの罠を避けるのに、彼と親しくしている乳兄弟の峯良を使った為に起きた事件。

上皇は高前を「犬」と呼びました。
人になれないという意味でしょうか?
媚びて牙を剥くということでしょうか?
汚い言い方をすれば”犬畜生”にも劣るということでしょうか?
懐いて甘えればかわいかったものを、愛情を返せばまだ温情もあったものを。
全て高前が受けてきた一時でもきっと本気もあったであろう愛情は、高前にとってなんだったのでしょうか?
彼は何が欲しかったのだろう?

切なくて哀しいです。
決して側に近付けず、戸越しで見る桜。
高前は何を思っていたのだろうか。
高前の心は語られぬまま最後を迎えます。
読者に、ああだろうか?こうだろうか?さまざまな感情を考えてあてはめて、高前に移入していく自分という作業が、この物語の高揚感を更に盛りたてます。
解りやすいようで、解りにくい、でも、何となく解るような気がする。
全てを理解できなくても、この最後にとてもとても感動を覚えるのです。

余談:作者様あとがきにおいてあの悪左府(頼長)をイメージしたようなことが書かれていましたが、ちょっぴり彼と高前を重ねながら読んでもいいのかも?

15

感情移入せずとも胸を抉る物語ってあるんだな、と。

心が苦しいです…
間はどうにせよ、最終的には
ハッピーエンドと言えるBLばかりを読んできたため、
この幕の閉じ方は泣くしかできなかった…


自らの見目麗しさを武器に
成り上がる主人公高前。
身分の高さゆえ色や才を武器にせずとも
全て手に入れられる智実。

智実はただ「智実である」というだけで、
高前の触れてほしくないところを
刺激してしまうような存在だった。
ただ、高前のやり方は冷たく卑劣で、
美しいから許されるのか、と思うと余計に切ない。


1・2話あたり、作者様迷っていらしたのですね。
1話目で登場する高前の主・敦満が、
またどっかで出てくんじゃないかとか
途中まで思ってしまいました。
しかし読み進めるうちに、
智実との関係に息を呑み引き込まれてしまって
そして読んで泣いた後にまた敦満を思い出しました。
敦満の高前への愛情が真っ直ぐだったように思えたから、
そのままだったのはちょっと残念だったのが本音。
だけど、最初の主を自ら裏切った高前の行為が
枷の様に高前自身にまとわりつき、
主を持たない一生を送らせたのだと思うと
これでいいのか…とも思えた。

そう思うと2話目の「雅楽師の恋」で、
高前がふたりを許したのは、
無自覚のうちに真実の愛を求め、
ふたりを羨ましく思ったからじゃないのかな、と
も思えるのです。


一度だけ、智実の言葉を受けて
心からほほ笑む高前の顔が忘れられません。

そして智実の言葉、
「私だけを恨み 思いつづけ 果てろ」。
怨念とも、呪いとも、執着ともとれる、
この台詞は胸というか首まで締め付けてくるかのようでした。

毎年姿を合わさずとも、
高前は智実の来訪を喜んでいたのだろうと思う。
存在がすぐ近くにあるということに。
結ばれなかった二人は天の上で、
或いは他の世に転生をして、
次こそは一緒にいられるだろうかと願ってやまない。

描き下ろしの2ページ。
呪いは自分に跳ね返るとかよく言う。
智実もそうだったのではないかと思える。
智実も高前を思い続けて果てたのだと。
そして百助が高前のその後に、
智実に仕えていたことがじわりと胸に来ました。


全編通して高前のやり方にはぞっとするし、
感情移入もしにくい。
智実の素直さも育ちの良さ故かと思うと
少し反感を持ったりもする。
でも、終始、物語に惹かれてやみませんでした。
キャラに感情移入が出来なくても、
こんなに胸を突く物語ってあるんだなぁと。

私は普段歴史ものに興味はないのですが
これは純粋に良い作品だと思えました。
勿論、歴史もの好きな方にはおすすめですが、
そうではない方も読みにくさはないと思う。
ただ、バッドエンドの香りがあるので、
万人にはおすすめしません。
切なく泣ける話に魅かれる方には
読んでみてほしいと思います。


ドロリとした美しい物語。
表紙絵も装丁も、とても美しい。
on BLUEの装丁は素敵なものがとても多い。

14

華とは

万人受けするかどうかは疑問です、が、私は読後にため息が出ました。たまりません。
舞台は平安、華やかな世界です。時折出てくる、知らない言葉には必ず説明がコマ外に書かれているので、平安時代の詳細を知らなくても大丈夫です。
やんごとなき世界、のはずなのにきっとこれくらいどろどろとしていたのでしょう。華やかな世界の裏側は、その反動がさぞ大きいものだったと思います。

主人公である高前の気持ちはいつも冷めています。すごく、さみしいくらいに。
いち読者である私は、結局最後まで高前に共感することはできませんでした。でも、すばらしかった。普通は、登場人物に共感するからこそ、物語に没入し、世界を羨ましく思ったり妬ましく思ったり純粋に楽しんだりするのですが、この話に限ってはそうでなくとも十分満足しました。
がっつりしたエロはほぼありません。そういうのを求めてはいけません。
またすべて読み終わったあと、ふと「ところで結局敦満のことはもう良いのかな?」と思う時があると思います。模索していたのがカバー下で判明しました(笑)
あとストレートに言いますと、ずば抜けて絵が巧いわけでもありません。さらりとしています。表紙は淡く美しいので、そういう甘いものを想像して手に取ると、真逆でがっかりするかもしれません。でも、そんなことなにもかも飛び越えてしまうほど狂おしいものが胸に溢れました。

高前は素直ではありません。したたかです。決して「良い」身分の出ではないので、階級社会であった平安の世、しかも貴族のなかでは生きるに難しかっただろう、という前提での話です。だからこそ、自身の武器である「万人を惹きつけるほど美しいすがた、かたち」をフルに使います。
その高前のひとつひとつの表情を見ると、なんとも言えない気持ちになります。すこし苦しそうなとき、すこし嬉しそうなとき、明らかな策略で作った顔でないときの、確かに人を惹きつける仕草がこちらにも十分に伝わってきました。

中盤以降、高前は智実という貴族の御曹司に出会います。高前は月、智実は太陽。
この比喩が終盤でぐんぐん効いてきます。ただ静かに静かに、誰に疎まれようが恨み言を囁かれようが熱く反論することなくするりと躱していた高前。その高前にぐいぐい近寄って文をしたためつづけた智実。ふたりを裂いたのは智実の友人の死。
それでも、それであっても高前の心に深く刻みこませた智実。たった一度きりの夜は、純粋な愛だけではなく、忌まわしさと悩ましさと抗えぬほどの情念の夜。
なんとも言えません。考えれば考えるほど苦しくてたまりませんでした。

全編通して、高前の瞳が印象に残っています。強烈に。
だれかを見つめる目、智実を見つめる目、諦めたような目、悲しんでいる目。どれもどこか憂いに満ちていて、手に入れることを諦めていて、哀しさを感じました。
智実が桜の木の下で言った、「私だけを恨み 思いつづけ 果てろ」 これがまさにすべてです。
あと、最後の最後、2Pの描きおろし、これで涙腺壊れました。

13

美しい犬の一生

デビュー作、なのでしょうか? 素晴らしいと思います。
本誌で4話目くらいから興味を持ち、早くコミックスにならないかなと楽しみ
に待ってました!

平安情緒がふんだんに出ています。平安好き(笑)には堪らないんではないでしょうか?
 
高前の人を惑わす雰囲気と美しさと言動に幾人もが惑わされ、まるで美しい月のようだと言われ乞われる高前。けれど身分の問題や嫉妬で、侮蔑や畏怖の視線も集めます。
そんな状況下におかれる高前は誰にでも簡単に体を許すが誰も信じない、目的の為に何でもする ある種冷酷な男です。

そんな中で出会うのが貴族の智実。
周りの人間とは違うと感じ、体ではなく心を恋われたと感じます。
けれど同時に、智実は自分とは正反対の人間で自分が欲しているものを全て持っているとも感じ反発します。

2人の関係が崩れるある事件がおこり、高前は智実の「犬」となる…。

高前が一の姫に言った言葉は、自分を重ねていたように感じます。
切ない終わりかもしれませんが、高前は晩年少しずつ「人間」に戻って
いったようにも思います。

高前意外に「雅楽師の恋」も収録。こちらは純粋な愛を感じます(笑)
個人的に千里のルックスも好きなのでもうちょい見たかった~。

10

これぞ平安時代のBL

新刊チェックで初めて知り、あらすじを読んで平安時代ということで、
これは ぜひ読んでみたいと思い、特典ペーパー付きのお店で購入しました。


詳しい内容や感想は、敢えて書かないことにしました。

受けの高前さんと攻めの智実さんが結局、結ばれることが無かったので、
出来れば この作品のような結末は あまり見たくありませんでしたが、
それでも最後のお話、特に最後の2ページで涙が出ました。

作品の最初に登場した、高前さんを支えていた敦満さんの、
高前さんへの想いに対して、結局は踏み台にされたような敦満さんの
処遇が何とも遣り切れない思いでいっぱいです。


今回の評価は「萌×2」と「神」で迷いました。

絵は好感が持てて安定していて、不快に感じる部分が一つも無かったです。

作中の言葉遣いも、当時の言葉で統一されており、当時の用語などで
注釈を確認しながらでないと理解が難しい場面が何度かあり、
理解しながら読むには少し時間がかかってしまいましたが、
何より現代語が混ざっていなかったのが好(高)評価です。
平安時代の世界観が伝わってきて、とても良かったです。

その他、物語の展開や人物設定など、幾つか気になる点はありますが、
最後のお話、特に最後の2ページで、気になる点が全く気にならなくなりました。

読み終えて、「そうそう、こういう平安時代のBLが読みたかったんだ」と
あらためて思いました。

時代物のBLに求めていた理想的な歴史モノBLに最も近いということで、
今回は最終的に「神」評価にしました。

8

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