SS付き電子限定版
繊細な心情描写と深いストーリー性で読ませてくれる、初恋再会ものになります。
こちら、序盤の印象ですが、ちょっぴりほろ苦くて甘くて優しい、初恋成就ものでしか無かったんですよね。
萌えるけど、定番だよなぁと。
が、読み進めると、その深いストーリー性に唸らされる事となる。
こう、思いがけない真実に、かなり切ない思いをさせられると言うか。
面倒くさい受けだなぁと思ってたら、彼の背負っていたもののあまりの重さと、その生き方に、心を強く打たれると言うか。
切ない。
めちゃくちゃ切ない。
13年と言う歳月を、彼はどんな想いで生きてきたのかと思うと、胸が潰れそうですよ。
ただその分、ラストでは深く感動なんですけど。
あと、こちら、棋界が舞台となります。
個人的な萌え属性に、棋士と言うのがございまして。
その点でも、大変楽しく読ませていただきました。
迫力満点の対局シーンも、ぜひご注目いただきたい。
内容ですが、元同級生の何でも屋・大須賀×期待の若手棋士・雪による、初恋再会ものです。
何でも屋で社員として一人前になるべく、修行中の大須賀。
生活能力ゼロの若手棋士・灰谷の身の回りの世話を請け負うんですね。
実は小学生の時に友達だったものの、それぞれの事情から別れたきりになってしまった二人。
再会した雪に惹かれてゆく大須賀ですが、何故か彼からは頑なに想いを拒否されてー・・・と言うものです。
まずこちら、小学生時の二人ですが、明るく元気なスポーツ少年と喘息持ちで身体の弱い引っ込み思案の同級生になります。
大須賀が骨折した事から一緒に体育を見学するようになり、そこで親しくなっていった。
その後、シングルマザーである母親が事故で亡くなり、大須賀は転校。
そして、交流が無くなったまま、13年後に何でも屋と若手棋士として再会したー。
雪ですが、こう天才と何とやらは紙一重を地でゆく青年でして。
棋譜の研究を始めると、食事すら忘れて没頭しちゃうんですね。
で、生活能力が皆無。
元々面倒見のよい大須賀が、そんな彼の世話を細々と焼く描写が丁寧に綴られ、なんとも萌えさせてくれるんですね。
いや、こういう関係って大好きでして。
で、元々雪に対して特別な想いを抱いていた大須賀ですが、何と雪も自分をずっと好きだった事が分かる。
そこで想いを伝えて付き合って欲しいと告げますが、何故か雪からは「敦也くんは、ぼくを好きになってはいけない」と、頑なに拒絶されてしまい・・・と言う流れです。
互いに好意を抱きながらも、何故これほどまでに雪は大須賀の想いを拒むのか。
そして、離れていた13年の間に、二人に起こったそれぞれの出来事とはー?
と言うのが、作品のキモになるんじゃないでしょうか。
これ、雪の背負っていたものですが、想像以上に重くてかなり切ないんですよね。
また、彼が鬼気迫るようにして、将棋に打ち込んできた理由。
彼にとって将棋が、大須賀と自分を繋ぐ唯一ものなんですよね。
彼との繋がりを持ち続けたい、そして、彼に語った夢を叶えたい。
後生大事に大須賀との思い出を抱えながら、13年もかけて立ち直った。
彼のこれまでを思うと、もう胸が潰れそうな心地で(TдT)
いや、切なーーー!!
また、大須賀は大須賀で、実は人生の岐路に立ってるんですよね。
二人が再会した事により、それぞれの人生が動き出すと言う結末が、とても素敵で。
ついでに、そんな二人の周囲の人達が、皆とてもあたたかいのです。
人って、周りから支えられて生きてるんだなぁ。
とても優しいお話でもあるんですよね。
ところでこちら、主人公が棋士である事から、将棋にかなりページが割かれています。
迫力ある対局シーンに、棋士のリアルな世界と、とても読み応えがあるんじゃないでしょうか。
また、将棋に恋愛が絡めてあるのも面白くて。
雪は受け将棋なんですよね。(そういう戦型の事)
それに例えて、「闇雲に手を伸ばしても翻弄されるばかりで、彼の王(ハート)には届かない」的に大須賀が考えたりするのが楽しいなぁと。
と、とにかく読み応えがあって面白い作品でした。
読み終えた今は、タイトルまで感慨深いものがあります。
家事全般得意な青年が生活能力ゼロのプロ棋士のお世話をすることから始まる物語、のはずが、物語はもっとずっと前から始まっていて、そこにはいくつもの思いが絡まっていて、登場人物全員の温かくて真っ直ぐな思いに読んでいる間はずっと泣いていた気がします。
華奢で繊細で「雪」という名から連想されるイメージをほとんど裏切らない儚さを持つ受けが、それでも棋士を痛感させる負けん気の強さで決して弱弱しく守られるだけの存在ではないことがすごくよくて、自分の存在を証明するために指す将棋はまさに彼の命そのもののように見えました。
こんなに、命の全部を賭けて「ここにいるよ」と伝えるために将棋を指されたら、一生好きになっちゃうよね......
割と早い段階で受けが攻めの気持ちを受け入れられない理由に察しがつくのが残念ですが、推理ものではありませんし、受けの悲痛な思いにやっぱり泣いたので問題はありません。
幼いころに何気なくもらったものが宝物になって、それをあげた方は忘れてしまっていても、もらった人は永遠に心のよりどころになる。いいよね......こういうの......
大丈夫と強がってしまう受けを「大丈夫じゃないでしょ」とおぶってくれる攻めがいる世界でよかった。
今まで尾上先生作品は時代背景とかあらすじで読んでて痛そうだなと思ってずっと避けていたんです。
でも「キャラ文庫アンソロジー3 瑠璃」でこちらの番外編を読んで、とても惹かれたのでフェア対象作品で評価も高かったので購入しました。
将棋に関しては一切知識が無かったですが、用語を知らなくても関係ないくらい面白くて雪の対局を緊迫感を持って読みました。
それから雪の抱えていた過去を知ってとても苦しかったです。
初恋の人のお母さんを助けられなかったとずっと苦しみ続けていたなんて、それも小学生の時ならどんなに辛かったことか!
大人達がどんなに頑張っても助けられなかった事実とか、雪は悪くなかったと言い尽くしても苦しみは続いていたんですよね…
敦也と再会したを喜びながらも辛く感じていた事を知り更に涙でした。棋士としての雪の覚悟と矜持は凄まじいと思いました。
そしてそんな雪を側で見ていた敦也が再び窯元で修行出来るように気持ちが変化したのも素晴らしかったです。
最後の最後に結ばれたから甘さは極端に少ないけれど、そんなの関係ないくらいに読ませる作品だったと思いました。
ただ最後に救済があったものの、窯元の師匠がお見合いを薦めた陽菜が人を使って調べて雪の家の前に現れたのはホラーでかなり怖かったです。敦也が一言も受け入れて無くてあれだけ拒否られてたら、いくら古い価値観のところで育ったとはいえ友人とかに話したら絶対に陽菜がおかしいって言われると思うんですが…。
敦也の婚約者だとか結婚しようと言った時は恐怖を感じてしまいました。
窯元の師匠に謝りに行った際に一言も触れられていませんでしたが、敦也が追い詰められて逃げた理由の一端ではあったのですから師匠から一言欲しかったです。
幼馴染みが偶然再会するお話。
小学生のころから将棋一筋で、年若くしてプロ棋士になった灰谷雪。
九州から上京して何でも屋で働いている大須賀。
二人は小学生の頃、一時期仲良くしていたが、大須賀の母が事故死したことで、ちゃんと別れを告げないままはなれてしまいます。
ある日大須賀が、ハウスキーパーとして仕事に行った先は灰谷の家で、そこは惨憺たる状態で、、、。
生活のすべてを将棋に捧げてきた灰谷が、13年間、唯一無二の初恋の相手と心の支えにしていた大須賀と再会して、恋が成就するのかなと思いきや、お話は簡単には終わらない。
将棋の対局も、簡単には終わらない。
べったり一緒にいなくても、各々、自分の進むべき道がしっかりあるのできっと二人は大丈夫。
セルフツッコミ
灰谷のイメージって、某将棋漫画のキャラクターが思い起こされたりするような、しないような、
私自身も将棋はよくわからないけど、将棋アニメや原作マンガはずっと見てきているので、そのあたりを踏まえているといいと思うよ。
プロ将士って過酷なんですね。
将士って頭が壮絶に良い人、というイメージしかなかった私だけど、受けの命を削るかのように将棋を指す姿は壮絶で圧倒されました。
「初恋」という言葉から、何となく甘酸っぱいものを想像していたのだけど、思っていたよりも壮絶な覚悟が込められた「初恋」だったなぁ……というのが読後の印象。
初恋の思い出そのものは、小学生時代ということもあり実にたわいのないエピソードなんだけど、初恋の記憶が「受けの心の支え」なんてなまっちょろいものではなく、根幹のようになっていた。
初恋の相手である攻めと再会して、明らかに両思いなのに、きっぱりと縁を断とうとする受け。
何故?やっぱり天才の思考回路は凡人にはわからんわー……と思いながら読み進めていたら、その理由、そして背負っていたものが想像よりも重い。
「ぼくには将棋しかない(比喩ではなく本当に)」という受けの将棋への原動力が、攻めへの気持ちであり、攻めと自分を結びつけているもの。
その気持ち、思いの強さといったら半端なくて、胸アツ。
記憶に残るキャラだなぁって思います。
喘息持ちで体は弱いけれど、根性はバケモノ級で、わりと頑丈な性格。
でもそうじゃないとプロ将士になんてなれないんだなというのが、この本を読んでて良くわかった。
本当に狭き門なんだなというのはNHKのねほりんぱほりん「プロになれなかった元奨励会員」というのを見て、ほぉ〜!なんて思ってたけど、ほんとソレ。
将棋は全く解らない、知らない私でも面白く読めたけど、少しでも知っていたらもっと楽しく読めたんだろうなぁという感はあります。
というのも、ちょい錯乱しかけた受けを心配する攻めに「見てて、敦也くん」「僕はずっと、将棋を指してきたんだ」と言って、(ここカッコよくて痺れた)対局に向かうのだけど、ここの描写が手に汗を握る系なんですね。
将棋はちっともわからない私でも、たった一人で戦に臨む受けの孤高さに痺れるのだけど、「桂馬?銀って何?」な私には、戦いの流れや意味が判らなくて、もどかしい思いがしました…。
どうしてもこの受けに比べると、攻めの印象が薄くなってしまうのは仕方ないかなぁ……。
成就後、いちゃいちゃ同棲生活になるのかなぁ?過酷な勝負師の受け&お気楽生活な攻めというのは何か嫌……と思っていたので、遠距離になるけれどもお互いの道を進むという選択をした最後が良かったです。
「やりなおし」「再生」というキーワードが最後に繋がっていて、とても良かったと思う。