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痛い水原とほる節満載の一冊でした。作者の入魂っぷりが伝わってきます。「凌辱BLの大河ドラマ」みたいなコピーをつけたくなりました。
まず登場するのが、養子の(実は売られてきた)若い受けに執着するキモキモのヒヒジジイです。こいつがまじでキモいのだ。糖尿病で勃起しないんだけど、受けをネチネチといたぶるの。一人エッチさせたり、オモチャ突っ込んで遊んだり。『オエッ!キモいんじゃ、早ょ死ね耄碌ジジイめ』と思いつつ読んでたら、本当に死にましたw
で、ここからが本当の愛憎劇のスタートです。長い長い三角関係がはじまります。
まず、ヒヒジジイの息子(攻め)。ヒヒジジイから受けを譲りうけ、最初は純粋な憎しみから受けを凌辱する。けれどそれはいつか、愛情へと変わっていく。葛藤し、執着し、なぶりいたぶり、それでも美しさを損なわない受けに惹かれていくのを止められない。彼のセックスはスーパー鬼畜です。
それからもう一人、優しさに溢れる植木屋の攻めとの、人目を忍ぶはかない恋。こっちの攻めは男気と優しさの塊です。主人公の受けは、彼によって癒されるんだけど、二人はまるでロミオとジュリエット。セックスも安らぎと愛に満ちあふれてます。で、ある日二人は駆け落ちする――。
この何年にも渡る愛憎劇の結末のつけかたも、見事でした。
痛かったけど、かなり面白かったです。
ちなみに私、これで、水原とほるさんの既刊本をすべてレビューしたことになります(2009年5月16日現在)。なので、2009/5/16までに発行された本の中から、私的オススメ本をランキング形式で書いておきます。
一位『異父兄のいる庭』
近親相姦が苦手じゃないなら是非。
二位『唐梅のつばら』
今レビューしてる本。
三位『夏陰』『箍冬』
ザ・水原とほるワールド。
四位『ただ、優しくしたいだけ』
私好みの悪い攻めが主役です。
五位『徒花』
最低な性格の攻めに無茶苦茶にされつつも、明るさを失わない受けの性格がイイ。
感想としては萌x2ですが、この作品の存在それ自体が「神」といえる。だから迷ったけど、神。
キーワードは、借金のカタに買われた美少年、ショタ、ヤクザ、調教、近親(義理)、初恋、ロミジュリ、記憶喪失。
主人公の少年初乃の境遇は不幸そのもの。13才で親の借金のためにヤクザ組長の養子になる。養子といっても結局は慰み者の初乃。ショタ残酷物語です。
第1章ではそんな爛れた生活を送る初乃が、自宅豪邸の庭を手入れする庭師の弟子将大に出会い、惹かれる様を描きます。たわいもない映画デートを見つけられ、世話役が小指を詰め、将大の目の前で縛られ陵辱される初乃の姿。
庭の散歩すら禁じられた初乃が部屋で読書していると、窓を叩く音が。あんな姿を見ても『俺さ、おまえのことが好きだ。』と髪に口づける将大。
ここから将大と初乃の愛の歴史が始まるのです。
第2章は、義父の死後やっと解放されると思っていたのに、今度は義父の実子悦司が初乃を嬲る!『親父が死んだ今、おまえの血と肉も俺のものだ』
実は義父は不能だったため実際には処女だった初乃は、初めて生身の男悦司に抱かれる。そんな中、あの将大が屋敷に組の構成員として下働きにやってくる…初乃のそばにいるために。
この章は悦司の息詰まるような執着心と、将大へのはちきれそうな恋心、そこから生まれてくる本当の自立心と勇気が描かれます。そして映画のような急展開…
第3章。ひとときの幸せ。悲劇、そしてまた不幸。それでも一度は恋の中で生きた初乃は、過去の初乃とはもう違うのです。
最終章。この愛憎の大河ドラマ、あるいは貫き通す初恋の物語の終章。これはきっとハッピーエンドのはず。そしてもう一人の主人公、悦司の一生をもう一度考えたくなります。
表紙・挿絵は「平成耽美主義」の鬼才、「現代の浮世絵師」ともいわれる山本タカト氏。唯一無二の絵力でこの一冊が装丁も中身も丸ごと、正に「芸術」的な書物となったと思います。
まず、装丁にビックリしてください。
山本タカトさんという画家さんの版画のような繊細な挿絵、文学小説のような装丁に、文章・世界は現代なのに谷崎潤一郎のようです。
耐え忍ぶ受けに、俺様まっしぐらな鬼畜な攻めが持ち味の水原原作品に於いても、BL小説に於いてもこれは間違いなく神です。
13歳の時、病気で不能のヤクザの親分宅に、慰みものの愛人として買われてきた初乃。
自分の存在をあきらめながらも、偶然出会った庭師の将大に楽しい若者の生活を教えられてお互いに惹かれていく。
しかし、それは初乃には許されないこと。
無理矢理離れ離れにさせられ、養父が亡くなってからは初乃を嫌う義兄の悦司に抱かれるようになり、また組の手駒のオンナとして扱われる生活を強いられる。
しかし、そこへ組員として将大がやってくる。
一目を忍んでお互いを確かめ合うも、再び引き裂かれる二人。
義兄は、初乃をただ嫌うだけでなく自分でも抱くようになり、初乃のいじらしさに知らない間に惹かれていたようであるが、初乃をひどく扱う。
そして期を狙い駆け落ちをする初乃と将太。
二人の逃避行は成功したかに見えたが、組の執拗な追手は迫り・・・
義兄の悦司の気持ちが最後の遺言になって出てくるあたりはもう涙にむせびます。
身は汚れても一途な純愛を貫こうとする初乃と、将太の姿はもちろんのこと、思いがけない結末に、最後までハラハラし、それは感動を呼びます。
初乃は凛として咲く一輪の野の花のように、踏まれても踏まれても立ち上がり、囲い者としての生活を送ってはいても自分の意志をできる範囲で実現しようとする、必死な一途さを見せます。
決して男に依存して頼り切る、弱い人間ではないところが好感が持てます。
読んだ後に満足感と、水原世界の真骨頂を見せられた感にしばらく打ちのめされました。
是非のお勧めの一冊です。
初読み作家さんです。
BLではあまり見かけない、何とも言えない耽美な絵柄と表紙に惹かれて購入すること早ウン年……。
表紙の手触りも少し変わっていて、眺めては温めてと繰り返していると、あっという間に10年近く経ってました。
いや、2段組といい厚みといい挿絵といい、何だかちょっと読むのを躊躇うような濃厚さが漂ってたので、これは気合い入れて臨まなきゃ!と思ってたもので。
そんなわけで、漸く読んだ感想としましては、とても良かった。
10年温めた割には月並みな感想になってしまいますが、だって本当に良かったとしか言えないんですもの。
借金のかたに極道の家の男妾として養子になった初乃と、その家の実子との確執。
出入りの植木職人との出会い。
自分を囲った養父との死別に、そこから繰り広げられる昼ドラも真っ青なドロドロの愛憎劇……。
全体的に退廃的な空気に満ちていて、静かにストーリーは進むんですが、内容はもうハードそのもの。
温度感のない文体が淡々と初乃の悲惨すぎる境遇をこれでもか、これでもかとばかりに書き抉り、10年以上にも及ぶ初乃と攻である将大との純愛を壮大なスケールで魅せてくれました。
三角関係とはちょっと違いますが、義兄の執着なども凄まじく、この人のキャラがもの凄く立っていて将大の存在が霞む状態。
初乃の性格がじめじめしていた上に、文章の醸し出す雰囲気がどんよりしていたので、序盤は結構読むのがしんどかったのですが、初乃が将大と生きていく覚悟を決め、籠から逃げ出したあたりからはページを捲る手が止まらない!
先が気になって気になって、見つからないで捕まらないでと手に汗を握りながらの展開がもう凄くドラマチックでした。
そうやって手に入れた、本当にささやかな幸せも長くは続かず、再び籠の鳥になってしまった初乃がたまらなかったのですが、そこからがもう神展開。
義兄の手紙に初乃と一緒になって嗚咽し、最後の最後に漸く見えてきた明るい未来に心の底からほっとします。
幸せたっぷりなハッピーエンドではなかったけれど、それでも長い冬をじっと耐え、春を知らせる蝋梅のような生き方をした初乃を、最後の方では愛しく思えて仕方がなくなってきてます。
そして挿絵のクオリティも半端ない。
好き嫌いは分かれる絵柄ですが、この作品はこの絵だからこそ良かったと思うくらい嵌ってます。
その辺を考えると、あの表紙の豪華さの意味も分かるような気がします。
こういうお話、というかジャンルの名前って何だったっけ?とウロウロ考えて思い出した単語が「飼育」でした。十代前半で特殊な環境に囚われてしまい、家族の安全を盾にとられ、年齢的にも対処を見いだせなかった主人公を思うと、弱者の陥る哀しさを思わずにいられません。
この本は2段組みで文字量が多いにもかかわらず、先を焦るほどにぐいぐいと読みました。とにかく先が知りたくて飛ばし読みをするほどに引き込まれました。あの部分をもう一度確認したい・・・と再度手にしたら、また最初から最後まで読んでしまいます。何度も繰り返しました。それくらいに面白いおはなしでした。
主人公である初乃は、父親が家業のために借りた金を返す代わりに13歳で広域指定暴力団組長の養子として作中人生の半分以上、実に16年間を軟禁状態と望まぬ虐待に苛めながら過ごさねばならなくなった儚げな美貌を持つ少年です。文中の説明の中では、この初乃の容姿を特別に描写してはいませんが、登場人物によると妖しいほどに映るようです。主人公の容姿と同様に作者はけして多くを説明分に書いてはいません。けれど登場人物の多くはないセリフから人物の心情がにじみ出て物語がまとめられています。
初乃が心を寄せる相手は植木職人として知り合い、その後に初乃の近くにいたいがためにヤクザとなった男、将大。この将大はヤクザですが悪い面は一切描かれず、初乃を呪縛から解放するという夢の象徴。
もうひとり、主人公に執着するのは暴力団二代目の悦司。悦司は初乃を借金のカタに養子として手に入れ自分の変態的な欲求の捌け口として嬲り者とした初代組長の実の息子です。悦司は父親以上に初乃を虐待し利用します。大部分の話はこの悦司に拘束される生活のなかで紡がれるためか、主人公に冷酷に暴力的にあたる悦司について多く語られていて、悦司というニヒルな人間が主人公に次ぐ重要な登場人物として魅力的に描かれています。(外見や役柄をイメージするなら豊川悦司でしょう)
関東の大手暴力団の屋敷、初代組長と悦司の和服好み、日本庭園の植木職人というモチーフからレトロな雰囲気が作中に濃く漂います(が、昔の話ではありません)。この作家さんの「異母兄のいる庭」と「義を継ぐ者」と似た文体と雰囲気がありますが、その系統の頂点に立つ名作です。
特筆すべきは作品自体を高める、山本タカト氏が描かれる耽美な挿絵。
私としては時代小説を含む大衆小説のなかでも秀作に位置付ける作品だと思います。