イラスト付き
笠井画伯の淫靡な表紙絵のインパクトは、衝撃大です。
そしてタイトルの「淫具」も凄い。でも、中身はちっとも淫らじゃない。
「淫夢」に続く、才と愛の推理話。
故人の恋人が誰なのかを伏せて、遺された人を救う嘘の話。
心臓が悪かった夏樹の兄が孤独死。
仏国から帰国して、たった一人の肉親・兄を失い、兄との関わり方を後悔する。
兄の事を知らな過ぎて、葬儀にも戸惑う。
夏樹は、才に生前の兄の動画について相談に行く。
(表紙絵にも描かれているし、兄の片想いの相手が誰が、冒頭から解っちゃう)
・・だから、どんでん返しは、表紙で無効になってます。
才と愛の推理の通りなら、優しい冬樹は、病弱故に人並の幸せを諦めていた
それでも、想い人の選択に何度も賭けて問いかける。
「自分を(冬樹)を選んで」と言えなかった時点で、全てを諦めたのだと分かると
結末のエピローグの「祈り」が哀しくなって、涙してしまった。
冬樹が言えなかった本音を、動画を解析した才が気づいたけれど、
真実を伝えても誰も幸せになれない、と事実を伏せて夫々に説く場面も切なかった。
愁堂作品の『淫夢』のスピンオフ作品。『淫夢』で登場した、ミステリアスなお金持ち・神野才が登場するお話です。
才は今作品の重要な立ち位置にいる男性ではありますが、あくまでサポート的な立場にいる人物なので前作未読でも問題なし。ただ、彼がどんな人物なのかは前作を読んでいた方が分かりやすくストーリーに入り込みやすいかもしれません。
ということでレビューを。
ストーリーはすでに書いてくださっているので感想を。
笠井さんの挿絵目当てで購入した作品。
が。
めっちゃ面白かった…。
今作品の主人公は商社に勤める夏樹。
兄・冬樹を亡くし、哀しみの底にいる彼を中学生の時からの親友である東雲がなにくれとなくサポートしてくれて。
実は東雲は、ずっと夏樹のことが好きだった―。
というお話ではあるのですが、今作品は東雲×夏樹の恋の成就のお話ではありません。
冬樹の遺品を整理していた夏樹は、冬樹が写った動画を見つけてしまう。その動画には夏樹が知らない、兄の姿が収められていた。淫具でみだらな姿をさらす、冬樹の姿が。
この動画を取った人物がいるはず。
そう確信した夏樹が、その人物を探そうとする謎解きのストーリーです。
正直、読み始めたとき、兄ちゃんのそんな動画は見て見ぬふりをしてあげればいいのになー。なんて思ってたんですよね。読後も、その思いは変わりません。ぶっちゃけて言ってしまうと、今作品は「誰が兄ちゃんの淫らな姿を撮ったのか」というところを軸にしたストーリーでしかないんです。
ないんですが。
この作品の主人公はあくまで東雲×夏樹。
が、この二人の恋の成就を通して見えてくるものは彼らの恋愛模様ではありません。
冬樹の、切なく、一途な恋のお話なんです。
そのストーリー展開が、実に秀逸。
冬樹を主人公にせず夏樹を主人公にすることで、謎解きの側面を持たせ、話の結末が一体どうなるのか、読者を一気にこの作品の持つ世界観に引きずり込む。
前作『淫夢』は、主人公が刑事だったこともあり謎解き、あるいはミステリーの要素が盛りだくさんでしたが、今作品はミステリーの要素は皆無。皆無ですが、最後のオチにすべて持っていかれました。
笠井さんの描かれた表紙、そしてタイトル。
一見エロ度の高いストーリーを思い浮かべますが、紛れもなく純愛を描いた作品でした。
最後の最後まで、冬樹が報われることはない。
プロローグ、そしてエピローグ。
これがまた、なんとも言えない冬樹の想いを現していて切なくなります。
そんな冬樹を差し置く形で夏樹と東雲が幸せになることに若干納得できない思いを覚えつつ、けれど非常に面白く読みごたえがある一冊でした。
特筆すべきは「才」という人物の描き方でしょうか。
非常に個性豊かで強烈な存在感を放つ人物でありながら、彼は「恋愛」という側面では完全に蚊帳の外にいます。が、彼がいなければ、今作品は成り立たない。
彼が恋愛というベクトルから外れているがゆえに、今シリーズはこれからいくらでもスピンオフ作品ができそうなのも良し。
ということで、続編を正座してお待ちしています。
『淫夢』のスピンオフ。
前作も好きだったのですが、私はこっちの方がもっと好きかも。
ロアルド・ダールの本とかが好きな方なら好きだと思うんですよねぇ。もしくは『世にも奇妙な物語』とかお好きな方も良いんじゃないかと(うーん……ちょっと違うかな)。
ネタバレしちゃうとこの本を読む喜びが大幅に減ってしまうので、察しの良い方はこの先を読まずに本を読んで欲しいのですよ。出来るだけネタに触れずに書くつもりですが念のため。
私としては『お薦めの一冊』なんですけれどねぇ……
ただ、このお話、好き嫌いが極端に分かれる様に思うんですよ。
少なくとも読んで癒されるお話ではないのよね。
かと言ってメリバとも違う。
お話のラストに辿り着いた時、
「おおーっ」ってなった後、ちょっとばかり負の感情を持つ様な本。
でも、それがいいんですよ。
日本語としておかしいけど『いい感じの不快感』なんですよ。
私、この手のお話は『性愛怖いジャンル』に入れているんですね。例えば『八百屋お七』とか『安珍清姫(娘道成寺)』なんかも、そのジャンルに入っちゃう感じ。
恋から鬼が生まれるんです。
最初から魑魅魍魎なんじゃないの。
恋によって生まれ、育つものだから、とても美しいし、かなり悲しいんです。
でも、ものすごく怖い。
読後、色々考えました。
いやホントに怖い。
この手のお話、お好きな方はすごく好きだと思うんですよね。
察した方は是非お手に取ってくださいまし。
愁堂れな先生初読みです。
笠井あゆみ先生のイラストが大好きなので、こちらをチョイス。
淫夢も買ってあるのに、スピンオフのコチラが目についたので先に読んでしまいました。
タイトル通り、大人のおもちゃがキーワードなお話です。なんだか推理小説の様な趣きでシリアスなのですが、いかんせん主題がおとぼけです。
たった1人の肉親、離れて暮らしていた2歳年上の病弱な兄が急死。
残された主人公は、家の権利書や書類を探している最中にクローゼットからビデオカメラと大人のおもちゃを大量に発見してしまう。恋人との逢瀬を撮った録画ならお相手にも兄の死を知らせねばと映像を確認するとそこには兄の淫らな姿が…
と、なかなかなショッキングでお間抜けな事が起こるのです。そういう事してそうな人だったら笑えるお話なのですが、恋愛の話も性の話もした事ない兄のとんでもない映像見てしまうってショックだよ。
受け止めきれずに、親友に相談し信頼できる人と親友に紹介された人にも相談しに行ったりして。
果たして、兄の相手は誰なのか、オモチャは誰が購入したのかを推理していくっておもろ過ぎません?
シリアスなのかおもろなのかどうとればいいのかと思いながら興味深く読み進めました。
やっぱりなーという結末でしたが、面白かったです。切ないとかキュンとするとか共感するとかとは違った作品で新しかったです。
淫夢も読みます。
『淫夢』のスピンオフ作品です。
すでに祖父母や両親がなく、唯一残っていた兄が亡くなった……
というところから始まるのですが、
遺品を整理していたら大量の大人のおもちゃと「誰かとそれでプレイをしている兄の映像」がでてきてしまった。
いくつかの謎を、紐解いていく中で「おもちゃ」と「映像」がキーになって話が展開していくのがきもちよかったです。
なにより、一番最初にでてくるかなりエロ度の高い独白。
これが、一番最初に目にした時と、読み終わって最後にまた出てくるんですよ。
同じですよ。
でも最後までよむと意味が違ってくる。
参ったーーー!!これはやられたーーー!!!って思いました。
惜しむらくは、おもちゃの使用シーンが少なかったことです。
いや、あるんだけど、もっと期待してました……ごめんなさい。