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作家買いです。
ソフトカバーも購入していたのですが、冒頭が重くて当時は挫折、なんとなく読まないまま月日が経ち…。というところで文庫版を見つけて購入しました。
この作品は『生とは何か。死とは何か』を考えさせられるようなお話でした。高遠琉加さんがあとがきで書かれていたのですが「死」よりも「死なないこと」の方が怖い、と。それが如実に描かれている作品でした。
最初に述べたように、冒頭が重い。あまり気持ちがいいとは言えない恐怖が、背後からじっとりと忍び寄るような感覚。あまりの息苦しさに、前半は20ページほど読むと一旦本を閉じて時間を置いてから読む、を繰り返していました。
同時に天国ホテルにたどり着いた、主人公を含めた3組の「生きた人」。それぞれの死者との関係性。三者三様の選択。
最後、康がどのような選択をしたか気付いた時には思わず涙が出ました。
ファンタジーとはいうけれど、どこか哲学的。
BL小説というよりは「たまたま主人公が同性に恋をしていただけの一般小説」と表現した方がしっくりくるくらいです。
重苦しくて、人の生き死にだなんて盛大なテーマを掲げていて、ほとんどはっきりとしたBL色は感じない。万人に受ける作品ではないでしょうが、私はとても好きでした。
是非、余韻に浸れる時に読んでいただきたいです。
閉ざされたホテルに集う死者と、迷い込んだ生者。
読んでいて景色が浮かび、ピアノの音まで想像できて、映像作品を見ているようでした。
あらすじから、そうは言ってもどうせ生きてる人間の方を選ぶんでしょ、と高をくくって読み始めたのですが、作中どんどんダークな雰囲気になっていき、春希にとって亡き月彦がどんなに大きい存在だったかを知ると、もう春希は康を選ばないのでは・・・とはらはらしてしまいました。さらに死んだ人を生き返らせる方法まで出てきて・・・結末には心底ほっとしました。
BL色は少なめです。
恋愛ではあるのだけれど、康と春希がもう何年も一緒に暮らしているからか家族のような雰囲気すらあります。
ずっとBL色控えめでお話が進んでいくので、最後二人が結ばれる描写は唐突感があるかも。キスだけで終わっても良かったのかな、それだと物足りないかな、悩ましいところですね。
それでも充分心に沁みる物語であることは確かです。読み終えた今も、「天国ホテル」はどこかにあるような気さえします。私はまだ行ってみたいとは思いませんが。
文句なしの神作です。生きるって何か、家族って?愛って?とたくさんのことをこの本は投げ掛けてくれます。
レビューが既にたくさんついているので私は既読者向けにこの思いをまき散らしたい!
月彦さんは心が凪いで全幅の信頼を置ける相手だったけど、康は春希にとってまさに太陽だったんですね。日向に連れ出してくれる人。(ここら辺ツリーハウスの描写からもよく分かります)
月彦を失って自分の殻に閉じこもろうとしていた春希に大切な人を失っても、もう一度生きること教えてくれた人。そんな人のこと好きになってしまいますよ。
この物語は死者に会って過去に生きる後ろ向きな物語かと思いきや、最後まで読むと分かるんですが春希がもう一度人を好きなるために過去に決別し前を向くための、実はめちゃめちゃ前向きな話なんですよね。
そりゃ人間だから心が揺らぐことがあって春希も月彦に会ってもうこのままでいいやって一瞬思った。だってそこには変化はないけどその分穏やかでいられる。でもやっぱり現実に引き戻してくれるのは康なんですよ。心を動かすことは生きること。それには大変なエネルギーがいる。けれど康といたらそれが楽しいと思える、生きたいと思える。
生きるってなんて素晴らしいのか。
楽譜のシーン
春希の『違うんだ』ってセリフ最初読んだ時は何が違うの?早く正気に戻って!って思ったけど、これは本当に違くて、天国ホテルに来た春希の目的は月彦とずっと一緒にいる事じゃなく、この曲を完成させる事だった…。
もしかしたらそれは意地のようなものだったのかもしれない。けど春希にとってはこれを完成させなければ前に進めない重要なアイテムだったんですね。
またここでうまいなと思ったのはそんなに完成にこだわっていたのに結局天国ホテルでは完成には至らなかったわけです。ちゃんと現実に戻ってきて、最後は自分の手でこの曲に終止符を打つ。これでもう月彦がいなくても大丈夫なんだなと、やっと思い出にする決意がついたんだな、と。そしてこれがラストの『終止符を打つ』にかかってくるわけです。
終止符を打つ、過去と決別し、新しい物語を始める。まさに2人の物語はここから始まるんです。もう先生の文章のうまさに膝を打ちました!!!これはやられた!
最後のセックスシーンですが、いろんなレビューサイトで綺麗なこの作品に取ってつけたようなセックスシーンはいらないってよく目にしました。
とんでもない!
これは愛の行為なんですよ、果てしなく。
春希は生を感じるものを嫌悪してましたよね。生肉、卵…。セックスなんて『生』の行為そのものですよ!そんな春希が全てを受け入れて人を愛して、愛されることを知って、ああ生きてて良かったなって、この温もりを失わなくて良かったなって想ってることが痛いほど伝わる。なんて尊い行為だと涙して読みました。
BLの萌的な意味だけでなく絶対必要だったと私は思いましたね。
物語を想像させるタイトルに惹きつけられ、挿画と装丁の美しさに見惚れ、物語の儚い美しさにため息が出る。
それは、どこか高い山の上にあると言う。
都市伝説のように語られる「天国ホテル」
そのホテルでは死者と再会し、共に暮らす事が出来る。
高遠先生の余情的な文章と繊細な表現で、哀愁や儚さ、物語全体を包む幻想的で夢を見ているような雰囲気に次第に飲み込まれていく。
読みながら、あまりの情景や心情描写の見事さに所々で鼻の奥がツンとした。
「死」や「別れ」を扱った難しい設定ではあるものの、重たくなりすぎずに読ませてしまうのが流石。
SFとファンタジーの中間のような感じでしょうか。
個人的にはダークさは感じませんでした。
大切な人や大切な存在を亡くした事がある方は胸に来るシーンもあるかと思います。
「天国ホテル」
死者に再び会いたいと切望する人々にとってはきっと夢のような場所なのでしょう。
愛する人が生前の姿のまま現れ、そこで生活をする様はまさに「さよならのない国」です。
死者と再会し、心のどこかで願っていた日々を過ごす人々。
しかし、徐々に天国ホテルの謎や違和感の正体が判明していく。
同じ1日をループするかのような生活。
翌日には魔法のように消えてしまうメモや音符達。
温度を感じず、味も香りもしない食事。
1日に数回だけ鳴る柱時計。
さよならはないけれど、未来も無い。
「死」という言葉を使わずに、彼らはもう死者なのだと、生きている自分達とは違う存在なのだと思わせられる表現がとても上手い。
共に眠りにつき永遠を生きるのか、未練を断ち切り元の場所へ戻るのか。
同じバスの乗客・広瀬の選択も藤枝の選択も、どちらも理解が出来るものでした。
もし私が生と死の狭間にあるこのホテルに辿り着いたら、一体どんな選択をするのだろう。
登場人物それぞれの人生ドラマが濃く、BL小説作品というよりも文芸作品として楽しんでしまいました。
ホテルシーンの合間で現在と過去と視点が入り乱れるので、慣れるまでは読み難く感じる方もいらっしゃるかもしれません。
ピアノをBGMにした音声ドラマでも聴いてみたくなる作品でした。
そして最後に。
果たして、春希の月彦に対しての気持ちは恋情だったのか。
私には春希は無意識に月彦へ父性のようなものを求めていたようにも感じられたのです。
恋ではなく、広い意味での愛情というか。
月彦への想いの強さが伝わって来るだけに、BL小説なのですけれど…終盤の康と春希が恋に落ちる描写やベッドシーンはこの作品には不要かなと。
入れた事によって美しく丁寧に描かれた雰囲気が崩れてしまった。
無い方が綺麗なまま物語に幕を閉じられたのではと思います。
怖い話、不思議な話を好きな方にはお勧めです。生と死の間のような世界の「天国ホテル」。あらすじではどこかロマンチックな話かと思ってましたが、ほぼホラーです。ホテルにいる人とか雰囲気がとにかく不気味で素敵。「シャイニング」みたいなホテルて…恐怖しかないでしょ。
主人公の受け攻めだけじゃなくエリート風サラリーマン、訳ありそうな母娘連れなど他の登場人物の運命も気になって気になって…BLというより一般小説のような流れでした。途中から死者を蘇えらせる方法みたいなのも出てきて「ペットセメタリー」みたいになっとる!とゾワッとしました。まあ人じゃないものになってこなくて良かったけど死んでた人が生き返るってなんか怖い。
最後のエッチシーンはBL小説だから仕方なくとってつけたような感が少しありました。いや、それはBLだから必要なんだけどそれまでのホテルの不気味ワールドとトーンが違うのでちょっと戸惑いました。私はS.キングの話をイメージしながら読んだので恐怖部分を楽しみましたが、元ネタを知らない人には「?」だったかもしれませんね。
でも最後に音楽家の受けが天国ホテルで作った楽曲というのはロマンチックで素敵な曲なんだろうなあと思いました。