電子限定描き下ろし漫画付き
「お願い」言ってごらん
特にファンタジー要素はないものの、灼先生らしい不思議な雰囲気が漂っていました。個人的にはちょっとストーリーに入りにくいな、と。千晃と浅見、浅見と宝の今までの関係性がほとんど掘り下げられないので、それぞれのことをあまり知らないまま、宝という第3者も交えて一気に話が進んでいくんですね。難しい話ではないので理解はできるけれど、読者としてどこにも思い入れがないのでずっと傍観しているような気分で、やっと千晃と浅見が想いを遂げられても喜ぶ気持ちが薄かったです。
耳骨…という聞きなれない単語から始まるストーリーですが、ラストまで重要なポイントになってきます!!
欲がない男千晃と、千晃の琴線に触れるものを探したい浅見、浅見の年下の幼なじみ宝。
三人のそれぞれの思いが微妙~~~なすれ違いを起こしていて、人間って面白いなぁ!(本人達は苦しい)って思いました。
浅見と宝はまるで共依存のような関係。自分の存在意義、自分を必要として欲しいがために『お願いをして欲しい』浅見と、そんな浅見の事を分かりながら自分にとってなんでもお願いを聞いてくれる存在として王様のようにお願いをする宝。一見宝の横暴さにびっくりしますが、浅見も宝も同じ『母親が居ない』という事が二人の関係を離れられないものにしています。
そんな中現れた(浅見にとっては友人兼セフレ)の千晃。彼は欲がないし言葉も少ないしで一見分かりにくいのですが、行動、言動の全てが浅見に自分の『お願い』を言わせるための行為だった事がのちのち判明してきて、愛に溢れていることが伝わって来ました。言葉少ない男って言わないだけで全部愛が伝わるんだよなぁ……でも近過ぎて当の本人には伝わって居ない感じ泣それが切ない。
浅見のお世話したい欲(彼の背景を知ると切ないのですが)を、千晃にも宝にも発動しているシーンが可愛いなぁと思いました。
誤解によるすれ違いがなくなってからの千晃と浅見はとてもピュアで、千晃の発した言葉もプロポーズのようでドキドキしました!
灼先生については全作品を読んだわけではありませんが独特な、まるで音も聞こえてこないような静謐な空気を纏った世界観をいつも感じています。
浅見の人の世話ばかり焼きたがる人の為に役立ちたいという『欲』は幼い頃父親に投げられた母親の「役立たず」という言葉や自分を置いて行った彼女の行動がトラウマになっていて切ないです。
宝の浅見への依存にも思える過剰な甘えたぶり、支配欲もやはり出て行った母親にも原因があるのでしょう。
わたしにも覚えがあるのですが、母親から捨てられたという意識は人によっては自分を愛せなくなったり自分を他者に押し付けたりで、克服するのには長い時間だけでは解決出来ないのではとも思いました。
浅見と宝の関係性から始まる交流では下手すると共依存になっていたのではと、だからこそ千晃の存在こそが浅見には必要だったのではないでしょうか。
利害関係の外側にあるものが愛情なのでしようね、、、
にしても、千晃がラストで浅見に言った
「浅見の耳骨をちょうだい」
これ、なんだかスゴいプロポーズの言葉ですよね。
まあ実際には焼いた後そんな小さなお骨は残らない、竹箸で拾えないでしょうけど。
その後の波打ち際での2人のちゅーは完璧に美しかったです♡
追記
えちシーンは意外?にもエロかったです。
なんなんだ、あの体位?
という感じで構図が全体が分かる引きで好みでした。
信頼関係、そして言葉の大切さと頑丈さ(良くも悪くも。)が強く繊細の描かれている作品。
コミュニケーションとは、言葉数、表現、また、それを受け取る人。全てのバランスが整った時に正しく伝わるのだと最実感させられました。普段から行っているこの行為がいかに奇跡なのかも。
もしかしたら自分の「言葉」を信じてもらう為の魔法が、人との信頼関係なのかもしれません。でも、その魔法は、かけるのが難しいと共に、解くのも難しくて。
人を大切にすることには大なり小なり「寂しさ」がつきまとう。
その寂しさをどう和らげるのか。「大切」の構築と別れのお話です。
作家い買いしました。
灼先生の作品は、世界観が広く、空気感が綺麗な印象があります。
久しぶりの新作、タイトル、表紙が、ちょっと不思議で綺麗で読む前から楽しみでした。
子どもの頃の家庭問題、母親の言葉、経験から、自分には価値がないと感じており、自分が必要な存在だと思われたい、思われなければならない、と、あらゆる周りの人たちの世話をし、求めに応じている浅見。
狡猾さがあるわけでも、計算しているわけでもない、でも、心から人のために何かをしてあげるのが幸せ、というわけでもない、というのがとても切ないです。
利己的なキャラクターはたくさん見てきたけど、こういう利他的なキャラクターには初めて出会いました。
利他的な奉仕癖がある浅見は千晃が好きで、千晃は浅見が好きで浅見を満たしたい、2人ともお互いを想っているけれど、その気持ちの向きが違うから、ともに過ごす時間が長く、身体もつながっているのに、心はすれ違っている、というのは、「なに」想い、というのか、わかりませんが、とても心がざわついて、読んでいて苦しくなりました。
心はきっと手に入らないけれど、頼みはきっと聞いてくれる、と思っている千晃が、浅見にセックスをせがむシーンでは、その表情の虚無さがとても胸に響きました。
言い出さなかった、言い出せなかった、言わなかった、それぞれの気持ち、お願いが、なんだったのか、最後にわかり、とてもほっこり、素敵な気持ちになりました。
両想いになってからの2人のセックスは、2人とも愛情を伝える気持ちがたっぷりで、温度感、質感が重たくなっていて、その情熱とまっすぐさが素敵でした。