ボタンを押すと即立ち読みできます!
フィル×エド
本棚から出てきた井上ナヲ先生の美しい一冊。
これまで放置していたことに驚いた。
19世紀のイギリス風の雰囲気が、
哀愁と繊細が漂うトーンが絶品で素敵。
永遠の吸血鬼と、
限りある人間の
切ない愛の物語が息をのむほど美しい。
少し残酷な吸血鬼のエド、
強気美人でクーデレで、
内に秘めた恋心に怖じ気づいて、
怯えや戸惑いを抱えていく。
冷たい外見とは裏腹に、繊細な心を見せてくれる、
逃避、嫉妬、気持ちの揺れなどが心を捉えて離さない。
フィル、
エドに拾われて育った子供で、一緒に住んでいる。
たとえエドに好かれなくても、
子供から成長する過程で見せる
エドへの変わらない一途さ、
純粋な愛情には辛酸をなめるような恋になるけれど、
エドへの無垢な想いがただただ心を打つ。
痛切なエッチシーンに胸がギュッとなる。
エドの恋に苦しむ姿から愛情がはっきりと表現されていて、
実はとっても健気で、
フィルへの想いがもう涙が出るほど愛おしい。
その切なさを映す顔から
彼の心が手に取るようにわかる。
2人の関係を深める選択肢がぼやけつつも、
2人の間に流れるのは人間の境界線を越えた愛なのだろうか?
共に血を分かち合っている愛に身震いしてしまう。
当時の先生の絵はもう素晴らしかった。
細部までこだわって描かれていて、
エドの苦悩で複雑な表情、
フィルの純粋で可憐な瞳、
2人が共に過ごす時間、
その一瞬一瞬が心に深く刻まれました。
久しぶりに読み返してみたら、なんだか以前読んだ時より好きだなぁと思いました。
淡々と進むお話なので、何度か読み返した方が理解が深まるのかもしれません…。
ヴァンパイアものは好きなのですが、「永遠の命」、これが課題ですよね。
この本もある意味それがテーマかなと思います。
主人公2人が出会う前の出来事は全く語られていないので、ヴァンパイアのエドについては謎が多いのですが、ツンというよりも恐れや戸惑いが態度に出てしまうんじゃないかなと思いました。
フィルは人間の子供なんですが、エドに拾われてエドを好きになり、その思いを真っ直ぐ一途にエドに伝えてきます。
でもエドが冷たくあしらうので、その度に傷ついてしまう。
前半はフィル視点で描かれているのでとても切なさが伝わってきました。
そしてエドに血を与えるセスの気持ちも…。
台詞とモノローグが少な目なんですが、景色を切り取るように描かれるコマ割りはとっても雰囲気があって、間を上手く取ることにも効果を上げていると思います。
ものすごく雰囲気のある作品です。
絵も好みで、一目で好きになった作品ですが、登場人物達が饒舌でないので、読者が想像して思いを巡らさないといけない作品かもしれません。
その作業が好きな人には、とても好きな作品になると思います。
ヴァンパイヤのエドが拾った子供がフィル。
フィルはエドがヴァンパイヤということを知っていますが、とてもエドが好きなのです。
でもある日、フィルに欲情してしまうことに気が付いて避けるようになるエド。
エドは人間を襲って血を吸うのですが、セスという人物と契約もしてるみたいなんですよ。
ここが解説がないから想像しなければならないところ。
多分、自分が思うにエドはセスに身体を与えて血をもらっているのでは?と思うのですよ。
というのも、フィルが危険な目に会ったことを知らせなければよかったと、そして少し嫉妬するような発言をしているからです。
セスの登場はここまでです。
明快さを求める人には少し不満が残る人物かもしれません。
そしてフィルを救いだし、彼にはフィルが必要だと、ずっと一緒にいる存在なのだと、フィルに血を分け与えるのです。
そして、次にフィルが登場すると大きくなっています。
エドはそのまま。
あれ?ヴァンパイヤになると成長はそこで止まるのでは?と通説では思いますが、この設定では、自分の好きな年齢で成長を止められるようになっているみたいなんですよ。
身長も、手の大きさも、エドを超えた時、その時初めて二人は結ばれるのです。
何年も生きているはずのエドが初々しくて可愛かったです♪
今までエドがフィルを守る立場だったのが、フィルがエドを守る立場になった、ある意味対等になった時かもしれません。
題名の「捨て猫の家」も、よるべのない二人が、その血をもって肩寄せ合い暮らす家のこと。
フィルはもちろん捨て猫ですが、エドも野良猫で捨て猫の帰る家なんですね。
最初にも述べましたが、空気を見せる作家さんなのだと思いました。
吸血鬼の話です。
吸血鬼のエドは、拾った人間の子供・フィルと暮らしている。そんな始まりです。
タイトルは「捨て猫の家」。玄関ドアや、そのドアの閉まる音などがキッチリ描かれていると思います。家を出て行ったり、逆に追い出したり、「他人」を招いたり、家が主軸となってお話が進んでいきます。
何より、白黒で描かれた画面に圧倒されました。第一話のフィルの服が素敵です。白黒なのに色が伝わってくるようで(フィルの髪の色とか)、素敵でした。
あと、エドが可愛かった。気高い猫ですね。揺らがない自分を揺るがす恋に動揺して、気持ちと裏腹なことをしてしまうんです。
えろシーンが良かったです。焦れる感じが。
私は、吸血鬼という設定、名前から「ポーの一族」を連想してしまったんです。
「時間」に重点を置いているところが似ている気もしました。
でも、違うものです。この作品事態に起伏のない、静かな雰囲気が流れています。あとは、はっきりとした画面、緻密な線。
この作品は通説の吸血鬼としての部分と、作者の方の考えた吸血鬼の部分とがミックスされています。そこを少し念頭に置きながら読むのがオススメです。
これは一意見ですが、雰囲気を大事にしている作家さんだと思うので、あんまりハッキリ明確に答えを描かれる方ではないのかもしれません。
私はこの作品で井上ナヲさんを作家買いするようになりました。独自の世界観をお持ちの方です。
吸血鬼ものですが、淡々としているというか静かな雰囲気の作品でした。
気まぐれで拾っただけの子供に、特別な感情を抱いていることに
戸惑い、突き放してしまう。
エドの不器用さがなんだか切なかったです。
いろんな要素を削って、シンプルに描かれているのだと思いますが
フィルがエドに惹かれた理由や、エドの抱える孤独、
そういうものがいまいち描ききれていない印象を受けてしまったのが残念。
『てのひらふたつ分の恋』では、フィルが育っていてびっくり。
仲間にされた=成長はしないと思っていましたが、
後半で、「もう十分かな、背も」とフィルが言っているので、
好きなところで成長(老い)が止まるという設定なのでしょうか…。
この辺り、ちょっとわかりにくかったです。
絵柄は、正直好みが分かれるところだと思いますが、独特の雰囲気があります。