愛を教えてくれてありがとう

  • 電子書籍【PR】
  • 紙書籍【PR】

表題作青銅の愛人

博士によって生み出されたアンドロイド アダム
博士のクローン アーサー

その他の収録作品

  • あとがき

あらすじ

孤独な青年は、自らの手で「愛人」を作りだした――。天才的な頭脳を持っていた博士のクローンとして「生み出された」アーサーは、育ての父親高原卿へ叶わぬ想いを抱き続け、ついに最大の禁忌を犯す。自身が作り上げた、自分だけを愛し、見つめてくれるロボット・アダムとの偽りの恋に、次第にのめりこんでいくアーサー。しかしある日それを高原卿に知られてしまい!? 「黒衣の公爵」番外編!
出版社より

作品情報

作品名
青銅の愛人
著者
剛しいら 
イラスト
珠黎皐夕 
媒体
小説
出版社
学習研究社
レーベル
もえぎ文庫
シリーズ
黒衣の公爵
発売日
ISBN
9784059040958
4.2

(13)

(7)

萌々

(2)

(4)

中立

(0)

趣味じゃない

(0)

レビュー数
7
得点
55
評価数
13
平均
4.2 / 5
神率
53.8%

レビュー投稿数7

愛は学べる

剛さんはシリーズ2作目『紅の大王』のあとがきで「私は憑き物系の物書きなので(後略)」と書いていらっしゃいますが、この物語を書かれている時、剛さんに憑いていたのは『SFの神様』なんじゃないかと思うのですよね。
北青王国と南紅大国の間で繰り広げられた大きな物語が終わった後に起きるこの番外編。今までの物語でもチラチラ見え隠れしていた『機械に心はあるか』というテーマと、がっぷり4つに組んだ話の展開です。
これは今までも多くのSF作家が挑み、それぞれ自分なりの答えを提示してきたテーマ。
来た、来た、ついに来た~ぁ!

惑星ヘブンに入植した人類を当初は導き、時間を経るに従って北青王国を支配しようと目論んだコンピューターの『イブ』を初期化する為に、南紅大国では『イブ』の制作者、アーサー・ビノシュのクローンを生み出したことは『紅の大国』に詳しく書かれています。戦いが終わって、やっと成人に達する年齢でしかないというのに、アーサーは自分がこれから生きていく意味を見つけ出すことが出来ずにいます。アーサーは育ての親である南紅大国の先王、嵩原卿に想いを寄せていますが彼は自分を子どもとしてしか愛してくれません。自分ひとりに向けてくれる愛情を欲して、オリジナルのアーサーが作り、現在は人間型のアンドロイドとして自分の側にいる『アダム』を、誰にも知らせずアーサーはカスタマイズします。自分の愛人になる様に、体温と、今以上に人間らしい反応を示すプログラムと、男性器を与えるのです。南紅大国ではアンドロイドに育てられた子どもたちが成長するにつれ、人間よりも優しいアンドロイドに惹かれる傾向があると判明し、問題になりつつあります。アーサーが行ったことは、嵩原卿を初めとして問題視されるのですが……

天才であることと、その存在が機密であった為に人との触れ合いが殆どないまま育ったアーサーは、周りの人達と心を通わせる術を知りません。そもそも彼は、イブの初期化の為に『作り出された』者であることを充分理解しています。それが終わった後、自分にどんな価値があるのか解らないでいます。
アーサーと対比する様に、シオンの従者として南紅大国に来たアンディ・サガの暮らしも並行して描かれます。突出した才能を持たないアンディですが、その素直さと愛情深さで周りに愛され、努力することで海犬レースのジュニアチャンピオンになり、恋した中将の心も掴んでいます。
アンディがアーサーについて「誰かのために役に立つのは素晴らしいことだけれど、役立つためだけに生まれたのって、何か違うような気がする」と言う科白があるのですが、これがまさに言い得て妙。

アダムが奪われることを危惧したアーサーは逃避行に出るのですが、そこでアダムが動かなくなるという危機にぶつかります。
ここからが圧巻。
最初アダムは、逆らいもせずアーサーの欲望を確実に叶えてくれる『機械=道具』でした。
だから『恋人』ではなく『愛人』だったのです。
でも、想いを重ねたものは、いつしか道具ではないものになっちゃいますよね。

私はこの物語のテーマを『機械に心はあるか』と書きましたが、訂正します。
正確には『心はどこから生まれてきて、どう育つのか』。
4巻に渡る、ドキドキハラハラさせてくれた物語に載せて、剛さんが伝えたかったのはこのことなんじゃないかと思いました。
同じプログラマーから生まれて、正反対の『者』となったイブとアダム。
それぞれの経験が彼らを作ったのです。

先日、仕事がらみで「暴力を振るう子どもは、それをどこかで学習している」という話を聞きました。
この物語のラスト近くに、これと正反対の科白を見つけたんです。
心に染みました。
剛さん、
ありがとうございます。

1

未来は明るくね

シリーズ番外・アーサー編は、クローン人間と心を持たされたロボットの恋と愛の物語。
そして、アンディと仁の一途な恋の幸せな結末の物語。

アーサーは、報われない恋と自分の淋しい心を埋めるため、成人を迎える誕生日の夜に、アダムを移植したロボットに禁断の改造を加えます。
アーサーは例え大天才科学者の頭脳を持っていても、心は愛に飢える貪欲な子供。
そして、もう一人、ちゃんと家族に愛され満たされることを知って育った子供アンディ。
この二人が初めての恋をどう実らせたのか。

ロボットとの恋や、男性同士の愛を認めても、人類は滅びることなく、いつか人々は男女お互いに慈しみ合いながら、平和な未来をこのヘブンに築いていけるはず。
このシリーズ全体があった上での、この番外編の結末。
納得の「神」です。

3

2つの恋の結末は?

「黒衣の公爵」シリーズ番外編です。

今回の主人公はアダムとイブをプログラミングした故アーサー・ビノシュ博士のクローンのアーサー・ビノシュ。
ある目的のために作られたクローンで、その役割を終えた彼のその後。
コンピューター「アダム」を移植した人型ロボット・アダムを与えられたアーサーはある夜、こっそりと秘密の改良を施した。
それはアーサーの淋しさを埋めるためのものであったのだけれど…。

クローンとロボットの恋です。
というか、ロボットに恋心は芽生えるのか?みたいな。
アーサーは自分だけを愛してくれる存在が欲しくてアダムに改良を施してしまう。
生殖器を付け、人工知能に愛を加える。
プログラミングされた通りにアダムはアーサーが望むがままに愛を与えていく。
人工知能には自分で進化していく部分もあり、アダムは学習してどんどんとより人間に近くなっていく。
アーサーをどんどん愛していく。
次第にアーサーは自分が与えた機能でありながらも、アダムのことを本当に好きになっていって。
アダムが愛するアーサーのために行った行動は実に愛に満ちていて、機械ならば思いもつかないこと。
それを出来るということはちゃんとアダムの中に愛が芽生えていたことになるんだろうなぁ。

そして、この2人同時進行で進んでいくのが仁とアンディの物語。
互いの気持ちは固まって恋人同士にもなっている2人ですが、まだまだ清い関係のまま。
仁の堅物さがそのまま「婚姻まではそのままで」という感じになっているんだろうなぁ。
そのかわり、アンディが成長してきたように思います。
仁の扱い方を心得ているというか…。
なかなかいろいろなことを言葉にしてくれない仁だから、アンディが悟ってあげるしかないんでしょうか。
なんだかんだでアンディの方が強いような気もします。
婚姻の儀式では仁がなかなかにがっついてたようにも思えたのですが、実はこの人ムッツリなんじゃないかなーと思ってみたり(笑)
濃いキスをしたら衝動が止まらなくなるからと自制しているところとかもかわいかったです。

2

ちょっとどうかと思う私は意外と現実主義なのかもしれない

ううぅーん。
人間が地球以外の惑星に移住して500年経った世界で
アンドロイドとクローンのお話。

人類を惑星ヘブンへ先導する役割を担う
アダムとイブというロボットを作ったのが
アーサーという人間なんですけど。

このアーサーという人間の死後
500年経った後に創ったクローンが
アダムというロボットの人口知能を移植したアンドロイドに恋をする。
もう、ほんとに卵が先か鶏が先か・・・こんがらがるw
クローンであるアーサーも、ロボットであるアンドロイドのアダムも
オリジナルのアーサーから生まれたわけで・・・

人工子宮から生まれたクローンの孤独を埋めるのが
かつて自分のオリジナルが作り出したロボットなんですよね。
アーサーという人物の悲しさはわかるのですが
ロボットが進化することによって人類は大変な危機に見舞われたという
お話を3冊かけて描いてきて、アダムだけが特別なのかよぉー!
と、思ったw
冷酷にアダムをスクラップできる感情がない限り
やはり人類は、同じ過ちを繰り返すのではなかろうか・・・。
でも、過ちがあるからこそ人間なのかもしれないし
その揺らぎこそが愛なのかもね。

仁とアンディの話を入れ込むなら、オリジナルのアーサーの話を
もう少し盛り込んでほしかったかな。

1

機械と人間の究極の愛

本編「黒衣の公爵シリーズ」のラスト、コンピュータ・イブの計画を阻止して北青王国と南紅大国に平和が訪れた2年後の話。
メインは、イヴとアダムを作ったアーサービノシェのクローン・アーサーと、三笠博士が作り、南紅大国のコンピュータ・アダムを移植した人型のロボット・アダムの禁断の恋の物語になります。

人間がコンピュータの支配から解放され、愛をもう一度はぐくもうとしている時に、アーサーは義父・嵩原卿への報われない恋心の為に、アダムに性機能を持たせて恋人にするのです。
これは究極の愛の選択、また一つの愛の形だと、とことん極左な選択をもってきた部分がとても切ない。
オリジナルのアーサーもコンピュータに恋をした遺伝子のなせる技なのでしょうか?
クローンという特別な存在であることが、気持ちが報われない事が閉鎖的な方向へ向かわせてしまったのでしょうか?
外の世界とうまく接する事ができなくて、ますますアダムとの生活に引き籠るアーサー。
アダムはロボットなのに、アーサーのプログラミングのはずなのに、自分で考えて感情を持っている、まるで人間のような進化を見せるんです。
でもロボットだからと、公の席に同席を許してもらえず、アーサーは悲しむ。
アーサーを慰めるアダムの優しさは機械にはできない人間そのものだと思いました。
皆に祝福される愛ではないけれど、それでも二人が幸せで、それを理解する人が少しでもいれば、彼らはそれでいいのだと。
しかし、それはきっとこの星の今後の課題や危惧でもあるのですよね。
機械と人間はどこまで相入れる事ができるか?そんなタブーに踏み込んだSFファンタジーは夢を与えてくれます。

そして、天真爛漫なアンディと無口で不器用な有理の結婚の話もあって、ほっとさせてくれました。
アンディは海犬レースのチャンピオンとして活躍しています。
アンディに結婚をほのめかす時有理はどもってしまうところが、何かかわいー!
あんな冷静な天人命で守るひとなのに、恋愛には初心で、そのギャップに萌えます♪

本編もこの番外編も含めて「愛」をゆるぎない主軸にして、色々な形で見せてくれた本作は大変に満足なシリーズでした。

3

この作品が収納されている本棚

マンスリーレビューランキング(小説)一覧を見る>>

PAGE TOP