イラスト入り
身代わりでもいい…あなたが好き。
スピンオフ元を読んで、エリィことエルリンクのあまりの不器用さにああー…となり、彼が主役の作品も読んでみたいと手に取りました。
切なさとままならなさは流石六青先生と言いますか、どちらも甲乙付け難い切ないものがあったのですが、設定と展開的には前作の方がドラマチックで惹かれるものがあったかな。
記憶障害を患っていて、短時間しか物事を記憶しておけない少年・ルース。
この、忘れてしまうという設定が最大限に生かされているお話だなと。
何度も繰り返される初めましてと、何度も繰り返される偽りの逢瀬が少しずつ2人の関係性を変化させていきます。
本当に健気で切なくて不器用な人達でした。
萌えたのか萌えなかったのかで言うと、エリィのルースに対するみっともなさと狡さが目立ってしまって、グッとくる萌えを感じる前にルースは一体何度傷付けば良いのか…?と思い、若干のもやつきが残ったというのが正直なところです。
…だったはずなのですけれど、ラストの数行で見事に挽回されてしまいました。
たった数行でこんなにも味わい深くなるなんて。お見事です。
少々評価に迷いつつ、今回は3.5寄りのこちらの評価になりました。
ルースの見返りを求めない健気さと心優しさに、何歳も年上の大の大人が必死になる姿は情けなく、自らの行いを何度も後悔する様は、言葉を選ばずに言うのなら無様とも言えるものでしたが、とても人間味に溢れるものでもありましたね。
愛情を知ったエリィはきっとこれから一生ルースのことを愛するのではないかな。
そうであってほしいです。
大洪水の後の世界。地上と海底の二つの居住区に分かれている。・・という背景。
「蒼い海に秘めた恋」の続篇。
★「蒼い海に秘めた恋」のあらすじ。
”特効薬開発の生体実験を受けていていたショアは、養父である開発室長のエルリンクに裏切られ研究所を逃げ出す。そして幼い頃から憧れていたグレイに会いたい一心で彼の元にやってきた。
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・・・と言った前巻。
養父のエルリンクは、裏切った訳じゃなくて、仕事以外が視野に無くて、ショアを構えなかっただけだった。人は感情で動く生き物だという事を軽視していたエルリンク。
家出したショアを取り戻そうとしても、拒まれて、謝ることもできず、それが心の傷になっていた。
夫々の立場と事情があったから仕方ないことなのに、お互いに慮る心のゆとりが無いキャラのショアとエルリンク。ルースは記憶障害があるけれど、とても思いやり深い優しい子。
清掃作業中のルースを見かけたエルリンク。
ルースは、瞳の色以外、ショアにそっくりな少年。ルースは、事故の後遺症で、記憶障害を持っている。
「寄せては返す波」が砂浜を洗うように、ルースは、寝て起きると前日の記憶が消えている。
事故の後遺症で、二年前に遭った事故の前の状態に戻ってしまう。
それが、機密保持の為に都合がよいと判断した、海底地区の研究所長エルリンクが、ルースを話し相手に研究所に呼ぶようになった。
家出をした養子のショアの身代わりにされていることが寂しいルース。
手元から逃げ出したショアを失って、淋しいエルリンク。
二人とも、淋しい者同士。次第に深い関係に進展する。
だけど、ルースをショアを呼ぶ理由を理解させずに、淋しいすれ違いを続けていると、ルースを壊してしまうことは、話を読んで居るだけでも分かり切っている。
脆くて壊れやすい関わりをする二人の様子が、何時壊れるのかと考えながら読んだので、疲れてしまった。
事故にまた遭うルースをエルリンクが助けに行って、怪我を負う。でも怪我が理由で、ショアや弟と再会できた。
自分に欠けている何かを探す、エルリンクの物語でした。ルースを壊して失う前に、欠けていた大事なものをルースの涙を見て気づける程度の人でなしで良かった。
かなり前から読みたかったのですが、手に入らなくて。
電子で販売してくれてありがとう!一作目の『蒼い海に秘めた恋』と併せて、やっと読めました。
大人の身勝手さや狡さ、臆病さなどが、とてもお上手に書かれています。
それに向き合わないと幸せは掴めないよね。
だけど、それを自覚して更に立ち向かおうと決意するためには、かなりの犠牲が必要だった訳で。
今作の語り口もお伽噺風。藤画伯のイラストもその空気を体現しています。
お話の初めではエルリンクは「相変わらずだな、おっさん」と言いたくなる様なやな奴です。
ショアを失って、その穴埋めを彼によく似たルースでしようとする。
それもルースの記憶障害を利用して。
これは酷い。
40歳近い大人がやる事じゃないよねぇ。
その特権階級意識も鼻につく。
でも、エルリンクは気づくんです。
ショアに対してやっていた酷いことを繰り返しているんじゃないかと。
過去の失敗を繰り返す恐怖が、彼をまともにしてくれました。
ところで、エルリンクの変化は『一度手痛い失敗をしているから』というだけじゃないんじゃないかしら?
年端もいかない頃に『保護すべきもの』として出会ったショアは、エルリンクが纏っている心の鎧を解きほぐすのには、若干不向きだったのかもしれないなぁと思ったんですね。
エルリンク以外にも、親や、親亡き後はその親友、近所の人達にたくさんの愛わ注がれているルースは、エルリンクを甘えさせることが出来ました。
ここで色々と気づいたんじゃないかと思うんですね、エルリンクは。
ルースやその周りの人達との交流から、自分が生きて来る為に必要と考えて来た『勝ち抜くことが何よりも必要』という価値観について考え直すエルリンクは、お話の冒頭とは全く違う人になっています。
これぞ愛の力!
純粋ってすごいなぁ……
ラストのロマンティックさは秀逸。
うっとりを引きずります。
前作はCDで聴き、続編もたいへん切ないと話題になっていたので手に取りました。
素晴らしい作品です。
個人的に『良い!!』と思ったポイントは
ルースが記憶を忘れても、夢を通してエリィを無意識的なレベルで認識し続けている点。
どんなに意識的な部分(すなわち記憶)を失ってしまっても、本人が統制できない無意識のレベルで恋情が蓄積されていく描写が印象的でした。
ルースが記憶障害であるがゆえに、エリィとルースが逢瀬を重ねる際は、何度も同じセリフではじめましてを繰り返す描写も素晴らしいです。ここを省略せず、丁寧に描いてあることで『あぁ、ルースは本当に忘れてしまうんだな…』と読者もエリィの気持ちになって切なさを体験することができます。
更にこの『はじめまして』の積み重ねがあることで、他のレビュアーさんも仰っておられたように、最後の二行が生きてきます!
中盤までは怒涛の切なさなのが、後半少しペースダウンします。最後まで切なさを継続させてほしかったな〜と思っていたところに、ラストの二行が効いてくるので、総合的に『神』評価です…!
是非、ハンカチをご用意ください笑
『蒼い海に秘めた恋』の続編です。『蒼い~』でヒール役だった、エルリンクのお話。
ショアに去られ絶望の日々を過ごすエルリンクが見つけたのは、ショアによく似た面差しを持ち、そして記憶障害を持っているルースという少年。
けがの後遺症のため1時間しか記憶がもたないルースならば、何をしても記憶に残らないだろうという身勝手な感情でルースをショアの身代わりとして扱うエルリンクですが…。
今回もエルリンクは外道☆
というところから物語はスタートします。
ショアにだけ呼ばせていたエリィという愛称で呼ばせたり。
ルースの「俺」という物言いを「僕」と言わせたり。
挙句の果てにルースに泣きついてショアへの贖罪の言葉を口にしたり。
おいおい、オッサン…。
と思ったのはきっと私だけではないはずだ。
けれど、記憶障害というハードルを持ち、それでも前向きで、明るく一生懸命生きるルースに、エリィの気持ちが徐々にほどけていく様がなんとも涙を誘う。
このルースという少年もなかなかの健気ちゃん。
両親を亡くし、自らも記憶障害というハンディを持つ。
エリィに徐々に惹かれていく想い。
ルースに嫉妬した研究員にショアのことを吹き込まれ、自分は身代わりだと気づき、それでもなおエリィを想う。
ルースとエリィ。
早々に両想いになる彼らですが、簡単にあっさりと終わらせないのが六青さんならではか。
様々な出来事が彼らを襲いますが、結果、それらが二人の想いを近づけ、そして結び付ける。
ルースの記憶障害、そしてエリィとショアとの過去。それらがうまく生きていて、切なさをアップさせる。
ストーリー展開の素晴らしさに圧倒されっぱなしでした。
正直ショアにしてもルースにしても、エリィのどこが良かったんだい?と思ったりもしたのですが、子どもだったショア、そしてハンディを負っているルース。
曇りのない目で見ることができた彼らだったからこそ、エリィの隠された優しさに気付けた、という事なのでしょう。
エリィの冷たさは、彼が優しくないという事では決してなくて、冷たい家庭で生まれ育った彼には「愛情」をどう表現していいのかわからなかっただけのこと。そういうところも描かれていて、ますますエリィ派になってしまいました。
エリィに愛されたことを忘れたくない、と告げるルース。
忘れてしまうルースに、何度でも愛をささやき安心させようと心を砕くエリィ。
思わず落涙してしまうけれど、哀しいからではなく温かな気持ちになれるから。
今作はエリィ救済の作品ですが、エリィだけではなくってキールも幸せになっている様が読み取れてそこにもほっとした。キールもいい子だったので、ぜひとも彼主役のスピンオフを描いていただきたいなと思います。
前作も良かったですが、個人的にはこちらの作品のほうがツボに入る作品でした。