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目覚めればそこは、美しい装飾と植物で溢れる巨大な鳥籠の中だった。
一風変わったアラブものでした。
アラブものといえば…な定番アラブではなかったのが予想外で良かったです。
見知らぬ部屋、美しく巨大な鳥籠、痩せ細った身体、友人だと語る隻眼の褐色肌の美丈夫。
全編受けのハル視点の今作。彼が記憶を失っていて何もかもがわからない状態なので、現代物でありながらどこかファンタジーのようでいて、現実なのか夢なのかが曖昧になるミステリアスな空気を纏いながら進んでいくのは面白かったです。
設定を含め、前半部分はとても好みでした。
人間用の美しい鳥籠の中で、記憶がないハルを見守り献身的に甲斐甲斐しく世話をする攻め・イドリースの図は2人だけの閉鎖的な箱庭のようで素敵。
ただちょっと、あまりにも失った記憶の描写が少ないまま進んでいくことに途中で焦れてしまったり、物語の展開に強く惹かれるものがないままスパッと突然ブツ切りのように終わってしまったのが残念。
恋愛面でもなぜなにどうしてとなってしまい惜しいですし、この受けならではの良さがもっとほしかったです。
健気で一途なアラブ攻めは良かったのですが。
設定はすごく良いなと感じるものばかりだっただけに、もう少しバランス良くじっくりと読みたかった。
成瀬かの先生の作品を読むのは二作目なのですが、
平易だけれど的を射た文章を書かれる方なので、今作もサクサクと読め、気持ちが良かったです。
今回は、記憶喪失の男の子ハルが主人公。目覚めたら美しい庭園風の巨大な鳥かごの中にいて、見知らぬアラブ人イドリースが世話をしてくれてーといったストーリー。
美しい監禁ものかと思いきや、後半は中東情勢らしい、かなり血なまぐさい展開になっていき、良くも悪くも引き込まれました。
(すこーしですがグロ描写もあるので苦手な方はご注意を)
イドリースがとても男前で格好良いです。地道に世話をしてくれて、寡黙だけれど情熱的。
それに対してハルは、記憶がないせいか、イドリースを信じたり疑ったり、逃げてみたり抱きついてみたり、忙しいです。
この主人公ハルのオロオロ、優柔不断ぶりが、どう見ても少女にしか見えないイラストと相まって、若干腹立たしく感じてしまいました。
いやいや、イドリースパダリだから大丈夫!落ち着け!と何度心で訴えたか(笑)
そして実は、ハルは立派な仕事を持つ成人男性…ええーそんなばかなー。
大筋のストーリーや雰囲気はとても良いので、惜しい…の一言です。
かわいい系の受がお好きな方であれば、違和感なく受け止められるかもしれません。
変化球アラブ。
王子な攻が不器用健気です。
記憶喪失な受は、おどおど兎のようで、見た目は15歳くらい……。
記憶喪失の受の一人称で進むので、焦れます。
あまりにも謎が多く、ヒントも少ないので正直イラッとすることも。
どうやって記憶を失って現状に至るのかという部分がとにかくもどかしく、先を知ることに重点を置きすぎてしまい、感情移入できませんでした。
なので、物語中盤の内容などは正直あまり覚えてません。
結局最後の方まで記憶があやふやだったので、攻からの手紙で胸がキュンとしたくらいでいまいち乗れなかったのが残念です。
追い打ちが、迎えに来た受の家族が受け付けなかった……。
受の職業は医者で、兄妹全員英語堪能なのに両親は英語ダメって。
何だか育った環境を想像しちゃったというか、実は家計に余裕はなく奨学金で医大に行ってうんぬんかんぬんしたの? とか、余計なことばかりを考えてしまいました。受の環境も細かく描写してくれてたら、あまり違和感は感じなかったかも。
で、最後だけドタバタコメディっぽくなんだか現実感のない設定に撃沈。
いろんなとこで評価が高く楽しみにしてたのですが、期待しすぎだったのかも。
庇護されすぎる受が苦手なのも敗因だったと思います。
個人的にはオマケSSペーパーの話が好きでした。
アラブのお約束をきちんと入れながらも、アラブらしいアラブではないので、その辺は結構面白かったです。
もう一捻りあれば、ぐぐっと自分の中で評価があがったかなという印象。
成瀬さんのファンタジー…ではなく、アラブ〜物です。
成瀬さんがアラブ…不思議な感じです。
まさかの一人称。
ただ『僕』なので、個人的にはホッとしています。そして、記憶喪失物です。
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受けのハルは日本人ということだけで、あとの記憶はなくしている青年。
気づくと体の筋力は衰え、一人では着替えもままならない体となっていました。
攻めは浅黒い肌に隻眼のイドリース。
アラブのザハラム王の第四子で、ハルを誰にも触れさせず、自分で保護し世話をしています。
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意識を取り戻した時ハルは記憶を失っていて、どうやら籠の鳥(比喩でなく大きな美しい籠)として暮らしてきたよう。
そのハルの世話をし献身的に尽くすイドリースは優しくて、なぜかハルにとっては見知らぬ人間であるにも関わらず無条件に安心できる存在でした。
この状況に、自分はイドリースに飼われているのでは?という疑問を持ちつつも。
イドリースがハルへ求愛するシーンはその後の無体へ続くものの、個人的には惚れ惚れしました。
跪いて服の裾にキス。
ああ、なんて王子様ちっく。や、本当の王子様ですけどね。
二年前までは、王位継承の最有力と言われていたイドリース。
ザハラム王国は戒律が厳しく同性愛は死刑という環境であり、さらに国民の模範となるべき高貴な身分でありながらも、イドリースはハルを求めています。
もう、献身過ぎて切ない。
ハルのこれまでの状況やイドリースの失われた左眼については後半わかってくるのですが、それは書かない方が良いかなあ。
まあ、監禁とか攫うだとかはアラブBLのセオリーだとは思いますが、ちょっとその辺りがこの作品は違うのでご興味があれば読まれて確認してみてください。
ただ、ハルの過去の記憶と現在が時折入り混じり、これはどっち?となる場面も。
これは一人称なので仕方ないですし演出なのだとは思うのですが、ちょっと分かりづらいですね。
その辺りが気にならなければ、高貴な王子が献身的に尽くす様に萌えると思いますよ。
記憶喪失前も恋人だったのならともかく、出来上がってもいなかった相手へなので。
こちらの作品、挿絵はひじょうにホワホワした雰囲気で可愛い。
が!
この挿絵のハルはどう見ても10代後半、よくて20歳くらいにしか見えません。
作中の話し方なんかも子供っぽいんですよね。
ただ実際終盤にハルの過去が判明すると、ものすっごい違和感が。
どう考えても20代後半だろうという職業設定です。
これって大学生くらいにした方が、無理がなかったのではと思いました。
そして極め付けは、本編の終わり方!
これは雑誌掲載だったらしく、文庫化にあたりその後の二人を書いたSSが収録されているのですが、これがなかったら『ええ!?ここまで読んだのに?』となります。
雑誌で読んだ方がお気の毒ではないでしょうかね…
まあ、このSSもちょっと御都合主義ではあるのですが、気持ちの落とし所は見つかると思いますので。
作品が持つ雰囲気と世界観が、とてもとても好みな小説です。
主人公のハルは、ある日気付くと美しく緑豊かな鳥籠の中に居た。
傍らには、まるで海賊のように片眼に眼帯をした褐色の肌の美情夫がいたが、眠りから目覚めたハルは彼のことはおろか自分のことも忘れていたーー
記憶がないまま、友人だというその男ーイドリースと鳥籠という狭い空間の中で幸せに暮らしていくが、ふとした瞬間、イドリースの自分を見つめる瞳に狂おしく狂暴な色が宿ることに気付きーー、というお話です。
ハルが記憶喪失で何も分からないままも、一緒にいて何故か安心できるイドリースと閉ざされた空間で二人で過ごす前半部分はとても良かったです。
多少冗長的な部分はあるにせよ、成瀬先生の柔らかく繊細な文章と美しく緻密な三枝先生の絵が神がかり的に上手く溶け込んでいて、作品の魅力を倍にしてくれていました。
表紙も凄く色使いが鮮やかでお気に入りなんですが、挿し絵もどれも素晴らしく、中でもハルが猫脚のバスタブで入浴しながらイドリースに髪を洗ってもらっている場面は、思わずうっとりしてしまう程、美しく素敵な一枚です。
正直、ハルの記憶が戻らないまま二人の世界が続いていく、という商業作品としてはあり得ない展開でも良かったと思うくらい、この閉ざされた世界観は好みでした。
それだけに、後半にかけて、二人以外の登場人物が出てきて記憶が少しづつ戻っていくと共に夢のような世界が壊れて現実に戻っていく描写は、仕方がないとはいえ残念な気持ちになってしまいました。
特に終盤、若干急速にお話が畳まれていく感じがしたので、もう少し記憶が戻っていく過程を人伝ではなくハル自身で体感して欲しかったのと、二人の甘い後日談をもうちょっと味わいたかったという気持ちはありますが・・、これは好みの作品故の我が儘でしょうか。
--それにしても、読み返す度にイドリースのハルへの愛情の深さがとてつもなく強いということがよく分かります。