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酒屋が風呂屋に恋をした――。恥ずかしくて愛おしい表題作ほか珠玉の短編集。
初めて手にした作家さん。
すごくよかった…!!
絵がとにかく美しくて、色の濃淡の表現の仕方が神がかってお上手です。
モノクロの絵なのに、色彩がみえるというか…水彩か色鉛筆で描いた色彩豊かな情景を思い浮かべることができます。
幾種ものトーンの微妙な掛け合わせと線による表現がみごとで、夜の明暗や髪の艶にいたるまで、素材の質や温度が伝わってくるかのようです。
職人技というか…アートというか…、漫画という媒体で、このクオリティの絵を拝見させていただけて光栄です!と感謝いたくらい。
そして、その絵のよさをカケラも損なうことなく、夫婦茶碗のように違和感なく添えられるストーリーの奥ゆかしさも素晴らしいものがありました。
この絵あっての物語ですし、この物語あっての絵であるといえる完璧な対。
作家さんの類まれなる才能を感じることができる1冊です。
このレーベルとしては珍しくエロなしの短篇集ですが、ストーリー性重視の作品なのでまったく気にならず。
■近距離恋愛
表題作。キスのみ。
幼なじみ同士の酒屋の息子と風呂屋の息子のスローテンポな恋物語。
酒屋の息子は、行動してから考えるタイプの短髪、つり目の単純ボーイで、
風呂屋の息子は、わりと何でも要領よくこなすタイプの色素薄いキレイ系の二枚目です。
幼少期から、冗談みたいに「結婚しよ」と酒屋が口説き、風呂屋があしらう、というやり取りをネタのように飽きもせず繰り返してきたが、長年言われ続けてその気になっちゃった風呂屋の方が、どーしようかな…と静かに模索しつつ恋の駒を進めるはなし。
いい年して、いまだに挨拶代わりみたいに「結婚しよ」という酒屋に「わかった」と答え、案の定驚きに固まった酒屋に「よろしくね」と言ってみた日から、ふたりの関係は違う方向へ進むことになります。
友情の先のふたりの関係にどういう名前をつけるのか…
酒屋は酒屋なりに、風呂屋は風呂屋なりに、それぞれの日常生活をコツコツと送りながら考えて、過去のこととか未来のコトも考えて、そうしてやっぱり最終的には一緒にいることを選択する、というわけです。
この話がステキなのは、作られたキャラたちの中に『生きた会話』があること。
生身の人間が話してるみたいにナチュラルで軽快なやり取りがすごく魅力的です。
洗練されたキレイなイラストとストイックなストーリー、という組み合わせは非常に美しい創作物なのですが、あまりに小奇麗にまとめすぎていて、浮世離れしたキャラたちの話になってしまうことがよくあります。
しかし、この作品のキャラはどこか人間臭くて、冗談も言えばくだらないことで大笑いもするし、ちゃんと俗世に生きてるキャラなんだな、と思える親近感がもてます。
幼なじみ二人、という普通の友達関係よりも濃い絆のあるふたりですから、交わされる会話にも、その慣れ親しんだ者どうしという独特の呼吸がなければ、ナチュラルにはみれません。
そういう微妙で難しい空気感がすごく読み取れたので、卓越した観察眼かそれを補う想像力がおありの作家さんなのだな…と感心してしまいました。
不意打ちみたいに酒屋がキスして両想いを確認し合ったふたりのその先がすごく気になる作品でした。
ぜひぜひ続きを……!!
■影のわずらい
就職難民の23歳と、旅が本業・副業ライターの38歳の親類同士。
外見は全然ちがうのに、昔からやたら気が合い、好みも思考回路も笑いのツボも、なにもかもが似すぎている、という年の離れた親戚同士が、きっともう何年も前から相手を恋愛対象としてみていて、でも同性だし血縁だし、年も違うし、自分だけが好いても気持ち悪がられるだけだし……と臆病になっていたが、ようやく気持ちを伝えようと決心するまでのはなし。
■床屋のカノン
過疎化がすすむ鄙びた田舎の床屋が舞台。
男前で物腰の柔らかな床屋さん×タレ目でくせっ毛の内気な少年。
お年寄りばかりを相手に細々と営まれている床屋に、知り合いに会いたくないという理由で山を超えてやってきた少年と、
そんな内気な彼がだんだん自分を好きになってることに気づきながら、その交流を楽しんでいる床屋のスローテンポな恋のお話です。
この作品は、レトロな家具とかファッションとかがとってもキュートで眺めるだけでも楽しかったですv
■発熱地帯
隣人同士のイラストレーターと会社員のお話。
壁が薄い安普請のアパートに住む絵かきが、何気に聞こえてくる隣室の住人の生活感ある音をきいて、規則正しい生活を送るその人はすごいな~、なんて思っていたのだが、地震の翌日に隣り合ってる押入れに穴が空いたことで、その住人と仲良くなる話。
こんな絵がかけるのがすごい、毎日真面目に通勤してるのがすごい、とお互いにないものねだりな賞賛を送り合って、愚痴ったり慰めたりしながらゆっくりときめいていくという。
■近距離恋愛数日後
エッチのときどっちの役をするのか、という話題から、勝負で決めようとわちゃわちゃ遊んで、疲れて寝ちゃうっていう。幼なじみの恋愛のゆるさを描いたショート。
BL業界って、短い作品が主流なので、わりとすぐに結果を求めたがる傾向がありますが、たまにはこういう恋愛未満で終わるようなショートもいいな~と思った作品。
人間臭いキャラと洗練された絵とストーリーのブレンドがとても素晴らしく、読後感が爽やかです。
表題作が好きすぎるので評価は神vv
《個人的 好感度》
★★★★★ :ストーリー
・・・・・ :エロス
★★★★★ :キャラ
★★★★・ :設定/シチュ
★★★★・ :構成
どの話も、その後の二人の話が読みたくてたまらない。
幼馴染はどっちがどっちになるのか気になるし、シンクロな二人が同じ事をいたしたときどうなるのか知りたいし、床屋のお話はやっぱり年下攻めかしらと期待だし、お隣同士はもう一緒にすんじゃえばいいのに。
でもって、一重切れ長日本男子をこんなに素敵に描かれる作家さん、そうそういないような。奥二重ではなく完全なる一重。…萌え。
心情を丁寧に描かれていて、短いながらも心に残りました。
キャリアがある作家さんだと思うけど、BLはこの2冊しかないのでしょうかね。
今後どんどん新作を出してくださいますように。首長くして待ってます。
短編がいくつか。
一番の魅力はとにかく線が繊細で美しい
髪などの明暗表現なんて白黒なのに色が見えてきそうな程です。
黒髪が映える日本男児
旅から旅への逞しい男
スマートを気取るオシャレな大人…
色んなタイプの美人を描かれます
あと靴の描き方に強そうなこだわりを感ずる。
作品に関してですが、一押しは「床屋のカノン」
日常に訪れた新たな出会い
その出会いが去って行ってしまった時
元通りになっただけ、と自分に言い聞かせる
そんな体験をした事がある人は共感できるのでは
カノンというよりは、切な目のカントリーソングって感じ。
最高の一冊です
伊東七つ生さんの作品、とっても素敵です!!
『ロマンスの箱庭』もデビュー作品にしてはとてもよかった(←気がついたレビューしてない!?)のですが、今回の作品、全くエッチがありません。
それでも、二人の関係の在り方がとても魅力的なんです♪
何かうまく言い表せないのですが、それぞれのキャラクターの魅力が短編にも関わらず十分に引き出されて、短編を読んだというより、まるごと1冊読んだような満足感があるのです。
絵もお話も丁寧さにあふれています☆☆☆
表題は、風呂屋の息子の河ちゃんと酒屋の息子の大ちゃん。
幼馴染の二人ですが、大ちゃんは小さい頃から「好きだ、結婚しよ」と言い続け、それは深く考えもしないただの挨拶のような習慣の言葉となり、言い続けて20年。
突然河ちゃんが「いいよ」という。
仰天するのは大ちゃん。
だからと言って二人が変わることはない。
ただ、先のことも考えないただの言葉が意味を持ったということ。
いつも一緒にいて見てきたはずの河ちゃんの、先を見据えた彼の目標を知り。。
河ちゃん一体いきなりどうしたんだい?
大ちゃん、いったい君はどうしてそうなんだい?
近すぎるがゆえの激的に変わらない二人の関係が、こんなにもイライラせずに、すんなりと受け入れられるなんて!
ノンケ同士の恋愛って、何か激的なモノがないと難しいとか、色々屁理屈こねて考えていた自分がバカみたい!?
目からウロコの幼馴染のこれからの20年(笑)
描き下ろしにおいて、先に進みたい二人の攻防戦が見られ、やはりそこだったか!ふっふっふ、、とまるで子供のようなままの二人の関係が実にほほえましい。
これもまたおとぎ話なんだろうな♪
『影のわずらい』
小さい頃から、父親の従兄弟とまるでテレパシーでもあるかのように、同じ考えをする主人公。
そんな彼は最近目眩に襲われている。
ひょっとして彼はどうなんだろう?久々に訪れた彼は普通に接しているのに。
それは愛なんだろう。という実に不思議なお話。
『床屋のカノン』
過疎の村で親の代からの床屋をやっている男。
そこへ髪を切るのを失敗したと隣町から少年がやってくる。
それから少年は店の常連さんになるのだが、鉄道が廃線になり、常連のお年寄りたちは次々となくなり、少年は店にこられなくなってしまう。
床屋を廃業した男の元へ数年後、少年は大きくなって髪は伸び放題になってやってくる。
これもまた素敵な愛だ。
『発熱地帯』
おんぼろアパートで絵を描いて生活している主人公は、薄い壁から伝わって来る隣の男の毎日の規則だたしい生活の様子を聞きながら、眠りにつく。
しかしある日、壁に穴があいて、その男としたしくなるのです。
仕事で悩んで落ち込んだ隣人の男は、主人公のおかげで、立ち直ることが出来る。
どれも、現実を背負いながらもおとぎ話のような物語だと思うのです。
決して浮世離れしているとか、ファンタジーすぎるとか、そういうことでなくて、
それでも、地に足が憑いている。
この作家さんの描かれる自分物描写が実に魅力的。
自分的には黒髪キャラがとても好き。
表題は、まるで浮世絵の歌舞伎役者のような!?
床屋の話では、外人のような?
元引きこもり男はロン毛メガネでオタクくさく
こうも、人物が似通らず描き分けが見事にされている作品も珍しいのでは?
どの話もこれからというところでおわってはいるのだが、その後を想像するのはすごく楽しいイケズではないのです。
一番好きなのは【床屋のカノン】
床屋さんとそこに通ってくる男の子のお話。
自分で切って失敗したという酷い頭で隣町から飛び込んで来た男の子。それから夏は自転車で、雪の季節は電車で髪を切ってもらいに通うようになります。
床屋さんも彼がきたらあの話をしよう、この本を教えてあげようと来店を楽しみにするように。
この男の子が次第に少年から青年らしい顔立ちに少しずつ変化していくんです。
そして床屋さんだけあって、ご自身の髪型がとても素敵で惚れ惚れします。(しかし誰が切ってるのだろう?)それに靴がとてもおしゃれだしパンツ丈もベスト!
どっちのキャラもそれぞれ異なる色気が感じられて好きです。
表題作の【近距離恋愛】は、幼馴染のお話です。
20年間結婚しようと言い続けてようやく相手が「わかった、よろしくね。」と了承してくれたものの、言い続けて来た当人はその先を何一つ考えておらず、ポカーン状態。
幼馴染としては好きだけど、もしかしてこれからは恋人としてあれこれするの?と今更ながら気づいた次第で…。
ええっ!?今更!?ですけど、プロポーズを了承した方も、そんな今更状態を予想通りだったと答えるあたりがさすが幼馴染。
あと個人的に大好きなのがあとがき(ロマンスの箱庭のあとがきも同様)です。
作品ではとーっても繊細でロマンチックな絵を描かれるのに、あとがきはちょいギャグ調で作品とのギャップが甚だしくて笑えます。
「原作者(ご自身のこと)が『色々あっていい感じになりおしまい』とうすらぼんやりとしたプロットを書き、それを元に先生(ご自身のこと)が『いい雰囲気の古臭い背景でいい雰囲気になっていい感じに』とぼんやりしたネームを起こし…」と漫画を作るまでの様子を描かれてまして、まさにそういう感じでなるほどーと。
現代ものなのになんだかどこかノスタルジックな雰囲気を湛えていて、感情が生々しくなく、絵の美しさに浸れる。まさに各作品もそんな「いい感じ」「いい雰囲気」のお話ばかりです。
答姐の「ちるちるのランキング圏外だけど、心の琴線に触れた作品を教えてください」で教えていただいたのが、こちらの作品です。
教えてくださり本当にありがとうございました。