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表題作彼は死者の声を聞く

神成静彦
会いたくなかった幼馴染で画家、26歳
斉木明史
霊が見える編集プロダクション社員、27歳

その他の収録作品

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  • あとがき

あらすじ

グラフィックデザイナーの斎木が取引先で紹介されたのは、画家として成功した幼馴染みの神成だった。斎木が羨望してやまない才能を持ち、今は亡き斎木の姉・朋と魂で_がっていた男。朋の死は斎木に罪の意識を、神成には斎木への憎悪を植えつけていた。そして死者が見える斎木の左肩には、今もなお朋がいるのだ。十年ぶりの再会は、斎木を過去に――まだ神成が斎木を慕い、姉が生きていた葛藤の日々へと引きずり戻していく――。

作品情報

作品名
彼は死者の声を聞く
著者
佐田三季 
イラスト
梨とりこ 
媒体
小説
出版社
心交社
レーベル
ショコラ文庫
発売日
ISBN
9784778114404
4.2

(117)

(71)

萌々

(22)

(14)

中立

(4)

趣味じゃない

(6)

レビュー数
19
得点
489
評価数
117
平均
4.2 / 5
神率
60.7%

レビュー投稿数19

愛と憎悪と嫉妬と執着

え。文庫で950円?それもそのはず。
手に取ってびっくりずっしりの約450ページの大ボリューム。
そして内容は、愛と憎悪と嫉妬と執着うずまく、まさに佐田節大炸裂の昼メロも真っ青なドロドロの愛憎劇。

知的障害の双子の姉の死。10年経った今も鏡を見ると常に死んだはずの姉が映り込む。
罪悪感にもがき続ける斎木に、避け続けていた因縁ある幼馴染・神成との再会と脅迫…
そこに職場の人間関係のゴタゴタや、絵の才能のある神成や死んだ姉に対して抱き続けている劣等感やらが複雑に絡んできます。

読み進めるごとに明らかになる過去。
共依存というか、抜け出せない感じ。ハッピーエンドなのにどこかほの寂しい感じ漂うのです。だが、そこがいい。

佐田さんの既刊「あの日、校舎の階段で」の登場人物・遠藤がちらっと登場します。(読んでいなくても全く問題ないレベル)

今作も、かなり泣かされました。
重い。ずっしり重い。なのにどんどん読み進めてしまう。
読むのに時間もかかるので、読み始めるには気合が必要です。
人によっては地雷になりそうな要素を多分に含む作品ではありますが、読みごたえは十分です。

なんというか、佐田さんの作品って、人間の多面性というか、人のいい部分も、タテマエだけじゃない、人にはだれしもある人のエグい部分もまざまざと描き出されている感じで…。ものすごいパンチのある作風なのですが、一度ハマると抜け出せないような、そんな魅力がある気がします。

17

愛とは甘いばかりのものではない

まずお話の前半をざっくりとご紹介します。

斉木明史には、知的障害を持つ双子の姉、朋がいた。

双子でありながら、健康、正常に生まれついた明史は彼女に負い目を持ち続けているが、同時に、プロの画家である父、感情的な母からの愛情を一身に受けている朋に複雑な思いを抱いていた。
彼女の持つ優れた画才も、明史には羨望の的であった。

隣家に住む明史の幼馴染である神成静彦も、また天才的な画才の持ち主であった。

神成と朋が築き上げた濃密な絆、神成の才能に明史は嫉妬し続けていた。

高校生になった神成は明史にひたすらな思慕を寄せるようになるが、明史は冷酷にそれを拒絶する。

明史が目を離した隙に朋がひき逃げにあい死亡するという事故が起こる。それ以来、元々死者をみることのできた斉木の左目には朋の姿が映るようになる。

激しく事故の責任を斉木になじる神成と 朋を死なせた罪の意識から逃げるように斉木は故郷を後にした。

それから10年がたち、斉木は就職難のため学歴を詐称して入社した編集プロダクションで働いていた。朋の姿は彼の目から消えず、斎木は罪の意識から逃れることができずにいた。
そこに、イラストレーターとして成功した神成が現れる。

神成は学歴詐称を暴露すると斎木を脅し彼を激しく陵辱する。神成は斎木に異常な執着を示し斎木の生活の全てを支配しはじめるが、仕事を失いたくない斉木は彼に従うしか道はなかった。



登場人物はみな複雑な人格を持ち、相対する人間によって様々な面を多角的に見せます。

残酷極まりない様に思える神成は、長年の友人にとっては誰よりも優しく信頼できる人物です。
斎木も一口に誰からもいい人といわれるような性格ではありませんが、彼も、窮地に無償で手を差し伸べてくれる複数の友人を持っているような人です。

斎木も神成も、自分が望んでやまないものをだけが手に入らないという苦悩にあえいでいます。

神成は経済的に満たされあふれるほどの画才を持ちながら、愛情に飢えています。斉木も暖かい家族には恵まれず、類まれな美貌と編集デザイナーとしての才能を持ちながらも、自身が渇望する絵の才能を持たないため自己を肯定できません。

斉木の神成から与えられる苦痛、逃げ場のない葛藤は読んでいて息苦しさを感じるほどでした。神成によって生活を侵食され体を蝕まれながらも、人間関係も就業状態も最悪の会社で真剣に仕事に取り組む斎木の姿には心打たれるものがあります


神成の才能を憎みながらも、それを上回る彼への愛情に気づいた斉木により、物語は一応の結末をむかえますが、単純なハッピーエンドとは言いがたいかなり緊張感をはらんだもののように感じられました。

無償の愛は存在するか、愛とは究極的には見返りを求める利己的なものなのかという著者の問いかけは恐ろしいものです。

ひとつ気になったのは、あくまでも朋が無垢で美しい存在として描かれている点です。成熟した女性の心を持つことのないまま亡くなった朋ですが、幼いながらも、彼女なりの思いもあったはずと思うのは穿った見方でしょうか。

ともあれ、450ページに亘る長い話を一気に読ませる作者の力量は並々ならぬものです。
甘く楽しい話ではありませんが、長く心に残る小説となりそうです。









11

ホラーを切り口にした人間ドラマ

初・佐田先生。ホラー設定に興味を惹かれて買ってみました。

霊が襲ってくるような直接的なホラー展開はなかったですが、次第に過去が明らかになる謎解きのような面白さに引き込まれ、一気読みできました。
あくまでホラー設定を切り口に、死を身近に感じながらも生きていく残された人々にフォーカスした人間ドラマという印象です。

とは言え、現代社会や人間の愛憎がリアルに描かれていて、そこにある意味モダンホラー的な怖さを感じました。
神成の斎木に対する、欲望を叩きつけるようなセックス描写には臭いが漂ってきそうな生々しさがあり、
また才能に対する嫉妬や羨望、マイノリティに対する差別意識など、人が何かの瞬間に無意識に表出させてしまうような感情の描写が真に迫っていて、霊より人間の方が余程怖いと思わせます。

知的障害を持つ姉と、幼馴染の神成。芸術的才能を持つ二人に対する斎木の嫉妬。
姉の死を機に立場が逆転した、斎木と神成の関係。
斎木の目に映る霊の静かな佇まいと、斎木の姉に対する罪悪感。
学歴や才能にコンプレックスを抱えながらも芸術の世界から離れられない斎木の葛藤。

萌えよりも、生きることについて考えさせられる作品でした。
タイトルが、死者の声が「見える」ではなく「聞こえる」であることも見逃せないポイントで、過去と現在が交錯するラストにつながっています。

斎木がかつての苦い思い出を神成と一緒に再現することで、もういない姉を追悼するようなラストには、絵画的な美しさがありました。罪を背負いながら一緒に生きていくであろう二人の未来を予想させる、余韻の残る終わり方でした。

良い作品だと思いつつも、神成の人物描写に少し物足りなさを感じたため、評価は星4つで。

斎木を一心に慕う純粋な顔と、斎木の姉の死を機に見せる暴力的な顔。
斎木に少し優しくされたことから、後半みるみる暴力的な顔が消えていく過程がやや強引に思えたのです。

ヤンデレとは、天才とはそういうものだと言ってしまえばそれまでですが。
中盤までの、無意識に両極端の顔を使い分けているような底知れなさがこの話の怖さの芯だと思うので、そのパーソナリティーにもっと鋭く切り込めば、ホラーとしても人間ドラマとしてももっと面白かったんじゃないかなーと口惜しさを感じました。

ちなみに他作品のキャラもカメオ出演しているそうで、斎木の元セフレ遠藤(『あの日、校舎の階段で』)や、斎木と仕事する久世(『檻』)がどこに登場するか、探しながら読むのも楽しいかもしれません。

10

人間は弱いよね。

この作品は好き嫌いがはっきり分かれる作品ではないかと個人的には感じます。
痛い、辛い、苦しい、怖い、様々な負の感情がこの1冊に凝縮されている。
ラストに行くまでのどうだと言わんばかりの感情が溢れ出るような作品で、
軽めで心が浮き立つような作品を好まれる方にはちょっと辛いのではなかろうか?

そして私も後者の部類に入る典型だから、作品自体は凄いなと思っていても
この作品に心を揺さぶられる事はあっても好きかと問われればNOと答える。
第三者的な立場で冷静に判断するならば作品としてはまさに神に近いダブル萌えだと
思える作品だとは思うけれど、個人的な趣味としては前作もダメだったが今作もダメ。

執着ものは大好きだけど、この甘さの無い憎しみに彩られている内容は重すぎて食傷気味
主人公の人には見えないものが見える目も、知的な障害を持った主人公の姉の存在、
何処に視点を置くかで感じ方も変わってくる作品。
主人公と年下の幼なじみの攻め様、受け様がキッカケの一端になったような姉の死。
二人の絵の才能に嫉妬し、自分の才能の無さに、解っていながらも苛立ちを隠せない。
歪んでしまった心はいつしか本人の心を蝕み、いつも心は荒んでいる。
どこまで読んでも重苦しい内容だからこそ、ラストに感じる切ないまでの内容が
心に染み込んでくるのではないかと思えるのですが・・・
それでもやっぱり、個人的にはBL的萌えは探せないと思う作品でしたね。

9

読み応えがありました!

佐田さんは個人的に『あの日、校舎の階段で』が
ハピエンと言っていいのに後味がツラい作品でした…;
今作は文庫本2冊はあるだろうと思われる厚さで
霊もの!?という意外さも手伝って手に取ってしまったにも関わらず
読む勇気がなかなか持てなかったのです…。
しばらく積ませていただきました。すみません。

受けを、精神的にも肉体的にも追い詰めて愛する攻め、というのが
佐田さんのツボなんだろうなぁ…とやはり読み続けるのが苦痛でした。
私は、相手を愛しているならそんな事は決して欲しくないという甘ちゃんなのです。
ですが、今回は受けの斎木が攻めの神成にしてきた過去の事、
その他諸々の褒められない言動があってのことなので
自業自得かもしれないという気持ちもありました。
しかし、斎木だって神成の絵の才能が羨ましく妬ましく、
実父さえ自分より神成を愛していたと思ってしまう事に
じりじり胸が痛みました。
母は自分の考えを押し付けるようなタイプでしたし。
実家で逃げ場がないのはつらかっただろうなと。

双子の姉の朋が知恵遅れの為疎んでいた斎木は
姉が亡くなってもなお左目の端に彼女をいつも見てしまい
姉の死が自分のせいだったんじゃないかと責めたてられている気がするのです。
朋を人として、絵仲間として大事に想っていた
幼馴染の神成への罪悪感と共に。

斎木の職場の過酷さと上司の酷い態度によって、
ますます神成は絵の仕事で自由に暮らしているのに…という
妬ましさが消えないのです。
斎木の学歴詐称を脅しのネタに使い、無理矢理関係を持つ神成、
最初は愛を感じませんでしたが、次第に一途さが伝わってくるようでした。

最低な職場の中でも理解のある根岸、漫画家になった友人の西園寺、
神成のたった一人の友人と言える俳優の添田、
斎木の叔母で、面倒を見てくれた志奈子…。
支えてくれる人々がいて、素直に良かったと思えました。
こういう存在があるからこそ、人は生きていけるんだろうな。

逃げたい斎木、どこまでも追いつき縋りたい神成。
憎悪と愛の境がわからなくなるほどの情念。
最後は素直に好きだと言わない斎木でしたが
嘘でもいいから、の神成の言質をとって
「嘘をつく」と前ふりしてからの告白…。
じーんとしてしまいました。

一読目は気持ちの余裕もなく「どうなるの!?」と読み進めてしまいましたが
きっと二読目はもう少し落ち着いて味わえるんじゃないかと思いました。
重くてツラくてしんどかったですが、読めて良かったです!
そしてどうにか読み終えられた自分をちょっと褒めたい気分ですw

9

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