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ともさくらの世界に、二人のアーティストが絶賛!!
本当に自分もその場に佇んでいるのではないかと思えるくらい、物語にぐっと引き込んでくれる美しい絵のタッチが素晴らしかったです。今このレビューを書いていて、そういえば濡れ場は1つもなかったなと思い出しましたが、読んでいる最中はそのことにまったく気付かないほど自然なストーリー展開でした。
◆潜水士とクラゲ(表題作)
愛想の良いパティシエのジャンと、無愛想なギャルソンのアンリの話。以前彼氏がいたアンリは、同性愛者を受け入れる空気のない田舎で息が詰まる彼に、何も言ってあげることができませんでした。それ以来ずっと、アンリは海底に沈む潜水士のような心持ちで、足は重く吐き出す言葉は泡となってしまうように感じています。全体が海中になっているページもあり、アンリの心を海に映し出す演出が非常に印象的でした。ジャンに打ち明けることによって、アンリが海底から解放され、新しい恋に目を向けられるようになったことが嬉しかったです。
◆蛹の中
少年同士の物語で、私はこれが一番好きです。様々な虫を観察したり標本にしたりすることが趣味の変わり者のリュカ。周囲から遠巻きにされている彼に唯一友人のように話しかけるギヨームは、自分がリュカに愛でられる虫に羨望を抱いていることに気付いてしまいます。幼い子供だからこそ純粋な好意の行き着く先が突飛で、でもそれがとても切なくて。もう少し読んでいたいと思わせる作品でした。
◆熊と小熊
極北の地で繰り広げられる、不器用な大人達の恋愛。とても不思議な世界観でした。最終的には自分のために、アルテクの息子・ミーシャを呼び寄せたニキフォル。彼のおかげで今まで長年築いてきた関係性が変わっていく2人に、やはり物事を真っ直ぐ考えられる子供の力ってすごいなぁと感じたり。ミーシャの「パパが2人できたみたいと思った」という言葉も印象に残っており、この短い期間3人はそれぞれきっと本当の家族のように感じていたんじゃないかと思いました。
中村明日見子さんが帯に「美しい標本箱のよう」ってコメント寄せてたけど、本当にその通り。
画面も美しいけど、登場する人たちのなんと美しいこと。
詩的で絵画的で、漫画ってこういうこともできるんだなって思った。
アルテクとニキフォルの話が一番好きですが、アナトールおじさんの話でぐっときた。
いやはやこれはA5で出してくれたオペラさんナイス。
答姐でおすすめされた作品です。
失礼ながら作者様も作品も全く存じ上げませんでしたが、読んでみてびっくり。元々大好きな「澁澤龍彦」的世界が感じられて、グイグイと引き込まれました。
「潜水士とクラゲ」
多分パリの、通りを挟んでお向かいのケーキ屋さんとカフェ。パティシエのジャンは愛想良し、ギャルソンはのアンリは無愛想、お互いが気になって。
アンリの無愛想には哀しい理由があったのです。その日からアンリは言葉が喉に詰まって、景色は海底を歩く潜水士が水面を見るようで。
そんな、失恋で止まってしまった心がまた動き出す。優しくて切なくて、でも嬉しいおはなし。
「蛹の中」
リセの、陽の当たる教室の、昆虫の標本。黄金虫、蜻蛉、蝶、羽化しない蛹。リュカとギョーム。
二人の秘密。
「輝く瞳」
ジャンのケーキ店。ジャンはいつもお客さんと表にいてちっとも仕事をしてないみたい。店員はアンリ。
ギョームが友達用のお誕生日ケーキを買いに来る。多分リュカ用の?
友達以上になりそうな、揺れる心。恋することの何たるかを知っているジャンのケーキは、いつだってみんなの味方なんだ。アンリにとっても。
「熊と小熊」
北極圏?に会ったこともないパパを探しに来たミーシャ。
出会ったのは動物や鳥類を研究するニキフォルと、ずっとその地に住んでいる不思議な男アルテク。
ニキフォルがずっと追っていたシロフクロウ。アルテクはニキフォルが来たら逃げるようにフクロウに頼んでいた。調査が終わってしまったらもうニキフォルが来なくなるから。
そう、ニキフォルとアルテクは不器用な両片想い。
オーロラと雪と動物たち、海、流氷、涙も凍る寒い大気、そんな世界での恋の気持ち。
「アナトールおじさん」
死んでしまってから恋心を告白して何になる?
宇宙に浮かぶ惑星、時を超えるかすかな星の光。万物はみな星のかけらでできていて、会えなくなった15年など宇宙の中では一瞬にもなりはしない。それでも。
なぜアナトールおじさんとガスパールはその一瞬でも共に心を分かち合えなかったのか。涙するアナトールの姪です。
随所にこだわりを感じられる一冊でした。
言葉ひとつ、キャラクタたちが身にまとうものひとつ、すべてを綿密に考えていらっしゃるように感じ取れます。完成度の高さもさることながら、しかしこのテのものが苦手な方もいらっしゃるでしょうから、人を選ぶ一冊であることも確かです。
いわゆるボーイズラブコミックというより、セクシャルマイノリティを描いた作品集なのかな……同義かな? 小難しいこともなければ決して暗い作風でもなく、むしろファンタジックなときめきを感じずにはいられないのですが、童話的な面もあるためBLとカテゴリするには少しためらいを覚えます。文学的と言うのかな?
フランス映画の匂いもありますし、チェコ・ハンガリー・ドイツなどの東欧な雰囲気も。後述しますが[熊と小熊]はチェブ●ーシカやピ●グーを彷彿とさせました。
とにかく、和風とは真逆の世界観です。
ガラス瓶のなかに創られたミニチュアのジオラマをぼんやり見ているような気持ちになりました。スノードームとかね。
[潜水士とクラゲ]
息苦しい、生き苦しい、アンリ。
彼が着ていた潜水服にはきちんと酸素が通っているのだろうかと心配になるくらい、とても生きにくそうにしていた彼にとって、ジャンという酸素が現れてよかったのだと思う。劣等感とはまた違う、他との隔たりをちくちくと感じてただぼんやりと見るだけにしていたかったのではなくて、できうるならばその手でクラゲの頭をつんと突くくらいはしたかったんだろうな。
人間として真反対なジャンは、アンリの心を溶かすことのできる唯一の人。潜水服のヘルメットを取ってあげられるたった一人。うまく絡まるように世はできている。
[蛹の中]
この描き下ろしがいっとう好きです。
ぼくが 君の愛する 虫であれたら
ぼくが 君の視線を独占できる それであれたら
ギヨームのなかで微かに蠢く恋心が聞こえてくる数ページが大変素晴らしい。まさにフランス映画にありそうな世界観なのですよね。まだ幼いからこその思考と発芽です。
[輝く瞳]
本誌掲載順ではこのお話が一番初めなのですね。仕上がっているジャンとアンリ、そしてギヨームとリュカ。
幼い恋の萌芽を垣間見るジャンが、もしかすると誰よりも繊細なのかもしれません。
[熊と小熊]
三編に分かれて収録されたストーリー。こちらも芸術的な仕上がりです。
潜水士とクラゲで描かれたややボタニカルアートにも近い風合いとは異なり、こちらからは絵本の要素を感じました。前述した、チェブ●ーシカやもぐらのク●テルなどの雰囲気です。
果たして本当のところは誰が誰を待っていたか、ですよね。
ニキフォルは人間だったから伝えられなかった、アルテクは人より少し異なっていたから伝えられなかった、むずかしいすれ違いをこすり合わせるように縒って繋げられたのはミーシャのおかげですね。
興味半分で訪れた僻地での生活が、きっとこれからのミーシャを支えるでしょう。ミーシャにとっても、アルテクとニキフォルにとっても、お互いがお互いの必要性を強く感じるひとときになったはずです。ナチュラルにいい話だったな……とため息をもらしました。
ともさくら先生があとがきでも書かれていますが、この作品では特にアンティーク小物や理科的な小物がたくさん描かれています。一抹の憧れを覚える空間。
[アナトールおじさん]
誰しもに触れられないところと触れてはいけないところがあって、そしてそういうところはその当人から語られない限りは一生蓋をされたままになるわけで。
今作でおじさんはルーシーにだけその蓋を開けていたのだと、またそれが瀬戸際でようやくだと思うととても切なくてとても寂しくなったのです。ガスパールへの感情はやっぱりどうして、蓋をしたままに変わりはないのですから。
ルーシーがいくら こうだった と告げても、真実を知るガスパールは嬉しくもありそして悲しくもありますよね。そういう言いようのない切なさが滲んだお話でした。
とかく緻密な一冊でした。帯の推薦文が明日美子先生だというのも納得。
ところどころに各作品の登場人物が出てきていたりもして、そういう細かい部分を探したり遊び心も楽しめました。もしかすると、今後の作品の登場人物たちも、あの街のどこかに居るのかもしれませんね。
表紙の絵から漂うアーティスティックな印象そのままの、実に味わい深い一冊でした。
帯、表紙、中の書体、絵柄、物語、ページのナンバリングその他全ての部分に“こだわり”が感じられました。
まず帯の推薦文が中村明日美子先生ということで出版社のこの作品に対する力の入れ具合を感じました。
もう一人の推薦者ブブ・ド・ラ・マドレーヌさんは美味しそうなお名前ということだけは分かりました。
存じていない方だったので調べてみたらアーティスト&社会派ドラァグクイーンの方だそうです。
次に表紙・装丁はchutteさん。
著名な方の小説やコミックの装丁もされておられるかたで、これまた装丁にも力が入れてあることが伝わってきます。(全然BLとは関係ない作品ですが、私の好きな小説の装丁もされておられたことをこの機に知りました)
帯や装丁等からだけでも、この作家さんが周りから期待されている「才能のある方」ということが感じられます。
また中のフォントも凝っています。
ト書きの部分に映画の字幕のようなフォント(おそらくしねきゃぷしょん辺り)を使っていたり。
こちらは作者さんの指定なのかよくは分かりませんが、物語の雰囲気を考えて選び抜かれたフォントだと感じます。
また、作中、虫眼鏡のレンズを通した部分のセリフ文字の部分が、拡大されて大きな字になっているところなど、遊び心とセンスの良さを感じました。
ほぼ全ページに加筆修正が施されたというこの凝り様に、作者さんの絵に対する情熱や物語を大切に描いておられる姿勢が伝わってきました。
絵柄に関しては背景の書き込み具合が詳細ですごい!と思うのですが、それだけではなく人物の書き込み具合も丁寧で素晴らしいと思いました。
こんな風に詳細な背景の書き込みをされるかたで、たまに人物の絵がやけにあっさりしていてアニメちっくでガッカリなんてことがあったりするのですが、
ともさくらさんの絵は人物にも書き込みがしっかり入っているところも魅力的でした。
お話は淡々としているようで「あ」と思わされるような内容だったり、実に味わい深かったです。
静かで優しい物語が丁寧な絵で綴られていました。
空にふわふわと浮かぶクラゲ。
水泡となって消えていく言葉。
突き刺さるような白い世界。
子どもの頃何度も聞かされた物語。
どこか遠い世界の、まるでおとぎ話のように感じるのに。
それなのに、人物たちの確かな息遣いを感じます。
そこに温もりを感じました。
じっくりコトコトと煮込んだスープのような、とても丁寧に作り込んだ、味わい深い一冊でした。
4、5回は読み直したと思うのですが、まだまだ読み込んでいけそうな気がしています。