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周りには完璧超人にみえる攻めが
その実、精神的に脆く病んでいる…
という丸木さんの描かれる執着攻め(裕太郎)と
弱く儚く美しい受け(学)のお話。
舞台が大正時代であることと
主従関係にあることが物語の耽美さを際立たせていると思います。
すこしミステリー要素もあり、
「俺は、お前よりもお前の事を知っている」
といったようなセリフ等が伏線となり、物語の
ラストまでその意味はわかりません。
受けはつまり幼少期からの父からの虐待によって
多重人格者となっているために記憶がおぼろげで時々
自身の記憶が飛ぶことがある。
多重人格の場合、本人がそれを認識していることが
多いと思いますが、受けはまったく気づいていません。
そしてそこは特に問題ではなく、攻めもその学の多重人格要素も
全て愛しており、自分以外学を愛せるものはこの世に存在しないと思っている。
裕太郎自身も、大企業の次期社長としてずっと仮面をかぶって生きてきており、
幼少期から仲の良い学にだけ全てをさらけ出せる、
丸木さんお得意の共依存関係ですね。
閉鎖的空間で行われる物語ですが、とても美しい話だと思います。
ラストが尾を引いて、もう一回初めから読んでしまいますね、
これはすごいわ。
『耽美』と紹介されてることも多いですが、私はサスペンスミステリとして「すごい」と思いました。
ホラー風味もあり、大正時代の霧に包まれたお屋敷の中で、何だかよく解らない不安感に弄ばれます。
まあ、読んでいて、不安なこと不安なこと……
これ、核心部分は絶対ネタバレしちゃいけないやつだと思うんですね。
だから私も出来るだけそこに触れないようにご紹介したいと思います。
主人公の学は、ぼんやりしていて、記憶が曖昧になってしまう人なんです。
赤井伯爵の家で使用人の子どもとして生まれるのですが、母が幼い頃に別の使用人と駆け落ちし、酔った父に暴力を振るわれる毎日を暮らしています。
学の希望は、小さい頃から自分を可愛がってくれる赤井家の長男、裕太郎だけ。
全てにおいて優秀で太陽のような裕太郎は、不憫な学に目をかけてくれるだけではなく、常に自分の側に置き、恋人の様に扱います。
そんな裕太郎の振る舞いを止めさせようと、彼の家族は学を裕太郎から引き離そうとし、学も一時はそれに従おうとするのですが、そのことで裕太郎は以前にも増して学への独占欲を剥き出しにする様になります。
裕太郎の縁談話、父の失踪、自分を捨てた母との再会……学の周りで次々と様々なことが起きますが、裕太郎との激しい情事の所為もあり、学の記憶はどんどん曖昧になって行くのですが……
察しの良い姐さまであればお話のオチに感づくかもしれませんが、とにかく丸木さんのお話の構成と文章の巧みさで、最後まで緊張感が途切れません。
「多分、こうなんだろうな」と思いつつ「いやいや、まだ解らんぞぉ」と思い直したり。
最後の短編『葵の手紙』を読んで「そうかー!」と。
全てが収拾された後の『やられた感』がすごいです。
上手い!
そして、怖く、哀しい。
妖しさ満点のダークな雰囲気を最後まで保ち、一直線に二人だけの世界を作り上げて終わっていった。第三者がオチを語ることで、二人がより一層遠くに行ってしまったように感じる。この独特の読後感がとても好き。
下男の学は酷い境遇ではあるが、自己防衛がしっかり働いており、学視点で語られる光景に辛い描写は少ない。マゾヒストの自覚は本音かどうか分からないけど、こうした性質もまた悲壮感を失くしてくれる一つの要素で、ダメージを避ける精神構造が徹底している印象。
裕太郎は病み具合が露になるにつれ、怖くてゾクゾクする。学の何がそんなに?という疑問への答えが本人から語られることはなく、取り返しのつかないことが起こりそうで起こらない、いや実は起こっているかも、という緊迫感が良い。
主人と下男の立場もあり、裕太郎に流されていく学の心理描写は、感情の起伏が乏しくどこか他人事のよう。これについては、最初に学は自我が無く従順で愚鈍と書かれていたので、伏線になっているとは途中まで気付かなかった。
不気味な謎をいくつも残しながら、二人だけが幸せなエンディング。その後の裕太郎視点の「楽園へ」は、心の欠けた部分が見えるようでちょっと切ない。そしてここで終わり?と戸惑っているところで、「葵の手紙」という種明かし。学の状態に納得し、裕太郎の生い立ちから推察される理由に泣く。
曖昧なままにされたのは、学視点で描くわけにいかないところで、知らぬが仏ってやつなのかな。とあるシーンの棺桶はなぜ三つ?ってのはとても気になるが。そんなまさかね……。
この二人は、出会わなければ二人ともずっと一人の世界で生きていたんじゃないかと思う、精神的な意味で。お互いの内側に入れるのはお互いだけ、という二人が、現実世界でも二人きりの楽園を築いたお話。ツボにハマる作品だった。
ルビー文庫で、本自体も薄い(約210頁)ことから
ライトな話なのかな??と油断していると
良い意味で期待を裏切られる作品。
ネタバレなしでレビューしてみますが
出来れば何の前知識もなしに
読んでいただきたい一冊です。
時は大正。
赤井伯爵家に仕える下男・学(受け・22歳)は、庭師の父親から折檻を受ける大人しい青年。
赤井家の長男・裕太郎(攻め・24歳)とは、身分は違えど幼さなじみで、人知れず抱き合う仲。
学を溺愛するあまり、裕太郎は徐々に危険な領域に足を踏み入れ…。
序盤は、優しく男前な攻めに
愛され守られる健気受け、
という甘い雰囲気を楽しめますが
(学が、二人きりのときだけ裕太郎を『君』と呼びタメ口になるところにも萌!!!)
徐々に雲行きが怪しくなり……?
突如失踪する学の父親。
妹や友人の忠告にも耳を貸さず
学を軟禁し、夜な夜なその身体を貪る裕太郎……。
病んでいるのは裕太郎なのか?
と思わせておいて……という
どんでん返しに背筋が寒くなる展開です。
全てが分かってから読み返すと
伏線はそこかしこに見受けられ
陳腐な話にも思えますが
展開の早さとエロシーンの濃さに引き付けられ
推理する前にラストまで読みきってしまい
オチに驚かされる。
そんな構成力のある作品だったと思います。
欲を言えば、オチがもう少し本編の出来事に
関わっていれば、更にミステリ的な面白さを
堪能できたんではないかと。
ビックリはしますが、本編の話の流れには
あまり絡んでいない分、それで??と
ツッコミたくなる人もいるかもしれません。
とは言え、この薄さ、このレーベルの中で
ダークで退廃的な丸木文華さんお得意の世界観が
しっかり展開されている点は素晴らしいです。
大正時代の箱根の鬱々とした洋館を舞台にした、美丈夫の伯爵令息・祐太郎と、その下男で幼い頃から一緒に育った庭師の息子・学の主従執着物語。
舞台は耽美のエッセンスたっぷりで、登場キャラたちも、主人公の二人をはじめ、祐太郎の家族の妹や母、高等遊民の友人、学の父親や不倫の果て出奔した学の母親など、皆揃って耽美の権化のよう。
ルビー文庫の薄い本なので、お話は下男の学の視点からの、祐太郎との関係の物語に絞られている。
そのため、仕込まれたいろいろが、最後の祐太郎の妹の葵視点の「葵の手紙」でさらっとネタばらしされるだけなのがちょっと残念なような、、、
この仕込みするなら、もうちょっといろいろ枝葉を茂らせてくれても良かったのにと思うのは、けして欲張りではないと思う。
それでも、耽美のエッセンスはサクッと味わえるので、これはこれでいいんじゃないかな。
しかし、それより、なにより、笠井先生のカバーイラスト!
逃げも隠れもしない、タイトル文字のすぐ横で、この乳首にこの体位!
流石やね。
セルフつっこみ
ただ、やっぱり、最後の「葵の手紙」はちょっと文体がラフすぎて、なんだかなぁ。
