おまけ漫画付きRenta!限定版
男とシたら、どっか遠くに行けると思ってた――
普通の友達からセフレになった烏星(受け)と雨井(攻め)。受けには他にもセフレが複数いて、攻めは受けが好きなのだが、関係を変えるのが怖くてはっきりと想いを告げられないでいる。そんな時、家族との諍いから殴られて帰ってきた受けを、攻めは自分がかつて育った町に連れて行く。攻めもまた、家族に捨てられたトラウマから抜け出せずにいて…。
傷を抱えた大人同士が、関係を変える怖さを克服しながら、少しずつ距離を縮めていく物語です。
大人ぶって強がって、受けに「おまえがどこに行っても最終的に戻ってきてくれるならいい」なんて言っていた攻めの虚勢が、いざ受けがいなくなった途端に崩れるのにうるっとしました。そうだよね、1人は寂しいよね。
受けも、攻めのことが大事で、自分がそばにいることで攻めが不幸になるのなら離れることも厭わない人だったのですが、攻めの虚勢を知って、そばにいることを選んでくれてよかった。
本の8割くらいがこのカップルの話で、ページ数がたっぷりあって読みごたえがありました。展開が急すぎることもなく、説得力のある結ばれ方でした。ラストにはまたうるうるとしました。
同時収録の中短編が1本入っていました。高校生同士のカプです。
サッカー部に上手い子が入ってきて、イケメンでスターなその子が主役で自分はモブみたいだ、と常から感じている高校生(攻め)。しかしある時遭遇したそのスター(受け)は、泣きながら「俺とAVを見てくれ」と言う。受けは自分が女の子に欲情できないのを悩んでいて、AVでそれを確かめたかったのだ、という話。
受けくんが悩んでいてかわいそうだったけど、可愛らしい作品でした。掲載時期を見たらこっちのほうが表題作より前に描かれたものらしいですが、絵がやたらときれいでした。
評価的にはこちらが萌×2、表題作が神です。
あとがきを読んで、タイトル「フェイクファー」の秘められた意味と、表紙の構図の意味を知りました。
こういうところに気持ちを込められるのは、作者さんが作品とキャラクターに愛情と思い入れを持っているからこそだと思います。
口絵を見た瞬間に、何かが降りてきました。この人のセンス、絶対好きかも…的な。直感を信じてヒットすると、それまでに失敗してきた経験が無駄じゃなかったのかもって嬉しくなります。
カラダの関係が先行だけれど、その後ココロに変化が訪れるツボな展開です。絵柄は味があって、決して華やかなタイプではないんですけど、読み終わってみると、ストーリーの手堅さと何気に今っぽいエピソード描写の絶妙なバランスに、あー、この絵だから、この表情だから伝わってくるんだなーって納得させられました。
セリフがとってもよくって、印象的なところに惚れました。ゲイの烏星が見せる家族との葛藤。雨井と両親との関係。セリフに痛みが伴います。ゲイじゃないけど、わかるよ、わかる。二人が自分の居場所を相手に見出した時、ヤッタネ!良かったぁ!ってBL的カタルシスをしっかり得ることができました。
お気に入りのシーンは、雨井が髪を切ったエピソードで烏星がいうセリフ。男らしさについて語っているけれど、何についても言えることだなーって。自分が自分らしくいられて、その姿を好きになってもらえたら幸せだよね。うん、そのシーンに限らず、ストーリー全部がいいんですよ。タイトルも作家さんが考えて、思いを込めてつけられたものだそう。言葉の持つインパクトに注ぐ情熱や、カバーイラストのこだわりにも好感を持ちました。
同時収録作品は『週刊少年ボーイズラブ』。BLを描く方が、BLをネタにできる客観性が凄く好き。しかもすごーく上手く落としてくれてるぅ…。次回作が楽しみでなりません!
こちらの作品は私がトピ立てした「ちるちるのランキング圏外だけど、心の琴線に触れた作品を教えてください」
http://www.chil-chil.net/answerList/question_id/4967/#IndexNews
で教えていただきました。
「ここ数年で一番好きな作品です。マイノリティの悲哀や、誰もが感じる侘しさの様なものがぎゅっと詰まっていながら、力の抜けた台詞やギャグがのんびりとした雰囲気を醸し出しており、シリアスすぎないバランスが絶妙です。」
とコメントを頂戴しております。これにピピッときた方は読んだ方がいいです。私もピピッと来て読みましたが大当たりでした。教えてくださり本当にありがとうございました。
・・・・おしまい。
と、ここで終わりにした方がいいくらい、オススメ頂いた姐様のコメントは的を得ています。
父親が死んだ後、母親に捨てられた雨井(攻め)と、ゲイばれして肉親と断絶している烏星(受け)というシリアスに描こうと思えばいくらでも描ける二人ですけど、重苦しさはありません。
もともと友達同士だったんだけど、「女の人に気を許すのが苦手」という雨井の一言と酔いの勢いも借りて襲っちゃう烏星。
それ以来セフレ関係が続いているけど、セフレ以上になりたい雨井と、セフレが他にもいて恋人なんて作る気はないと公言する烏星の付き合うまでのストーリー・・・かと思いきや結構あっさりくっつきます。くっついた後、葛藤したり喧嘩しながらお互いで自分たちの居場所を探していくお話です。
攻めの雨井が「どれだけ遠くに行ってもいい 俺の所に帰ってきてくれ」とカッコいい事を言ったかと思いきや、翌日には母親に捨てられた事を思い出して、泣きじゃくりながら本音を言う場面にこみ上げるものがありました。
雨井は常に優しい。些細な日常エピソードの数々であぁ本当に好きなんだなぁっていうのが良く判る。愛される事に慣れていない烏星が戸惑ったり、面倒くさくなったり、投げやりになりそうになっても雨井が包み込みます。容姿は地味メンなんだけど、行動はイケメンです。
雨井がもさもさ前髪からいきなり短髪になってみたり、同棲始めたら烏星がちゃんと服を着るようになったり・・・と文章だけで読むと、それがどーした?という何気無い動作なんだけど、そこには深い相手への愛が存在していて、その動作に読み手もちゃんとキュンとしたり、ホロリとできる。
指輪を贈りあっちゃったりするといったような派手な行動じゃないけど、そこが二人らしくていいんです。
フェイクファーは「フェイクファー(fake fur)」偽物の毛皮の事かと思って読み始めたのですが、「どこか遠くへ行く錯覚」という意味をタイトルにしたいと考えた造語だそうです。(fake(偽物の)far(遠く))
それが、ずっと烏星が「遠くに行きたい、どこでもいいから遠くに行きたい」と考えていたその遠くは実は・・・という物語の終着点にも繋がっていてセンスを感じました。
別の収録作の【週刊少年ボーイズラブ】
五反田はサッカーの才能があって、爽やかで、顔も良くて、当然モテてまるで漫画の中の主人公のようだ・・それに比べて俺はその読者だ・・・と羨ましさ半分僻み半分の鳴門。
そんな五反田がある日突然おすすめのAVと抜き方を教えてくれ・・・と言ってきて・・・。
ヒーロー気分どころか誰にも言えない秘密を抱えて劣等感を感じていた五反田。
それが鳴門という存在を得て、マンガの主人公になったみたいと晴れやかに笑うところがホロリときました。
本当にこれがデビュー作とは信じがたい圧巻のセンスが凝縮された作品だと思います。
登場人物の心情モノローグから、コマ割り、情景描写、そして何と言っても心に刺さる比喩的表現の数々・・。
「漫画」で表現できる良さを余すところなく使っていたり、ちょっとしたネタで読み手を楽しませようとする心遣いや、サブキャラクターの設定の細かさ、全てのコマがイラストとして楽しめてしまうようなイラストセンス。
後書きに書かれているタイトルと内容、そして表紙の合わせ方への拘りにも感銘を受けます。
遠くにある憧れの物を近くの偽物で代用してみたけど、近くにあるものがたとえ偽物だとしても、幸せを与えてくれるならそれはホンモノなんじゃないかな。
と言うような気持ちにさせてくれる、何が自分にとってホンモノなのか…と考えさせられる、そして読み終わった後にとても暖かくなる内容です。
同時収録されている週刊少年ボーイズラブの方も、これまでにないような設定でとても楽しく読めます。漫画の中のキャラが、読み手側として漫画のキャラを見ている…!
テンポや運びは楽しく読めながら、自分のセクシャリティを自覚する思春期の繊細な心の描写にはグッとくるものがあります。
細かいところまで本当に作り込まれた名作だと思います。
個人的には登場人物達に
受けの方が高身長
とんがり耳
美人受け
三白眼
褐色
可愛い・ピュア受け
といった、様々なツボを刺激されました。
いつか虫歯先生に性癖全制覇されそうです!!
どこにでもいそうな普通の人が主人公の短編。
あとがきに、フェイクファーをtitleした訳が書いていました。
にせもの→遠く にかけた造語、ハワイじゃなくて、はわい町といった風に。
▶フェイクファー
上手く表現できないけれど、心に沁みました
寂しさを埋めたい理由が分かるにつれ、ガンバッて生きて欲しいと
二人の幸せを祈る心持になってしまった
誰も分かってくれなくても、たった一人心が通い合う人が居て、
ただいまとおかえりを交わせる、待つ人が居る家が持てたらそれで十分。
ささやかな幸せがあれば、生きる力が湧く、生きようと思えるんだな。
ハピエン。
▶少年ボーイズクラブ
フェイクファーと一転して、コミカル。
性癖に悩む少年の想いが叶う、可愛いお話だった。
サッカー部のスター選手、五反田君は逸材。見目好し、スポーツ万能、成績良し。
その頑張りの原動力は、性衝動の昇華。
悩んだ末、自分を嫌う部活メイトに相談をすることに。
嫌いは好きの対ですもんね。
楽しい思い出を作って、青春を謳歌してください、という読後感。