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『しのぶれど』のカバーに一目惚れした作家さま。『秘すれば花』も拝読しましたが、お耽美です。歴史物オンリーで現代を舞台にした作品には出会っていません。イメージでたとえるならば絵柄から高畠華宵の世界を彷彿とさせます。
表題作は二・二六事件をモチーフに、『しのぶれど』に登場する高橋と桐島の悲劇的結末が描かれています。先の作品は陸軍士官学校での二人の出会いと友情が描かれた物語で、ちょっとコミカルで笑えるシーンもちらほら。あの二人が…と思うと物凄く辛い最後ですが、二人の間には愛に勝るとも劣らない、強い絆が確かにあったことが窺えます。
「古痕」は桐島が十四歳だった頃、叔父との間に起こったエピソード。子供の頃から可愛がってくれていた母方の叔父は桐島が敬愛する軍人で、多大な影響を受けた人物でもあった。しかしシベリア出兵を経験し変わり果てた叔父は、無垢で真っ直ぐな桐島を汚してしまう。
芸者だった母親譲りの美貌で、軍服より紅絹が似合うと言われた桐島は、置屋で育った子供の頃から己の宿命を自覚し受け入れた男でした。その潔さ、度量、意志の強さこそが同性をも惹きつけたのかもしれません。
「青蝉」「患者H」は軍医と少年の恋物語。ショタ臭プンプンですが、時代物の初恋・相思相愛・溺愛モノということで…。十四歳の時、蝉取りをしていた林で自称医師に犯された大樹。奥手すぎた彼には嫌な思い出とはならず、むしろ、医師のことが忘れられずにいた。その後、学徒出陣で南方へ出兵し重傷を負った大樹は、野戦病院でその医師と再会する。終戦後小児科医として開業した彼の下で大樹は看護士として勤め始めるも、男の子の患者にだけは妙に優しく念入りに診察を行う医師に、ある疑いが…。
ショタ好きな医師の浮気を疑う大樹が可愛く、二人の誤解にきゅんとしてしまいました。
「紅蕾」。源義経と平敦盛。コレですよコレ!歴史好きなワケではないんですけど、腐道の入り口が歴史物だったのもあってですね、弱いんですよね〜。
学生の頃、趣味でお能を齧ってたもんで、敦盛と直実はちょっとだけ腐妄想したことあるけど、敦盛と義経のカップリングなんて妄想したことなかったよ…。ちなみに作家さまは「乱刃」で弁慶受けを描いていらっしゃって、腐から離れていた当時のアタシはまだまだ掘り下げが甘かったんだわ…って懐かしくなっちゃった。
ってことで、敵対関係、年の差、一夜限りの契り、美男同士。もしかしたら萌えの原点かもしれないです。絵が美しいのもあって、あんなに短い絡みのシーンなのに読後の妄想が止まんなくって困りました。
【白の無言】・・・・226事件を背景に、すばらしい時代考証が戦前の重苦しい時代を耽美に描いております。陸軍士官学校に通う成績優秀な二人の美青年 軍人の父の愛人ー芸者の子桐島と高級官僚を父に持つお坊ちゃま高橋の青春時代、黒髪・めがね美青年桐島がひたすら犯されるかわいそうなお話です。
どんなに犯されても、凜として自分を曲げない強い桐島に惹かれる高橋、おぼっちゃまの高橋がもっと強ければ悲劇的な最後にはならなかったのにと思います。
【古痕】・・・・上記の作品の続編です。桐島の子供時代、生い立ちです。
芸者の置屋で生まれ育った霧島は、軍人であった義理の兄と仲良しです。でもシベリア出兵で招集されて、帰ってくると別人のようになり、つらくあたるようになり、ついには純真無垢な桐島を犯してしまいます。犯されてもその心は変わらず、凜とした目がたまらなくセクシーでした。
【青蝉】【患者H】・・医者と助手のかりそめと、古き良き時代のセクシュアルな行為を描いています。戦後のお話がメインなので、ほのぼのとしたコメディータッチで描かれます。
【紅蕾】・・・平安時代の 義経と清盛の甥との美しく耽美な時代絵巻です。
筆も細やか、着物の柄もすばらしく時代考証が大変素晴らしい
昭和初期、士官学校で共に高め合う2人、強くて気高くお耽美!!
この時代の男子感がなんとも…重苦し。
もう1編の軍事物は総ツッコミしたくなる振り切れ方、
義経×敦盛は麗しく、濃ゆい世界でした…
表題作はもう少し感情、腹の内で思っていることを知りたいところだれど、
安易に口にするものでないって、この時代特有の日本男児感にも感じられ…耽美!!
めちゃくちゃ、ずーーーん。って気持になりました。
それはそれで心地良いんですが!!
幼年学校時代を描いた「しのぶれど」はコメディ風らしく、
レビューを拝見すると過去を知れて良かったと本作の雰囲気のままでいたかった派があり読むかどうか悩ましいところです。
あと、本作は2004年刊だからか、Rentaでも白抜きでした…
そこまで気にならんかったけど、けど!!
麗人25周年記念小冊子にも入ってて、そちらは手まで白抜く雑修正…
小冊子だからか、シーモアだからかは謎だけど、泣いちゃいました。
これが耽美っていうものなのか、よくわかりませんが表題作の他の作品にも壮絶な色気を感じました。作画のせいでしょうか?
ところどころ、ふざけてるのか本気で描いているのかわからないような場面もあるのですが、全体的に物悲しい美しい作品でした。
すべて歴史もの。しっかり調べ上げて描いているのか文字の書き込みも多いです
残念なのは、電子書籍でその文字がつぶれてしまっていることです。
初読みの先生でしたが、他作品も読んで行きたいと思いました。
【白の無言】
陸軍士官学校を舞台に官僚の息子である高橋と芸者の息子の桐島という二人のお話です。
高橋が幼い頃好きだったという絵本の「聖・セバスチャンの殉教」これを見たときに、お!と思いました。
そして優秀な桐島が将校たちに陵辱される姿を覗き見てしまった高橋が思い重ねるのはまさに聖セバスティアヌスの姿。
聖セバスティアヌスはほぼ全裸&たくさんの矢で射抜かれた姿で描かれる事が多い聖人で、痛いはずなのに苦悶ではなく恍惚の表情を浮かべている作品も多数存在します。絶対にこれ信仰心目的以外でも描かれているよなぁ…と思う事が多々あり以前調べた事があるのですが、やはりそういう何かを見出された結果、歴史上で一番古いゲイ・アイコンとされていたり、ゲイの守護聖人とされていたりするらしい。そして三島由紀夫がコスプレしていたり…。
聖セバスティアヌス=ゲイの隠れアイコン=三島由紀夫=男色。私の頭の中でこう繋がりまして、もうBLというよりも男色を強く感じました。(と思ったら作家さんもあとがきでそのように書かれていらっしゃいました。)
そして桐島と将校達との交わりを目撃してしまった高橋は混乱と失望の勢いのまま桐島を力づくで抱いてしまうのですが、桐島が達した際に発した言葉は「大日本帝国万歳」。
「大日本帝国万歳」ですよ。衝撃を受けました。
こんなBL読んだ事ないなぁというのが正直な感想です。
でも現代ものの作品には存在しない、古き日本男児の美学に満ちています。それが最高潮に達するのはやはり最期だと思います。何も言わずに散っていく…。
【古痕】【青蝉】【患者H】はショタが少し入っているので流し読みで終わってしまいました…。ゴメンナサイ。
【紅蕾】
義経と清盛の甥との美しくて悲しいお話。これが一番好きです。
答姐の「ちるちるのランキング圏外だけど、心の琴線に触れた作品を教えてください」で教えていただいたのが、こちらの作品です。
片割れが死んでしまったりするバッドエンドは苦手なのですが、バッドエンドというよりも悲恋ものといったほうがいいかもしれません。
【白の無言】も【紅蕾】の二人も時代が異なればあのような結末にはならなかったのかもしれない、二人で仲良く暮らせたのかもしれない…なんてぼんやり思いましたが、読後感は悪くなかったです。
それは事故などに巻き込まれて不本意に死んでしまうのではなく、散り際が美しく覚悟を持って死に臨んだ、死を迎えたという事で切腹の美学に通じるような、美意識を感じさせるものだったからかもしれません。
おすすめされない限りきっと手に取る事はなかったであろうこの作品を読めて本当に良かったです。教えてくださり本当にどうもありがとうございました。