電子コミック限定特典付き
先輩を追うストーカー×先輩に変身できる不思議生物!?
『この作品がBLアワードにノミネートされなきゃ死ぬ』で紹介された後、気になって気になって仕方なく「もうコミック作家の新規開拓は止めよう」と決意していたんですけれども(我が家の本棚が「やめて……もう、ムリ。あふれちゃう」って言っているんですよ)本日、ふらふらと購入してしまいました。
あー、買って良かったですよ。
短編が4作と表題作の後日談が入っている短編集なのですが、全て一筋縄ではいかない捩れぶり。
おまけに酷く拗くれているだけではなく、人の必死な想い、それも恋心を突き放す様な乾いた感じがある。
そのくせ、お話のラストには、人を好きになることの哀しさが滲み出てくる。急にウェットになるんですよ。さっきまでカラッカラに乾いていたのに。そんななお話のオンパレード。
こういうの大好き!
表題作のみ感想を。
すっごい昔の名作少女マンガ(実写ドラマになったこともある)の脇役が発する科白で「君が誰を好きでもそれは君の自由。僕も自由に君が好き」というのがありまして、私、これを読んだ時に「うっわー、良い科白じゃないかーっ」と感動したことがあるのですよ。
でも、大人になって疑問に思う様になったんです。
想いが通じない相手をずっと好きでいるのは良いけれど、段々と『その人』ってリアルから離れていかないか?どんどん頭の中で『その人』を作っていっていないか?って。
台風が過ぎた後に景介の家のベランダに落ちていたブヨブヨした謎の物体。
これが『何にでも姿を変えられる謎の生命体』なんですよ。
何かから逃げているその物体を家に棲まわせてやる見返りに、景介はそれに学生時代から片思いして失恋し、今はこっそりストーカーしている先輩の姿を取らせ、身代わりにします。
(ついに身代わりだけでは満足しきれなくなってしまったのか)先輩の留守を見込んで家を覗きに(?ドローンらしきものを買った描写あり)行った時、いないはずの先輩と鉢合わせしてしまうのです。
そこに登場する『ブヨブヨ』!
このラストで、景介は初めて『ブヨブヨ』が『都合の良い道具』ではなく『意志を持った他者』だと気づいたんじゃないのかな?
考えてみれば、景介がずっと頭の中でいじくり廻して、恋をした気になっていた『先輩』だって、実は『都合の良い道具』だったんじゃないかと思うのです。
だから、それまでの景介は、1人で、思念の中で遊んでいただけ。
よく解らない、それも「なんだ此奴、全く訳分かんない」っていう様な他者と出会って、訳が解らないなりに「相手の心に触れたんじゃないか」という一瞬があって(まぁ、それが錯覚だったっていうことも、ままあるのですが)それで、自分の心も大きく動いちゃう。
私は、恋に落ちるってそういうことだと思うんです。
たった42ページのこの短編のラストで、恋に落ちる音が確かに、私の耳に聞こえました。
本棚には怒られると思いますが、この作家さんを追っかけようっと。
短編集です。
・人間×溶けたり好きなものに変身できる謎の生命体
・天使×殺し屋
・人狼×サーカスの踊り子
・アンドロイド×人間のペット
という四つの組み合わせの短編集で人外ばっかりだったなぁと思ったけど、そりゃそうか。
レーベルが人外BLのcomic marginalだもんね。読み終わってレーベルに気づいた時に、自分の感想の間抜けさに気づきました。
どれもちょっと一筋縄ではいかないというか、若干狂った世界観みたいな中で人と人外が寄り添っていくようになるお話ばかり。
そしてどのお話も今まであまり読んだことがないというのかな、作家さんの発想力、アイデアすごいなぁって思いました。
四つのうちの表題作が一番好きだったのでこちらのレビューを。
【とろける恋人】
人間×謎の生命体
台風の翌日、ベランダで発見したブヨブヨとした謎の物体。
その物体は何にでも変身可能なので、大好きな先輩に姿を変えて過ごすことを条件に家に置いてやることにします。
そしてブヨブヨにリクと名付け、先輩の姿に変身したリクを毎晩抱く景介だけど、それはあくまで代用品。
どうしても本物がほしい景介は犯罪覚悟で先輩の家に侵入しようと向かったところ…。
景介を悲しませるやつの方が謎の生き物だというケイの言葉。
謎の生き物にこのセリフを言わせる作家さんに物凄いセンスを感じました。
そしてブヨブヨでええで、と言って先輩でも人間でもない元の姿に戻ってのキスシーン。
絵面として美しいとは言い難いけど、だからこそその気持ちのやり取りが意味を持っててジーンときます。
キャラの名前間違えた!
レビューを読んでくださった方、ごめんなさい!
「景介を悲しませるやつの方が謎の生き物だというケイの言葉。」
という箇所のケイは間違えで、正しくはリクです。
ケイって誰よ…
なんとも強烈な表紙ですが、内容も負けず劣らず強烈でした。
短編4作+表題作のその後を描き下ろしです。
全て人外と人間と言うカップリングで、どの作品もどこか歪んでいてシュールです。
ある意味とても純粋で悲しい人外達。そして歪な人間。で、ホッコリさせてくれるラスト。
内容の割に読後感が良いのは、このラストでの絶妙なハズシがあるからだと思います。
イラストも可愛い系で好みでした。
「とろける恋人」
好きな先輩をストーカーしている景介。
台風一過の一ヶ月前、ベランダに謎のブヨブヨが現れます。
自在に姿を変えられる「ブヨブヨ」にリクと名付け、大好きな先輩に変身させては抱く日々。
そんなある日、本物の先輩に再会しー・・・というものです。
景介はかなり歪んでいて、実の所、何故リクが景介を慕うのか良く分かりません。
なのですが、リクと景介の奇妙な同居生活が、シュールでありながらどこか愛を感じさせるものなんですね。
そしてエロがページ数自体は少ないのに、なんだか凄くエロい。
抱いてるのは景介なのですが、リクが「抱いてあげてる」と言う印象を受けます。
最後は景介が本当に大切なものに気付いてと言った所ですが、ここまで掴み所の無かったリクの本音の部分に凄く胸を打たれます。
描き下ろしの「その後」では超甘々エッチを読めますが、気持ち良すぎて溶けちゃうリクがエロい・・・!
この二人は、ずっとこんな風に過ごしてくんじゃ無いかと思わせてくれる、なんとも不思議な読後感でした。
「天国の底」
無邪気な顔の裏に、冷酷な一面を持つ天使のシルベーヌと、心を殺しているような殺し屋・江崎。
江崎の殺した人間を天国に導く為、二人は行動を共にしていますがー・・・。
天使×殺し屋です。
こちらも何とも不思議な雰囲気。
起承転結で言う「転」の部分がかなり衝撃的です。二人の関係に萌えただけに、この「転」では強いショックを受けました。
こちらもラストがとても意味深。
黒くなってしまったシルベーヌの翼は、何を意味してるのかー。
ただ、江崎がここで初めて見せる笑顔に、ハッと引きつけられました。
「サーカスも夜半過ぎには」
サーカス団に入ったばかりの新入り・ルーチェと、無口な猛獣使いのヤン。二人は徐々に打ち解けますが、団長の部屋にルーチェが呼ばれ、踊り子デビューした時から、ルーチェの表情に影が差しー・・・というものです。
こちらは人狼×踊り子です。
実はこの作品が、一番正統派とも言えるものでした。
追い詰められていくルーチェがかなり痛々しいです。そして、ヤンがちょっと情けない・・・(´・_・`)
ただ、希望に満ちた素敵なラストです。
「noisy jungle」
アンドロイドが人間に取って代わり、人間が「ペット」として飼われる世界。
主人であるアンドロイドのユメオと、ペットの人間・ポチ。
禁忌と知りつつ、ユメオはポチを抱いていてー・・・というものです。
設定自体はかなりシュールながら、とてもほのぼの甘々な作品です。
アンドロイドであるユメオが、ポチを抱きながら「生きている」反応を愛しく思っている所が、妙にエロい。
ペットにお金をかけ過ぎて、自分のメンテナンス代にお金を回せないユメオが、ダメダメながらホンワカしました。
正統派とはズレている作品ばかりで、好き嫌いは分かれるかもしれません。
ただ、どんな感情であれ、読み終えた後は心に「何か」が強く残ると思います。
凄く独特の感性を持たれている作家さんみたいなので、ぜひ丸々一冊長編で読んでみたいと感じさせられました。
どんなアブノーマルなお話かとドキドキしていましたが、どのお話も純愛でした。
やり過ぎちゃっているけれどそれも愛ゆえに。。歪だけれど純愛で、だから切ない。
特に表題作のブヨブヨがとても可愛かった!!
そのままでいいよって言ったブヨブヨとの抱擁シーンには思わず胸がジーン。
謎の生命体の謎は全く解明されないまま終わるのですが、ブヨブヨのご主人様愛が凄くて!
豆腐になって反省には吹きました!
作者様も最初攻受逆にしようかと思っていたとおっしゃっていましたが、受けのブヨブヨの方が精神的に攻めっぽかったのも良かったです。
他の作品はどこかデジャブ感がありました。
天使のお話の展開にはビックリしましたが。
どこかダークで癖になるファンタジー作品達でした。
たまたま人外もののコミックを読むことが何冊も続いたのだが、その中で本作がダントツに面白かった。
中でも謎の生き物(ブヨブヨ)との日常を描いた表題作と、アンドロイドが人間に恋してしまう「noisy jungle」がお気に入り。
表題作の主人公(人間)は、ノンケの先輩に片思いしていて、過去にはっきり気持ちを拒絶されている。そんな彼の前に現れた謎の生物ブヨブヨは、どんな姿にも変幻自在。先輩の姿になったブヨブヨは、主人公に抱かれるうちに恋心を抱くように。
とにかく、ブヨブヨの一途さ、健気さが切なくてたまらない。
ブヨブヨが主人公の好きな人の外見になれたからいいけど、これ、ずっとブヨブヨのままだったらどうなってたんだろう…。
しかし相手がなんであれ、自分を情熱的に想ってくれるその気持ちを受け止めてやる、というところに深い情のようなものは感じられた。
「noisy Jungle」はちょっとブラックな世界観が面白い。アンドロイドが世界の中心で、人間はなぜか知能が退化していて下等な存在。
主人公のアンドロイドは人間の男の子「ポチ」をペットとして飼っているんだけど、ポチのことを可愛がるうちに、なぜだか性的な意味でも好きになっちゃう。
アンドロイドは生殖行為はしないが、進化の過程で、コミュニケーションとしてのセックスを機能としてあえて残しておいたらしく、主人公はある日とうとう感情の赴くまま、ポチを抱いてしまう。
人間と機械の恋愛はよく見るテーマだけど、愛に目覚めた機械の視点からそれを描いているのは珍しいのでは。
ポチが可愛いしほのぼのと終わってるけど、機械の命はきっと永遠で、人間だけが歳を取っていくんじゃ…と不穏なことをつい考えてしまった。テンポがよく、こちらもほのかな切なさが残る読後感がよかった。