まるっと表題作かとおもいきや3本立てでした。
絵といいストーリーといい癖強めです。
表題作『二世の息子』
「宗教二世の男の子@因習村」といった感じのストーリーです。わりと予定調和で進んでいくように見えて予想外の展開。ラストはこれは何といったらいいのか。本人達がよければいいのかな……。
『夜は未だ明かぬ』
不憫な境遇の主人公がかわいそかわいいのですが、ラストはそうきたか。闇が深いのに爽やかな印象もあるような、ないような(どっち
『STAND BY ME』
前の二作がああいう作風だったので警戒心MAXで読みました。最悪の事態を想定していましたが、あらまあ!
巻末に『二世の息子』おまけ漫画とあとがきがありました。あとがきまで面白かったです。
冥花すゐ先生の『イトウさん』がお好きな方はたぶんお気に召されそうな作風です。
鶏BLです。
擬人化というよりモロに鶏なんですが、登場生物みんな人の形で表されているイメージ映像で物語が進む感じです。
自分のことを雌鳥だと思い込んでいる小柄な雄鶏のぴよちゃんと、住む処欲しさにぴよちゃんを騙す、立派な尾羽を持った雄鶏の同棲生活を描いたお話です。
お互いに固有の名前を持たなかったぴよちゃんと雄鶏が、「コッコ」「オット」と(←それも固有名とは言い難いのですが……)呼び合い、一緒に過ごしていくうちに、特別な間柄になっていきます。
ほんわかした絵柄とストーリーなのですが、元はといえばめっちゃビジネスライクな関係性でそこに愛はない感じなのが、歪な同棲生活を持ちかけたオットの方が先に絆されちゃって、コッコに愛を乞う感じなのが趣き深いです。
個人的には泣くほどではなかったですが、いいお話であることは間違いなく、続きを読んでみたい作品です。
旧版は買い逃したので新装版で初めて読みました。
春泥先生の絵が可愛くて好きです。80年代後半から90年代前半の漫画を思わせるレトロな絵柄なんですが、それでいて洗練されているのでいつ読んでも古臭くは思えないばかりかむしろ新しい感じがします。
そんな画風で本作はギャグも80年代路線です。笑いの瞬間最大風速すごいです。
でもって、主人公・中村くんが好いている同級生の広瀬くん、めちゃめちゃかわいい!! 360°どこから見てもちょうかわいい〜! 中村くんの審美眼、すごいぜ。これは惚れてしまうのも納得です。
ストーリーは、内気過ぎる中村くんが努力の方向性を誤りながらも陽キャの広瀬くんとあわよくば友達になりたいと頑張るというお話です。中村くんがなかなか広瀬くんとお近づきになれずにすれ違ったり、時々ほのかなラッキースケベ(※いうほどスケベではない)に見舞われたりし、なかなか初々しい感じです。甘酸っぱい青春ですね。
ガッツリとしたエロをお求めの人には向かないと思いますが、かわいい高校生青春BLが読みたい方にはおすすめです。
前情報0で読んだので知らなかったのですが、10年以上前の作品なんですね。「ホモ」「きもい」というワードが乱舞していることにまずビビったのですが、道理で。最近だったらそういう言葉は、差別をテーマにした作品だったとしてもよう書けません。ここ十年で随分倫理観が変わったんだなぁとしみじみしました。
ともあれ。
内容なんですが、まるっと表題作ではなく、登場人物が共通する二つの物語が収録されています。一つ目の話が表題作なのですが、タイトルの『ボーダー』はもう一つの作品とも共通したテーマとなっています。
『ボーダー』
疎遠になってしまった友人同士の再会ものです。高校教師の渡部は、友人の環がゲイバーでバーテンダーをしている事を知り、会いにいきます。しかし環には拒絶されてしまい……。
(作品の書かれた10年前当時の)成人男性として当たり前にゲイフォビアの染み付いている渡部の何気ない言動に傷ついていく環の心理描写が繊細でよかったです。渡部視点なので環の胸の内は言葉で説明されることはないのですが、表情や仕草などで伝わってくる。これが刺々しくも切なくて最高です。
『揺れる境界線の上』
『ボーダー』に登場する、渡部の友人でちょっと迷惑な感じの男・佐々木が主人公です。
妻と離婚して実家に戻った佐々木。家賃がかからないのをいいことに、風俗遊びに給料を注ぎ込んで遊び暮らしていましたが、年末年始は妹の友達が泊まりに来るということで家を追い出されてしまいます。そこで従弟の国見の家に転がり込むのですが、国見は佐々木に大してただならぬ想いを拗らせていて……。
常識人な渡部に増して強硬なゲイフォビアを持つ佐々木が、国見がゲイでしかも自分に気があるのを知っていながら、国見の家で彼を嘲るように好き放題していく。それには温厚な国見も徐々に怒りを募らせていきます。
国見がいつ爆発するのか、ハラハラと薄氷を踏むような気持で読みました。そして案の定始まる国見の逆襲がまた常軌を逸しているので、スリルを感じつつもこれはいったいどんな気持ちで読んでいけばいいの……と慄きました。『ボーダー』の方の佐々木があまりにも酷いので、わからせからのスカッとジャパンかなぁ、とか思うにはヘヴィーでした。
基本的に嫌な奴という面の強い佐々木ですが、彼の何気ない優しさや親切を感じる場面が染みました。
ストーリーも良かったですが、淡々とした文章が自分には合っていると感じたので、佐田三季先生の他の作品も読んでみたいと思いましたが、他はもっと重いのかぁー……そうかぁー………。
今回もトゥルットゥルな表紙は詐欺です。ところが表紙をめくると出てくるカラー口絵が沼助の真の姿でした。ありがたい親切設計、かと思ったらいきなりどシリアス展開だったので、試し読みをした方はかえって勘違いしそうでした。
沼助本気じゃん。ですが2巻もカッコいい沼助はそんなにいません。大概「アッーーーー!」ってなってます。1巻よりはシリアス多めですが、シリアス・シリアス・エロ・エロ・エロ・シリアス・エロ・エロ・エロ・シリアス・エロエロエロ! くらいの配分じゃないですかね。数えたわけではないので、しらんけど(しらんのかい)
沼助の舎弟の錫虫がいいキャラしていました。まだ子供の時分に沼助の色気に当てられてしまったからか、自ら沼助に何かする気はないけれど、その代わりに窃視趣味を拗らせてしまっているところが、業が深くて大変結構だと思いました。あと、幕間のおまけページの「キュンです」が最高に萌えるやつでした。
2巻で完結はちと淋しいですが、大変面白い物を読ましていただき、満足しました。
表紙がさりげなく詐欺なんですよね。ツヤツヤすべすべな美丈夫忍総受は、そこにはありません。なんてこったい。あるのは無駄毛豊富で少々やつれたベテラン忍者とご家老の大人なくんずほぐれつです。時々妖艶な殿も出てきますが、時々なので、大体まぐわひの絵面がき……いや、趣味人向けです。
忍者の沼助の真面目さ加減がかわいそかわいいです。忍者としての有能さがギャップ萌え。
それにしても忍者BLって、どうしてこうもイロモノぞろ……ゲフン! 面白いのでしょうか。
知らないうちに続刊が出ていました。すごいな、このノリで1巻以上引っ張るのは。
同時収録作品は義賊と岡っ引きのブロマンス風味のしっとりとしたホラー? のような何かです。うってかわって情緒のあるいいお話です。
若干人の心が解らないめの海✕モテる陽キャで内面可愛い春。という幼馴染男子高校生ズのBLです。
ひたすらDKの青春BLの王道のど真ん中を行く作品です。タイトルに反してあまりすごい事は起きません。一つ一つお約束を踏襲していきます。
ビジュアルといいストーリーといい、いかにもな感じなのですが、この手の話につきものの、自分一人でネガティブマインドをぐるぐるこねくり回した結果破局しそうになるという大ピンチが、案の定起こりはするものの、なんかさっぱりしてる!
というのも、春の頭の中がめっちゃフワフワしてるのと、海に人の心が乏しいめなので、悲壮感が出ないんですね。
そうして、嫌な気持ちにならないまま快適にサクサクと読んでいって、このまま恙無くラストかなぁーと思ったら、まあ!
何の前触れもなく海が春の◯に◯◯を◯◯たので、えぇーーーー! ってなって。
あなたそんな事しちゃうの!? マジなの!?
唐突なドラマチックに萌え転がりました。なにこれ可愛い。
可愛いといえば、時々コマの枠外に作者さんの手書きの一言が書き込まれているのですが、それが実に味わい深くて。さり気ない一言なのになんでこうじわじわくるのかなと。
ごく普通のDKもののBLなんですが、最後まで読んで振り返ると独特の雰囲気のある作品だったような気がします。
とにかくDKの青春BLを浴びるほど読みたい! という気分になった際には外せない一品かと思います。
以前フルール文庫ブルーラインの作品として出版された作品ですが、角川文庫として再文庫化されるにあたって大幅に加筆修正されたとのことです。
でもカテゴリー的には非BL作品となってもBLであることに変わりはないです。私はフルール版を読んだことがないので、どこがどう変わったのか比較は出来ないのですが、とりあえず商業BLらしくラブとこってりとしたエロがあるのは確かです。
といっても冒頭からBLっぽくない感じで、本編の最後まで一般文芸の雰囲気。BL作品は基本的にメインカプの2人のラブに収斂していくため、他の部分が削ぎ落とされる傾向があります。しかしこの作品では主人公・泉が長引く弟の介護により疲弊し心がささくれだっている様子など、恋愛以外の感情描写も細やかで豊富です。
なので、それがいいという人もいれば、リアル過ぎてしんどいとか不安になるという人もいるかもしれません。
ラブ要素以外の部分も歯応えのある読み物をBLでもじっくり読みたいかどうかで、評価は違ってくるかもです。
個人的には、本を読むからには読み応えがあるものが読みたいので、こういう作風は大歓迎です。
吾妻は学習塾の正社員になり、久慈はお父さんの本の巻末に載せるエッセイを執筆中。なので、なかなか会えない二人です。
そんな彼らですが、多忙に引き裂かれてすれ違い仲違いなんて事にはならず。なにせ大人なので! つまらない邪推をしたりだとか、ワガママを言って相手を困らせたりなどは、しないでのです。なぜなら大人だから!
互いに聞き分けのいい日々を送りつつも、暇があれば会って、一緒にご飯を食べて、セックスしてと、仲睦まじいのです。ほっこり。しかし前から思ってたけど、彼らけっこう性豪だなって。忙しいと益々盛んのような。
多忙な日々の間に挟まる、ちょっとビターなエピソードたち。わたし的に最もジンとしたのは、久慈と三上さんの別れのお話。なんて切ないんだ……でもそれはそうだよね……という納得感のある話でした。
それこそ死ぬまで付き合える関係性は「家族のような」ではなく「家族」くらいしかないわけで。しかし家族という関係性の最後は決して幸せとは言えないものです。幻滅と気苦労と後悔を長く噛みしめた末に、死によって終止符を打たれるもの。しかも、山のような残務処理を残して。
久慈も吾妻も既に父親を亡くしているので、遺された家族の悲しんでる暇もない苦労などもよく解っていて、だからこそ互いに遠回しに、時には直球で、相手に思いをぶつけることはあっても、お互いの関係性を確かに繋ぐような決定的な告白はできない訳です。
言うなれば自らもだもだで停滞することを選んだ二人。彼らがずっと一緒にいたいという気持ちを控え目かつ小出しにアピールする姿がほほえましいのですが、今回はかなりでかいのが来ましたね。それを目撃した原さんの役得ぶりが羨ましいクライマックスでした。