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生きる事に精一杯で、心を無くしかけていた主人公ー。
そんな彼が人の優しさやあたたかさに触れ、心を取り戻して行くと言う、とても素敵な作品でした。
月村先生と言うと、マイナス思考で傷付きやすい主人公を、繊細に優しく綴るのがとてもお上手だと思うんですけど。
今回も、まさにそのタイプの受け。
もう、読みながら完全に感情移入しちゃいまして。
スレ違い時には泣けちゃいましたよ。
くっ、健気過ぎるなー!と。
私は元々、受け大好き人間でして、彼等は存在するだけで尊いと思ってるんですよ。
でも、この子は別格。
尊い受けが居たよ~。
めっちゃ尊い受けがここに居たよ!!
ついでに、包容力があっていい意味で大人のしたたかさを持ってる攻めと言うんでしょうか。
上手い事、受けを言いくるめて自分のテリトリーに引き入れちゃうみたいな。
このタイプの攻めにも死ぬほど滾る為、瑠可にもめちゃくちゃ萌えさせていただきました。
内容ですが、ビストロオーナー・瑠可×天涯孤独の不憫な青年・葉による、心と心の繋がりを優しく綴った主人公再生ものです。
両親を早くに亡くし、中卒で働きづめだった葉。
怪我をして行き詰まり、疲れ切った彼が人生を終わらせよう決意した所からお話はスタート。
最後の晩餐にと以前から憧れだったビストロに訪れた彼は、貧血を起こして倒れてしまうんですね。
そんな葉に、無銭飲食の償いとして住み込みで働くよう、強引に決めたビストロオーナーの瑠可。
そんな二人が同居生活を送りつつ互いに心を通わせ、ちょっとした誤解なんかを乗り越えて結ばれるまでとなります。
こちら上手いのがですね、まず最初に葉がこれでもかと悲惨な状況に置かれてる所だと思うんですよ。
生きるだけで精一杯の状況で、心をすり減らし、疲弊しきっている主人公。
こう、投げやり状態なんですよね。
えーと、彼の居た環境というのは周囲も荒んでいて、誰しも余裕が無い。
だから、困っている人間が居ても、誰も手を差し出そうとはしないー、みたいな。
で、なんとも読者を高揚させてくれるのが、ここからの主人公救済ターン。
無銭飲食や立て替えてもらった病院代の支払いの為に、瑠可のビストロで働きだす葉。
瑠可ですが、すごく包容力がありいい男なんですよね。
迷惑をかけたくないと去ろうとする葉にですね、「無銭飲食の代金を労働で払ってもらう」「逃げたら困るから身柄を拘束する」とか言って、働く場所と住む所を提供するー。
で、健康になってしっかり働いて貰わないととか言いつつ、バランスの取れた美味しい食事を食べさせ、優しく見守る。
こう、無気力で疲れきっていた葉がそんな毎日を過ごし、周囲の優しさやあたたかさに触れるうちに、どんどん変化してゆく。
よく負の連鎖とか言いますけど、周囲がギスギスしていればどんどん本人も荒んでゆく。
でも、逆に周囲があたたかく思いやりに満ちていれば、自分も優しく出来る。
そんな葉の変化が丁寧に綴られ、なんとも幸せな気持ちにさせてくれると言うか。
と、そんな毎日を過ごすうち、いつしか瑠可に惹かれてゆく葉。
しかし、意識しすぎて態度が不自然になってしまうんですね。
そんな中、瑠可からプレゼントとして新しい新居ー自分のアパートの鍵を差し出され・・・と続きます。
こちら、図々しく居座り続ける自分にウンザリした瑠可が、出ていって貰いたいんだと葉は解釈します。
で、切ないんですよ。
瑠可の負担にならないよう、「自立出来る」と嬉しい振りをする葉。
一人で新居に向かう葉がですね、瑠可との三ヶ月を静かに振り返るんですね。
とても幸せだった。
生まれて初めて人を好きになれた。
自分の事にいっぱいいっぱいで、瑠可の気持ちまで思いやる事が出来なかったー、みたいな。
もう、一緒に泣けちゃって。
いや、そんな一生分の幸せを使い果たしたみたいに思わないでよ!
これから、もっもっと幸せにならなきゃダメなんだよ!!と。
と、結構切ない展開なんですけど、ここから超胸アツの展開が待機しております。
今度は「うひゃひゃひゃ」と萌え転がっちゃったりして。
それにしても、瑠可もまた気の毒な攻めではあるんですよ。
やる事なす事、裏目に出ちゃって。
彼はですね、格好つけて紳士ぶってたのが一番の原因だと思うんですど。
そう、意外といい格好しいなんですよね。
まぁ、好きな子の前では格好をつけたがる攻めと言うのも、個人的には好きですけど。
萌えちゃいますけど。
と、めちゃくちゃ萌えまくる素敵な作品でした。
ついでに、エッチ時には紳士の仮面をかなぐり捨てる攻めと言うのも好みでして。
これまた、激しく翻弄されて泣きじゃくってる葉が可愛すぎて悶絶でした(* ´ ▽ ` *)
あとがきによれば『小説ディアプラス』で、月村さんのデビュー20周年特集を組んだ際に書いたお話だそうですが、まさに「これこそ月村さんのエッセンスが充満されているお話!」でした。
健気で不憫だけれども、ひっそりと咲いている野の花の様な受けさんが(名前も『葉』だしね)世の中の酸いも甘いも噛み分けた(単なるスパダリではないというところがミソだと思うのです)王子様と出会って幸せを知る(これもね『幸せになる』のではなく『幸せを知る』というところが良いと思うのです)お話。
こんな風に一言で書いてしまうと身も蓋もないのですけれども、でもまたしてもあとがきから引用させていただければ「20年もやっていて、こんなになんの進歩もないなんて(後略)」と書かれておりますが、私はそれが『月村ワールド』だと思うのです。
これがファンにとっては「たまらない!」のですよね。
あらすじは既に詳しく紹介されておりますので、そのことについて思う処を書きたいと思います。
今作の始まり、葉くんはとてもつらい状況に置かれています。
両親を亡くしたため中卒で、非常に条件の悪い職場で働き、食べるものといったら常に食パンのみ。
一番問題なのは、彼を愛してくれる人も、彼が愛情を注ぐ人も、1人もいないことなんです。
唯一の楽しみは、近所のフレンチレストランを覗くこと。
そこには、食べたこともない美味しいものがあって、その美味しいものを楽しそうに食べている人達がいる。葉くんにとってそこは、自分には決して手にすることの出来ない『幸せ』の象徴なんです。
でも彼はそこを覗き見ることすら罪悪感を感じてしまうのです。「自分には幸せに触れる価値もない」と思っているからなんですね。
これ、私がイメージしたのは『マッチ売りの少女』なんです。
だからこのお話は私にとって『死んじゃう前に助けられたマッチ売りの少女が、自分は幸せになっても良いと理解するまで』のお話です。
だから『都合の良い展開』がいくら出て来ても白けないんですよ。
理不尽に貶められた健気な子が尊厳を取り戻すまでの寓話だと思うので。
このお話を読んで確信したのは、月村さんが『脈々と続いている少女小説の後継者』であるということ。それも極めて正統派の。
『赤毛のアン』や『若草物語』などに胸をときめかせた記憶のある姐さま方は絶対読んだ方が良い!
心の片隅にいる『少女』を激しく揺り動かす『20周年記念作』だと思います。
蛇足
私の入手した紙の本は『おまけペーパー』がssではなく月村さんへのインタビューでした。
これも大層面白かったんですよ。
これ、初回だけですよね?
月村さんファンは書店に急いだ方が良いんじゃないかな?
雑誌で読んでいていて、文庫化されると聞いて発売を楽しみに待っていました。
月村さんの、スパダリ・受け溺愛攻め×薄幸健気受けがお好きな方にはぜひ手に取っていただきたい。月村さんらしい、切なくも温かい、心が温かくなるハートフルストーリーです。
月村さんの発揮う健気受けさんは、ネガティブさんが多い。
今作品の受けくん・葉も超絶なネガティブくん。ネガティブすぎるとややもすれば反感を買いがちですが、月村作品のネガティブ受けさんは庇護欲を誘う。
ネガティブになってしまった理由が、きちんと描かれているから。
葉くんもしかり。
若干19歳ながら、彼は人生を諦めきっている。彼がその結論に至る理由が壮絶で哀しいです。
が、そんな葉くんがビストロオーナーの瑠可さんと出会い、恋をし、そして再生していく。
ありきたりといってしまえばあまりにありきたりなストーリーではあるのですが、過酷な環境で生きてきた葉くんが瑠可さんと出会い、少しずつ幸せを手に入れていく過程が繊細な描写で描かれていて、この作品が持つ世界観にグッと引き込まれてしまうのです。
序盤薄幸で健気な葉くんが可哀想で落涙し、そして終盤は幸せを手に入れた葉くんの姿に安堵の涙が。
ハンカチとティッシュが必須です。
そして瑠可さんの男らしさも。
彼自身ビジュアルのせいでつらい経験をしてきている。
さらりと描かれたその描写に、瑠可さんの根底を見た気がしました。
自分の辛さや悲しみを人への愛情に変えられる瑠可という男性の強さが、この作品に深みと想いを与えている気がしてなりません。
そして特筆すべきは木下さんの描かれた挿絵。
個人的に月村さん×木下さんのコンビって最高だと思っているのですが、今作品の木下さんの挿絵も最高でした。
優しく、温かい今作品のイメージにぴったり。
読後、表紙を見返すと気持ちが温かくなります。
やっとしあわっせを手に入れた葉くん。
ずっとずっと、二人で幸せでいてほしい。そんな読者の願いを具現化した素晴らしいイラストでした。
まさに月村ワールド炸裂。
誰にでも好みはあるので、好き嫌いは読み手が感じるものだけど、私は大好きです。
月村先生の作品の醍醐味のひとつ、ぐるぐるきゅんきゅんですね。
へんな勘違いや勝手な思い込みで、好きなのに離れてみたり、ここぞというところですれ違ったり。
ちょっとハラハラしたり、イライラしたり物語と分かっていても、ドキドキして引き込まれてしまいます。
毎回先生の作品を読んで思うのは、詠み手に分かりやすい優しい表現。
当たり前ですが、小説は少々の挿し絵はあっても文章ですから、絵なら一目見てわかるものも色々な言葉を並べて伝えますね。どの作家さんも素晴らしい表現をされますが、私は個人的に月村先生の言葉の使い方が好きです。
今回で言えば、瑠可の瞳を「カンロ飴みたいな薄茶の瞳」と表現されています。
私はこの文章がとても好きです。
また、ビストロ.Lucasの建物を「年季の入ったタイル張りの外装、ピカピカに磨かれた真鍮の取っ手がついた木製のドア、モスグリーンの日よけなどすべてが絵のようにかわいらしく、外壁沿いには花やハーブなどの鉢が並んでいる」と書かれています。
そこには文字だけしかないのに、まさにその情景が目の前に広がって来ます。
今回はビストロが舞台なので、様々なお料理か出てきますが、今目の前にないものを本当に食べたいと思わせてしまうほど、美味しそうに表現されて、これは空腹時には読まない方がいいと思ったほど。
そして主人公の2人、今時珍しいほど純粋で生真面目、小動物のような可愛さでその上可哀想な身の上な受けと、コックコートが似合う王子様のような攻め。
こんな出来すぎたことってあるか?と思いつつどんどん物語に引き込まれてしまうんですね。
BLにも色々なタイプがあると思いますが
月村先生のような、暖かみのある優しいお話はドキドキしながらも、最後に安心して読み終えることができ、幸せな気持ちになります。
そして毎回、2人のその後をいつか書いて欲しいなあと、欲張ったことを考えてしまいます。
次回作も楽しみにしています。
個人的に大好きなタイプの月村作品です。
描写や表現が映像的で場面や背景がくっきりと浮かんできます。
また、舞台がビストロなのでいろいろな料理が出てきてどれもおいしそうで、うっかり夜中に読んでしまうと我慢できなってしまうなと思いながら読んでいました。
建物もそこで働く人もとても素敵で、こんなお店があったらボロボロになった主人公の葉みたいに癒されたり安らげるような気がします。
きっと常連になります。
あらすじにあった『最後の晩餐』ってなんで?と思って読み始めたら、もうそれがすごく哀しい理由でおいしい料理を楽しそうに囲む幸せなど自分には関係ない世界の話と思っているけど一度だけ自分もそのまねごとをしてみたい、なんていう思いが健気すぎて胸が締め付けられました。
不憫な状況にあった葉が救ってくれた恩人に一気にのぼせ上がるんじゃなくて徐々に感情が変化していく過程があって気が付いたら好きになっているという展開が好みでした。
また、瑠可王子がちょっと強引なスパダリというんじゃなくて、優しく包容力があり葉の性格をよくわかったうえでそっとふんわりと包み込んでいくような愛し方がよかったです。
ブラックな職場でだれにも守ってくらえずどんどん状況が悪化してどうにもならないというのが現実にもあるという昨今、葉がいい人たちに出会えてよかったです。