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表題作甘くて切ない

西倫太郎
29歳,弟と2人暮らしの人気小説家
横室律
22歳,高卒で働くメガネチェーン店員

その他の収録作品

  • あとがき

あらすじ

ショッピングモールにあるメガネ店で働く律は、
幼い頃から不仲な両親を見て育ったため、
他人と距離をおき、ひとりで過ごすことに慣れていた。
そんなある日、ふとしたきっかけで
人気作家の西 倫太朗と知り合い、
高校生の弟とふたりで暮らしている
倫太朗の家に、料理を教えに行くようになる。
人と親しくすることを恐れ、誰かに恋することも、
触れられることもなく生きてきた律だけれど、
倫太朗といるうちに、やさしさや幸せを知るようになり!?

作品情報

作品名
甘くて切ない
著者
月村奎 
イラスト
yoco 
媒体
小説
出版社
大洋図書
レーベル
SHYノベルス
発売日
ISBN
9784813013211
4.1

(200)

(89)

萌々

(73)

(24)

中立

(5)

趣味じゃない

(9)

レビュー数
23
得点
814
評価数
200
平均
4.1 / 5
神率
44.5%

レビュー投稿数23

甘くて切ない、そして、とても優しい

ひっそり生きる孤独な主人公が、攻めのあたたかい愛情に包まれて幸せになるまでー。
そんな、ジンワリ心があたたまる、とても優しく心に沁みる作品でした。



内容ですが、人気作家の西×メガネ店店員・律による、日常系のしっとり優しいラブストーリーです。やや、痛くて切ないです。

ショッピングモール内のメガネ店で働く律。
親からの愛情に恵まれず育った彼は、人と深く関わりあう事に恐れを持っています。
そんなある日、律がファンの人気作家・西が勤務するメガネ店を訪れた事により、彼と知り合いになる律。
高校生の弟と二人暮らしの西の元へ、料理を教えに行く事になりー・・・と言うものです。

まずこちら、個人的に大好きな、包容力攻め×自己肯定感が低い薄幸受けになります。
で、キモになるのが家族との関係になると思うんですけど。

主役である二人が二人とも、家族との関係で問題を抱えています。
受けである律の母親ですが、巷で言われている「毒親」そのものだったりするんですね。
子供が自分より幸せになる事が許せず、常に言葉の暴力で支配し続ける・・・。
そんな母親に育てられた律は異常に自己肯定感が低く、人と深く関わり合う事に恐れを抱いている。

また、母親が急に亡くなり、高校生の弟の面倒を見る為に実家に戻ったものの、弟とギクシャクしている西。

う~ん・・・。
これ、同じ「家族の問題」ではあるんですけど、実はあまりに対照的でもあるんですよ。
互いを思いやるからこそ、上手くいっていない西の家族。
そして反対に、ひたすら自分を愛するが故、息子を傷付け続ける律の母親。
このへんが、とてもしっかり書き込まれていて、何だろう・・・。
読んでいて、何とも胸が苦しくなってくる。


で、そんな二人が偶然知り合い、少しずつ少しずつ距離を縮めて行き、恋をするー。
そして、結ばれる。
実を言うと、ただこれだけのお話になるんですけど。

ただ、律の存在により、ギクシャクしていた西と弟の関係が修復されるのがとても素敵なら、西の支えにより、律が母親との関係を絶ち切ろうと一歩踏み出すのに、とても心を動かされます。
テーマとして、すごく重いと思うんですよね。
正直、律の母親には、読んでいて腹が立って腹が立って仕方なかったりする。
そして、弟くんがズバッと母親に言ってくれるシーンには、めちゃくちゃ爽快な気持ちになる。
でも、西の言うように、母親は寂しい人間なんだろうとも悲しく思う・・・。
母親をただただ断罪するのでは無く、それでもこの関係から抜け出し前を向けるようになる主人公と、この落とし所がとても深い。


ところで、この家族の関係を軸にしながら、ちゃんと二人の恋愛も展開して行きます。
西ですが、かなりのいい男で包容力があるんですよ。
で、わりと策士の部分があるのも面白かったりして。
その紳士的な言動に騙されそうになりますが、結構強引に距離を縮めてきてるよね?と。
臆病な律が引いちゃわないように、言葉巧みに逃げ道を塞いじゃってるよね?みたいな。
律くらい臆病な受けには、この西のような包容力があって若干策士な攻めがピッタリなんじゃないでしょうか。
あと、弟くんも大変いい味を出してました。

ひとつ残念なのが、西視点が無い為、彼が律のどこに惹かれたのか若干分からない所です。
いや、ここで惹かれたんだろうなぁと言う印象的なエピソードはちゃんとありますが、どうせなら西の言葉でそこを読みたかったよ。

最後になっちゃいましたが、律は自己肯定感は異常に低いものの、健気でとても真面目ないい子でした。
この手の受けをうっとおしいと思わせず、逆に読者に好感を持たせられる月村先生って、相変わらず凄いと思います。

29

もうとにかく、この子に幸せになって欲しい

読みながら何度「りっちゃんを抱きしめてあげたい!」と思ったことか……
いや、私にそんなことをされたら律くんはとても困るだろうけど(笑)。

あらすじは既に書いてくださっているので、感想というか、思ったことを。
主人公の律は被虐待児です(もう大人になっていますが)。
これが実にリアル。

父は子どもに関心がなく、母は家族が上手くいかない鬱憤を子どもに転化するという、徹底的な機能不全家族の中で育った律は典型的なアダルトチルドレン症候群(そう言えば最近この言葉、聞かなくなりましたねぇ……ちょっと流行りすぎて拡大解釈された所為かしら?)です。
本来ならば『家族を成り立たせ、子どもを育てる』というのは親がすべき役割なのですが、親がその役割を放棄したものですから、親に代って自分がそれを引き受け、親との関係の中で必要以上に『良い子』になって、無意識のうちに家族(律の場合両親が離婚したので『母との』)関係を何とか繋ぎ止めようとしています。

おまけに律は離婚間際の両親が、愛のないセックスをしている場面を目撃しているんですね。
だから、性的な接触にも忌避感があるんです。
帯に『恋はこわい』という一文があるのですが、そりゃあ怖ろしくなるよね。
多分、律がこの経験をしたのは小学生の頃だと思うんですけれど、ただでさえ『性』というものに怖さを感じる年頃に、普段、猛烈な喧嘩をしている両親のそんな場面を見ちゃったら。

仕事でお客さんに「ありがとう」と言われるのが無性に嬉しいとか、休みの日には料理をしたり(それも『男の料理』じゃなくて『お袋の味』の料理なんだよ)ランチクロスを手作りしたり。
家族から得ることが出来なかったものを、取り戻そうとしていることなのかな、と自分でも思っている。ぼんやりとだけれど、自分が被虐待児だったって解っているんです。
でも、未だ自分にまとわりつき、毒を吐く母を捨てられないの。

そうなのよ、被虐待児の多くはこういう風なのよ。
どんなに賢い子で、解っていても、親を捨てられなくて自分が傷ついちゃう子がたくさんいる。
この辺がね、このお話はとてもリアル。

うわぁーん。切ねぇ……
「もうやめてくれー」って何度も思いましたよ。
「この子が幸せになるのなら、お話の整合性なんてどうでもいい。とにかく今の場所から救ってくれ」と思っちゃってねぇ……

いや、ちゃんとお話は整合性があります。
整合性どころか、倫太郎の律に対する接し方は素晴らしい。
彼の母を頭から批判するのではなく(これをやっちゃうと、親に対する愛を否定されたと思って離れていく子どもが多いのだそう)律が『そこに居るだけでいい』と包み込んでくれる。
かと言って『親の代り』をしようとする訳でもない。
ああ、倫太郎、良い攻めだわ。
まだ2月1日なのに、もう私の中では『2019年Best of 攻め』だわ。

私にとってはとにかく苦しい本でした。
なので余計、ラストの甘さのカタルシスは大きかった。
虐待で受けた傷はあっという間に解決する訳はないので、今後も律の気持ちは行ったり来たりするのでしょう。でも『恋は怖いものだけじゃない、優しいものだ』ということを知ることが出来て、少しずつ子どもの自分に起きたことを振り返れる様になるのでしょう。
いやホント、そうなって欲しいです。

月村さんの被虐待児に対する理解の深さに感動しました。

18

明暗のバランスが最高

月村先生初読みです。
あとがきで地味めな作品とおっしゃっていましたがとんでもない!
最高に優しくて暖かい、また月村先生の作品を読みたくなるお話でした。


主人公の律は母親の影響でひどく後ろ向きで母親と関わるたび鬱々としています。
こういった暗い部分を持っている登場人物が主人公だとその描写ばかりが繰り返され、分かったから先に進んでよ!ともどかしい思いをすることが多々ありました。
しかし律の場合はそんなことがなく、スムーズに読み進めることができます。
律母の毒親パターンが豊富なことも一因だと思いますが何より健児の可愛さと倫太朗の甘やかし具合が絶妙で、律と一緒に気分が上がったり下がったりするから鬱々とした場面もくどく感じないのかなと思います。


律の後ろ向きはプロ級です。
さすがと思わず感心したのは倫太朗から買い物に付き合ったお礼にと財布とキーホルダーをプレゼントされたシーン。
これはもう自分に気があるのでは!?期待しては駄目だと分かっていてもしてしまう!の一択かと思いきや、仰々しいお礼が必要なほど距離がある相手という選択肢が出てくる不思議。
言われてみれば考えられなくもないけれども!倫太朗の態度は!もう!脈アリでしょう!?
後ろ向きすぎて苦笑ものですが、そんな律が愛おしくもあります。
ほんとにいい子なんです。


母親との関係も絶縁やざまぁがあって欲しい所ではありますが、そうしないのが律でそうしようと言わないのが倫太朗なのかなと思います。
現状維持の様で大きく変化しているさまはかっこよく律の成長に感動しました。


「ありがとう」と言われる仕事が好きから始まり、根本は変わることなく+αの感情が芽生えて終わる筋の通り具合も好みです。


何か小説読みたいなー高評価だしこれにするか!とノリで購入した本でしたがとても良い出会いでした。

7

天使の生まれ変わりのような主人公

甘くて切ないお話は大好きです。
そのうえ薄幸な主人公が優しい人に出会って幸せになっていく姿を見ていくのはもっと好きです。
そんなキーワードに萌える人にお勧めしたい作品です。

主人公の律は、母親に産んで育ててくれた恩を返すためにどんな理不尽なことを言われ傷ついても嫌えない健気な子です。

毒親に虐待され賢く聡明なのに切り捨てられず、「大事にされている人は、大事にされるだけの徳を積んだ人」だから自分が誰にも大事にされないのは当然なのだと思いこんでいるところがとても悲しいです。

料理から手芸や手作り石鹸など素敵な趣味なのにそれを『あったかい家庭ごっこ』かもと自虐するところなど涙なくしては読めませんでした。

人から褒められたがり感謝の言葉が欲しくて仕事をする自分はあざとい人間で、よく思われたいがために親切にする感情を厭う律に、他者に認めてほしいと思うのは当たり前なことだよ、と言ってあげたくなりました。

倫太郎には、否定され続けてきたから自分さえも自分のことを肯定できなくなっている律の優しい心根を認め傷だらけの心を癒してくれたいいと思いながら読んでいました。
刹那的で今の幸せは長く続かないものだなんて思えないくらいに末永く幸せにしてあげてほしいです。

最後まで母親の身勝手で自分本位な性格や物言いは変わらずこれからも改善されることはないでしょうが、大人で心が広い恋人とハッキリ物言うその弟のおかげで少しずつ関係性が変わっていくような気がして安心できました。

5

茶系の表紙 白黒対比の挿絵 

yoco先生の絵に惹かれて購入、
白抜きの部分と描き込み部分、白黒の対比、内面描写を工夫されているな、と思った。

文学調の大人し目なタイトル、緩やかな展開、細かい心理描写 
飛び込みの一見客に、自分の眼鏡を貸す律。その人は、律が愛読する小説の作家だった。
律の手作り弁当を気に入り、ID交換、友人・・と、西に押されて展開していく。 
西兄弟との交流で、律は、毒母の虐待と共依存する自分に気付いていく。
「暖かい家庭ごっこを一人で再現」等の描写が沁みる。
恋を知る甘さ、気付きと脱依存の切なさを描く、いい物語だった。



横室律:ショッピングモール内のmeganeyaの店員。
「ありがとう」に飢えている。
・・不仲な両親の離婚、毒母のネグレクト。高卒で就職、独り暮らし。でも虐待は続く。
作家の西倫太郎のファン 
律の認識は、眼鏡の平凡。だけど、倫太郎は「コノハズク色の髪のたおやかな美青年」と言う。

西倫太郎:芳川賞受賞の若手小説家
「八乙女町の人々」を連載中
三か月前に母が死亡、実家に戻り弟と暮らす
律の素朴な全てが好き

西健児:高校二年
律に「下心があるの?」と初対面で兄の性嗜好を暴露。
兄に反発、律には素直。
※健児が居なければ、笑いのない内容になっていた。

3

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