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表題作すみれびより

西澤浩一郎,芙蓉の小6時の同級生で大学1年生
大町芙蓉,祖母の営む下宿屋で働く18歳

その他の収録作品

  • あじさいびより
  • ふようびより
  • あとがき

あらすじ

淡い恋の記憶と思い出の本を大切にする芙蓉の前に、初恋のひと・西澤が現れたことから……?
ひそやかに咲く、一輪の可憐な恋の物語。

作品情報

作品名
すみれびより
著者
月村奎 
イラスト
草間さかえ 
媒体
小説
出版社
新書館
レーベル
ディアプラス文庫
発売日
ISBN
9784403523724
4.2

(277)

(143)

萌々

(76)

(38)

中立

(14)

趣味じゃない

(6)

レビュー数
36
得点
1147
評価数
277
平均
4.2 / 5
神率
51.6%

レビュー投稿数36

初恋が大恋愛

大恋愛とは、この二人のことなんだと思えました。

物語の主人公、芙蓉は育児放棄され、汚れた衣服で登校することで小学校のクラスで浮いた存在になりますが、転校生の西澤は、そんな芙蓉に手をさしのべ、親切に接します。母親から愛されず、クラスメイトからはイジメられ、初めて自分に優しくしてくれる西澤に、芙蓉がどれほど救われたのか計りしれません。ろくに風呂にも入れない環境の中、西澤が芙蓉の手を握るフォークダンスのエピソードは、私も喉の奥が痛むほどで、12歳と思えないほど堂々として大人びた西澤は、芙蓉でなくとも好きになってしまいます。
後に芙蓉は祖母に引き取られ転校するのですが、大学進学を機に芙蓉の住む下宿屋にやってきた西澤と再会します。
再会を喜ぶ西澤と対照的に、芙蓉は西澤への恋する気持ちを隠すことに精一杯で、上手く会話も出来ず、不器用な様子がとても切なかったです。西澤は本当に気の良い友人といった様子で芙蓉と親好を深めようとしますが、ある日の雨宿りで、二人の関係は一変してしまうのです。狭い歩道橋の下で、急な通り雨をしのいでいる時、西澤に肩を抱かれて、芙蓉は真っ赤になって震えてしまいます。物慣れない子羊のような芙蓉に、さすがの優等生の西澤も理性が飛んでしまったのでしょう。触れるだけのキスをしてしまうのですが、芙蓉はパニックになり逃げ出してしまうのです。それから1週間、芙蓉に避けられた西澤は、キスのことを無かったことにして欲しいと言うのですが、芙蓉は無かったことになんか出来ないと涙を流します。芙蓉の18年の人生の中で、西澤は一番眩しく愛しい存在であったはずですから、さもありなん、というものです。芙蓉に嫌われることを恐れ、今まで通り友達でいたいと言った西澤も、さすがに観念して、芙蓉への気持ちを告白します。初めて会った時から芙蓉は特別な存在であった事、芙蓉に何かしたやりたいと思っていた事、転校してショックだった事、そして幸せに暮らしていれば良いと祈っていたこと。二人の再会は偶然では無かったのです。芙蓉の居場所を知ってからここに来ることを考えていた西澤。そんな情熱があったのかと驚かされました。芙蓉が転校するきっかけとなった、児童相談所への通告は、西澤の母親がしたものだった明かされます。通告をすれば芙蓉が遠くに行ってしまう事を恐れた西澤は、最初は反対したけれど、芙蓉の命にかかわることだと諭され、自分は何もできないと悔やんだことを告白する西澤からは、子供なりに一生懸命に芙蓉を心配し大切に想っていたことが伝わります。
芙蓉は生い立ちから、永遠に続く愛というものを信じられず、西澤とのこともいつか終わるものとしてとらえます。しかし、小学生時代のことをとても後悔しているクラスメイトや、芙蓉のことをとても心配していた西澤の母親、何年たっても、芙蓉との再会を心から喜んでくれる人達がいることを、もっと沢山知ってほしいと思いました。そして、普段はクールに見える口数の少ない祖母も、孫を心配する普通のおばあちゃんで、何年かたって初めて知る祖母の気持ちに、有り難うと言えた事は本当に良かったと思えます。芙蓉を弟のように可愛がる田上に、西澤との付き合いの中で、相談し甘えられることが出来るようになったのも、芙蓉にとっては大きな進歩でした。西澤に対しても、少しずつ、素直な気持ちを言葉に出来るようなりました。
一方の西澤は芙蓉にメロメロで、緑の精だのスミレのようだ等、バカップルみたいな甘々なセリフを吐き、始終チュッチュッするほど骨抜きなわけですが(笑)、芙蓉相手にはそれぐらいがちょうど良いのかもしれません。下宿屋の若旦那である芙蓉のため、ゆくゆくは週末婚に持ち込み、永遠の愛というものを教えてあげてほしいなと思いました。

22

すみれの賢さと佇まい

まず本を開く前に表紙のイラストがとても素敵で心惹かれます。
草間さかえさんのイラスト。月村奎先生の小説とよく合っています。
小説を読む際に個人的にはあまりイラストにはこだわらないのですが、あまりにもマッチングしていてこう言う効果もあるのかと理解しました。
それと冒頭に金子みすゞさんの詩が載っていて、それも作品に色を添えています。

設定としたらそれほど新鮮ではないかもしれないと感じましたが、とても透明感があって引き込まれます。とても静かで純粋な恋愛物語。
再会までの語りが絶妙です。

生い立ちゆえに自分の気持ちを前に出せず何に対しても遠慮ばかりの芙蓉、それにやさしく根気強く寄り添う西澤。
終盤までずっとそんな感じなんだけれど、それが自然というか二人の生活の中に読み手も入ってしまうような感覚。

芙蓉は母親に愛されなかった子供でしたが、西澤への想いが強くなればなるほど同性に恋心を抱く自分がマイノリティとして母と同じだったのかもと思うところが切なすぎて泣きました。

西澤の影響で少しずつ変っていけそうな芙蓉。
祖母の想い、西澤の想い、同級生の当時の気持ち、周りにいた人たちは芙蓉が気付かないだけでみんな芙蓉のことを想っていてくれていたのです。
自分の周りにいる人たちを理解するってことがどんなに大切かわからせてくれる物語でもあります。

元々涙腺が弱いのはわかっていたけど、人の想いに感動して泣きながら読んでました。

ラストのえっちシーンがなくてもいいと思えた小説は初めてかも。いえ、あった方が満ち足りた気分にはなりますが^^;…

はぁなんだこの感動は。
ちょっと泣きすぎて疲れましたぁ(T_T)でも心地良い疲れです。

17

ふゆき

りんさん
初めまして、こんにちは。コメントありがとうございます。
同じ感想だったとのこと嬉しいです!
芙蓉のおばあちゃんとの会話や西澤のお母さんとの会話にとてもほっとさせられて、二人はずっと一緒に幸せでいられるのだろうと満足感があったので、なくてもいいと思ったのかもしれません。
とにかく深い感動を受けました~。

りん

ふゆきさん、こんにちは。レビューに思わず大きく頷いてしまい、勢いあまって初のコメントしてしまいました。そうなんですよね、私もBL小説読んでいて初めてエッチなくてもいいかも!と思ったんです!私も泣きました~!

悲しいほど一途

まるで運命かのような再会。
何年も想い続けていた初恋の人が目の前にいる幸せ。
それまで不幸を絵に描いたような生活を強いられてきた芙蓉は
ほんの些細なことにも一喜一憂しドキドキと乙女のように心躍らせ
また冷静になるたびに切ない気持ちを隠すのに必死。

あまりにも真っ直ぐで透明で、時分より他の幸せを優先する芙蓉と
これまた真面目で明るく、自分に正直でありたいと思う西澤。
悲しいほどに一途な芙蓉が西澤のことを忘れるはずもなく・・・
読み始めはこの西澤、どこかで本性を現すパターンかな・・・
と思わなくもなかったのですが、読み進めるうちに
本当にいい人なんだ・・・疑ってごめんなさい・・と言う気持ちに・・
転校してきた西澤が、当時いじめの対象であった芙蓉を
大切な友達として仲良くしてくれたことが芙蓉の大切な宝物。
そして西澤にとっても芙蓉との出会いが運命を変えたことを知るのは
かなり後になってからのこと。
芙蓉を引き取った祖母が営む下宿屋で偶然のように再会する二人ですが
それが偶然ではなく、西澤の意思であり芙蓉を想うがあまりとった
かなり大胆な行動に、西澤の情熱を感じます。
大学に通う西澤の交友関係を知ることは、知りたくないことまでも
知ってしまうということを頭では理解していても心が揺れてしまい
自分の気持ちをうまくコントロールできなくなる芙蓉。
その気持ち、なんだかすごくわかります。
人にはいろんな付き合いがあり、いろんな交友関係があることは
充分頭で理解していても、悲しくなってしまう。
自分の知らない顔の西澤、自分の知らないところで
知らない友達と楽しそうに話をする西澤。
すべてに嫉妬の気持ちが芽生え、いけないとわかっていても意地を張り
素直になれない自分がいて・・・
そんな自分が嫌でたまらなくて・・・
真面目だからこそ、ちょっとのことで悩んでしまうんですね。

辛い過去を背負っている芙蓉が幸せになれるように
読みながらハッピーエンドであってほしいと願わずにはいられませんでした。
「初恋は実らない」ではなく
「初恋も実ることもある」に書き換えることができ
西澤との恋が実り、人並みの幸せを実感できたことにすごく安堵しました。
大切に使い続けてきた「雑草の図鑑」が、その図鑑から得た知識が
結果的に二人の共通の話題になり幸せを運んできました。
芙蓉のような子どもは、必ず幸せになる権利があると思います。
切なさと幸せが絶妙に混ざり合ったストーリーでした。

13

電車で読むのは危険(ネタバレしてるから絶対あとで読んでください)

 号泣するわけではないのですが、じんわりとくるので外で読むのは危険です。

 月村奎さんの作品はどれも好きですが、これは今まで読んだ中で一番好きかもしれません。

 今までだと、主人公を大人な攻が慈しんで愛して、自信のない主人公が自分でいいんだって思えるようになっていく、二人を中心とした世界だったと思うんですが、その愛情の範囲が祖母であったり住人であったり元クラスメイトであったりと、二人の外からも主人公の芙蓉に向かっていて、なんだか今までの作品よりも大きなものに包まれているような優しい気持ちになりました。

 もちろん読みつつも、普通はもっとドロドロした感情はあるはずだとか、こんなイケメンで優しい攻が何年も同じ人に恋心を持ち続けるわけはないとか、よごれちまった自分は思うわけですが、その反面主人公がこうして今生きているのはまぎれもなくまわりの人の愛情のおかげなんだろうなと、思うわけです。
 BLっていうか愛情の物語だなーと、BLって懐深いなーって、BLが好きでよかったなーとしみじみ思いました。
 
 あと、酔芙蓉の色の変化見てみたい!


 ただ……残念だったのは、近くの本屋さんで全然見つけられなかったこと。表紙がすごく素敵だったから、ネットで買いたくなくて店頭で見たかったのですが、大型書店まで行かないとありませんでした。都内なのに。もうちょっと刷って欲しい!

12

純愛。

月村さんが書かれる健気な受けって大好きなんですが、この作品の芙蓉もいい感じの健気さんでした。

自分が子を持つ親だからでしょうか。ネグレクトや虐待を受けている子どもを見ると胸が締め付けられます。芙蓉もネグレクトされ、「芙蓉は不要」と思い詰めるシーンには思わず胸が詰まりました。そんな中、まだ小学生でありながら芙蓉を助ける西澤くんはまさに漢でした。芙蓉を取り巻く環境は劣悪で、西澤くんのお母さんの判断も親目線で見れば正しい判断で、でも唯一の存在であった西澤くんを失った芙蓉が彼が貸してくれた植物図鑑だけを心の頼りにした芙蓉があまりに可哀想でした。

母親から引き離され母方の祖母のもとに身を置くことになった芙蓉。祖母が経営する学生寮に西澤くんがやってきて…。

ともするとネガティブすぎかと思うキャラですが、幼い頃から母親から虐待され「産まなきゃよかった」と言われ続けた芙蓉は心の大きな傷を負っていることからそのネガティブさに無理がない。植物図鑑を西澤くんの代わりであるかのように大切にしてきた芙蓉は植物が好きで、自分と重なるのか、名のある植物よりも道端に生えている雑草の方に心惹かれる、というのも非常に良かった。

芙蓉だけでなく、長い間気持ちを温め続けてきた西澤くんもかっこよかったです。小学生の時に芙蓉を助けたのはそういう理由だったのか…、という彼の執着ぶりも良かった。一見大人に見える彼が、芙蓉の事になると途端に余裕を失くしてしまうのも年齢相応で良かったです。まだ18歳なんだもんねえ…。

周りを固めるキャラも良かった。
無口ながら、陰で芙蓉に愛情を注ぐ祖母。
芙蓉を見守り、また大きな心で息子のすべてを理解してくれている西澤くんのお母さん。
芙蓉を可愛がってくれる田上さん。
心を閉ざしていた芙蓉は初めは気づけずにいたけれど、実はたくさんの愛情に包まれていた作品で、そこも涙涙でした。

草間さんの挿絵ということでふんわりした作風に合っていてよかったのですが、ただ、表紙の西澤くんがちょっと大人っぽすぎというか、オッサンのような、というか…。いや失礼。

タイトル通り、優しい、ふわりとした愛情に満ちた神作品でした。



11

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