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表題作流浪の月

あらすじ

幼い頃、家に帰りたくなくて、公園で声をかけてきた青年についていった更紗。自由にそして安全に過ごさせてもらったけれども、更紗の声は届かず、それは青年の罪となる。大人になっても更紗は「誘拐事件の被害女児」という事実を消すことができずにいたが、ある日恋人から実家に行く話をされて・・。

作品情報

作品名
流浪の月
著者
凪良ゆう 
媒体
小説
出版社
東京創元社
発売日
ISBN
9784488028022
3.7

(36)

(21)

萌々

(2)

(3)

中立

(4)

趣味じゃない

(6)

レビュー数
5
得点
126
評価数
36
平均
3.7 / 5
神率
58.3%

レビュー投稿数5

読みやすい文章と、心震えるストーリー

本屋大賞をとった作品は必ず拝読させていただいております。
今回は、凪良ゆう先生の一般小説が受賞したとのことで、
大変驚き、すぐに読み始めました。

ひとことでは言い表せないこの感情を、なんと表したらいいのでしょう?
憤りと怒り、悲しみと悔しさ……
私は主人公たち以上に怒っていると思う。
二人を非難する世間に、消えない傷を残すネット社会に……

9歳で両親を失った更紗は、伯母の家に預けられます。
自分を偽って周りに合わせる日々、従兄弟に性的ないたずらをされる夜ーー
唯一の居場所は公園であり、そこにはいつもロリコンと噂される男がいてーー…

大好きな父を亡くし、母親は更紗を捨て、恋人と出ていきます。
父をご飯、恋人をお菓子だという母にとっての更紗は?

そして、更紗は公園のロリコン男・文に連れられ、伯母の家を捨てます。
キッチリ型にハマった生活を送る文にとって、更紗は自由の象徴です。
目玉焼きにかけるケチャップ、夜中のDVD鑑賞、寝そべって食べるピザ……何をとっても文には刺激的で楽しかったと思います。

やがて更紗は行方不明女児として捜索され、文は性犯罪者として逮捕されてしまうのです。
性的なことは何もしていないのに?
望んで一緒にいたのは更紗なのに?

でも、これが現実……
文はロリコンの性犯罪者であるという事実と、本当はトラウマを抱えた繊細な青年であるという真実。

真実はいつも一つ!
そう言って、真実を暴いてくれる少年は、ここにはいないのです。
ただただ、事実があるのみ……
更紗が否定しても否定しても、誰も信じない。
いつまで経っても更紗はかわいそうな被害者で、文は変態男。

もう、この誰にも伝わらないもどかしさが悔しくて悔しくて。
憤って怒りが湧き上がって、涙は出るは震えはくるわでグチャグチャでした。

心の中で何回も従兄弟を殺した更紗と、女児を見つめるだけで何もしない文。
そして、いずれ更紗に暴力を振るう恋人。
誰が本当の犯罪者なの?

本作は、少女のはなし、彼女のはなし、彼のはなし、という構成です。
文と、彼を理解してくれる女性と少女のはなしなのです。
終章、「彼のはなし」は涙腺崩壊で文字がボヤボヤのまま読了しました。

そして、文の抱えている大きな秘密……それを知って心がザワザワ波立ちました。
男性らしくなれない己への不安、そして、(恐らく)X染色体をもつ文にとって、女性は畏怖の象徴だったのではないかと思います。

この作品を読んで、文と更紗の幸せを願わない人がいるだろうか?
少なくとも、私は二人の幸せを願ってやみません。
非常に素晴らしかったです。
男と女であっても、恋愛や身体の関係に終始しない、拘らないところはBL作家さんらしさなのかもしれないと感じました。

12

読後何かが胸につっかえたままになってる

映画化で興味を持った作品。観に行く前に読みたいと思っていた。サイン入り文庫版で購入。凪良ゆう先生推してる書店が通える範囲にあるって有難い。

主人公の更紗と文、本当に何も悪くないのに見事に誘拐監禁の被害者と加害者に仕立て上げられる。
19歳大学生男性と10歳の女児って組み合わせで、何を言っても決めつけられてしまう。
これが、19歳女子大生と10歳女児(もしくは男児)だったらこのお話の流れにはならない。

しかも、15年経ってもずっと犯罪者と被害者のレッテルが貼られたまま。
本当に何も悪くないのに、なんでこの2人はこんな目に遭わないといけないのか。でも、報道された表面しか知らない立場ならそう思い込むのもわかる。
序盤とラストに出てくるファミレスで話してる男子高校生達の反応が正にそう。

視点切り替えがある作品が好きなのですが、今作は、更紗と文どちらもの視点があり2人の気持ちがわかるのがとても良かったです。

逮捕された時の診察で性的な被害はなかったと分かったのに報道では出なかったのは、プライバシー保護が確立されていたからなのか。そのせいで、[監禁されていたずらされた可哀想な過去を持つ女性]のレッテル貼られてしまった。

更紗が同棲してる彼氏、亮くんの完全に嫌な人では無いけど、不快に感じさせる描写が絶妙だった。うわぁ、こんな彼氏と付き合いたくないし結婚したくないって思うけど、こんな男居るよなぁって感じ。

職場でも彼氏の前でも、自分を殺して生きてた更紗が文くんの前では10歳の更紗に戻っで楽しそうにしていた。文くんも更紗に秘密を告白して楽になれた。性愛ではない関係でもお互いがかけがえの無いない関係ならば一緒に支え合って生きていくのは正しい道だと感じた。

BL作品とは違ってすっきりハッピーエンドとはいかない読後だけど読んでよかったです。



ところで、余談。
更紗のエピソードでお父さんとお母さんが出会ったフェス、勝手に2006年FUJI ROCK FESTIVALのフィールドオブヘブンでのフィッシュマンズのライブかなー(違うと思う)私も泣きながら観てたよって思って読んだ。
更紗の思い出の映画トゥルーロマンスは、映画館に観に行ったよ。タランティーノ作品好きだったなー、なんて。更紗の父母は私と同世代だと思う。

0

読後感

先生買い、非BL本。どんなお話だろう?と全く予備知識なく読んだのですが「せっかくの善意を私は捨てていく。そんなものでは私はかけらも救われない」という帯のまんまでした。すごかった。ブルっとすると言えばいいのかな。ただ読後、どうしてもやるせない気持ちになるので萌どまりにしました。女子が主人公でも大丈夫、かつ正解のない、シリアスよりのお話が好きな方限定で超絶おススメです。凪良先生だもの、心情描写がすごいんですってば。めでたく重版かかったそうですので、是非。

気が向けば綺麗なカクテルを家であおり、自由に生きている母。仲良く親子3人で暮らしていましたが、父が亡くなり、母もある日いなくなり、更紗は母方の伯母の家に引き取られます。伯母の家はごく普通の家庭で、晩御飯がアイスなんてことは絶対なくって、更紗はちょっと窮屈。家に帰りたくないという思いは少しずつ積り、公園でよく見かけていた青年に、とうとうついて行ってしまいます。青年は堅苦しい家で育ったようで、自由奔放な更紗はどんどん青年の生活スタイルを解放していき・・・と続きます。

登場人物は
更紗(♀)10歳~。母に似て自由奔放な考えをする。
文(♂)公園で小さい女の子をよく眺めている青年。
亮(♂)更紗の恋人。実家に更紗を連れていきたいと言う。
伯母の家族、その他大人になった更紗の勤め先の同僚複数、同僚の子供(♀、この子は正しい)、文さんの恋人(♀)ぐらいかな。

**以下もうちょっとネタバレ

更紗と出かけた動物園で、文は誘拐犯として逮捕され、更紗は伯母の家族に対して自らを解放して施設行き。(良かった、ここで解放できて・・)高校卒業後、勤めだした更紗は、亮と付き合っているのですが、偶然文がマスターをしているカフェに行ってしまって・・・・というもの。

先生は、私が善いと思っていることは違う人にとっては善い事ではないということを伝えたかったのか、人の数だけ色んな生き方があって、それを横から口出しするなと伝えたかったのか・・・・分からないです。

更紗の選んだ人生は、更紗になりきると「それしかない、それ以外にどんな人生を選べというのか」というもので「良かった。それを選べて良かった」と本当に思います。文も色々回り道したけど「これで良かったんだよ!」とハグしたい。

ただ周りのクズどものその後が納得がいかない。そしてそんな納得いかない世の中である事はとっても良く知っている。勧善懲悪なんて本の中だけ・・・なのに、その本の中まで浸食されて勧善懲悪じゃなかったからツライのかもです。

すぐには消化しきれないお話です。念のため気力体力に余力のある時に読むことをおススメします。

7

NL ニュートラルな愛

少ないレビューの中で悪目立ちしてしまう事を恐れますが、それでも他の一般書レビューではなくこちらに書き込もうと思ったのは、普段凪良さんのBL作品を読まれている方々が今作を読んでどう感じるのか?もっと投稿が増えてほしいからです。私の既読は「美しい彼」シリーズのみですが…

木原さんの「ラブセメタリー」のレビューでちらっとタイトルをあげられる方がいるのですがこれは小児性愛者(かもしれない)人が登場します。ですがテーマにしたものではありません。
人に誤解され理解されないことについて。またその人の想像、固定概念で早合点されそのイメージ枠に押し込められてしまうこと。形容し難い愛について。
ミステリアスな部分と特異性のある噂で更紗より文の方が断然気になるので、真相が分かるまでまどろっこしさはありましたが、事件の表面と加害者被害者とされる彼らの心の内側、その奥はどれだけ違うかをやわらかく読みやすく描かれています。LGBTも受け入れられつつある今この二人の愛の形は読まれるべき本の中の一冊なのだろうと思いました。

気持ちを押し込め、それすら気付かない人も沢山いると思います。文ほど深刻な悩みや事件にならなくても、親や環境にがんじがらめにされて、ぽっと相手から出たたった一言を刻み込み。彼ら二人が相手を生かし許すように、きっと何をしてもいいし許してくれる人はいると思えるといいです。

ただ納得出来ない部分がどうしても気になり、素直に感動出来ずにいます。
更紗を匿ったときに叔母に連絡するか、部屋に居る時間を決めるとか。
更紗を愛していたはずの母がスッパリ男と逃げたこと、また事件時連絡をよこさなかったこと(海外行ったとか?)
文は母譲りのちゃんとした料理を作るのに、朝ご飯固定メニューはおかしいのでは。
アイスはこんなに表紙みたいにオッシャレに食べてないのではとか。
感動レビューの嵐の中で、良い作品なのは間違い無いのに、アカデミー賞の作品や大ヒット作が自分にはひっかからなかったときのような、自分が周りと違う置いてけぼりの感覚も感じます。自分の細かい所が気になって全体が見れない姑みたいな性分のせいか。

それでも幼少の更紗の寝顔をじっと見つめる、膝を抱えた黒い目の文は、はじめと最後で見方が変わるのに変わらず酷く孤独で、この本一番の印象的なシーンでした。

6

世の中の「普通」とは一体何なのかを問う作品

「【本屋大賞(2020年)】愛ではない。けれどそばにいたい−。再会すべきではなかったかもしれない男女がもう一度出会ったとき・・・」
・・魅力的な紹介のPOPに惹かれました。

「美しい・・」シリーズは、粘着気質の若干変態なファンが追いかけまわし、逆に居ないと喪失感が湧くアイドルから愛されるに至る、心理描写が面白くて、攻めの奇妙さが受けた作品。
・・私の好みじゃない変態が登場するので、キモくてダメだった。

この作品も、凪良先生の心理描写の本領と言えるのかも。
変なもの、奇妙なもの、普通でないものを描写することがとても上手です。観察眼が鋭い。

この作品だと、変なもの役は、加害者にされた「文君」
ちゃんと理由もあるのに、世間はそれを認めない。
酷いことに、文君にお世話になった女の子も弁明して庇わない(この女の子の狡さとも解釈できるキャラ、私はとても嫌い)

でもレッテルの基準となる「普通」って、何だろう?
世間の「普通」に抗えず、被害者という扱いになった女の子。
実際は違うのに、加害者になってしまった男の子。
二人の視点で物語は進行します。

心理描写が丁寧すぎて、不評を買っている一面も。
ファジーな村上春樹風とか、色々な意見が書評に投稿されていて、作品より、レビューの方が面白かった。

★ムカっときたのが「BL作家が本屋大賞」の、嫌味にとれる一文。
BLの方が、短編で書き上げる文章力と構成力が必要なのに、随分な偏見です。力量ないと、BLジャンルで生き残れない。マイノリティに愛の視点を向けるBL作品の多くは、倒錯系と言い切れない。正しく理解してほしいです。
オスカー・ワイルドの人生を知って、偏見と闘う難しさを知りました。

5

この作品が収納されている本棚

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