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表題作箱の中

喜多川圭(殺人罪・刑期10年)
堂野崇文(強制わいせつ罪・刑期10ヶ月)

その他の収録作品

  • 脆弱な詐欺師
  • それから、のちの…

あらすじ

堂野崇文は痴漢と間違われて逮捕されるが、冤罪を訴え最高裁まで争ったため、実刑判決を受けてしまう。
入れられた雑居房は、喜多川圭や芝、柿崎、三橋といった殺人や詐欺を犯した癖のある男たちと一緒で、堂野にはとうてい馴染めなかった。
そんな中、「自分も冤罪だ」という三橋に堂野は心を開くようになるが…。

作品情報

作品名
箱の中
著者
木原音瀬 
イラスト
草間さかえ 
媒体
小説
出版社
蒼竜社
レーベル
Holly Novels
シリーズ
箱の中
発売日
ISBN
9784883862924
4.5

(181)

(144)

萌々

(13)

(10)

中立

(7)

趣味じゃない

(7)

レビュー数
30
得点
809
評価数
181
平均
4.5 / 5
神率
79.6%

レビュー投稿数30

ひたすら一途でひたむきな不変の愛

先日、この『箱の中』と続編『檻の外』が収録された決定版が一般書として文庫化されました。そちらの方で、一般書としての『箱の中』について書かせてもらったので、ここでは収録されなかった短編・番外編を含め、作品自体について書きます。

BL好きで、この作品をまったく読んだことがないという方は、ノベルス版で読むことをオススメします。2冊買うことになりますが、文庫版に収録されていない短編がとても重要になるので。

それでは本題。

10代で殺人罪を犯した囚人・喜多川と、彼の雑居房にやってきた痴漢の冤罪で実刑を受けた不遇の男、堂野。
この二人の出会いからはじまる「真実の愛とはなにか」を極限まで突き詰めたような物語。
泣きます。
号泣します。
涙なくしてはぜったい読めない。
号泣、という表現をつかうほど読書で泣くことってそうそうないですが、まさかBL作品でこんなに泣くとは思いませんでした。
それは、『冤罪』という屈辱を受けながら「死」を望むほどの理不尽な境遇に身をおく男の絶望感や、
同じ箱の中にいながらも、「自由を知らないから不自由と思えない」子供のような男がもつアンバランスな純粋さが、ありのまま淡々と描かれているからだと思います。
無駄に美化することも、逆に悲惨さぶることもなく綴られた文章は、刑務所という閉塞的で、規律と嘘と理不尽さにあふれた箱の中を表現するのに相応しい。

物語の前半、読者は堂野の不遇な運命に最大級の絶望感を感じます。
ただでさえ冤罪なのに、金を騙し取られ、懲罰を受け、風邪で死にかけ、人間不信に陥ります。堂野の身に起きることはすべて不幸、どこをみても同情するしかなくて、読んでるこちらも辛くてしかたありません。
「もうやめてあげて…」となんど願ったことか。

だけど、この底辺の底の底に落ちていく苦しみがあるからこそ、その後の喜多川とのぎこちないやり取りが胸を締め付けるほど切なく、温かいものに感じるのです。

喜多川は、親の愛を知らずに育った男でした。
親戚や施設を転々とし、大した教育も受けておらず10代で収監された。だから、物事を知らない。善悪もわからない。常識やモラルなんてもってのほかです。
だけど、それは知らないだけで、頭が悪いというわけではない。
「ありがとう」という言葉をもらう喜びを知り、それがほしくて堂野の世話を焼く。
そんな男の思考回路を知った堂野が、打てば響くが、精神的な「心」の部分で未成熟な喜多川に物を教えたくなるのは無理もないことです。

絶望感に取り付かれていた堂野を救ったのはそんな喜多川の存在でした。
感情を捨て思考を放棄し、言われたことをただ行う平穏をよしとしてきた喜多川が、人間らしい感情を覚え変化していく様は圧巻です。
そして、喜多川にとっても、この世のどこにも見たことがない誠実で真面目で優しい堂野という男は、生きる希望のような存在になっていきます。
大人はいろいろ複雑に物事を考えるけど、子供はまっすぐで単純です。
そんな子供のように純粋で、ストレートな思考で、恥もプライドもなく一生懸命に愛を伝える喜多川の姿は、痛々しくなるくらい必死で、涙がでてきます。

ノンケである堂野が戸惑うのをよそに、喜多川が愛していると囁いたときから、この物語は「ひたすら一途でひたむきな不変の愛」を描いた苦しく長い試練の話へと変わっていきます。

『箱の中』では、喜多川の愛は堂野に拒絶された形で終わります。

■脆弱な詐欺師
喜多川が出所後、堂野の行方を探す話。
ただ会いたい、という願いのために出所後、4年以上の歳月をかけて堂野を探し続ける喜多川。
そんな彼を騙してお金を稼ごうという小悪党な探偵、大江。
物語は彼の視点で描かれています。
第3者である大江の目を通して客観的に喜多川を描くことで、常識を超えた愛の深さが一層際立つわけです。
そして、給料の全て、生活の全てを堂野探しに費やす姿は、痛々しいほどなのに、当の喜多川が「気にするな」と平然としているのでたまらない気持ちになります。
『箱の中』で名脇役を演じた芝というキャラの計らいもあり、ついに堂野発見に至ります。
たまたま大江の悪事を知った芝が、何も気づいていない喜多川のために一肌脱ぐのですが、そんな芝の真の思惑を大江にだけ伝える場面がまた涙を誘います。
信頼している人間に裏切られるのは、しんどい。
…最後まで、大江を親切な探偵だと信じていた喜多川を守り通してくれた芝の優しさに誰を代弁するわけでもないですが「ありがとう!」と言ってしまうくらいグッときます。

■それから、のちの… (※文庫版、未収録)
大江中心の数ページの短編。
大江が後輩の探偵に告白されるエピソードを通し、うまくいかない現実の辛さを描いた話。


もともと監獄物が好きです。
ガッツリ刑務所を扱ったBLは、英田サキの『DEADLOCK』シリーズや、定広美香の『アンダーグラウンドホテル』などがありますが、どちらも外国が舞台です。
日本の刑務所を舞台にし、しかもここまで本格的に刑務所内を描いた作品ははじめてです。
架空のお話とは思えないほど作りこまれた人物たち。
手に取るように伝わってくる感情表現。
向き合うことを避けがちな「真実の愛」というものをとことん追求する気概。
これだけのものを描ける作家さんがいることに、そんな作品と出会わせてくれたBLという世界に、感謝したいと心から思った名作です。

《個人的 好感度》
★★★★★ :ストーリー
★★★★★ :エロス
★★★★★ :キャラ
★★★★★ :設定/シチュ
★★★★★ :構成

18

喜多川圭という男

「箱の中」「檻の外」の堂野と喜多川を初めて目にしたのは「ergo」シリーズの四コマ(寸劇)でした。木原音瀬さんの作品でも評価が高く、ランキング常連の作品なので大雑把なあらすじは知っていたものの、「ergo」の二人はとてもほのぼのとしていて、過去に色んなことはあったのだろうけど今は幸せな二人…という感じだったので――ううっ…正直、小説は読みたくなかったのです。だって辛そうなんだもの。というか木原作品だから絶対に辛いんだもの。しかも二冊読まないと報われない感じなんでしょう?…ううっ。

そんな折、某号の「ダ・ヴィンチ」で「BL界の芥川賞」と称されていたのを目にして…これは読まねばと思って遂に手に取ったのでした。前置き長い。

上下巻とも言える二冊を通して、5つのエピソードが4人の視点で描かれています。…4人ですよ。2人じゃないんです。まずこの点に唸りました。読み応えがある…なんてもんじゃなかったです。読み始めに大きく深呼吸。読み終えて大きく深呼吸。色んな感情が渦巻いて叫び出したくなるような、誰かと滾々と語り合いたくなるような、そんな小説でした。

私は、これは喜多川圭という男の人生をトレースする物語だと思います。そして上下巻の上巻であるこの作品では、起承転結で言うと人生の「転」(転機)に当たるお話が描かれています。純粋にこの一冊だけだったら評価は「萌」かなと思いますが、上下巻合わせて「神」にします。

生きていく先に幸せがあるのか――。喜多川ほど一途になれたら…と少し彼が、そして堂野が羨ましくなりました。

13

勘違いして読むと台無しになるので、おさえるべき所はおさえておきましょう。

とりあえずこの作品を読むにあたり、理解しておくべき点があります。
それは、この小説の世界が「BLを寛大に受け入れる世界ではない」ということです。

BL作品でよくあるのは、「男を簡単に好きになれる」「男同士で付き合っても周りから許させる」という世界です。

しかし現実の世界ではどうでしょう。

例えば男A(ゲイでもノンケでもいいが)が男B(ノンケ)に告白したところで、その人はAを受け入れるでしょうか?

ノンケが実生活において、男の人を見て
トゥンク…
「(な、なんだ…このドキドキは…)」
と顔を赤くして考え込むことはほぼありえません。

男が男を好きになるということは難しいことなのです。
この小説は、その現実世界のような感覚です。

その為、「男でも好きだ、付き合ってくれ!」「お、俺でいいのかよ…///」という甘い流れはありません。

そこはきちんと把握しておかないと、読んだときに「なんだこの受け…」とイライラすることになってしまうでしょう。


そして次に大切なこと、
それはジャンルについてです。

先程言ったように、これは「甘々♡」を期待して読む作品ではありません。
(むしろ結構シリアスな内容…w)
”男同士”をよく意識したうえで成り立つ物語です。

内容としては「BL小説」というよりは「小説(一般の小説)」寄りになっています。
その為、BLとは離れたことも多く書かれていますので「BLじゃない…」と感じてしまう方もいるようです。

しかし、この作品において議論すべきなのはそこではありません。

ネタバレは控えたいので詳しくは書きませんが、この小説を続編も含め最後まで読んだとき、感想は二つに分かれるでしょう。
簡単に言うと「好き」と「嫌い」です。
そんなのどの作品でもそうじゃん、と思うでしょうが、私が言いたいのはそうではありません。

ストーリー展開において、個人によってよりはっきり分かれるようなのです。
私は「好き」の方だったのでこの★5の評価なのですが、
「嫌い」だと思う方もでてしまうことには仕方ないと思うストーリーだと思います。
デリケートな内容を扱っていますので…。

なので、購入を考えている人は、とにかく実際に読んでみると良いと思います。
そして、読んでみて「嫌い」と感じてしまう可能性もある、ということも理解しておきましょう。

今までに言ったことをきちんと理解し、勘違いしたまま読むなんてことがなければ、
色々考えさせられる作品となるでしょう。(良い意味でも悪い意味でも)

問題なのは、読んだあなたが「好き」か「嫌い」、どう受け止めるかなのです。

文章(表現)がとてもうまい方なので、文章が微妙だったら…ということは心配しなくて良いです。
(BL小説という枠を超えて文庫本としても発売しているくらいなので…)


「好き」だと思えた方には”最高な作品”として自分のなかに残ることでしょう。
私は泣いて泣いて…とにかく泣いて大変でした。

そして後編である『檻の外』を最後まで読んだ時、
なんとも言えない‥‥とにかく心が温かい……最高…

と放心状態になることでしょう。

あなたにとってどういう作品になるのかはわかりませんが、
私と同じように「素敵な作品だ」と思えたらいいなと願っています。

11

“情” 前に、なんていう漢字が入るのかは、まだわからない・・・

市役所で働き、普通に暮らしていた男 堂野崇文。
満員電車に乗り痴漢と間違えられ冤罪で服役する。
築き上げたものが壊れ、家族に迷惑をかけ堕ちてしまった先の
刑務所でも騙され打ちのめされる。

そんな堂野の頭をただ撫でてくれた男が喜多川圭。

堂野は喜多川に「ありがとう」と言うんです。
それがきっかけ。

他人に感謝される喜びを知った喜多川は
「ありがとう」のために堂野の世話を焼く。
お駄賃代わりに「ありがとう」を要求するようになり
堂野に絵を誉められれば
今度は、誉められたくて絵を必死に描くようになる。

酷い生い立ちの喜多川にとって
堂野は、はじめて出会った“普通の人”なのだけど
喜多川にとっては、それがとても大切な人になってしまったんですよね。
そして堂野にとっても箱の中(刑務所)という
劣悪な環境で、当たり前が通用しないわけです。
だから、あまりに当たり前のこと人間として当たり前の交流が
酷く特別のこととして心に響く。

本質的な“情”で、つながったふたりは
堂野の出所で離れてしまう・・・

1年あとに出所した喜多川は、必死に堂野のことを探すんですよー。
喜多川は、箱の中からでたのにちっとも解放されてないんだよ。
いつまでもいつまでも堂野という箱の中から出られないっ。
いやもう、解放されることが喜多川にとっての幸せなのか
何が幸せなのかってのは、難しい話だけどもね。

ふたりの絆は、まさしく“情”なんだけど
前に、なんていう漢字が入るのかは、まだわからない・・・

8

傑作というより他に、言葉が無い

コノハラーむつこです。
正直いうと、木原音瀬さんの作品はレビューしづらいんです。
思い入れが強すぎて、「私の思いを文字で伝えきれない…!」という不安があって。ぽんぽん何も考えずにレビューしてたころが懐かしい。

刑務所ものです。
閉ざされた小さな空間のなかで、一つの愛、いや、愛とも呼べないような執着が生まれ、そして、その愛(執着)は、(いったん)死にます。
そういうお話です。

冤罪で刑務所に入れられた生真面目な男(受け)と。
殺人を犯し、20代のほぼすべてを刑務所のなかで過ごしてきた世間知らずな男(攻め)と。

まともな人生をまったく知らずに育ってきた攻めが、受けに抱いた感情は、生まれたてのヒヨコのインプリンティングに似ている。
攻めは受けの背後に、「美しいもの」「正しいもの」「真っ当なもの」を見て、そこにすがりつくのだ。
怖いほどの執着は、刑務所を出て六年たっても変わらない。彼にはソレしかないのだ。『薔薇色の人生』の攻めもそんな感じですが、この小説の攻めは、それ以上に純粋で悲しい。そして怖い。
怖いんですよ、まじで。
やめてくれと思う気持ちと応援したくなる気持ち、両方の気持ちがゴチャゴチャになって、ボロボロに泣けました。

続編の『脆弱な詐欺師』も傑作でした。
まともな人間が犯罪に手を染める過程が鮮やかで、説得力ありすぎます。BLの範疇にとどめておくのがモッタイナイ。ミステリ小説としても一級品だと思う。このミスの選者たちも、BL界に目を向けるべきだ!なんてやくたいもないことを思いましたw
脇役の芝は、味がありすぎ。いぶし銀の魅力とはこのことだな、と。

『檻の外』へと続きます。
二冊まとめて読むべし。

8

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