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封印した切ない恋が、 狂おしいまでの想いと共に蘇る―― 若き天才研究者と寡黙な凄腕SPの疵だらけの再会愛!!
作家買い。
どこかで読んだことがあるなあ、と思いつつ読み進めましたが、雑誌「小説Chara vol.35」に収録されていた『疵物の戀』に加筆修正したものでした。
前半は受け視点の『疵物の戀』、後半は攻め視点の描き下ろしにあたる『疵物の愛』で構成されています。攻め・受けの視点の両方が描かれているので登場人物たちの感情の機微が手に取りやすく、読みやすかった。
ということでレビューを。ネタバレ含んでいます。ご注意ください。
主人公は介護専門企業・ヒューマンサイド社で新たな商品の開発に携わる真智。しがない研究者でしかない真智の所属するグループに、ある日とんでもないニュースが飛び込んできた。
真智がメインとなり現在開発中の「プロジェクト・ルカ」が、とある国の軍事利用のために情報収集され、そのために開発者たちの拉致が懸念されているという。そのために、真智たちは警視庁所属のSPから警護されることになったのだ。
真智のSPとしてやってきたのは、真智の高校時代の先輩で、かつて真智の「犬」だった玖島。心に今も痛みとして残っている玖島との再会は、真智の贖罪の思いと、そして恋心を激しく刺激して―。
というお話。
序盤から「銃口で狙われた」とか「服を脱げ」といったなんともシリアスな雰囲気が漂う作品で、痛い作品が苦手な方にはもしかしたら不向きな作品かも。
なのですが。
うん、ココで脱落せずに最後まで読んでほしいです。
もう、最高なワンコちゃんが奮闘する、めっちゃ萌え禿げる作品なのです。
真智は裕福ながらも不健全な家庭で生まれ育った。
母親が男を作り家を出て行ってしまった後、彼は体調を崩し家に閉じこもりがち。そんな彼は、友人の兄が出場する剣道の大会に誘われ、そこで真智は出会う。玖島という青年に。
胴着を身に纏い、清廉な空気を醸し出す玖島に一目で心奪われた真智は、玖島に会いたいがために彼の通う高校に入学。そして剣道部にも入部した。
面倒見のいい先輩と、先輩を慕う後輩。
それだけの関係だった二人が、ある日をきっかけに大きく様相を変える。
真智の「犬」として連れてこられたのは、玖島だったー。
そして、13年後、彼らはSPと対象者として再会するが。
真智が開発している「プロジェクト・ルカ」。
ちょっと壮大なSFぽさもありつつの研究ですが、この開発を奪って軍事利用しようとする巨大な敵と、それを陰からサポートするスパイの存在、そして、それらを軍事利用されまいと奮闘する真智、という、スケールの大きいお話ですが、メインになっているのは真智と玖島の過去の因縁、そして彼らの感情、二人の恋の成就、という恋愛がベースになっているお話です。
これらが、めっちゃ良いバランスで描かれていて、さすが沙野さんと言った感じ。
反対に言うと、読み手によってはもしかしたらそれぞれが中途半端に感じるというか、物足りなく感じる方もいらっしゃるかも。スパイが誰なのか、とか早々に分かってしまいますし。
が、今作品はBLなので、恋愛感情がベースにありつつのこのストーリー展開は非常に面白く、萌えが滾りました。
スパイの存在とか、拉致された真智の救出とか、早々に解決してしまいます(ここまでが真智視点の「疵物の戀」)。なので、この後どういう風にストーリー展開してくのかなー、と思いましたが、ここからが沙野作品の真骨頂なのでしょう。玖島視点の「疵物の愛」に移行することで、前半の補足がなされていきます。
まだ若く青かった高校生時代。
彼らは、自分の恋心に翻弄される。そして、家庭環境にも。
もがき、苦しみ、そして失い、手に入れたものとは。
再会愛ではありますが、もともと彼らの中で育っていた恋愛感情が再会したことによって芽吹いてくる。
で、何が萌えるかって、玖島にしろ、真智にしろ、めっちゃ男前なのです。ビジュアルはもちろん、その内面が。
彼らが大切にし、守りたかったもの。
そのために彼らが起こす行動。
バックボーンがモリモリで、それを回収しつつ進むストーリーなので、若干あっさりした感は否めませんが、それでも彼らの男気溢れる行動がとにかくカッコいい!
タイトルも秀逸。
疵。
戀。
そして愛。
読後、このワードの奥深さが染み渡ってきます。
みずかねさんの挿絵も非常に良かった。
もともと綺麗な絵柄を描かれる絵師さまで、黒いスーツを身に纏った玖島とか、濡れ場の綺麗さとかとにかく麗しいですが、個人的に特に萌え滾ったのはカラーの口絵。
DK時代の、胴着を着た玖島と、まだ可愛らしさを残した真智のイラストが、とにかくツボに突き刺さりました。
シリアスさと、SFぽさと、そして恋心と。
沙野先生らしいバランスの良い作品で、めっちゃ良かった。評価で悩みましたが、ちょっとおまけして神評価で。
なんかもう…余韻がハンパない。
満たされるような、すごく悲しいような、いろんな感情がグワッと刺さります。
発売前にタイトルで検索したところ、ちるちるじゃない感想サイトでこの作品が掲載された雑誌の感想を目にしたんですね。感想を斜め読みした印象は、割と普通の話なのかな…?でした。実際読んでみて雑誌掲載分の前半は、なるほど、こういうことね、と。
けれど!書き下ろしの後半です!
前半に散らばった欠片が大きな方向にむかって収束し始め、予想つかなかった終結に号泣しながら読みました。ティッシュ1枚じゃたりない。タオルハンカチじゃないと追いつかないよ…これ…(;ω;)もし雑誌で読んだから充分かな~と思っている方がいたら、最後まで見届けてあげて…是非読んで…と伝えたい。
以下、ネタバレ込みの感想なのでご注意下さい。
受け:真智は脳神経を活かし社会に役立つ研究をしています。困っていた人の身体機能が回復する例もあり、真智自身、非常に善良な人間で純粋にその研究を続けていました。けれどそれは悪にも利用できる研究で、真智は国内外から狙われるようになります。
あらすじにもありますが、24時間警護としてSPがつくことが決まりましたが、真智の担当は学生時代の先輩でもあり、片想い相手でもあり、家庭内のドロドロしたものの犠牲になった人でした。
攻め:玖島は凛とした様に気圧される、一緒にいると緊張するタイプの真面目な人…かな。真智の家で"買われた"過去があり、一時期は屈辱に満ちた生活を送っていました。
13年ぶりにSPと保護対象としての再会した2人。真智はずっと玖島から憎まれていると思っており、実際玖島の行動も真智を射貫くような目・真智に向ける銃口といった風で過去の因縁がチラホラ絡んで展開します。
上にも書きましたが、前半の真智視点では割と普通の再会ものかな?といった印象でした。学生時代のピュアな恋心と同時に腹の中から湧き上がる黒い燻りは真智にとっては償いようのない罪と感じてしまい、負い目がずっとあるのですね。
けれど玖島の行動からは憎しみを見せる割にどこか甘やかというか…。ていうか絶対両片想いコースですね?憎んでる相手にすることじゃないもん!となる。個人的に愛を憎しみに変換し、憎しみを愛に変換する執着が大好物なので楽しみましたが、ちょいアッサリ感は否めませんでした。
が!!!!!!!!!!!!!!
これで終わっちゃいけねぇぜ。てなもんで。後半の玖島視点に萌え転がってしょうがないと思いきや、両想い後に待ち受ける切なさに泣けて泣けて、これがホントすごい。めっちゃ良い。グワッと胸鷲掴みされてグイグイ引き込まれました。
まず【憎しみ】の相違。
真智が思っている理由と、玖島が憎しみを抱いた理由が全く違う!真智の家で屈辱的な生活なんてキッカケに過ぎないんですよね。16歳の真智に出来る精一杯を使って玖島を助けたつもりが裏目に出てたっていうのがもうね。すれ違いシンドイんですよ。玖島は言葉にできないモノで繋がっていると感じてたんでしょうね。けれど真智は憎まれていると目を背けていた。両想いだと思い込んでたらフラれた、みたいな。もどかしい…シンドイ…。
で。長年の誤解も解けてこれからラブラブ~とはならないんです。
前半の事件で真智の脳自体に価値があることが露呈してしまったわけで、いままで警護していた側までが真智を利用しようと動き出すんですね。真智の脳は兵器にもなり得てしまうんです。
真智にとっては耐えがたい状況に陥り、ある決断を下します。
決断を実行する直前の会話で「覚えておきたかったんです」の一言に涙腺崩壊しましたね…。真智の願いを汲んで見送ることしか出来ない玖島の辛さや淋しさが、この一言でグワッと流れ込んできました。
決断実行後の2通の手紙は涙なしでは読めなかったです。ハッピーエンドなんですよ。けれどすごく淋しい。恋人になると名前の呼び方が変わったりするじゃないですか。この作品に関しては私はそれがとても堪えました。でもこれが彼らが決めた幸せへの道というのも理解出来る。(からこそ余計にやるせないんですが…;)
個人的には襲ってくる切なさと余韻がとても好きです。
この先何度も読み返して、その度に号泣しそうです。
幾通りもの楽しみ方が出来るお話だと思います。
で、ネタバレなしで読んだ方が圧倒的に面白いと思うんですね。
まずは表題作です。
確かに目新しさはないですがこちらも充分面白いんですよ。
特に沙野さんが「非常に楽しんで書いたんじゃなかろうか?」と思える、ねちっこい身体検査のシーンは大層エロい。
『ヘ・ン・タ・イ!』として白眉でございます。
沙野さん作品には必ず存在するエロチャレンジ、今回もお見事でございました。
また、表題作にはこのお話のタイトルに関わる殺し文句が登場いたしまして。「あざといねぇ……あざといのにキュン死しそうじゃないのっ!」という感じ。
ハートが完全に撃ち抜かれました。
で、同時収録作品で物語は急展開するんですよ。
この急展開がかなりグイグイ来ましてですね。
ハラハラドキドキするのもそうなんですけれど、個人的にはいつもの沙野さんの作品で書かれる『自分にとって大切なものを貫き通す高潔な主人公』がクッキリいたしまして、とても引き付けられたのです。
そうなのよ。私が沙野風結子さんという作家さんを好きなのは、この手の『上っ面だけじゃない複雑なモラル感』を書いてくださるからなのです。
社会は正義と悪にクッキリ分かれている訳ではなく、時折、味方だと思っていた部分に攻撃されたり、平和な暮らしを浸食されたりします。
その攻撃が自分の信条を曲げさせようとしたり、大切なものを傷つけようとする場合、沙野さんの書く主人公はそれを守る為に闘うのですけれども、大概の場合、彼らはそれを撥ね退けられるほどの大きな力を持っていないのですよ。
だから、捨て身になる。
自分の何かと引き換えにして、大切なもの(これが単純に『恋人』というわけでもないのが、また良いのですよねぇ)を守ろうとする。
この捨て身になった主人公の……なんて言ったら良いのかなぁ……キレッキレな感じ、悲愴にして美しい感じが、読んでいてたまらんのです。
2人がした決断の結果を大団円とするか、悲しいものが多く混じっていると取るかは人それぞれだと思います。
この辺の『選択の余地を残した余韻のあるラスト』も超好み!
読ませる、考えさせる、そして色々感じさせてくれる……最高じゃないですか。
とっても面白かったです!
実は、私は沙野先生の作品に苦手意識があったのですが、あらすじに惹かれて久しぶりに読んでみました。
あれ?私、何が苦手だったんだろう?と、あっさり苦手意識が覆ってしまうほど面白かった!!
ーーネタバレしますーー
13年前の因縁の相手・玖島は、かつて真智の先輩であり、「犬」でもありました。
玖島の高校卒業以来疎遠になっていた二人は、真智が海外から狙われる研究者となったことで、SPと警護対象者という立場で再会します。
親の借金のカタに真智の父親に買われた玖島。
裸で犬の真似をさせられたり、猟銃で追いかけ回されたりと、クレイジーな真智の父親に飼い殺されます。
元々、玖島のことが好きだった真智は、不条理な扱いを受ける玖島を解放したいと願いながらも手放せない。
自分の中にある不純に負けて、玖島を高校卒業まで所有し続けてしまいます。
ただ、真智はとても純真な優しい子で、玖島の事は心底大切に思っている。恨まれても仕方ないと思いながらも……
父親の前では犬と主人として、居ない時は先輩と後輩として、不条理に扱われる対象と贖罪者として、場面場面で変わる役割と関係。
平行で交わることのなかった二人の線が、SPと警護対象者として再会したことによって交わり、複雑に絡み合っていきます。二人の運命が急激に動き出すのです。
お年寄りや体の不自由な人たちのために真智が軸となり研究してきた「プロジェクト・ルカ」
称賛されてきたその研究が軍事利用できると分かると、真智たちは一転して狙われる対象になります。
かつての想い人との再会に落ち着かない真智に対し、理由をつけては真智の身体を弄る玖島。
玖島の真意がわからないまま進むストーリーに不安を感じましたが、読み進めていくほどに玖島の真智に対する愛情が露わになっていく。
この過程……めっちゃ萌えました♡
独占欲、執着、愛情……いろんな顔を見せる玖島が魅力的過ぎました。
そして、真智は変わらず純粋で優しい。
警護を通して信頼関係を築き、心も体も結ばれる二人ーーと、ここまでが『疵物の戀』
後半は、『疵物の愛』
これ、とにかく素晴らしくて胸熱展開です!
公安や国家も絡んで真智を手に入れようと躍起になる人々に対し、父親のように人を不幸にしたくないという真智の良心。
そして、あくまでも真智の絶対的味方である玖島。
この三つ巴とも四つ巴ともいえる戦いに、ドキドキが止まらなかった!!
一緒にいられなかった空白の13年間を悔やむ玖島と真智。
ある意味これさえ伏線で、この二人の思いを叶えるような驚きのラスト!
いつ出会っても再会しても、二人が想い合う気持ちは止められないんですね。何度でも恋をするんだと思う。
ラストまで気が抜けなく、エピローグでは泣きました。
手の動き、心の動き、唇の重なり方……どれ一つとってもその場面が目に浮かぶくらい丁寧な描写。
そして、秀逸なストーリー展開。
エロはもちろん濃厚♡セックスになると真智の色香に翻弄されて余裕がなくなる玖島に萌えに萌えました。
お互いの命を以て深く愛し合う二人に胸を熱くさせられた!
とにかく面白かったです!!
介護用器具メーカーにより開発されたプロジェクト内容が軍事目的のために狙われ、チーム研究員の拉致が企図されている……という不穏な滑り出しのサスペンスストーリー。
最後、泣きました。
プロローグからいきなり銃が出てきて、ややっ?痛い系の執着攻めとか…?と覚悟しましが、説得力のあるドラマティックラブだったので、しっかりと萌えさせていただきました!
序盤に登場する真智のパパがえげつないにも程がありました。二人を結びつけてくれるきっかけをもたらしてくれたと思うようにして、なるべく早めに気持ちを切り替えましたが…。
中学生だった真智がずっと憧れていた二つ年上の玖島先輩。13年越しの片思いの全貌が、後半の「疵物の愛」(玖島視点)で明らかにされていきます。
高校時代の二人、真智からすれば憧れている先輩との理不尽な関係性は辛いだけだけれど、玖島視点を読むと、屈辱的で苦しくても後に開花する恋の萌芽を二人で育てていたのがわかります。お約束の後出しではありますが、そこがわたしには安心のエロスでした。
玖島が真智を初めて見た時から彼に捕まってしまうまでのヒストリーがめちゃくちゃ萌えます。真智の父親が所有する別荘で、常に理性的だった玖島が静かに直情を噴出させ、真智を全裸にさせるシーン。エロのはずなのに切ない…。前半の身体検査エロと同様、刮目して読んでました笑
真智視点も読み応えがあるけれど、玖島視点の方がドラマチック性がより高かったかな。軍事スパイから狙われている情報は真智の脳内にしか存在しない。悪用されないように完全に抹消するには、記憶を操作するしか…
この時点でうるるるーってきてて、最後の手紙で号泣。
BL小説で泣く率高いのが、受けが誰かに書いた手紙だったりします。本作も例に漏れず、この手紙のシーンで神となりました。
メインカプが道産子なんですが、北海道感は薄め。甘納豆のお赤飯とザンギくらい?あっ、あと冬祭りのシーンもかな。
硬質な文体とエロ神様ぶりは変わらず。みずかねりょう先生のイラストは玖島が好みでした。
近年、BL小説で極度な痛い系を読む機会が減ったような気がしますが(一部除いて)、時代の風潮なのでしょうか。