SS付き電子限定版
魑魅魍魎が跋扈する昭和初期の平安京で、美貌の陰陽師が、ヒトとオニの愛欲の呪術に囚われる――!?
作家買い。
葛西さんの描かれた美麗すぎる表紙と淫靡なかほり漂うタイトルに、エロ甘なお話かなと思いつつ手に取りました。が、がっつりシリアス系のお話です。
「オニ」から都を守るために奮闘する陰陽師・桔晶の恋のお話。
内容はすでに書いてくださっているので感想を。
「オニ」は二種類います。
通常の(と言って良いのか…?)「オニ」と、人を喰らう「ヒトクイオニ」。
「ヒトクイオニ」が誕生する理由が、めっちゃグロいし、そして痛い。
妊婦が凌辱され、そして凌辱された妊婦は絶望のあまり命を絶つ。そんな悲しく、そして何とも言えない暗闇が描かれている。
そして、帝とともに、都を守るために仲間と日々闘い続ける桔晶もまた、壮絶で孤独な闘いを強いられている。
帝、めっちゃナイスガイ、なんですよ。
都のために心を砕き、偉ぶることなく桔晶を大切に想っている。想っているのに、帝は実は…、という。
帝を心から尊敬し、そして敬っている桔晶は、帝の持つ「ブラックな本質」を抑えるために、日々犯され、そして喰われる。
これらの描写が、沙野さんの、実に素晴らしい文章で紡がれているためにまざまざと情景が目に浮かぶ。なので、怖いのなんのって…。
とにかく、圧倒的な世界観。
読み始めたら最後、読み終えるまで止まりません。
そしてBL的な展開も、めっちゃ萌えた…。
桔晶の幼馴染の征景。
過酷な過去を持ち、そして桔晶の家に引き取られてから、ずっと桔晶とともにあり続けた彼。
彼の桔晶への深い愛情が、このストーリーの終盤につながる大きなキモとなる。
桔晶。
征景。
そして帝。
誰もがやさしく、そして相手を想う。
想うがあまり、すれ違い、そして大きな闇へと堕ちていく。
けれど、彼らがそこから這い上がれたのもまた、深い愛情ゆえ。
哀しく、そしてドシリアスなストーリーではありますが、このストーリーが描いているのは「愛情」。
征景と、彼の家族も。
想う形は違えど、誰もが、愛し、愛されたかった。
自分を犠牲にしても、守りたかった。
もう、涙が止まらない。
個人的には帝に幸せになってほしかったな…。
彼の桔晶へそそぐ愛情が、報われてほしかったのだけれど。
桔晶、そして征景の陰陽師仲間の道周と氷室といったサブキャラも魅力的でした。
桔晶が彼の意思に反して征景以外の男性に抱かれるという描写はかなりあります。攻め以外との絡みが苦手な方にはちょいきついかなと思います。が、これが式神、なので、セーフ…?かな?
彼らのその後も読んでみたいし、とにかくこの作品の世界観にめっちゃ惹かれたので、ぜひとも続編(あるいはスピンオフ)を描いてほしいな。沙野作品はほぼほぼ読んでいると思いますが、その中でも非常に面白かった。
そして、特筆すべきは葛西さんが描かれた挿絵。
この作品中に漂う、ほの暗く、哀しい世界観を見事に描き切っていたように思います。
着物、烏帽子。
それだけでも萌えが滾って仕方ないというのに、そのさらに上を行く、麗しくそしてがっつりはまった、そんな美麗挿絵でした。
こちら、ヒトクイオニが跋扈して、陰陽師が自身の身体で帝の鬼の血を鎮めと、ダークで淫靡な平安朝ものになります。
雰囲気としては仄暗いエロエロ作品。
先を読ませぬ展開に、あっと驚く仕掛け、そして感動のラストと、もうページをめくる手が止められず、最後まで一気読みしてしまいました。
これは面白い!!
内容です。
陰陽道の銘家に生まれた天才陰陽師・桔晶と、家族をヒトクイオニに食い殺された陰陽師・征景。
二人は幼馴染みとして特別な絆を持ってますが、桔晶の特別な任務ーヒトクイオニの血を引く帝に抱かれ自身の身体でオニの本能を押さえ込むーを知っている征景は、昏い苛立ちを抑えられないようになっています。
そんな折り、帝の霊力で守られていたはずの都に、ヒトクイオニが現れるようになりー・・・と言うものです。
まずこちら、家族をオニに殺された事により心に傷を抱える陰陽師・征景×天才陰陽師で儚げな美人の桔晶と言うカップリングです。
で、個人的にまず惹かれた設定。帝のオニの血を押さえ込むと言うのですが、帝に抱かれて、その後に身体を喰われると言うものです。
ただしこちら、実際に抱かれて食われているのは、自身の髪の毛を依り代とした式神だったりします。
とは言え、自身の一部を依り代としている為、その感覚は共有してしまうと言う設定。
で、このシーンですが、なかなか痛々しくも淫靡なんですよ。
13才でこの任務を請け負ってから、もう何十回も繰り返された陵辱と捕食。
感覚を共有する自身の形代が犯され、骨ごと喰われて、頭部だけが転がってくるみたいな。
もう桔晶は、繰り返されるこの行為に精神的にギリギリの状態。幼馴染みである征景が心の拠り所だったりするんですね。
ところが、征景は征景で、桔晶が実際に帝に抱かれていると勘違い。
嫉妬心を暴走させー・・・と言った具合に。
ここからがかなり面白い展開で、もうグイグイ読ませてくれるのです。
とりあえず、核心的な部分に触れちゃうのでネタバレは無しで。
ただですね、征景の驚きの正体だったり、これまた意外な人物の登場。
また、行方不明になった征景を追い掛ける為、桔晶が命懸けの禁呪を行いと、ホント目を離せない展開です。
あと、まぁ気の毒ながら、儚げな美人の桔晶が、あっちこっちで陵辱されと言うのが凄く萌える。一応、そこまで酷い目には合ってないのでご安心をてトコですが。
他、主役二人の愛憎が入り混じった恋愛部分にも萌えたのですが、なんとも切ないのが帝。
彼は彼で、本心から桔晶を想ってるんですよね。
我を忘れると人間としての意識を無くしちゃうため、自分が桔晶にしてる仕打ちを知らないのですが。
桔晶を想う気持ちだけなら、征景に負けてないんじゃないかなぁと・・・。ホント、いい当て馬でした。彼には幸せになって貰いたいです。
とりあえず、エロエロでダークな平安朝ファンタジーとして、とても面白かったです。
ダークな愛憎劇なんかが苦手な方は避けた方が良いかもしれませんが。
「ちょっとだけ」と読み始めたんです。40ページを過ぎたあたりから、ずっぽり物語世界に没入してしまって、気づいたら次の日になっちゃっていました。「あれ?あたし、竜宮城行ってた?」という位、時間を忘れます。この本、本当に忙しい時には開いちゃダメです(笑)。
内容というよりは、このお話の世界観をご紹介しますね。
平安時代といえば、魑魅魍魎が跋扈する時代。このお話では、妖の世界から現世に這い出てくる『オニ』と、お腹の中でオニの精を浴びオニの霊を宿らせた胎児が育った後になってしまう『ヒトクイオニ』という2種類の鬼がいるんです。オニは夜しか活動出来ないのですが、ヒトクイオニは昼間も暴れる。おまけに人を喰います。霊力も矢鱈めったら高い。で、帝の霊力で都には結界が張られ、オニ達が進入できない様になっているんですね。主人公の桔晶は代々帝に仕えてきた家系の陰陽師なんですが、この家には特別の任務があるんです。帝、ヒトクイオニの血を引いているんですよ。だから霊力が高い(人為的にそのような『血』を作った記述あり)。性的な意味だけじゃなくて、喰われちゃってるんです。ヒトガタを作って身代わりにして、なんですけれどもね。桔晶はそういう星の下に生まれてきただけではなく陰陽師としても『天才』だったので、幼い頃から腫れ物に触るような扱いを受けてきたんです。そこに、ヒトクイオニに法師陰陽師の父も含む家族を喰われてしまった征景が引き取られて来ます。来た時は手負いの獣の様に他者を威嚇していた征景なんですが、あることをきっかけにしてお互いに心を許すようになります。どちらもひとりぼっちだったというのが大きなキーワードです。で、オニ達の人間界への侵略が日々、酷くなっていく中で、都を守る戦いと、桔晶、征景、帝の3人の愛憎劇が繰り広げられる、というお話です。
沙野さんの、決して熱くならない文体がとてもとても雰囲気があるんです。
『公のために自分がしなければならないこと』の意義を充分理解していても、そのことが耐えられなくなっていく桔晶の心情が迫ってくるんですよ。それがね、ゴリゴリ来るんじゃなくて、哀しいの。
このお話の主要な登場人物は理知的で、自分の多くを語りません。
で、ぎりぎりまで我慢して、理性が良しとすることを遂行しようとする。
だから、それが溢れちゃったり、爆発したりする時に発散されるエロスが「うっわーっ!」と叫びたくなるほど艶めいています。
プレイとして、こんなことやあんなことをするからエロエロなんじゃなくて、耐えて耐えて、耐え続けてもなお隠しきれない情念のほとばしりがエロいっていう、大人の雰囲気にやられました。
あ、今回の『エロチャレンジ』要素は、陰陽師だけに『式神エロ』でした。
いつもよりは吃驚はしませんでしたけれど(笑)でも、読者を楽しませようとして、なんかかんか書いてくださるのは嬉しいです。
平安時代好き!ファンタジー好き!両片想い大好き!な私は大満足な一冊でした。
陰陽師が主人公なので、ヒトガタ(紙に自分の髪を供えて呪を唱えると己の分身が現れる)を駆使した場面が多々あります。個人的にはこのヒトガタというツールのお陰で凌辱や殺戮のシーンも心情的に少し救われました。
描写としては辛いのですが「でも本体はどうにか無事だから大丈夫!」という安心感に似たものを感じながら一気に読み進めていきました。
桔晶のヒトガタも霊分けした分身も非常に辛い状況に置かれますが、読み手として救われる思いだったのは桔晶本体と繋がったのは征景だけという事実。
桔晶を愛していた主上は本体だと信じて抱いていた桔晶がヒトガタと知り、謀れ裏切られた気持ちでいっぱいであったでしょうが最後は赦しを与え、何も罰を与えなかった心優しい人。
彼にも幸あれ!と願ってやみません。
12歳から共に過ごしている陰陽頭の桔晶と法師陰陽師の征景を中心に物語が進んでいきます。
主上を守護し、ヒトクイオニを倒して都の安寧を守る日々は鬼との戦いは避けられず、特に主上を守るために桔晶に課された役割は過酷で耐えがたいほどの責務。
その責務の内容故に桔晶と征景は両片想いをどんどん拗らせ、信頼の置ける幼馴染みとしての関係すら決裂寸前に。
征景が堪えて堪えて、その抑圧していた気持ちが遂に決壊してしまった時に物語が大きく動き出します。
実直で頼れる男が嫉妬にまみれ、正しい判断がつかなくなるほどの暗い想いを抱きどんどん闇に堕ちていく。
けれどギリギリ踏み止まるという情況につい私の胸がときめきます(笑)。
一冊にまとめるには少々ページが足りなかったかな?というのも率直な感想です。
主人公二人はもちろんのこと、主上も陰陽師仲間も設定も大変魅力的で続巻を熱望してしまいます。
ヒトクイオニを封印し鎮める方法を編み出す話や、今回は想いが成就しなかった主上の新たな恋なども絡めた物語が読みたい!
沙野風結子さんの独特(?)な設定にいつも胸踊るのですが、今作も最後まで充実した読書時間を過ごせました。
平安時代の陰陽師ものですが、非常に文章が美しく、物語も練りこまれ、驚きもある珠玉の作品でした。人外(鬼)の話も艶要素(BL)もお話の中に流れるように組みこまれて、一片の綻びもなく美しくまとまっています。
ヒトガタ(人形)を活かしたストーリー構成も絶妙で、新鮮に感じました。幼馴染同志の15年越しで到達した遅い春にもジーンときました。長年お互い秘密を抱えていて、素直になれなかった二人の心中が切なかったです。全編に渡って様々な登場人物から、愛するがゆえの物哀しさが漂っていました。
葛西先生のイラストも登場人物や世界観を盛り上げてくれる素敵なイラストでした。それにしてもベテランの作家さんは、どんなジャンルもお手の物なのには、ただただ感心します。平安時代ものは好きなジャンルだっただけに、完成度の高いBL小説を読めて感激もひとしおでした。歴史ものBLがもっと増えてくれると嬉しいな。