Renta!限定版
1994年―――。あの夏、ふたりの香りに満ちた部屋で……。
普段電子媒体のものはあまり手に取らないのですが、pixivでドはまりし、電子も購入している『ばらとたんぽぽ』の作者さんである遠浅さんのデビューコミック。ということで発売を心待ちにしていました。
ネタバレ含んでいます。ご注意ください。
1994年、4月。
規模の小さい学校に、一人の教師が赴任してくる。名前は屋敷。
屋敷の指導を任されたのが、先輩教師である比奈岸。
この二人の恋を描いた作品です。
かつてマンモス校で教師をしていた屋敷が、田舎の小さな学校に赴任になったのはとある理由があってー。
遠浅さんて男性なんですかね?
いやいや、女性でも男性でもどっちでも良いのですが、感性が凄く独特っていうのかな。
甘々な、そして青い恋を描いた作品ではありません。
BLというよりは、どちらかというと青年誌のような作画であり、ストーリーです。恋愛感情、というよりは、身体の関係から入る感じ。
それが、すごくエロいとかそういう感じではないんですよね。男性ならではの即物的な快楽を求める「性」が淡々と描かれていくのですが、これがちっとも、まったく、全然嫌ではない。
個人的に身体から入る関係ってあまり好きではないのですが、これが遠浅さんの才能というかセンスなのかも。即物的に身体を重ねては行きますが、エロに特化しているのでは決してなくて、この関係から、二人が少しずつ心を通わせていく過程が緻密に描かれてくのです。
屋敷という青年は、逃げ癖がある。
嫌なことにぶつかると、それを乗り越えようという気迫がない。
一方の比奈岸先生は、熱血教師です。
生徒にまっすぐに向き合い、口うるさく指導する。
これが私生活でも全く同じ。
で、比奈岸先生は、優しく、忍耐強く、一本気が通っている男性ではありますが、彼は閉じられた扉を自分から空けることはできない。「しない」のではなく、「できない」のだと思いました。
怖いから。
自分を拒否されるのが怖い。だから相手の判断を待つんですね。
一方の屋敷は扉を閉めてしまう。
嫌なことがあったら、相手が嫌になったら。
そこから逃げてしまう。
でも、彼もまた、怖いんじゃないかな。
自分を否定されるのが怖い。
全く違う性質の様でありながら、根っこはおんなじだなあ、と。
でも、そんな2人が、お互いという存在を得たことで少しずつかみ合っていく。成長していく。もう燃えるものなどないと思っていた「何か」に、火がついた。その過程が実に痛快で、なんとも萌えます。相手を愛しているから、手放したくないから。
そして、自分を受け入れてほしいから。
オッサンの恋なんですよ。
決して美しくもなく、若くもなく、けれどだからこそ相手を欲しもがき続ける彼らの恋心にギュギュ―ンと萌えが滾りました。
今作品は屋敷×比奈岸というCPではありますが、序盤に、一回だけですが比奈岸が屋敷を抱くシーンがあります。同軸リバなので、苦手な方は注意が必要かもです。
で。
これねえ、終盤がとにかく秀逸だなと思いました。
二人は屋敷が左遷された「とある理由」をきっかけに破局の危機を迎えます。
迎えますが、この出来事をきっかけに、二人は本音でぶつかることができた。
一般的なBLであれば、雨降って地固まる、になり、「ハイ、二人は幸せになりました。ちゃんちゃん」で終わるシーンだと思うんですよ。
が。
ああ、そうきたかー!
っていうね。
こういうところが、遠浅さんて男性作家さんなのかな、と思う所以ではあるのですが、この終盤のエピソードが、個人的にはめっちゃ好き。
絵柄とか、ストーリーとか、あるいは二人の濡れ場とか。
いわゆる、甘々で、ほのぼのなBL作品とは一線を画していますが、そこにきての、この終盤。
もしかしたらお好みが分かれるかも。
が、個人的にはめっちゃドツボに突き刺さる終わり方でした。
あ、そうそう。
舞台が1994年ということで、非常に懐かしいというかノスタルジーを感じる作品でした。小物の描き方、使い方が非常にお上手です。ポケベルとか、ルーズソックスとか。リーゼントとか。
もしかしたら、まだ生まれていない腐姐さまもいらっしゃるかもね。
でも、その時代を知っている身としてはじんわりとその時代を思い出す、そんな作品でした。
その小物の描き方と同じように、登場人物たちの内面の魅せ方もすごくお上手です。目線、しぐさ、そして彼らが見ている「もの」。そういったちょっとした描写で端的に彼らの内面を読ませる。
屋敷が比奈岸に出会ってすぐに比奈岸の腕が描かれていますが、その腕一本で、屋敷が比奈岸に性的な感情を抱いたことをうかがわせる。
あと秀逸だなと思ったのが「潮騒」というタイトル。作中、海がちょいちょいと描かれています。二人の関係、海の描写、そしてタイトル。なんともセンスが良いなあ、と感じます。
ちょっと凄い作家さんだな、というのが正直な感想。
『ばらとたんぽぽ』も、紙媒体で出版して欲しいな。
次回作も楽しみに待っていようと思います。
『ばらとたんぽぽ』を読んで、こちらも楽しみにしていました。
男性的な絵を描かれる作家さんなので、男性作家さんなのでは?と思っていたのですが、女性の方でした(申し訳ありません)。
青年漫画の様な画風なんですよね。
見た目は男らしくて体は肉肉しくて、とても好きです。
1994年を舞台に描かれているので、懐かしいと感じる方も、新しいと感じる方もいるかもしれません。
私は、ルーズソックスやポケベルに懐かしさを感じてしまいました;
ストーリーとしては、新任教師の屋敷が、人気教師の比奈岸に惹かれていく……と、いうもの。
屋敷がかなりやんちゃな教師なんですよね。
ヤル気なし、遅刻ギリギリ登校、トイレでタバコを吸う……ってな感じで。不良高校生か!と言いたくなる。
対して比奈岸は熱血者教師で、屋敷にもバシバシ指導していきます。
屋敷が本当にダメな奴で、借金はあるは、逃げ癖はあるは。
「リセット」しては一からやり直し、その場しのぎの連続。
気付けば心のない人間になってしまった屋敷。
そんな屋敷を諦めず、寄り添い続けるのが比奈岸です。
ゲイである屋敷と離婚が確定的な比奈岸が、体の関係になるのにそう時間はかかりません。
比奈岸との関係が、屋敷の燃えるものなんて何もなかったはずの空っぽの心をジンジン温めていきます。
屋敷の人として、教師としての著しい成長が胸アツです。
お互いの過去や気持ち知るうち、少しずつ心の距離も近付いていく感じが良かった。
比奈岸に対して誠意を見せる屋敷にグッときたし、屋敷の成長に感動です。
比奈岸は屋敷の理想なんだと思う。
初めて心から愛した人なんだろうなあ。
〝114106〟の意味、ちゃんと伝わったのかな?
ラストは切ない。切なくて泣いた。
描き下ろしの二人は、これからどこに行くんだろう。
希望を持ってもいいですよね。
きっと、今ならまた始められる気がするから……
この劇画タッチの絵柄。青年誌のヒューマンドラマかゲイ向け漫画か?と最初は思いました。でもこういうタイプの絵でBLデビューできる方は実力者なんじゃないか?って読みは見事に大当たりでした。星とか花とかキラキラしたBL補正一切無しですからストーリー内容で勝負するしかない。
でもこの絵柄がリアリティがあって本当にこういうおっさんいそうだなって思わせる所がまた良い。いつも読んでるような30後半でも奇跡の美中年!みたいなのも好きだけども。色々なタイプを楽しめるのがBLの良いところだなあ。
でもこれは正真正銘のBLでしたね。途中からとっても甘くなります。先輩風吹かしてた受けが途中からもろく可愛くなっちゃうのが良かった。ラストはちょっとほろ苦い大人のラブストーリー。皆様のレビューで死にネタかとビクビクしてましたがそうではなかったので安心しました。
やけぼっくいに火がつく可能性がないのかどうか後から読み返してじっくり検証したいです。とりあえず一読した印象で神。絵は上手いです。劇画っぽいので映画を見たような気分になれます。あとねー、やはり90年代の空気を肌で知ってる人には楽しめるお話だと思います。色々懐かしい!
ファンタジーにちょっと食傷気味の方におすすめのリアリティのある骨太ストーリーです。
追記…検証しました。これはどちらにもとれるラスト。ハピエン主義の私はヨリを戻す方に一票。あの夏の花火のような美しい青春の日々は戻ってこなくても大人の年齢なりの穏やかな愛を刻んでいけるさ。2人なら。窓からのちっちゃい海とか攻めが受けの写真をジーっと見つめるシーンが好きでした。受けの比奈岸先生にメロリンラブ。私が。自分の中の弱さを知りながら努力を継続して強くあろうとする姿勢に感動。攻めの屋敷と同じくマブいぜ!と思います。作家買いしたい漫画家が1人増えました。次作も絶対買う。
よかった……。切なくてきゅんとした…。何度も読んでしまう。
『ばらとたんぽぽ』で作者のストーリー展開や心理描写の腕は信頼していたので、気楽に読み始めたらどんどん惹きこまれて、最後はじぃぃぃーんとしてしまって…。しばらく余韻に浸ってました。
絵柄は青年漫画のように骨太だけど、中身はしっかりBLです。包容力のある年上のノンケ受けと、真剣に相手と向き合うことを恐れてすぐに逃げようとするゲイ攻め。少しの好奇心と諦めかけていた劣情に流されて始まってしまった二人でしたが、思いをぶつけあった濃密で儚い時間は、戸惑いと束の間の高揚感がせめぎ合うガチ恋でした。先が見えない不安を打ち消すように、「今が幸せならええやん?」ってセリフ。これほど切なく効果的に響いてきたのは久しぶり…。
手のかかるタチの悪ガキが性癖?の比奈岸は理想的な受けキャラだったなぁ。後半、ちょっとしたことですぐに距離を取ろうとする屋敷のワンコ化がたまらないです。人混みで手を繋いでしまって、比奈岸に謝るシーンにきゅーん…。思わずぎゅーってしてあげたくなっちゃった笑
1994年に出会ってから6年後の二人、そして現在はどうしているのでしょうか。エンディングも映画的な終わり方で凄く好きです。
電子版の最後に収録されている特典漫画に笑っちゃいました。思うところがありすぎて笑
絵もストーリーも緻密に描写されていて
何度も胸を締め付けられました。
90年代という時代設定だからこその「モノがもつ重み」を感じました。
素晴らしい作品に出会うことができ、作者様に感謝です。