甘美な異界への誘い――匂いたつかぐわしさにほろ酔う連作幻想譚。

小説

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さくら、うるわし 左近の桜

sakura uruwashi sakon no sakura

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表題作さくら、うるわし 左近の桜

この世ならざるもの
左近桜蔵

あらすじ

小旅館「左近(さこん)」の長男・桜蔵(さくら)は、母と弟が暮らす家を離れ、父・柾(まさき)の元から大学に通っている。柾の庶子ではあるが特に不自由はなく、柾の本妻である遠子(とおこ)とは、気軽に連れ立って出かけられるほどだ。複雑な家族関係に不満はないが、誰からか継いだ、不可思議な体質は困りものだ。見えないはずのものを見てしまうだけでなく、その者たちに魅入られ、身体をほしいままにされてしまう。それも、集まってくる者たちはいずれも桜蔵を「いい女」と呼んではばからないのだ。
耳を求めさまよう犬、男か女か判然としないマネキン――この世ならぬものたちが桜蔵の身体を求め……。生と性、死の気配が絡み合う珠玉の連作幻想譚。

作品情報

作品名
さくら、うるわし 左近の桜
著者
長野まゆみ 
媒体
小説
出版社
KADOKAWA
レーベル
角川文庫【非BL】
発売日
電子発売日
ISBN
9784041099681
4.5

(2)

(1)

萌々

(1)

(0)

中立

(0)

趣味じゃない

(0)

レビュー数
2
得点
9
評価数
2
平均
4.5 / 5
神率
50%

レビュー投稿数2

息子の知らないお父さんの横顔。

『左近の桜』シリーズ第3弾です。シリーズ第1弾『左近の桜』と第2弾『咲くや、この花』は、それぞれ全12章で1年分の物語という構成でしたが、本作『さくら、うるわし』は全4章で2年ぶんです。

前二作ほど古典などからの引用は多くないので、解りやすいといえば解りやすいような気もします。しかし幻想文学の雰囲気が更に濃くなり、まるで他人の見る悪夢にひきずり込まれるような読み味。読後しばらくすると、一体何を読んだのか記憶が曖昧になってしまうかも。

前作『咲くや、この花』のラストで柾から「私の手にあまりはじめている」と言われてしまった桜蔵くん。親離れしろと促されるのかと思いきや、なぜか柾の家に下宿することになってしまいました。

柾推しで柾×桜蔵推しの私としては、二人がひとつ屋根の下に住む展開(柾の正妻・遠子さんも一緒だけど)は大歓迎だったのですが、距離近になったらごく普通の親子感が高まり、あれ……もしかして、カプにならない感じ……? まじかー。スンッてなりましたw

でも、そのぶん柾おとうさんの日常という、今まであまり書かれなかった柾の一面が垣間見れたのでよかったです。あの完全無欠のハイスペスパダリおとうさんが老眼を嘆いたり教養レベルが高いだけのオヤジギャグを言ったりしてる! 一周回って新鮮! 着実に老けておられるのがちょっと切ないけれど……。

私は特に第2章と第4章が好きです。この二つの章では、柾の過去の恋愛について少し触れられています。夢の中で、写真でしか知らない二十代の頃の柾に出会い、色めく桜蔵くんw
そして、不慮の事故で亡くした恋人のことを今でも想い続ける柾。なかなか趣深いです。

1

前二作とは雰囲気が変わった三作目

シリーズ三作目。前二作とは構成が変わり、短編四つが収録されている。「」内のセリフを句点か読点で終わらせる独特の書き方も止めてしまったみたいで、文章の雰囲気も変わっていた。漢字をひらく割合は控えめになっていて読みやすかった。

最初はなんともヘンテコなお話。内容が微妙にとっ散らかっているような。嘘と屁理屈で押し通そうとする桜蔵のセリフに戸惑い、こんな性格だったかな?と思いつつ……ちょっと物言いもキツくなった気がする。

一編が長くなったぶん、この世とあの世の境目の分からない場面が長く続くことになり、徐々に何を読んでいるのか分からなくなってくる。没入すると、今自分は正気を保っているのか怪しい、という気分を味わえる不思議な読み心地。

驚いたのは、この作品が現代設定だったこと。1942年が70年以上もむかしとあり、こうもはっきり数字を書かれてしまうとは思わなかった。一作目から、なんとなく昭和時代をイメージしつつ、そこはぼやかしていくと思って読んでいた。

ストーリーは桜蔵の秘密に近付く方向を期待していたが、柾にはきっぱり話さないと宣言されてしまった。どうやら夢から覚めさせる気はないらしい。起きても起きても夢の中にいるような、足元がおぼつかない世界から抜け出せない。

最後は柾も視える側だったのか?どこまで?とさらに謎が深まって、やっぱり曖昧なまま終わってしまう。幻夢が描かれる作品とはいえ、作中あまりに解答の提示されない謎が多すぎて、ちょっと疲れてきたかも。

一作目の「左近の桜」第1章に萌えて惹かれて読み続けたが、随分遠くまできてしまったなあという感じ。羽ノ浦の存在も消えてしまったし、文章が変わり情緒を味わう楽しみも減ってしまったように思う。BL的な楽しみ方を見つける余裕もなくなってきた。

感想としては、夢文学は読み方が難しい、かな。

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