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表題作セカンドクライ

奥園桂路,駆け出しの画家,26歳
保坂慧,桂路の亡き兄の秘書見習いの大学生,22歳

その他の収録作品

  • 私の名前
  • a confidential talk

あらすじ

駆け出しの画家と、若き秘書見習い──旧い洋館で見つけた≪再生≫の物語v

作品情報

作品名
セカンドクライ
著者
尾上与一 
イラスト
草間さかえ 
媒体
小説
出版社
徳間書店
レーベル
キャラ文庫
発売日
電子発売日
ISBN
9784199010934
4.4

(60)

(38)

萌々

(14)

(5)

中立

(2)

趣味じゃない

(1)

レビュー数
16
得点
263
評価数
60
平均
4.4 / 5
神率
63.3%

レビュー投稿数16

何から何までパーフェクトな神作品。

作家買い。 
しかも草間さんが挿絵を描かれているということで発売日を心待ちにしていました。
尾上作品はほぼほぼ読んでいますが、毎回泣かされます。けれど、今作品ほど温かな涙が流れたのは初めてかも。切なく、けれど温かく優しいお話でした。

ネタバレ含んでいます。ご注意ください。





主人公は駆け出しの画家・桂路。
実家は大企業を営む富豪だが、両親の敷いたレールに乗ることを拒否し画家を目指す青年。しかも母親にゲイバレし、以来実家とは距離を置いてバイトをしながら画家としての成功を夢見ている。

そんな桂路が唯一心を許していた家族は彼の兄の麒一郎だった。
画家を目指す桂路の夢を応援してくれていた優しい兄。が、その兄が病死。遺産相続争いをしたくない桂路は、麒一郎の優秀な秘書である緒川が差し出した書類に、ろくに目を通さずにサインと押印をするが、兄から「意外なもの」を相続することになってしまいー?

ごめんなさい、ちょっと激しいネタバレがあります。少し下げますので、お嫌な方はここでストップされてください。





*************************************

麒一郎が桂路に託したのは、彼の秘書見習いの慧という青年の存在だった。

いやいやいや。
どゆこと?

と、慧という青年の存在について疑問符が頭の中に一杯浮かんでしまいました。読み手のその謎を、桂路と共に解き明かしていく手腕で、いったいどうなっていくのかとページをめくる手が止められませんでした。

慧という青年は薄幸な子ども時代を過ごしています。気の毒に思った麒一郎が、慧を引き取り、衣食住を、そして名前さえも与え、そして育ててきた。が、己の死期を悟った麒一郎は、自分亡きあと、慧を桂路に託した。

のだと、そう思いつつ読み進めました。

が、さすが尾上先生です。そんな浅いお話ではありませんでした。

慧という男の子は、両親から虐待を受け続け、愛情も、満足な食事も、そして人としての尊厳すらも与えられてこなかった。そんな慧を不憫に思い、慧を一から育てたのは麒一郎。けれど、人間は、生きていくうえで困ることのない衣食住だけでは、人にはなりえないのだと。麒一郎は愛情を与え衣食住を与え、けれど出来上がったのは慧という青年の入れ物だったのかな。

その中に、何を満たしていくのか、何色をつけていくのか、という部分によって、初めて人は人たらしめるのだと。それを補うのに足りる人物として麒一郎が選んだのが、桂路だったのかな。

そんな風に思いました。

そして桂路の方も。
己の足で立ち、目標を見つけた彼が、けれど欠けていたもの。

桂路と慧は出会い、試行錯誤しながら、お互いにお互いを埋めるべき唯一無二の存在になっていったのだと。その過程がめちゃめちゃ温かくて良い。

慧は壮絶な過去持ちさんで、ドシリアスなバックボーンを孕んだ作品ではあるのですが、全体的なバランスとしてはコミカル寄りです。その大きな理由の一つとしてあげられるのは、慧という男の子の中身。過酷な過去故、彼はいい意味での「普通」を知らない。知らないからこそ引き起こされる出来事がめっちゃ可愛いし笑いを誘います。そこに慧を愚弄する意図は全くないので、ただただほっこりします。麒一郎さんが愛情を与え作った慧という入れ物に、カタチの違う愛情を注ぎ続け、麒一郎さんが埋めた芽を芽吹かせたのは桂路だったのだと。ナイスな兄弟たちが繋いだ愛情のバトンが、きちんと繋がっている。

慧に惹かれている想いを自覚した桂路の行動も可愛い。
彼は駆け出しの画家という設定ですが、それがきちんと生きているストーリー展開なので、話が上滑りせずに奥行きを与えている感じなのも良い。

慧は血縁者にこそ恵まれませんでしたが、麒一郎さん、そして桂路が彼を温かくサポートしていくので、そこも心が温かくありました。そして何より有能な秘書さんの緒川さん。

いやー、彼が最高過ぎるイケオジでした。
そうくるかー!

シリアスさをベースにしながらも、「自分」を見つけるために模索し、そして大切なものをつかみ取っていく、成長物語でもあり、何より人の温かさがじんわり染み入ってくる良作。

草間さんの麗しく温かな挿絵も素晴らしかったし、控えめに言って最高過ぎる、そんな1冊でした。

13

映画を観ているような感覚

尾上与一先生の作品はこの作品がハジメマシテです。

評価値が高い作品が多いのも知っていましたが、なかなか読む機会がなく…本日が私の尾上作品デビューの日。
まだまだBL小説修行中の身で、色んな作家さんの作品を色々と拝読させて貰っている途中です。まだ読んだことのない作家さんの作品を読むこのファーストタイムが一番ドキドキするし楽しみな瞬間です。
今日、尾上先生の作品を手に取ることが出来て嬉しく思っています(*´︶`*)



ではでは。本題のレビューに話を戻しまして…

このお話は、亡き兄の遺言で、兄が面倒をみていた青年と売れない画家との同居ラブストーリーです。
兄の会社の秘書候補である慧と、兄の残した屋敷で同居することになった売れない画家の桂路。不本意なカタチで始まった同居生活に訪れた変化は環境だけじゃなく心にも変化をもたらして……と話が進みます。  


ストーリーが良いですね。作品全体の空気感が美しいです。
現代もの作品が大好きなのでそれだけでもう堪らんのですが、ひいき目ナシにしてもこの作品は素晴らしかったです。
不思議な同居生活が始まる物語の神秘性に、ワクワクとドキドキ。今後のストーリー展開や辿る結末を私なりに予想・想像するのが楽しい作品でした。

まあ何と言ってもこの作品のグッとくるポイントは、兄の麒一郎からのメッセージでしょう。
彼からのメッセージは、慧に「普通の生活」を教えること。そして慧の好きなことを見つけることでした。


麒一郎は亡くなった後も書付けを通して、その存在感を示してきます。亡くなってしまったからこそ、彼の言葉の重みが増しているような気がしました。
何となーくですが、麒一郎が桂路に残したノートは、だいぶ昔に流行った「未来日記」に近いものを感じました。(な…懐かしいー!笑)


隙のないロボットみたいな慧が、桂路に心を開くようになっていく過程が滑らかに描かれていて読み心地がよかったです。桂路の方もまた、慧への恋愛の気持ちを抱くようになっていく時間の流れが本当に自然。
最初は義務的で無機質に見えた2人のギクシャクした関係が変化し、次第にトゲがなくなり感情や温もりが表出してくることに注目しながら読んで下さい^ ^

麒一郎が桂路と慧を引き合わせた先の結末を想定していたのか分からないけど、麒一郎には未来がお見通しだったのかも知れませんね。


前半は桂路視点、後半「私の名前」は慧視点のストーリー。慧視点では慧の心の動揺が痛いくらい伝わって胸が締め付けられる思いでした。麒一郎に問われていた「好きなもの」を求め、慧がこんなにも感情を露わにするなんて…!
胸が熱くなるシーンで響きました。


2人のラブストーリーだけじゃなく、桂路の仕事面…特にギャラリーのやりとりも含め面白さ満点でした。
兄の死が色んな出会いと変化を与え、兄弟愛にもジワッときちゃう側面もある作品。まるで一本の映画を観ているかのような素敵で素晴らしい作品でした。

8

泣けた…

実はこの作品「小説Chara vol.44 2021年 7月号」に掲載された時に泣かされたお話でした。
発売まで時間が開いたのでその作品だとは知らずに購入したのですが、読んでて途中で気が付きました。

何回読んでも桂路の兄の麒一郎の手帳の文章に泣いてしまうんですよ。
彼は意図していなかったかもしれませんが、彼の大事な家族を結び付けることには成功したと思うし、目的を達成出来てあの世でにこにこ笑って喜んでいると思いました。

麒一郎は妻や子どもたちへもちゃんと愛情があったと思うんですが、妻は彼の同士にはなり得なかったんですよね。妻は彼等の母親と同じ側の人間なんです。(ちゃんと一族や会社に守られている)
なので誰も守ってくれない桂路と慧の行く末を心配してたんだと思いました。

桂路はスパダリでは無いのでなかなか慧との距離を掴みかねててかなりもだついてるのですが、2人がどのように距離を近付けて行くのかが丁寧に書かれているのです。

これと言った悪役は登場しません。慧の叔父が子悪党なくらいでした。なので、社会から爪弾きにあった2人が出会い手を取り合って生きて行くお話なのです。

書き下ろしの「私の名前」は慧視点なので、彼の心の内も凄く分かって良かったです。ここでも桂路は慧の為と思った行動で慧を悲しませてしまってました。ここで慧の上司である緒川にお仕置きされてましたが、ここでお灸を据えられたことで何を優先すべきが学んだと思いました。

慧のお世話係であり上司の緒川が頑固で融通が効かないのは、そのまま慧がコピーしてしまってましたが、職務に忠実なので桂路に意地悪なようでいて実は心優しい緒川が凄く良いのです。

主役の2人以外の人物が光る作品でした。

6

寄り添っていく二人が愛おしい

とっても好き。
登場人物それぞれが抱える生きづらさに寄り添い共に並んで歩いて行く彼らが愛おしい。
慧のここまでを思うと心痛むけれどそれでも諦めず成長しこの先を二人で過ごす時間を思い嬉しさと安堵でいっぱいになった。
読者の私も慧の個性を丸ごと愛したい。

3

数年後が見てみたい

作者さま買いです。
内容については他の方が書いているので省きます。
ゆっくりと始まった二人の数年後が見たいです。
仕事になれたであろう慧がどんな成長をしていくのか。
見守っていきたいと思いました。

3

この作品が収納されている本棚

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