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圧巻でした。
下巻の100ページくらいを過ぎたところで、もう一回上巻の初めからおさらいしていきました。下巻を読み進めつつ、上巻を最初から再読するという、変則的な併読です。でもこれが大変有効でした。先を知ってるからこそ、上巻のなにげない描写や登場人物の行動に目が留まります。初読では読み飛ばしていたところに大きなヒントが隠されていたり、あとあと大きな要素を担う人物だったりします。下巻を読み進める上での大きな助けになりました。
作品が面白かったのと同時に、これだけのストーリーを組み立てて大人数一人一人の過去エピソードや心情変化を縷々文章で綴っていく才と筆力と根気、持久力に驚嘆しました。ただただ敬服するばかりです。
ようやく事件の全貌が見えてきた下巻終盤も、そこから最後までの息を吐かせぬ展開に引き込まれ、目が離せませんでした。
具体的に言うとあまりにネタバレなので控えますが、このときの練視点の地の文がとてもよかったです。
キャラクターもとても魅力的ですし、その関係性にもとてもぐっと来ます。
麻生と練、麻生と及川、韮崎と練、もうこの3つの関係性だけで満願全席ばりの妙なる御馳走てんこ盛りです。本当に贅沢でした。こんなに濃厚で意地と矜持に彩られた拗らせた感情を、しかも3組分も読むことができて、これを至福と言わずなんというでしょう。
特に及川です、及川。マル暴の刑事で実績がありそれだけに方々から怖れられている及川の、麻生に対する執着がすごい。何もかも知った上で、麻生を練に引き合わせる意地の悪さが愛しいです。下巻の序盤で、麻生が周囲に誰も居ないことを確認した上で、それでも小声で「純」と呼んだ際には、誰のこと?とひっくり返りそうになりました。呼び名のことを言えば、及川は常に「龍」と呼ぶくせに時々「麻生」になったり「龍太郎」になったりするのにもそそられました。とにかく及川の今後がどうにも心配です。執着とこじらせが甚だしいのです。今つきあっているというイラストレーターのことも気になる。麻生の代わりなのか?とか。
読み終わりたくないと思うほど、ひりひり切なくほろ苦くそれでいてどぎついほどに甘く残酷な世界観でした。
本当に読んでよかったです。
なんだが茫然としてしまう読後感。誰も救われないし誰も救えない。麻生と山内の背景に大きすぎる闇がある限り、今後どんな展開を迎えても、晴れて幸せに、なんてことはないと思う。それでも最後に麻生の決意が見られて良かった。
上巻ラストから新情報は何も出ていないけど、山内の冤罪説は作中で徐々に真実として扱われていくようになる。麻生については心の問題だったのか、葛藤の末に認める方向に傾いていく。警官は不向きだと自覚してたのがある意味良かったのかな。
麻生にやけに激しい言動を見せていた及川の背景が見えてくると、まあ納得というか。逆に及川に対する麻生の心情を不思議に感じる。何かが足りていないような。山内の分析は私情を抜きにしたものなんだろうか。
事件はスピーディーに展開し、中心に突っ込んでいこうとする山内と、麻生に執着する及川が、最後まで引っ掻き回す。
全てがつながり、あそこまでめちゃくちゃになった状況で、すぐに自分を取り戻せる麻生がすごい。ひとりで完結してる、と言われるのも分かる気がする。
今度はちゃんと間違えなかった麻生は、山内とともに事件の終わりを迎える。山内はきっと昨日も今日も明日も暗闇なのは変わらないだろうけど、麻生の明日からは何かが大きく変わってしまいそうな気配。
サイドストーリーはどちらも切なかった。えっ、と思うところはあったけど、山内の初恋にBL的な解釈をしても、素直に喜べないどころか辛くなる。
とりあえず麻生には、あの最後の言葉を守って欲しいと願う。
上巻では事件の発生、2人の再会、練の獄中での出来事や釈放後の放浪生活、それから韮崎に拾われるまでの壮絶な過去、世田谷の事件の真実が明かされるまででしたが、下巻では麻生と及川の関係、練の過去が練本人をめちゃくちゃにした当本人である麻生に救われるまでが描かれています。
まず、及川さんが下巻で大活躍します。後半の麻生が練を迎えに行くまでの2人のやり取りがもう本当にこの2人は阿吽の呼吸で日々仕事やらなんやらこなしているのだなというのが伝わって来るし、麻生は及川には一生敵わないのだろうというのも伝わって来ました。及川は麻生のことが本当に好きなんだな…。
麻生と練がようやく繋がったのも熱かったです。練も面倒見が良くて賢くて、どんな手を使ってでも麻生と及川との関係を知っていくのも良かったです。
ラストシーンで麻生と練が会話をして、そこでも練は涙を流したのを読んでどんなに立場も姿も変わってしまってもこの人はあのとき取調室で泣いていた青年と同じなのだなというのを感じました。
警察を辞める選択をした麻生にも、練との関係の責任を取ろうとしているところが良いと思いました。
上手く言葉にできないのがもどかしすぎるのでとにかく読んでほしい作品です。
上下巻合本版で読みました。登場人物がたくさん出てきて過去の事件と複雑に入り組んでいる今作。韮崎を殺害したのは一体誰なのか?
読み進めていくとヒントが描かれていてこの人だ!って分かってくるのですが、とにかく麻生と山内に感しては運命の悪戯が過ぎる。
どっちの立場もしんど過ぎる。それ以外の登場人物達も、男女問わず人生イージーモードな人なんていない。何処かで辛酸舐めてる。
とんでもない悪党で命を狙われて殺された韮崎。確かにヤクザでズル賢くて悪い人間なんだけど、愛情はあるいい男だったから、2人のいい女な愛人と山内に愛されてたんだよね。
リスクがあっても山内の為に何人か消してたり、実は麻生も殺害ターゲットに入れてたりとか山内練に対して結構な執着だよ。
麻生殺害を回避する為に行った山内の行動もまた業が深い。確実に麻生にダメージ与えるし、事実が発覚したら更に増す。
読後、数日この物語の事ばっかり考えてしまう作品ってあります。間違いなくコチラの作品もそうです。誰が悪人で誰が正義とかじゃないんですよね。人にはいろんな思いがあってそれが偶然カチッとハマってしまうタイミングってのがあるんだな。
そんな中、私は刑務所で練と仲良くなった田村と麻生の同僚の山背が好きでした。なんかヒリヒリしたこの作品の中でほっこりできる2人と言うか、決して裏切らない人物というか。
本編のネタバレになるから本編読後推奨の短編2作品「歩道」と「ガラスの蝶々」どっちも同時収録していただけて感謝です。とても運命的だし、逮捕後の練や今の彼の事を考えたら何とも言えない気持ちになるし、「ガラスの蝶々」ラストにも痺れました。麻生さーん!その曲掛けるんだ!気付いてないかもだけど、練は、キュンとしてるよ?
関連作品がたくさん出てるみたいなのでそれを読むのが楽しみです。
BLとして読める一般小説ということで…
(以下、上下巻通しての感想)
最初の方は「男同士のクソデカ感情性愛込み」って感じかな~と読んでいたのだけど、進むにつれて思っていたよりしっかりBL(恋愛)だった。
BL要素があっても一般小説として発行されている作品の面白いところは、恋愛的ハピエンを目指す必要がないためにどこにどう着地するのか予想がつかないところだと個人的には思っているのだけど、本作も最後までどうなるかわからずハラハラしながら楽しく読めた。
具体的には、山内練が最終的にどうなるか…生きるか、死ぬか、どちらもあり得ると思ったのでドキドキした。
終盤の麻生の、振り回され精神的に打ちのめされる様は、読んでいて大変に楽しかった。
なんかもう、かわいそうかわいい。個人的にこういうの大好きだ。
もちろん、ミステリとしても素晴らしかった。とても充実した読書体験だった。
