商品説明

『箱の中』『檻の外』の番外編。堂野の母の葬式と、それをきっかけとした堂野の決断、喜多川の想い。

作品情報

作品名
すすきのはら
著者
木原音瀬 
イラスト
草間さかえ 
媒体
特典
発売日
付いてきた作品(特典の場合)
「檻の外」応募者全員サービス
4.6

(26)

(24)

萌々

(0)

(0)

中立

(0)

趣味じゃない

(2)

レビュー数
4
得点
120
評価数
26
平均
4.6 / 5
神率
92.3%

レビュー投稿数4

「死んだあとも堂野の…僕のところにおいで」

『箱の中』の文庫化にあたり、一番気になったのはこの番外編が入るかどうかでした。
望み薄でも、もしかしたら…と期待していたのですが、やはり願い叶わずでしたね…。

まあ、雨の日はおろか、なつやすみが入っていない文庫版にこれが収録される余地はないと納得はできますが…。
応募者特典という性質上、限られた方にしか読んでもらえないというのが残念でなりません。少しでも内容が伝わるよう、掻い摘んでお話したいと思います。

■『なつやすみ』の中でちょっと出てきた、喜多川の養子縁組について描いた短編。
「俺は葬式に行ってもいいのか」
堂野の母の訃報をきいた喜多川のセリフです。喜多川との関係を親戚に隠している以上、まだ踏み込めない距離があるのだなあと感じさせます。
堂野の娘が亡くなった時も、黙って毎日花冠を作っていたように、一歩引いたところで堂野の大切な人の死を偲ぶ喜多川の思いやりがすきです。
悲しむ堂野のそばにいたほうがいいだろうと、仕事を急いで終わらせ、堂野の実家に駆けつけた喜多川。その真意をしり、堂野は胸を詰まらせます。
そうして葬式を済ませ、喜多川とともに家の片付けをする中で、堂野は感傷に浸りながら過去と現在、そして未来について考えます。
スーパーからの帰り道、川原のススキをみて思い出す過去の風景。昔の遊び場、迎えに来る母の姿、更地になって建てられた店…。
あのススキ野原は戻ってこないし、母もいない。止めようのない流れの中で消えていく数々のものたち。
感傷に足を止めた堂野は、どうしたのかたずねる喜多川に「ススキがきれいだなと思って…」とこたえ、それを聞いた男はススキを数本、毟り取って堂野に差し出します。
この先ずっとこの男と一緒にいられたら…。
そう堂野が考えるのは必然でしょうね。

葬式からまだ間がない、母親の気配がまだ残る家で、彼らは一度だけ体を重ねます。
いい歳をして、後ろめたさもあるというのに、求められることを素直に嬉しいと思う堂野。
触れ合うことに馴染み、自然と受け入れ、素直に喜べるのは、彼らが一緒に歩んできた時の長さの象徴でもあり、後ろめたさの裏側で、すみません、この男が自分の好きな人です、と母親に謝りながら抱きあう描写にはたまらない気持ちにさせられました。
『雨の日』以降、ふたりが互いに想い合っているのは一目瞭然です。
でも、長すぎる片思いの時期をしっているだけに、堂野から喜多川への愛の告白が、このような形でもきけて、本当にうれしかった。
喜多川が堂野に寄せるのと同じだけ、堂野も喜多川を大切に思っている。
むしろ、喜多川より現実的に将来を想像することができる分、この頃の堂野は喜多川が及びもしない次元で彼とのことを考えているのです。
もし、自分が先に死んだら喜多川はどうなるのだろう。
同じ墓には入れない。世話をしてくれる人も見当たらない。今の関係のままだと、そういうことになりかねない…。だから堂野は決意します。

はじめ、喜多川は聞き入れませんでした。
というか、「堂野が先に死んだら」という仮定がすでに喜多川の思考を寸断するほど彼にとっては耐えられないことのようでした。
喜多川が死んだ後、蔑ろにされるのが嫌だという堂野と、死んだ後の自分のことなんかどうでもいいという喜多川。
どこまでも自分に無頓着な男の物言いは、彼を大切に思う堂野には許せませんでした。
思わず手を上げ、慌てて謝り、それでも強引に「同じ籍に入れる」と宣言します。

喜多川の説得が第1の関門だとすると、第2の関門は堂野の妹、朋子でした。
朋子は、喜多川を何十年も兄を居候させてくれている親切だけど変わった友人だと思っています。
喜多川の仕事がイラストレーターだということも、変わった友人としての印象を裏付けていたようです。
当然、そんな男を籍に入れるという兄の主張を簡単に認めるわけもなく、度が過ぎる兄の優しさに苦言を呈します。
身内のいない喜多川を同情で籍に入れるという理屈が退けられ、事実を言うべきか、言わざるべきか堂野は悩みます。

20年近くの歳月を恋人として喜多川とすごしてきた事実。
数少ない肉親と気まずくなるような、非難されるような状況を避けたいがために、隠してきた事実。
しかし、明かさなければ妹は納得してくれない…。
喜多川は僕の恋人なんだ。
静かに告げた堂野に、妹は少しツライ言葉をぶつけ畳の上に突っ伏して泣きました。

妹が去った後、日が傾くまで座っていた堂野の前に喜多川がススキの束を突き出してたずねます。
それ、今度庭に植えるかと。
なぜそんなことを聞いてくるのだろうと考え、一昨日、自分がきれいだといったからじゃないか、…だから、買い物帰りにこんなにたくさん取ってきて、庭に植えるかなんて言ったんじゃないか…
そう気づいた途端、溢れてくる涙を堂野は止められませんでした。

自分が先に逝っても、この男を一人にしたくない。
堂野の深い愛情が「堂野圭」を生み出したという物語。
喜多川は『箱の中』で名前について「あんたが俺につけた名前みたい」と言い、『檻の外』では「あんたん家の子供になりたい」と言っています。
当時の真意とは異なりますが、苗字も名前も愛する男に与えてもらって喜多川は本当に無敵で幸せ者だな、と思います。
さいごに、読み返すたびに涙が溢れるとっておきの堂野のセリフをひとつ。

僕は嫌だ。君が蔑ろにされるのは嫌だ。だから、本当の意味で家族になろう。僕の籍に入って、死んだあとも堂野の…僕のところにおいで

堂野の心配をよそに、とっとと先に逝っちゃった喜多川を恨めしく思いつつ…いつかこの短編が再び世にでることを心から願います。

103

きびとう

檻の外 相当前に購入していたのにもかかわらず番外編があることをたった今知り、まさかの高値すぎて手がでませんでした。あとがきにもすすきのはらの存在を匂わせる物もなくとっくに全サが終わったあとで…今さらどうにもならんなーと諦めていた所詳しくレビューを書かれていたこのページを拝見することができました。
どうしてもお礼を言いたくコメントさせてもらいました。
本当ありがとうございます。読めなくとも情景を思い描く事ができ あなた様は神だ と感謝しかありません。本当助かりました。
レビューを読ませていただき、番外編 1つの作品の完結として超重要だとつくづく思い 全てを読むことが出来ないのはあまりにも酷だと
完全版としての書籍出版を願わずにはいられません

kaze

こんなに丁寧な解説をして頂き、ありがとうございます。いつか’’すすきのはら’’を読めることを夢見て。。。

ややこ

こちらのレビューで、この本を読めない人間にも感慨を伝えていただき、本当に感謝いたします!

桓武天皇

このレビューを読んだだけで泣いてしまいました。本当にありがとうございます。涙

syou

「すすきのはら」はkbookで一万円超えの値段で売っていました。「愛すること」が電子書籍で読めるようになったように、「すすきのはら」も多くの人に平等に読めるようになってほしいと願っています。

白桃

はじめまして。なつやすみ で尚視点で書かれていた十数年、二人にも穏やかな暮らしがあったんじゃないかなと思っていたら、こういうお話があったんですね...。
死んだあとも 僕のところにおいで って、なんて堂野らしい、優しい言葉なんでしょう。
セリフを思い浮かべるたびに涙が出てきます。レビューも何度読んでも泣けてきます。
同じお墓に入って はちょっと家がらみな感じでいやだけど、これは最強のプロポーズじゃないですか。
本編読めなくて悲しいです。レビューしてくださってほんとうにありがとうございました。
「愛すること」みたいに電子書籍にでもならないかなー。

まん丸ッ

読みたくて読みたくて・・叶わないと思っていたところにこのレビューを見ました。
本当にありがとうございます。堂野&喜多川の切なく、温かい思いがつたわってきました。

徹michi

ありがとうございます。
読むことのできない自分には、とてもありがたいレビューです。
と同時に、どうしても読みたい気持ちが更に増しました。
イチ。さんの文面でさえ、堪えるのに、本編が読めた時には嗚咽ものですかね。
兎に角、今の自分には救いになりました。
本当に素敵なお話なので、全て読み尽くしたいです。
そうなる日を切に願います。。。

『箱の中』『檻の外』の番外編

『箱の中』『檻の外』のファンの方には是非ぜひ読んでもらいたい小冊子です。
オマケ的な扱いにするのがもったいないぐらい、完成された一つの作品となってました。
こういう小冊子って、エロや痴話喧嘩的エピソードや小さな萌えエピソードなどで構成されてることが多いと思うんだけど、木原音瀬を舐めちゃーいけない。
号泣必至です。
私は、養子縁組についての会話をしてる場面(具体的には31ページから34ページにかけて)で、ずーっとポロポロ泣いてました。
喜多川の「崇文の子供になったら…死ぬのも怖くなくなるんだな」ってセリフで滝のような涙が。まさにドバーッと。
ああ、この後の人生、喜多川は最後まで恐怖を感じることなく生きることができたんだな…と思って。
あと、50歳を越えてからもちゃんとエッチしてて、それが穏やかなものに変化してるっていう部分も、キューンときました。次元の違う深い愛の行為になってる感じがして。

シリーズの新装版、いつかまた出してほしいです。で、このエピソードを収録して欲しい。
もっともっとたくさんの人に読んで貰いたいエピソードだなって、心の底から思いました。

41

むつこ

ぐえっ
ぐええ~っ

こんにちはー。
ともふみさん、ホントにこの二作品が好きですよねw私もダイスキ。嬉しい。
ただじつは私もこの小冊子、「読んだ」だけで、持ってないんですよ。アハ。
この手の小冊子は後から入手しようとすると高すぎてどうしても躊躇ってしまう…。
ともふみさんにも読んでもらいたいです。収録しての新装版カモン!カモーン!!

これ、木原さんの優しさを感じた小冊子でした。本編のほうは苦しくて切なくて泣くって感じだったのに、小冊子のほうはひたすらあたたかくて泣けてくる感じ。
喜多川いいよね。欠点のいっぱいあるイビツな人間なんだけど、どうしようもなく愛しい可愛い男だなって思います。ギュッてしてあげたくなるキャラナンバーワン。

ともふみ

むつこさーーーーん!
「すすきのはら」どなたがレビューしてくれないかなあと、待ってました。待ち続けてましたーー!ありがとうむつこさん…!!ぎゅむっ
「愛すること」の方は何とか読む機会に恵まれたんですが、こっちは未だ手に入らず、生唾飲みなら舐めるようにレビュー読みました。
読みながらちょろっと涙が出そうになりました。喜多川が幸せを噛みしめれば噛みしめるほど、泣きそうになちゃいます…。

レビューして下さって、ほっんとに嬉しいです。ぎゅむっ(二回目)
はあ~朝から一気に血圧上がっちゃった。。

なぜこれを入れてくれなかったのか

これを読めたか読めなかったかでは、私の中では大きな違いがあるほど、心に沁みるお話でした。
短いお話なのに胸にずしんと重たく残り、なんともいえないやるせなさで、しばらく胸の中に喜多川と堂野が居座り、弱ったものです。
しかしこの日高さんの表紙は素晴らしい。
この、どこにでもありそうな平凡なちょっと古臭い門扉…フリーハンドで描き込みが緻密。
読み終えてからまた見返すと、人物のいないこの風景が尚更感動を呼ぶのでした。
表紙って大事だなあとつくづく…。

小冊子はそのときに入手できた人だけの宝ですが、それも含めての秀作であれば、今回の文庫化にはぜひともいれていただきたかったなあと思うばかりです。

10

書籍化熱望します!!

どうしてこの名作が世に出ないのでしょうか。世の中の不条理に歯がみしたい思いです。
木原先生、どこでもいいから出版社様、どうかどうか書籍化してください。この際、電子でもよいです。読みたい方が適正な値段で入手できるようにしてください。
どうしても読みたかったのですが、色々なサイトでかなりの高額で取り引きされていました。とても私には手の出ない値段です。
この堂野と圭の思いの詰まった短編がこのまなんて、日本小説界の損失です。これがあって初めて箱の中シリーズは完結するのです!!

あらすじは他のレビュアー様が書いてくださっているので割愛しますが、何と言ってもあの常識人の堂野が圭と家族になる決断をし、妹にその話をするまでの心の変遷が絶妙です。さすが木原先生。
そして名言。「崇文の子供になったら・・・  死ぬのも、怖くなくなるんだな」
胸が震えました。
死をも超越した愛、というとなんだか子供だましに聞こえますが、人間の本源的な恐怖である死をも乗り越えることができる、それを愛しい相手に伝えることができるなんて、これを名作と言わずに何を名作と言うのでしょう。
ああ、本当に皆様に読んで頂きたいです。

6

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