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凪のようで、ゆらゆら気持ちよく読みました。
登場人物、みんなが欠けていたり、悩んでいたりしていても、決して暗くなりすぎず。
今の小さな幸せや大事なものに気づいていって。
あまりに身近にある幸せには気づきにくいし、気にもせず毎日を過ごしているけれど、振り返ると大切なものがたくさんあったのだと。
宝物、すぐそばで輝いていた。
家出した父を連れ戻すと言って、家を出て行った母。
母が連れてきた弟。
恋人3人と半同居する兄は、作家。
兄の宝物は、出会った大事な人達。
大事なもの=父を、何時までも探しに外に出る、諦めない母。
出会った人達を宝物だ、母;ひとみに心の中で呟く兄は家守。
・・・母は、陰を追いかけても、影も逃げていくことに気づく必要がありそう。追い付けない。
追いかけたいものが有る間は、それが生きがいになっているということなのかな。
余韻ある終り方でした。
レビューが非常に難しい作品で長らく放置してたけど、とりあえず書きます。
あらすじを追うだけでは全然伝わらない作品の類でして、登場人物の過去や現在などが絡み合って絆を再発見・再確認するといったストーリー。
その手法はお見事だし、一冊なのにうまくまとまっているのでクオリティは高いと思うのだけど、いかんせん最後の結論がしっくりいかない……。
最初は右端のメガネの少年の視点で始まるので彼のストーリーかと思いきや、薄紅色の着流しを着た男・シンタローが主人公です。
シンタローの父親は妻子を捨てて姿を消し、母親はシンタローを捨ててまで夫を探しに求めた。
残された息子は、愛に飢えた男となり…というのがシンタローの背景。
シンタローにはワンコ気質の恋人・チャコがいる。
そして信頼のおける友人・橘高もいる。
だけどある日、ファンを名乗る子持ち男・榊がやってきて、周囲に内緒で体を重ねるだけに飽き足らず、なんと二人だけで逃避行してしまう……。
「宝物はぜんぶここにある」
読み終わると、本当にその通りだなぁと納得できるタイトルではあります。
親のような安心を与えてくれる存在として橘高を手元に置き(橘高がEDでなかったらきっと橘高はシンタローの全てを求めていただろうな……)、ワンコ彼氏は忠実に先生を愛してくれている。そして何故か、浮気相手の榊もその後もシンタローの側にいる…。
三人の男たち&シンタローって感じで、シンタローにとっては逆ハーレム状態で幸せそのものだと思う。
だけど、私はこの中の一員には絶対になりたくない……と思ってしまった。
あとがきのキャラ設定で、シンタローは頭の中を「最愛の人」「彼氏」「セフレ」「大切な友達」などパーテーションで区切れる器用な人とあるけど、きっぱり区切れる人のほうが少ないと思うんですよね。
親のような存在が橘高で、恋を味わせてくれる存在がチャコで、性欲を満たしてくれる存在が榊と、それぞれがシンタローの求めるポジに収まってくれたからいいけど、そんなのは稀有な例だと思ってしまうんです。
そもそもワンコなチャコは榊との一件を知ってるのかなぁ?
橘高に対して見当違いな嫉妬やライバル心を見せている位だから、チャコが本当のことを知ったら絶対にあんな皆で仲良く海でワイワイ♪なんて出来ないと思うの……チャコが不憫。
私はそれよりも平行して描かれる書生・旬之介と春威少年(「コイノヒ」に出てた彼です)の物語とのほうが断然好きでした。
奔放な母やシンタローを「どうしてそんなにのべつまくなく誰かと交わっていたいのだろうか どうせひとつにはなれやしないのに」と冷めた思いで見ている旬之介。
それよりも、触っても触られても何も起こらず何も感じず何も考えなくていい「ふつうの友達」が欲しい…と思うんです。
そんな彼が、春威少年と「恋」をテーマにした創作ダンスに取り組むのですが、片方の気持ちが透けて見えるところが好き。
そしてピュアでウブウブっぽく見える春威少年の「しゃらくせえ」が良かったなぁ。
BLとしてではなく、人間ドラマとして読みました。
あまりにいろいろな感情が入り混じっていて、ぶつかり合いそうでぶつからないままだったり、BLという枠で括ってしまうには大きすぎる作品だと思います。
糸井のぞさんの作品っていつもそうですよね。
BLの切なさではない、人間としての切なさ、やるせなさ、もどかしさをすごく丁寧に描き出せる作家さん。
母に置いていかれたため、作家の信太郎の家に身を寄せる旬之介。
作家を「先生」と呼び、自らの身分は「書生」。
そして先生の家にはもうひとり、同居人がいて…。
という始まりです。
やっぱりストーリーテリングの妙と言うのでしょうか。手の内の見せ方が上手い!
先生と旬之介の関係には衝撃が走りました。そうだったのか!じゃあひとみさんというのは…と絡まった糸がほどける感じ。旅館の写真もあのときはよく分からなかったけれど、そういうことか、と。いくつも分からないまま読み進めてきたものが、ひとつの事実が分かった瞬間にぱっと全部つながるのです。すごい。素晴らしい。
ただ先生の生き様はよく分かりませんでした。「一番欲しいものは手に入らない」と言っていた高校時代、欲しいものはたったひとりだったのに、最終的にはそのひとに求めたものを分散化してしまっただけのような。橘高が不能でなければきっと橘高だけを求めたかもしれませんね。ただその場合、橘高は深雪との間に子供もいるような、いわゆる完全な関係を築けるわけで、そうなると話が全く変わってしまうのだなあ。
母親が欲したのはたった1人、父親だけ。だけど先生には最高の友人である橘高、恋人のチャコ、愛人(と言っていいのかな?)の榊、子供のような存在でもある旬之介がいる。1人を追い求めてなお旅を続ける生き方と、4人に囲まれてしあわせに暮らす生き方の対比。
それぞれの宝物。どちらがしあわせなのかは本人次第、というところでしょうか。
でもビッチは受け付けないので何とも厳しかったです。榊が絡んでくるのが一番いやでした。ぽっぽちゃんを置いて逃避行とか、旬之介が殴ってくれたから少しはスッとしたけれど、本当にほんのちょっと。わたし自ら殴りたかった!いや、むしろ某アイドルの握手会ばりに、この本を購入した全員で「榊殴り会」を開催したいほど。チケットは購入した本で。
先生は苦手ながらも、先生が橘高の娘になりたい、と言ったシーンはすごく胸に沁みました。「恋人」という立場では、マスターを引き留めることはできなかった。「息子」という立場では、母親を引き留めることができなかった。自分が娘だったら、娘が欲しかった父親を引き留められたかもしれない。目の前でぽっぽちゃんという「娘」のために戻った榊を見ていただけに、橘高を引き留めておきたい気持ちの強さが痛いほどに伝わってきました。
でもなあ、やっぱり先生の生き方は嫌なんだよなあ。
せめて恋をする相手と性欲を満たす相手を統一してもらえないものかと願ってしまう。チャコと榊がそれでいいならいいのですが、何だかなあと思ってしまう。
半分同じ血を継いでいる(ヒトミさんは後妻だと思っているのですが、合ってますか?)旬之介はきっとたったひとつの宝物をいつか手にするのだろうけど(あらすじでは30才前後と書いてありましたね。長い…)、わたしはこういう生き方の方がやっぱりいいなと思えました。
春威の短編も読み直したら出てましたね、藤木くん!あの子がこの子か、とちょっと感慨深かったです。
ぐるっと回って、すとんと落ち着いた。
そんな感じの作品でした。
途中参加の榊だけが、新しく仲間入りしたというくらいです。
チャコと別れて橘高や榊とくっつくわけでもなし。
橘高はかけがえのない人。でも恋人じゃない。
橘高、チャコ、榊、旬之助。信太郎にとっては、みんなそれぞれ違う別の立ち位置というのが、個人的に共感できました。
この人、一人が傍にいてくれたら自分は生きていけるという猪突猛進的なものも良いですが、別々の人間なのだから、自分にとってもそれぞれ別々の大切な存在で順位をつけるものでないというスタイルも素敵です。ある意味我儘ともいえるのですけれど。
最後に出てきたヒトミがまた良かったですねぇ。ぜひ手にとって欲しいです。
それにしても…表紙裏を読むまで春威を思い出しませんでした。「コイノヒ」を先に読んでいたのに(汗)