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恋ひぞ暮らしし雨の降る日を

koizo kurashishi ame no furu hi wo

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表題作恋ひぞ暮らしし雨の降る日を

山吹,アパートの階下に住む同級生,チャラ男
福士八潮,ゲイで恋に臆病な大学生

同時収録作品ひるひなかに咲く

柳川,映研に所属する大学2年生
駒井,大学2年生,花屋の息子

同時収録作品ユートピア

轟比左夫,現場作業員(本業は鉱石売り),31歳
坂野義実,毎晩公園にいるスーツのおじさん

同時収録作品夏が過ぎても

江間渚,恩師の息子でカメラマン
市木豊,自然史博物館の学芸員

その他の収録作品

  • 雨晴れの日にたぐひて(描き下ろし)
  • あとがき(描き下ろし)

あらすじ

恋に臆病な八潮に急接近してきた山吹。チャラ男だと思っていたけれど、それだけではないようで……? 表題作ほか、名手・すももの描く傑作連作集!!

作品情報

作品名
恋ひぞ暮らしし雨の降る日を
著者
すもも 
媒体
漫画(コミック)
出版社
東京漫画社
レーベル
MARBLE COMICS
発売日
ISBN
9784864421621
3

(20)

(2)

萌々

(5)

(7)

中立

(3)

趣味じゃない

(3)

レビュー数
3
得点
54
評価数
20
平均
3 / 5
神率
10%

レビュー投稿数3

叙情的な言葉選びが秀逸

食べ物が好き過ぎて、仕方ありません。
食べ物の気配がぷんぷんする「嫌煙家のテーブル」を購入しようと思ったときに、一緒に購入したこちら。
素晴らしかった…。
表題作も良かったのですが、同時収録も素晴らしかったです。

表題作+続編+描き下ろしに短編が3つ収録されています。
表題作は雨の日になるとやってくる大学の同級生・山吹と、ゲイゆえに孤独を選んだ大学生・八潮の話です。
最初に出てくる「人、世間の愛欲の中に在りて、独り生れ、独り死し、独り去り、独り来る」という文言は「仏説無量寿経」の「五段悪」の一節だそうです。シンプルな言葉だけにいろいろな解釈があるようです。
最初のきっかけは酔った山吹が自宅と間違えて1階上の八潮の部屋を訪れたことから。それ以降雨が降るとやって来るようになります。
ひとと関わらないようにしてきた八潮が絶対に自分の人生には縁がないはずの結婚式場でバイトをしているのも興味深い。
八潮はもともとノンケの山吹が垣根を超えて来ても「一時的なこと」「思い出を作っておきたい」と線引きしようとします。山吹が元いた「ふつうの世界」に戻ったときに自分が傷つきすぎないようにやっている自衛の線引きが山吹を傷付けていることにも気付かないのが切ない。「ゲイである」ということは、自分がしあわせになれるはずがないと自ら決めつけてしまうほど重いことなんだと思い知らされます。
こういう場合、臆病なのは長い間ひとりで悩んできたゲイの方で、飛び越えてきた元ノンケは飛び越える時点で全部の覚悟をしてきているから強いんですよね。描き下ろしも含めて、山吹の発する言葉の力がすごかったです。特に「子供は好きだけど、八潮くんを諦めるほどじゃない」という台詞に痺れました。
独りで生まれて、独りで死ぬとしても、生きている間はこんな調子でずっと2人でいてほしいなあ。

【ひるひなかに咲く】
映画研究会に所属する大学生と花屋の息子(同級生)。
始まりの2ページ、すごく怖かった…。ホラー苦手な人はご注意を。
やりたいことに正面から向き合う柳川に影響を受けて、駒井もやりたいことに素直に向き合っていくというプラスになり合える関係が素敵です。

【ユートピア】
鉱石を集めに世界中を旅する31才とバツイチで息子命のリーマン。
早くに両親を亡くして、ひとりでいることに慣れていた比左夫のライフスタイルにちょっと憧れてしまう。リーマンの突拍子のない感じも好み。ラスト5ページがたまりません。

【夏が過ぎても】
7年前にフィールドワークでお世話になった恩師の息子と再開した博物館の学芸員。
好きになることで7年前の美しい思い出を無くしてしまうことになるとブレーキをかけようとする臆病な大人と、怖いものなしに飛び込む若者のパワー。渚(恩師の息子)のパンイチ率。

絵が緻密で丁寧かつ綺麗。そこに叙情的で美しい言葉が加わったら無敵です。
ページをめくるごとに圧倒されます。ぜひとも一度体感してください。

1

虚しさの中で

「人、世間の愛欲の中に在りて、独り生れ、独り死す」
(浄土真宗の経典『仏説無量寿経』の一節)

表題作の冒頭に出てくるこの言葉が、本書全体のテーマのように思います。

人は世間の情の中で生きていくが、結局は一人で生まれ、一人で死んでいく。

セクマイの孤独、大学生のモラトリアム、家族の離散…。
世間と付き合いながら誰もがふと感じるような、ほんの少しの人生への不安、寂しさ。
ほのぼのした展開の中に、そうした切なさをチラリと見せる作風が気に入りました。
恋愛要素は薄めで、寂しい人たちの心の交流中心。
その延長上に恋が芽生えていくような展開です。


【表題作】
主人公は、男しか好きになれず、
一生独りで生きていく覚悟をしている大学生。
ある日、酔っ払った同じ大学の同級生(同じアパートの住人)を
なりゆきで部屋に泊め…。

ゲイの主人公と、ノンケ(失恋でアル中気味)の同級生。
自然と一緒にいることが多くなり、キスするようになるけど、主人公はノンケの彼とずっと付き合えるとは思っていない。

バイト先に結婚式場を選んでいるところなど、どこか自虐的なところが切ないです。

同級生は、一見チャラいけど意外と一途で
男と付き合っていることも周囲に隠さないフラットな人。

でもすごく男前ってわけでもなく
男に抱かれるなんて気持ち悪いと言って主人公を傷つけてしまったり、
ノンケ故の無神経さや戸惑いも見えるところがリアルでよかったです。

初エッチで受けに回ることを決めた主人公が、全然物怖じしないのも良かった。
元々抱かれる側に興味があったことや、童貞であることをサラリと打ち明けられるほど相手に心を許していて、相手もそれを笑顔で受け止める。
そんな関係を築けた二人にじんわり感動しました。

ただ、肝心の絡みシーン自体は華麗にカットされ
ちょっと盛り上がりに欠けるのが残念でした。


【そのほかの収録作】
映画サークル、自然史博物館など、舞台設定が魅力的。
特に、鉱石売りの男と、離婚した中年リーマンの
心の交流を描いた【ユートピア】が気に入りました。
もっと続きを読みたかったです。


全体的に、すごく萌えたり感動したりということはないものの
舞台設定やさりげなく挟まれる蘊蓄が洒落てて
良い雰囲気の作品集でした。長編も読んでみたい。

10

yoshiaki

Krovopizzaさま

コメントありがとうございます(^^)

>「ひるひなかに咲く」でタイトルが出てきた「愛の悪魔」という映画はご存じですか?
私はこの作品をきっかけにレンタルしてみたのですが、フランシス・ベイコンの生涯を描いた映画だけあって色々と濃いゲイ映画でしたよ☆

そうだったんですね!!それはぜひ観ないと! 良い情報をありがとうございました。

>バイト先に結婚式場を選んでいるところなど、どこか自虐的なところが切ないです。

ここにすごく頷いてしまいました(^_^.)
たしかにゲイだってことをネガティブに捉えてる八潮にとって、結婚式場のバイトは自虐的ですよね。
バイト先で女の子に告白されて逆ギレしたのにもビックリ!!
めげない女の子みたいでほっとしました(笑)

言葉のセンス、きらり。

「夜半に誰か来て、その日は雨が降った。」
というモノローグで始まる表題作。
コマの流れでは「雨の日の夜半、誰か来た」なんだけど、敢えてのひとひねり。
マンガ・小説を問わず言葉で遊んだ作品は好きなので、入り口でたやすく惹き込まれました。

主人公は、同性愛者だということを自覚し、一生独りと覚悟している八潮(結婚式場でバイトする大学生 表紙絵左)。
雨の日になると八潮の部屋に押しかけてくる下の階の住人・山吹(八潮と同じ大学の学生 表紙絵右)のことが気になり始める八潮ですが、山吹が雨の日を一人で過ごしたくない理由が異性との失恋にあることを知っている八潮は、初めから恋をあきらめていて――

粗削りでユニークな作品が多くて、宝探し感覚がお楽しみ――というのが、私の抱く東京漫画社のコミックスのイメージ。
すももさんは東京漫画社でのみ執筆されているせいか、東京漫画社色を濃厚に感じます。
王道どこ吹く風のフリーハンド路線っていうのかな。
絵やマンガとしての魅力は発展途上な感じなのですが、伝えようとしている雰囲気は個人的に好きなテイスト。
特に、セリフやモノローグの端々にさりげなくのぞく言葉のセンスに惹かれます。
『万葉集』から引用したタイトルも雰囲気があって素敵。

「ほら、雨って檻みたいじゃん」
雨の日の、雨音に閉ざされる孤独と、人が誰しも抱える心の孤独とを重ね合わせた物語。
結婚式場で配膳のアルバイトをする八潮にとって、祝福を浴びるカップルたちの晴れ姿は日常の風景。
でも、ハレの日の2人に向けらえた喝采の渦も、独りで生きることを決めたゲイの八潮にとっては無縁のもの。むしろ彼の孤独を包む雨音と同じ檻のようなもの?
賑やかな場所で感じる孤独こそ、何故かしんと心に深く染み透る・・・
淡々と描かれるバイト風景から滲み出る八潮の孤独が、この作品で一番心に刺さりました。

BLとしては、心に孤独を抱えた男が二人肩を寄せ合ううちに恋が始まるという顛末なんですが、かなり哲学的に始まった気がする割に、最後は山吹の勢いに流されてしまった感も・・・
均衡を崩すのは山吹の側、というのは納得。でも、山吹ってそもそも孤独?
いい奴でなつこくて・・・彼の中に、孤独が見えない。
八潮は自分(山吹)を好きじゃないから(嫌われる心配がなくて)安心する、と言っていたスタート地点からの心の変化が追えない。
八潮の孤独はすごくクリアに描かれている気がしたんですが、山吹は、気が付けば八潮の孤独を受け止めるポジションになっていた気がします。
「孤独と孤独は相容れず、結局僕らは孤独です」
という前編ラストのモノローグにはすごく引力を感じただけに、山吹の孤独の核心も覗き見たかったな。短編なので、尺が足りなかったのかもしれませんが。

言葉選びが上手い作家さんなので、言葉の重みを積み重ねていくようなストーリーのものを読んでみたい気がします。
次回作に期待。

同時収録作品3作も、孤独で臆病な男たちが心の扉を開くまでを描いた作品です。

6

Krovopizza

yoshiakiさん、こんにちは!

言葉のセンスが素敵な作家さんですよね。
レビューでは、一番意表を突かれた「人、世間の愛欲の~」のことしか書きませんでしたが、私もyoshiakiさんと同じく、初めのモノローグやタイトル良いな~~と思いました♪

これからも東京漫画社で純粋培養されて、独自の世界観にますます磨きがかかると良いですね(他社で描いたらどんな感じになるのかな~とかも気になりますがw)

そうそう、yoshiakiさんは「ひるひなかに咲く」でタイトルが出てきた「愛の悪魔」という映画はご存じですか?
私はこの作品をきっかけにレンタルしてみたのですが、フランシス・ベイコンの生涯を描いた映画だけあって色々と濃いゲイ映画でしたよ☆

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