イラスト入り
昔風の言い回しが随所にあって、風情がある作品でした。
例えば、「下駄を履いた素足がぞろりと寒そうに・・」
「ぞろり」と寒そうに、なんて懐かしい言い回しです。
文弥の実母、芸者の琴音が粋で素敵でした。
最後の見送りの場面で、愚図の息子に息子が後悔しないように、思い切りよく前に進めと押しています。
女は度胸。海に落としてどうなるかは、息子の運次第。
文弥を海に突き落として、船まで行かせることに成功。
大胆で、ちょっと間違ったらショック死もあったかもしれないけれど、そこはファンタジーなので大丈夫ってことなのかな、冷たい海に飛び込むなんて、良い子はマネしちゃいけません。
画像検索したら、書下ろしペーパーに渡欧後のことが少し書いていたらしいと知って、レビューを検索したけど、見つけられなかった、残念。
メルカリの完売済みに画像だけ残ってました。文弥視点のものらしいです。
https://bit.ly/32Hv1QC
著者は、HPもTwitterも未公開なので、内容を探り様がない。
続篇も無い1巻だけの作品です。
関東大震災(1923年・大正12年9月1日)後の日本は不穏続き。大正デモクラシーと呼ばれた自由な時代は終わり、世界恐慌へ巻き込まれていくのですが、渡欧後の二人は幸せだったのか、気になります。
小説だから、きっとバラ色の内容にしたんじゃないかと思うのですが。
旧制高校を舞台に繰り広げられる爽やかな恋物語。
ハーフである惣一郎と実母が芸者の文弥。
寮の同室となった当初から意識して主従関係を作るようになった二人。
一見文弥を振り回している身勝手な先輩に見える惣一郎を周りが咎めても、文弥の受け止め方が素直で卑屈さがないし、これが二人の心地よい関係なんだという雰囲気を醸し出している。
そうした関係の中で、伯爵家、医者の家系と裕福な家庭で育ちながらも、それぞれの家族に歓迎されざる二人が互いの身の内を理解しあった上で、信頼関係から恋愛に発展する様子を甘酸っぱい気持ちで追う事ができた。
また、育った境遇とトラウマ持ちって設定から受けの文弥は暗い子かと思っていたら、吃りながらも自分の意志をはっきり伝える子でキャラが立っている所に好感が持てた。
惣一郎に寄せる絶対的な信頼感のほうが勝るようでトラウマも克服して、エッチになると結構大胆になる一面が可愛い。
憎まれ役の先生もいるが、基本、二人を取り巻く友人達もいい子ばかりで、作中にもシャン、メッチェンとかの言葉も出てきて大正ロマンに浸って読める。
特に文弥の母親の琴音がこの時代にしては奔放な女性である一方で息子想いだったのが意外で、傍から見れば身勝手でも、将来を不安がらず今を大切にしろ的な彼女の考え方が何だか清々しかった。
決心に迷う文弥の背中を土壇場で惣一郎の待つ大海原へと前に押し出したのは、母親としての究極の愛だと思う。
(…ま、なかなか大胆だったけどね(^_^;))
読了から暫く経っても、ふと思い出してしまう、独特の雰囲気のお話です。大正時代が舞台になっていること自体が珍しいと思いますが、二人の持つ奥ゆかしさと激しさが何とも切なく、大変萌えました。たまに出てくる直截な表現にもドキドキしました。宝井理人さんのイラストにも儚さや若い情熱が感じられて良かったです。
文弥の生い立ちに加えて時代が時代なので決してポップな印象のお話ではないのですが、とてもロマンティックな作品です。続編があれば是非読んでみたいです。
自分は挿絵を宝井先生が担当されていると聞いてこの本を手に取りました。文弥の繊細な感じがイメージとぴったりでした。
内容としては、話の流れを追いやすく、また、最後まで展開にワクワクしながら読めたので良かったです。(最初は控えめだった文弥がだんだんと大胆になっていく様子から目が離せませんでした。)
ただ、これは自分の読解力不足なのかもしれませんが、二人の行動に疑問を持ってしまう場面がありました。なので少しですが…イラッと…^^; あと、文弥の吃音も小説だと少し読みにくかったです。
なので、時代背景が好き、または文弥の吃音に負けず読み続けられる、という方には是非お勧めしたい作品です。
宝井先生のイラストにも惹かれて一気に読了。何もかもが上手いなぁと、ノーストレスで作品世界に入り込めました。さすがベテラン作家様です。
この時代を背景にしたBL、大好きです。出自が伯爵家でヨーロッパ系の混血、かたや遊女の子。舞台は学生寮、先輩後輩の関係性とか硬派の文化とか萌え要素に尽きません。
でもって休暇期間のお誘いやら野合やら、大震災、大戦と、心身ともに危険な障害に晒されて二人の結びつきがより深まっていくとともに、男同士ゆえに将来を試される…
なのにドラマティック過ぎないのは、受け攻めの描き方にもの凄く抑制を効かせているからだと感じました。それぞれの生い立ちに由来するキャラ付けがしっかりとなされているので、二人の悩みも葛藤も真に迫っていて、その不安から今を刻みつける大切さを選ぼうとする若い衝動が切なくも尊かった…。
惣一郎も文弥も好きなキャラクターでした。プラトニックな関係もドキドキさせてくれたけど、一線を越えてからも程よく色っぽくて。最後まで一途な二人だったのがたまりませんでした。
文弥と生みの母親の関係もしっかりと描かれていて、手紙のシーンではグッときて印象に残っています。とっても気丈で男前な人で、母性は元より一人の女性としての存在感も強かったです。彼女がストーリーの展開に結構重要な役割を果たしているわけですが…。
全てがいい感じでお話が進んでいて、ハラハラしながらエンディングを迎えそうになったところ。最後、惣一郎の船出のシーンで、文弥の母ちゃんの一撃にエ゛ッ!ってなりました…。なんか、違和感…。あのシーンに動揺して読み終えるハメになったのは残念です。一貫してシリアスだったのにいきなりコントみたいなオチで(わたしにはそう感じた)なぜ〜?といまだに腑に落ちません。
ハッピーエンドだったのはメチャクチャよかったんですけど…。