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表題作largo(ラルゴ)

桜田凛,音大生
設楽六実,音大生

その他の収録作品

  • Un Sospiro(3 Etudes de Concert S.144-3) F.Liszt
  • Jesu,Joy of Man's Desiring from Cantata No.147 J.S.Bach
  • Largo"Ombra mai fu" G.F.Handel
  • あとがき

あらすじ

設楽六実は桜田凛が大嫌いだ。
音大生らしからぬ逞しい身体も、屈託ない性格も気に食わない。
それもすべて、凛が類まれなピアニストとしての才能の持ち主だから。
その才能を疎みつつも惹かれることを止められない六実は、自分のためにピアノを弾くよう求めるが、かねてより六実を慕っていた凛はその報酬にキスを要求してきて…。
音大を舞台に送る青春ラブストーリー。

作品情報

作品名
largo(ラルゴ)
著者
榎田尤利 
イラスト
依田沙江美 
媒体
小説
出版社
笠倉出版社
レーベル
クロスノベルス
発売日
ISBN
9784773002737
4.1

(19)

(8)

萌々

(5)

(6)

中立

(0)

趣味じゃない

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レビュー数
9
得点
78
評価数
19
平均
4.1 / 5
神率
42.1%

レビュー投稿数9

甘酸っぱい音大もの

ピアノを弾くかわりにキスをさせてほしい。

読み始めて数ページであっという間に作品の世界に引き込まれてしまう榎田先生マジック!
音楽大学のピアノ科を専攻している学生たちの青春物語なのですが、サラっと読める読みやすさの中にもじわじわと沁みるものあり、かわいさあり、もどかしさあり、葛藤あり…と、榎田先生作品の中ではライトな印象がありながら満足度の高い素敵な1冊でした。
天才型と努力型の組み合わせがすごく良く効いている作品だなと思います。
キスから始まる2人の距離感の変化と、ピアノという芸術系の題材を交えた人間の内面の描き方が自然で上手いです。
クラシックに明るくない方でも問題なく読めるはず!

ちょっと幼さを感じる喋りのコテコテ系関西弁の攻め・凛が登場する度に、ころころと明るい音が転がるようで気持ちが良かったです。
飄々としていて、誰からも好かれる明るく一途な大型犬攻めというのかな。
タラちゃんのことが大好きで大好きで仕方がない!と、1ページ目から好意がダダ漏れの凛が妙にツボにハマってしまった。
それだけではないギャップもあり、非常に好みのキャラクター像でした。
そして、タラちゃんこと設楽の青臭さがとっても良かったのです。
幼い頃から努力をし続けて来た優等生な設楽がどう努力をしても得ることが出来ない、元からのセンスとしか言いようのない才能を自然体のままあっさりと表現する凛への羨望。
打ちのめされてしまうから大嫌いだけれど、どうしようもなく惹かれてしまうものがある。
好きという気持ちを屈託なく自分に向かってストレートにぶつけて来る、大嫌いなはずの凛へのぐるぐると渦巻く複雑な感情の表現がリアルで人間臭くて好きでした。

ピアノの演奏シーンも印象的なものばかりで、読みながら彼らはどんな音を奏でているのかを思わず想像してしまう。
障がい等、難しいテーマもごく自然に優しく溶け込んでいて読み心地が良かったです。
恋や芸術面…音大を舞台に、若者の青春が甘酸っぱさと仄かな苦みを感じる味付けで描かれた、爽やかなママレードのような作品でした。
音楽ものをお探しの方はぜひ。

0

音大生の成長と愛

今回の榎田先生の新装版「明日が世界の終わりでも」に、
この「largo」も収録されていると聞きました。(どういう組み合わせ?と思わなくもないw)

旧版はどちらも、茶屋町さんと依田さんという好きな絵師さんが挿絵を担当されていて
個人的にはそれが魅力だったこともあり、新装版を読むかどうかはまだ分かりませんが、
とりあえず旧版のレビューも残しておきたいと思った次第。

                :

ピアノ専攻の音大生二人の、心温まる青春ラブストーリー。
依田沙江美さんの絵も手伝って、雰囲気のある作品になっている。

両親に認められる為にピアノ一色で生きて来たタラちゃんこと設楽、
彼は大学で出会った凛の人柄やピアノの才能に嫉妬して嫌いだと言いながら、
気になってならない。
一方の凛は、最初からタラちゃんへの好意を隠さない…

凛の関西弁や、凛の姉や障害児のエピソードなど、使い方によってはイヤミになるネタが
自然に心に沁みる作品になっている。

ラブストーリーとしては平凡かもしれないが、学生の成長ものとしても
じんわり良い作品になっている。
個人的には彼らの教師の赤澤先生のセリフが、含蓄があって好き。

出てくる音楽は、誰でも知っているような有名曲ばかりで
音大ものとしては、もう少し音大生ならではの曲があってもよかったかな?と思うが、
読み手がイメージしやすいだろうし、優しい作品の雰囲気にあった楽曲ではあったので、
まぁよしとしましょう。


*以下は蛇足な話。

<作中の曲一覧>

・リムスキー コルサコフ『熊蜂の飛行』 プーシキン原作のオペラ「サルタン皇帝」の中の曲。
 ジョルジ・シフラの編曲版は、ピアノの難曲としても知られている。
・F.リスト『マゼッパ』 超絶技巧練習曲集、第4曲ニ短調。
 タイトルはユーゴーの叙事詩「マゼッパ」による。
・F.ショパン『ノクターン』 No.不詳。
・エリック サティ『ジムノペティ』 No.不詳。
・F.リスト『ため息』 三つの演奏会用練習曲の第三番。  ※第一章のタイトル

・H.ベルリオーズ『幻想交響曲、第4楽章』 作曲者最初の交響曲、4楽章の副題は「断頭台への行進」。
・S.ラフマニノフ『六つの歌曲』作品4 ロマンスと呼ばれる歌曲集、「朝」はその2番。
・J.S.バッハ『主よ、人の望みの喜びよ』 教会カンタータ「心と口と行いと生活で」BWV147の
 第6曲と第10曲に登場する有名なコラール。  ※第二章のタイトル

・F.ショパン『英雄ポロネーズ』
・C.ドビュッシー『月の光』 ベルガマスク組曲の第三曲
・W.A.モーツアルト『ピアノ・ソナタ、K545、ハ長調』 初学者の為のソナタと言われる曲。
・F.ショパン『木枯らしのエチュード』
・F.リスト『愛の夢 三番』
・G.F.ヘンデル『オンブラ・マイ・フ』 オペラ『セルセ』(Serse)第1幕の中のアリア(Largo)。
 歌詞の初行からこの名で知られる。意味は「今までになかった木陰」。 
     ※第三章のタイトル


<ミ♯について>

他の方のレビューやコメントで話題になっていたミの♯について、少し補足します。

ピアノの鍵盤のような平均律(1オクターブ=ある音から2倍の周波数の音まで、を
12等分した音階)ですと、ミ♯とファは同じ音ですが、
純正律(周波数の比が整数比になる純正音程を用いる音階)では違う音。
また音楽の文法上は、調性によってそれは厳密に区別されてます。
例えば、ハ長調(C-dur)の4番目の音はファ、でもピアノの鍵盤では同じ音を弾きますが、
嬰ハ長調(Cis-dur)の3番目の音はミ♯と表記され、音名でもそう読みます。

絶対音感があると言っても、
単音で聞かされてミ♯とファを区別できる耳の持ち主がどれ位いるのか?分かりませんが、
(音の流れとして捉えれば、弦楽器をやっている方はこの辺はかなり意識していると思います。)
タラちゃんは絶対音感があるという表記があるので、
彼がそれくらい鋭敏な耳を持っているということを表そうという意図で
こういう表現を使っているのではないか?と思います。

6

関西弁

なんだろうな。
流されるままに読んだという感想なのですが
それが心地よく読める作品でした(ノ∀`)
コッテコテの関西弁もキライじゃないです。

音大生の受。小さい頃からピアノ一色の人生だった
目の前に現れた攻は、生まれながらの天賦の才を持っている。
それが憎い羨ましいと思いつつも・・・から変化する気持ち~というところですね。
不自然でなく、ながれるままに関係は蓄積し
最終的にという最後。
浮気~・・・にしても、浮気というなればもう少しと思ってしまうのは
読み込みが足らないんでしょうか。。
何はともあれ、受のことが好きでしかたないワンコ攻が心地いい作品でした。
淋しい受はワンコに癒されるwそれがまたイイ

0

依田さんの作品のよう

音大生の設楽六実と桜田凛。二人ともピアノ弾き。
逞しい身体で屈託ない性格、関西弁の陽気な凛はみんなの人気者。
がさつな雰囲気なのに類まれなピアニストとしての才能を持つ凛に、六実は嫉妬し疎みつつも惹かれることを止められない。
…なんだか依田さんの漫画を読み終えたような、それほどまでにこの作品にはしっくりくるイラストだったなあ。
底抜けに明るい大型ワンコの凛なんだけど、怒ると獰猛だったり、実は少し暗い翳があったりで、ほんと典型的な依田さんキャラじゃないですか。
漫画でもっかい読みたいよ!
出てくる曲がどれも難易度の高い曲ばかりで、これらをすべて見事に弾ききる凛の演奏が聴いてみたい~となってしまうところ、さすがの榎田さんです。
タイトルがラルゴなので、アヴェマリアのことかなと思ってたけど、最後の最後でタネあかしが。この辺もお見事です!

0

主人公の強さと弱さ

音大に通う設楽六実は、同じ科の桜田凜のことが嫌いだ。
必要以上に懐いてくるところも、人に「タラちゃん」なんて変なあだ名を付けるところも、音大生らしからぬ恵まれた体格も、きらきらしたピアノの才能も全部。
大嫌いなのに、惹かれてしまう。
凜に好かれているのをいいことに、自分のためにピアノを弾くことを要求した六実。
それに対して凜は報酬としてキスを求めてきて……

音大生もの。
プライドの高い主人公の六実は自分よりピアノの上手い凜のことが大嫌いだけど、なぜか凜は六実が好きだとひたすら懐いてくる。
大嫌いだけど、気になって仕方ないっていう葛藤とか主人公の意地っ張りぷりが楽しかった。

正直六実はプライドが高くて素直になれないダメなヤツなんだけれど、その万能でない人の悩みや揺れ動きはリアルに共感できる。
流されるように浮気?して僕を許せって言ってしまう彼の弱さと強さ、その時のいつもへらへらしている攻のキレっぷりにはときめかされます。
いろいろなシーンで演奏されるクラシックの名曲もきらきら作品を彩っています。

0

“ゆるやかに”音が鳴り響くBL本

熊峰の飛行
ニ短調
ため息
主よ、人の望みの喜びよ
英雄
K545
木枯らしのエチュード
愛の夢
セルセ

いろんな楽曲とともに綴られる物語。
ちょっと音楽に明るい人ならば
曲名を文字で追っただけで頭にメロディが鳴り響くんでしょうね・・・

残念ながら!
クラッシックの知識がまったくない私には
曲名だけで音が鳴り響くことはなくw
いちいち動画サイトを検索して音を拾いましたw
ちょっと面倒な作業でしたが、ああ!こういう曲なのか~vと
メロディがわかるとすごく物語が楽しくなりましたよ。

「愛の夢」は、はじめてのときに
頭で奏でるメロディなのですが
いろいろあったふたりに甘いメロディは本当にぴったりで
この瞬間がどれだけふたりにとって
ゆるやかに満ち足りた時間が流れていたのかがわかって
涙しました・・・v

音大生、ピアノ科のふたりの恋は
まさに「largo」のごとくゆるやかに奏でられていくのですが
ときに「木枯らし」が鳴り響いたりと読み応えがありました。

ピアノに片思いをしていた六実が
凛に影響され、迷いながらも新しい音楽を奏でていくのですよ
音楽も恋も、ふたりだとずっと素敵になるんですねv

0

ええ話やった~w

。。。すいません、いきなりエセ関西弁でw

最初は、一方的に懐いて来てる大型犬。。。じゃなくて凛と
そんな凛を鬱陶しい、と思いながらも
凛のことが気になって仕方ないタラちゃん(六実・むつみ)の
ほのぼの甘酸っぱい青春ラブかな~と思っていたのですが
後半、まさかの展開に切なさが一気にMAXに。。。

でも、わかるんですよね~、六実の気持ち。
自分が人一倍の努力をしても手に入れられないものを
「才能」という形ですでに手にしている(様に見える)凛のことを
妬ましく思ってしまう気持ちも
なのに、どうしようもなく惹かれていく気持ちも。。。
その辺の六実の苦悩が
障害者施設での音楽療法ボランティアを経験することで晴れていく場面は
決して派手なシナリオではないのに、ボロボロ涙が止まりませんでした。

凛のワンコっぷりもかなりツボだったので
そんな凛の後半の気持ちかなり痛々しかった。。。
「なにやってんだよ、タラちゃんはっ!( `Д´)σ」って思いましたよ。

それほど榎田さんの作品を読んでないのでよくわからなかったりしますが
この辺の微妙な心理描写が榎田さんらしさだったのかな?と思いました。

余談ですが、途中の
「(ジャイアント)馬場さんの16文キックはベルリオーズ(幻想交響曲第4楽章なんや!」
っていう凛の主張には妙に納得w
(てか、16文キックを知ってるという時点で。。。OTZ)
あと、エセ関西弁は関西人じゃない私にはあまり気にならなかったw
それより、絶対音感のくだりで
「電話のベル音がミ♯」ってのが気になってしまいました。
ミ♯=ファなので、あまり使わない音階なんですよね^^;
細かい事だけど、他の音楽的部分ををかなり勉強されて書かれていただけに
ちょっと残念でした。

大きな事件も劇的なラブシーンもなかったけど
すごく印象深いいい作品でした^^

2

菊乃

>かにゃこさん!

ホントいい作品でしたよね~。
登場した曲、わざわざ調べたんですか?すげぇ!!w
でも、その方がより楽しめるのは確かですよね~。
割とポピュラーな曲を選んでたみたいですが
ベルリオーズの「幻想交響曲第4楽章」は昔ブラバンで演奏したので
すごく印象深いんですよ。副題が「断頭台への行進」ってのも強烈だったしw

>この本、再販してくれるといいです。挿絵は依田さんから変えないでっ!
いいですね~。
あるいは文庫化して書き下ろし加えてくれるといいな~w

菊乃

>むつこさ~ん!

読んでる時は萌え評価かな~って思ってたのに
読み終わった瞬間、迷わず神にしちゃいました^^;

あの最大のピンチの時の二人の気持ちを考えると
ほんとキツかったですよね。。。
そんなのがちょっとづつ溜まって来て
あの障害者施設での「気付き」のシーンで一気にウルッちゃいましたよw

ミ♯、字面もあまり見慣れなくて
お話の流れを止めちゃうほどじゃなかったんですけど
読み終わった後も覚えていたってことで
意外ときにしてた自分にびっくりでした^^
職業病かなぁw

いつか、むつこさんの弾く「愛の夢」聴きたいなぁ~(ぇ

むつこ

神キター

良かった、菊乃さん的にも素晴らしい作品だったみたいで(*´∇`*)
後半はまさかまさかの展開でしたよね。
それを知ったときの攻めの「……もう、ぜんぜん、あかんのや……」ってセリフ、めちゃくちゃ胸に痛かった。攻めの気持ちも、そう言われたときの受けの後悔もダイレクトに伝わってきて。

ちなみに私もはるか昔、才能もないのにピアノをずっとやってた(やらされてた)んですが、ミ#にまったく気づかなかった…そういやそうですねw

あーもう、榎田尤利さん最高ッス

攻めのワンコっぷりも受けの屈折っぷりも私好みでした。
ストーリーも二重三重に色んなテーマが組み込まれてあって、なかなか読みごたえがありました。
音大でピアノをやってる二人の恋の話。

攻めの関西弁は、誰かにチェックしてもらったようですが、それだけがいただけなかった。関西人からすると、「どんだけコテコテやねん!テレビ用にわざわざコテコテすぎる関西弁を使ってる芸人か」と言いたくなるレベルなのw
この、いつもニコニコしてて笑顔なワンコ攻めがはじめて見せた怒りと悲しみの場面は、ゾクゾクきましたね。

で、受け。
レイプではなく、誘ったわけでもなく、「ただ流されてエッチした」っていうのが、今まで読んだBLにはなかった展開で。そこに至るまでにあった無意識のうちの対抗心やら嫉妬させたい気持ちやらを想像できて、それがとてもリアルでした。

私の好みを言うなら、浮気で最後までセックスして欲しかったな。
さらに、そんなことがあった相手とまた友人として付き合い、それを攻めが認めるという展開は、綺麗事だと思った。
ただこの「私がイヤだった部分」は、「ほかの人にとったら良かった部分」になるかもなァ…とも思いました。
私の好みは基本ネクラなのでw

先にレビューした方と180度違う感想なので、これは好みの分かれるお話なんだろうなとも思います。

2

むつこ

菊乃さんへ
私もこれ、長いこと積んでた本なんですよw
個人的に、榎田尤利さんの青春モノってどうなのかなァって気持ちがあったんだけど、この本と『スワン~』で払拭されました。
榎田尤利さんは青春モノを書かれても上手い!

ちなみにこの本、ブログとかを見てまわっても、賛否両論でした。
好きな人は「榎田尤利作品の中でナンバーワン!」と言い切ってたり。
嫌いな人は「榎田尤利さんらしくなくて、好きじゃなかった…」と言ってたり。

てゆか菊乃さんも未読本を積みあげちゃうタイプみたいですねw
私なんて段ボールのなかで地層を作りまくってますから!何層あるんだ~。
下のほうの層(購入が早いもの)ほど、なかなか手に取れなかったりするwなにを買ったか忘れてて、同じ本を買っちゃったりね…(涙)

菊乃

むつこさん、こんばんは~♪
実はこれ、3ヶ月ほど積み本になってるんですよ^^;
でも、むつこさんのレビューを読んで
今すぐに読んでみたくなっちゃいました!w
買った時は「音大生」ってキーワードに惹かれて買ったんですが
この所注目の榎田さんってことで買った当時の自分GJ!って思ってますw
しかもワンコ攻めなんですか?ますます楽しみ!

エセ関西弁も楽しみ~w
(私、関西弁フェチなんですが、エセかどうかわからないしw)

音大生の恋と葛藤(?)

幼い頃からピアノの英才教育を受けてきた六実は、凛のピアノに、自分には欠けているものを見せつけられて嫉妬を覚える。その技量を把握したくて自分の家で凛にピアノを弾かせるため、キスを交換条件にすることを承諾するのだった。

これまでに榎田さんの作品はかなりの数を読んできたのだが、こと、この作品に関しては「限りなく中立に近い萌」という評価が正直なところなのが残念。
いちばんの要因は、攻めは一途な爽やかワンコ系なのだが、受の屈折したキャラクターに魅力を感じられないということ。

キスと言う交換条件を受け入れ、そのことに嫌悪感も感じずにむしろ「イヤじゃない」と思っている辺りで、無意識のうちにも初めから六実は凛に惹かれていたんだろう。
やがて時間が経つにつれて、その存在は大きくなり、最後の一線は越えないまでも、凛が女の人と一緒だったと聞けば嫉妬もするほどに好きになっていく。
けれど、演奏が凛に影響されてきたと指摘されると気持ちが揺らぎ、その不安を埋めようとして、流されるまま他の男の誘いに乗ってしまう。それを知った凛が自分から離れてしまってから、やっと自分の気持ちの大きさに気付くのだ。なんて不器用な子。。。
結果的には『雨降って地固まる』ワケだけれど、どうもこういう展開にはついていけない。

攻の凛というのが関西弁のキャラなのだけれど、これも最初の方はちょっと上滑りしてしまっている感がある。もっとも、私自身が関西圏出身者だからそういう風に感じるだけとも言えるのだが、方言の持つ微妙なニュアンスを登場人物のアイデンティティとして成立させようというには少し無理があるような気がする。

また、この作品は音大を舞台にした音大生たちのお話ということもあって、各章のタイトルしかり、作中にも様々な楽曲名が登場するのだが、これもクラッシックにある程度明るい人でないと把握しにくいのではないかと思った。
例えば第二章の「Jesu,Joy of Man’s Desiring from Cantata No.147」これは邦題では「主よ、人の望みの喜びよ」という、聴けば誰もが「ああ!この曲、知ってる」と言うほど有名な曲なのだが、それが文中で即イメージ化できる人はそう多くはないかもしれない。
凛の姉が聴覚障害者であったり、心身障害児への音楽療法に関わる場面があったりと、センシティブな問題をスムーズに組み込んでいる辺りは、さすが榎田さんだなとは思うのだが、読み終えた後に散漫な印象が残った。

2

この作品が収納されている本棚

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