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歩く危険物




血統書付きの野良犬アルファ × 見た目詐欺のオメガ

オメガで元刑事の恭(受け)は刑事を辞めた今でも追いかけてるヤマの捜査の途中、巻き添えにしたアルファの昂希(攻め)に一目惚れされます。面倒くさいと言いながらも付き合ってくれる昂希が隣にいることに安心感を覚えるようになっていくのですが‥



恭は組対五課(麻薬や密輸入とかの取締りでその筋の人たちとドンパチする部署)に所属してた元刑事。
刑事としてアルファに負けないように頑張った結果、フェロモンを自在に操れるようになり、アルファにフェロモン爆弾を浴びせて失神させるなんて技まで身につけました。
元同僚には、見た目が子猫で中身は猪で根性はゴリラと言われるほどの脳筋。

尊敬する同僚兼恋人だった真砂が殉職してからも行方をくらました組の情報を追いすぎて結局刑事を辞め、実家のカフェを営みながら、未だに捜査を継続しています。

昂希はアルファの能力がギャンブルに全振りしてるような人物で、顔を見るだけで嘘を見抜ける能力があります。なのに、恭の顔が好きすぎて恭の嘘は見抜けないという残念な男。
恭に一目惚れし、労働は面倒と言いながらも危なかしい恭を放っておけない昂希は料理はできるし、世話焼きだし、優しいし、寄り添ってくれるので安心感があります。


とても楽しいお話でした。
見た目が可愛いのに中身がやたら雄々しい受けとちょっとダメな攻め(実はデキる)攻めというのは本当に大好物なのです。

まずこのオメガ、全く知らないアルファをクラブへの同伴に必要ってだけで、フェロモンで誘き寄せ、潜入に失敗したら閃光弾を放って財布もスマホも置いて連れて逃げるっていう横暴さ。そのままほとぼり冷めるまで家に匿うことになったことで話が始まります。

とにかく2人の会話がすごく楽しい。
繊細に見えて豪快な恭の料理を評する昂希の表現も楽しいし、
顔に誤魔化されるのも楽しい。
ことに及ぼうとするとフェロモン攻撃やら手刀やら体に仕込んであるたくさんの武器やらで止められるのも楽しい。

その中で、潜伏している組織を炙り出すために危険な目にあったり、裏切り者の話があったり、クライマックスはハラハラしますが、やはり頼れるアルファの昂希の活躍もあって2人に平和が来るのです。

後半の2人がつがいになってからは、恋愛下手な恭の頑張り、自他共に認める見た目詐欺なので、中身を見た目に合わせようと努力する恭がとてもいじらしい。
そして、敵にさえ歩く危険物扱いされてるのもほんと楽しい。

傍を固める人も無茶する恭を心配する元同僚の大熊、「名探偵コ○ン」の阿笠博士を彷彿させる十亀翁、昂希の元同級生の庭野夫婦、と味のある人ばかりでした。
でも、やっぱり2人の掛け合いが本当に楽しいのです。
何度も読み返してしまいます。

いつか2人の子供が産まれたらどんな子になるかすごーく楽しみです。

今でも無茶し多分、恭は昂希にたっぷり愛されて幸せになってほしいです。

裏切り話はしんみりとしますが、全体的には本当に楽しく読ませていただきました。

そして、イラストがとっても可愛い。特にデフォルメした中表紙がほのぼのしていて癒されます。


視線吸引機


あまりの美貌に本人そっちのけで周りが勝手に起こす修羅場に巻き込まれまくり、人間不信になってしまった爽磨(受け)。
痴情のもつれに巻き込まれ転職を余儀なくされ、ついでに引っ越した先が事故物件という踏んだり蹴ったりな事態に。
ラップ音がしたり、視線を感じたりと怯えていた爽磨を助けたのは通りがかりの生まれつき霊感が強く霊との会話もできるという大毅(攻め)でした。
助けてもらったのに素直に礼も言えないにも関わらず霊に怯える爽磨を放っておけない大毅は助ける口実として友達になってくれるのです。
友人の1人もいなかった爽磨は霊に悩まされながらも喜ぶのです。



爽磨は大毅に視線吸引機と言わせるくらい周りの視線を奪う美貌のため、常に誰かにアプローチされ勝手に奪い合われていたため、親切にされる=アプローチと思ってしまい、他人に対する態度がひどいです。
コミュニケーションをとれる普通の相手がいなかったため、コミュ障気味で、素直に会話ができません。そんな爽磨の裏の言葉を大毅は動物と会話する学者のように確実に読み取っていきます。

両視点で話が進むので、それぞれの考えが分かるし、視点が変わっても相手がどう考えているのか想像しやすくすごく楽しいです。

大毅が爽磨の視線だけで意図を察せるのが凄すぎます。素直じゃない態度を取る時でもちゃんと状況を把握して本当は何をして欲しいのかを的確に判断でき、爽磨の自尊心を尊重する様に誘導する様はまさに猛獣(というより気位の高い猫)使いです。

この作者様の本を読むのは2冊目ですが、
今回もたくさん笑わせてもらいました。

ツンツン猫の爽磨がかわいいです。
はじめはちょっとツンツンしすぎで感じ悪いと思ってだけど、デレが入るようになってからはほんとかわいいし、察しの良い大毅とのやりとりが本当に楽しい。
素直じゃない爽磨が時々スルッと本音を漏らしてしまう時の破壊力たるや、大毅の理性が試される場面が特に楽しくて、ニヤニヤが止まりませんでした。
最後の方では素直じゃない爽磨が何を考えるか解析するのが楽しくなってきている大毅も大分変わってると思うけど、爽磨の相手は大毅にしかできませんね。

結局怖いのは生きてる人間の欲望ってことでしたが、どんな時でも大毅が守ってくれそうです。

今回も楽しいお話ありがとうございました。

パンダかわいすぎる


皇太子と薬条道士

すでに他の方がとても詳しくレビューしてくださっているので感想だけ。

自分の容姿の良さを全く理解しておらず、逆に他人にとって不快な容姿なんだと勘違いしているとんでもなく鈍感な道士レイ(受け)と
冷酷皇太子としてさまざまな思惑から自身を守っている孤独な皇太子サーシェン(攻め)のお話


サーシェンは上司の命令に逆らったとして左遷されたレイを探して愛人(仮)として、連れて帰ります。

皇太子の愛人として囲われる話かと思いきや、レイを正妻にするべく画策している間に、突然大人が消え赤ん坊だらけになってしまった村の事件や人間からパンダになってしまった3歳児のスーの謎の解明、それに関係すると思われる第二皇子を推す勢力の暗躍など、命のやりとりもあり、恋愛よりも皆の命の心配でドキドキしました。

恋愛に疎いというレイに、愛人の所作10か条と偽っていちゃいちゃしようとするサーシェンが実際に実行されるとその攻撃に狼狽える姿が笑えます。
笑いあり、切なさあり、謎解きあり、仙術ありで盛りだくんで面白かったです。

題名を見た時は子パンダとはなんだろうと思っていたのですが、そこは仙術がある世界。そんなこともあるかなと思える話だったと思います。
道士が拘禁の術とか風をおこしたりするので、某中華BLアニメを思い起こされ、想像しやすかったです。

信用できる人が少ないサーシェンに敵方の大将かと思ってた第二皇子が実は味方であった事が本当によかった。これからも兄弟仲良く国を運営してほしいですね。

タイムリープもの



人が良すぎて死んでしまった元カレを助けるため奮闘する弁護士


弁護士となって2年目の貴文(受け)は粛々と業務をこなす毎日を送っています。
そんな時、友人らしい友人もいない貴文に大学の知人から学生時代の元恋人・湯峰(攻め)の死を知らせる電話があります。
お人好しでいつも誰かの困りごとに手を貸している湯峰の死に衝撃を受けます。
先輩に頼まれてブラック企業に就職し、父親が病死したことで実家に戻るも母親が事故死し、家業の借金が発覚し、うまく家業を畳んだと思ったら、友人の借金の連帯保証人になり、逃げた友人の代わりに借金を返しながら、再び元のブラック企業に戻り過労で死んだというあまりに悲惨な湯峰の死に嘆き悲しみ、やけ酒を飲んでいると、同じように湯峰の死を悲しむ不思議な紳士が隣で酒を飲んでおり、なんと元の時間に戻してくれるといいます。湯峰のためならと過去に戻ることにするのです。




タイムリープといえば、やり直しができてラッキー的なことしか考えたことなかった私でしたが、貴文がタイムリープを受け入れた時、あの難しい司法試験をもう一回受けないといけないのかそれはしんどすぎる、と思ってしまいました。実際に一発合格だった貴文は、逆行後は一度失敗しています。
そんなことは些細なことと戻る選択をする貴文ですが、天秤にかけるものが未だ忘れられない元カレの命だとしたら当然ですね。
とはいえ、戻った先が4年前の別れ話が来た直後というなかなかなタイミング。
湯峰の死んだ経緯がお人好しだったことだったため何としてもそばにいて阻止しなければなりません。とりあえず最初はブラック企業に就職させないこと。
なりふり構っていられなくなっている貴文は今までより積極的に湯峰にからんでいきます。
お人好しで人に利用されてばかりの湯峰にハラハラドキドキしました。
なんとか就職させないよう奮闘するのに思った風に行かず、自分も含めて卒業時点で戻る前より悪い状況になったようになった時はもう先が気になって気になってページを捲るのももどかしいきもちになるほどの勢いで読みました。

戻る前は、2人が出会ったことで、貴文も湯峰も元々持ってなかった感情に戸惑った挙句、逃げることを選んでしまって最悪な結果になってしまったのですが、今回はそれをちゃんと受け入れたことで2人にとって良い結果になって本当によかったです。



あまりにも献身的な愛


女王のように君臨する皇太后に蛇蝎の如く嫌われて虐待されてきた第一王子・サウスラーフ(攻め)と隠されて育てられた庭師・サスラン(受け)。

2人が出会い恋に落ち、でも第一王子という立場から権力闘争に巻き込まれ悲劇を迎え、そこからの時戻り、サウスラーフを二度と悲劇的な最期を迎えないように巻き戻る前の知識を使って頑張るサスラン(裏でサウスラーフも)の話。

これはネタバレなしで読んだ方が絶対面白いので、感想だけ。

第一王子というのはこの話の中ではイコール皇太子という立場のことのようで、立場的には皇弟です。初めはちょっと混乱しました。

自分の息子が皇帝になる時、自分の夫である先帝と他国の女性との間の息子を第一王子としたことに怒り狂う女王然とした皇太后の行動には嫌悪感しかありません。
そして彼女の魔の手からなんとか逃がそうとするサスランの必死の行動は健気すぎて辛いくらいです。
本当にこの2人はハッピーエンドを迎えることができるのだろうかと何度もハラハラしました。
お互いへの愛情は疑うべくもないのですが、状況がずっと逼迫し続けているので、お話の中に甘さはほとんどありません。
甘い話が好きな私には結構辛かったですが、ずっとハラハラしっぱなしで心臓に悪い、けれどすごく良い話でした。
了、という文字を見てホッとするなんて経験したことのない読了感でした。

そして、最後の方で明かされる事実に驚き、もう一度読み返してみるとまた違う楽しみが味わえますので、ぜひネタバレなしで読んでください。

我が家にもポチが欲しい


義兄弟もの


健(受け)は母親の再婚で義兄になった彗史(攻め)が大好き。
出会った時からずっと、大好きなご主人様にまとわりつく犬といった感じです。
上京して彗史とルームシェアを始めましたが、一年程だった半年くらい前から、彗史が側にいると何故だかドキドキするのです。
親友に相談すると、やっと気付いたかと。
ブラコンだと思ってきたら、実は恋だったとは。
彗史には絶対に知られないようにと余計に挙動不審になってしまいます。


表題作と中編の書き下ろしとあとがきのあとにSS。
表題作と書き下ろしは健視点。
SSのみ彗史視点。

2人の両片思いがすっごく楽しいです。何度笑ったことか。
健視点なのに彗史が欲望に耐えるため頑張っているのが凄く分かるのです。楽しいったら。
仕事は解体屋で空気を壊すのも得意なクラッシャーな健の駄犬ぶりも可愛い。

彗史は彗史で、健を庇って交通事故に遭った時、彗史が死んだら一生不幸だと言われたことで、自分が死んでも代わりになるものを作ろうとAIの研究者になってしまうという、優秀な能力を健に全振りする残念具合。
そして、食事が何故かゲル化してしまう謎な能力も(後に父親からの遺伝の判明)

自分をトレースしたロボットを作るための情報収集ロボのポチ(某ロボットアニメのハ◯のよう)がまた優秀で、ちょっとした会話もできるし、いろんな情報を教えてくれるし、私もこれが欲しいです。

特に後半は笑ってばかりです。

前半でも一緒に寝て欲しいと言われて長ーいトイレの後、修行僧のようになってやってきたりしてましたが、両思いになっても平日は肉体労働の健を慮って手が出せないのに一緒に寝たいと言われ、やはり長ーい風呂の後、ベットに入ってきて、彗史の思考をトレースしたロボ・タマがそばで念仏を唱えているのも笑えるし、いたそうとして何度も断念せざるを得ないのも。ずっとにやにやしていました。

2人が楽しいのはもちろんですが、忘れてはいけないのが、健の親友の俊春。
彼の懐の深いこと。相談に乗ってくれるのはもちろんのこと、ルームシェアを解消するからと俊春の部屋に越してくると準備させておきながら、最終的にドタキャンしてしまうということになっても笑って許してくれる。クリスマスだったのに。結果、自分も新しいことを始めようとして新しい友人作ってきたという。
新しいカップルの予感が。
お相手が、私が思ってたの違うひとだったのにも驚き。なんと面倒な人とお友達になったのだろうかと、そしてスピンオフが出るのかなーとちよっと期待しています。

とにかく甘々で笑いいっぱいのとてもとても楽しい話でした。

血を残さないといけない王族は大変



魔眼で疲れた王様と純粋無垢な魔女の弟子

最後の魔女ジラが死んで1年半。
王と魔女の約定により村に援助を受けていた魔女の村は、援助を打ち切られることを恐れ魔女の死を隠しています。
そんな中、新王の就任2周年記念式典の招待状がジラ宛に届いてしまいます。
罰を恐れた村長以下年寄りたちは反対する副村長たち若者たちを退け、魔女の弟子エーリス(受け)に魔女のふりをして出席するように強制するのです。エーリスはバレた場合に逃げる時間を稼ぐための魔法の小鳥を用意して、お咎めを1人で受けることを覚悟して王都へ向かいます。
が、国王側は国中に密偵を放っており、ジラの死は既に知っていたのです。
エーリス1人を生贄にしようとしたことを怒りを覚える国王サディアス(攻め)は心置きなくエーリスを手元に置くことができるとほくそ笑むのです。

表題作と「王は癒しの寵妃を溺愛する」の二篇

両視点で進むので、お互いの状況がよくわかります。



エーリスは捨て子でジラに育てられました。
魔女とは魔女の血を引く女がなるのですが、血が薄くなりすぎて適性のあるものが少なくなり、修行をする人もいなくなったので、ジラの死と共に絶滅します。魔女の弟子とはいえ男であるエーリスはかろうじてほんの少しの魔法が使えるのみです。
村で育ててもらった恩があるため、村長の頼みを断ることができずジラのふりをすることを承諾するのです。2度とジラの墓参りができないだろうと覚悟を決めて。


サディアスとエーリスは先王の友人であったジラが先王の見舞いに王都に行った時の従者としてエーリスが付き従った時に出会いました。
魔眼により人の心のおおよそが、読めてしまうサディアスは純真無垢なエーリスを気に入りますが、まだエーリスか成人前だったこともあり、成人したら側におこうと思っていたのですがその前にジラが死にます。ジラからも承諾を貰っていたので今回の式典で呼び寄せこちらに止めようとするのです。



表題作の方は2人の出会いの回想と両思いになるまでを(元々両思いですが)、書き下ろしの方はその後の王宮でエーリスを認めさせるまでのゴタゴタについてです。
表題作は両思いだったしサラッと終わるのですが、書き下ろしの方がこのお話のメインと思います。
サディアスサイドは、突然王妃扱いの愛妾を迎えて子供も作らないし他の女性もいらないと宣言したサディアスに反対する大臣たちとの攻防を。
エーリスサイドは嫌がらせが始まり、それを気にしながらもサディアスの溺れるほどの愛を受け、仕事を斡旋してもらいその中で人柄の良さを知らず周りに喧伝していく様を。

そして辛抱強く交渉して結果大臣たちが折れていってくれるのです。

王冠を被った種馬という表現には笑ってしまいます。
後宮とは高貴な花街だという人もいますしね。
血を残すことが大事と思いすぎて、王が自分たちと同じ人間だと思ってない周りの人たちの気持ちもわからないでもないです。
とはいえ、最後まで反対していたのが侍従長だったことに驚きました。1番王のそばにいる人なのに王のことを考えてなかったことを残念に思いました。
権力を少しでも握りたい大臣たちが粘るのかと思いきや、それほど性格悪い人たちがいなかったのでしょうね。
侍従長は自分の理想を他人に押し付けすぎてやり過ぎてしまった。
これが成功していたとしたらゾッとします。
未然に防げてよかった。
昔から仕えてくれている人を切らなければならなかったサディアスが気の毒でした。
今回のことで人事の膿も出したし、エーリスに癒されてサディアスはいっそう政務に励み国が発展していくことでしょう。


「いってらっしゃい」と「おかえり」はセットでないと


天涯孤独な軍人と天涯孤独な印持ちの少年


裕福な商家の息子であった伊織(受け)は両親が船の事故でなくなると、後見人となった叔父に全てを取られ、遊廓に売られてしまいます。
なんとか逃げ出し途方に暮れていた伊織を救ってくれたのは、飯屋の夫婦。
以来、彼らに世話になっています。
しばらくした頃、同じように途方に暮れている軍人・雫石(攻め)を見つけた伊織は自分がしてもらったように、飯屋に連れていくのです。

やっと成人した頃、自分を追い出した叔父がやってきて、母親の持参金は何処だと迫ってくるは、逃げ出した叔父の代わり払えと借金取りはくるは(不貞の子だと嘘の書類まで作って追い出したくせに何言ってんだこいつら)、母親の元婚約者に代わりに嫁に来いと攫われそうになるはと面倒ごとがてんこ盛りに。
そんな伊織を助けてくれたのは、飯屋の夫婦はもちろん、あの日以来常連になった氷の軍神と異名をもつ雫石でした。


早くに両親を亡くし酷い目にあっている伊織ですが、優しい人たちに囲まれて、悪い奴らはきちんと捕まり、皆が因果応報なのが印象的でした。
叔父にしろ母の元婚約者にしろ他責思考が酷すぎてびっくりです。


そして、雫石の理性的なところも脱帽です。「氷の軍神は理性まで氷なのか」という部下の言葉にも納得の鋼の我慢強さでした。
外ではすっごく怖いとか強いとか冷たいとかの人が好きな人にだけ蕩けるような顔や態度をとる攻めが大好きです。

飯屋の主人が、なかなか心を開けなかった伊織がやっと心を開いてくれた後、雫石とのことを心配し、自分たちのことを話すところは涙なしでは読めませんでした。


優しい人たちが皆悲しみを乗り越えて幸せになれてほんとうに良かったです。

権力争いの中で翻弄される出来損ない王子


誰も信じられない孤独な王と愛すべきぼんくら王子


不可侵条約を結んだため、人質交換という形で嫁いでくる妹姫の代わりに隣国に送られることになったレオナ(受け)は国教が禁じている同性愛で公開裁判になった愚かな王子だと言われています。
幼い頃より愚かだと貶められていたレオナは多くの国を併合し近親者までも暗殺処刑してきた冷酷王タールグ(攻め)を見て恐れ慄きます。
対して、タールグはレオナが本当に愚かなのかの判断がつかないため、周りに間者を多く潜ませ、同性愛ということなので従者と通じさせて支配しようと画策します。

字が読めず、空気も読めず、言葉の裏を読むことも出来ないレオナは愚かな王子と言われていますが、おそらく今で言うディスレクシアと思われ、王族で且つ第二王子という王位継承の高い地位にいたからこそ愚かだと判断されただけで、だからこそ陥れられるのですが、決して愚かなわけではなく生まれが違えば全く別の判断だったかもしれません。

タールグは幼い頃より人質として他国に送られ、父王に見捨てられた過去を持ち、裏切られることが当然と考え裏切ったら容赦せず、いかに反対勢力を作らせないかということに苦心しながら政情の安定を図っています。
レオナがどういう人物かを判断するため、こちらサイドにつかせるため色仕掛けをさせるよう指示するのです。

両視点で話が進むので、政局の行方も2人の距離の縮み具合も
その時の2人の考えも読み手によくわかるように出来ています。


タールグの警戒は全くの不要なもので、レオナは民の安寧のみが願いです。
そのため、誰も裏切らないし、戦争にも賛成しない。
為政者としては失格かもしれませんが、裏切りに疲れていたタールグにとって、彼の無垢な心はタールグを溶かします。
実際、レオナを落とすように言われていた侍従や護衛たちは早々にレオナ信者になっています。
レオナを落として自分に有利にしようと思っていたタールグがレオナが何も意図していないのに勝手に色々憶測しては右往左往しているのがおかしいやら微笑ましいやら、読んでいて楽しいです。

最終的に収まるところに収まったのですが、レオナが蚊帳の外に置かれていることもあり、レオナの父王が死んだのは本当に病死なのかとか裏切ったタールグに懸想していた国土開発大臣はどうなったのかとか、気になることは多々ありますが、ふたりが安寧の時を迎えることができてよかった