SS付き電子限定版
おまえが忠誠を誓えば、俺が一生犬として飼ってやる
外からの圧力と自分自身の中にある呪縛で生きづらそうな主人公が、環境的に生きるのが大変な男に異常な執着をされるお話。最初から最後まで、ただ主人公が可哀想なだけに感じた。
物語は子供時代から始まるため、一稀の人格がどのように形成されていったかが良く分かる。弟ばかりを甘やかし、一稀には常に譲歩を求める家庭。それを(読者として)ずっと見て来たからこそ、大人になってからの母親や弟の言動は許せない。
後半にかけて、一稀は次々と危機に直面する。そこでなるほどと思ったのは、これまでの展開で、一点集中的に一稀へのヘイトを集めようとする作為的なもの、いわば作者の意図を感じていたこと。受けザマァへの布石だったのか、と。
父親も猛も弟も、一稀に何かを指摘されると論点をすり替え、皆一様に一稀の差別的な点を批判してくる。例えば父親は、自宅不倫の話を男同士に問題はないとの話にもっていき、一稀の良くないところに注目点を移す。
会話の不自然さを押し通してまで、何度も一稀のゲイを受け入れられない性質を非難するせいで、こちらの感情を無理に誘導されている気がしてしまう。一稀を嫌な奴と感じるのでなく、嫌な奴と思わせたいように感じる。
もし一稀へのヘイトを溜めた状態で読むことができたら、後半の酷い目に遭い続ける展開にも耐えられたんだろうか。流れを微妙にズラして欠点を強調する描写に違和感があり、一稀には同情しか生まれなかった。
猛は前半はとても可愛かった。育ってきた環境から一稀に依存するのも納得で、捨てられて歪んでしまうのも理解できる。でも一稀を陥れる過程で、弟を助けたところで一気に冷めた。傀儡の甘ちゃんが人の上に立って調子に乗るサマが不快すぎ。
最後は妙な爽やかさを醸し出すハピエンを迎えたが、作品から離れた自分の気持ちは戻ってこなかった。弟はずっと良いトコ取り人生で、一稀はいつも尻ぬぐいで恋人と共に全てを失って。モヤモヤが残り続ける読後感。
いわゆる、読む人を選ぶ作品が大好きです。
こちらの作品はまさにそういう人間のどろどろとしたものが凝縮されている、ちょっと読む人を選ぶ作品かなと思います。
ストーリー重視の方はぜひ。
360Pを超えるページ数に濃厚な愛憎入り混じる夏乃先生渾身の1冊。文章力が凄まじかったです。
読みながら非常にゾクゾクとしましたし、この分厚さになるのがわかる濃密すぎるエピソードに読み進める手が止まらないとはこのこと。
こんな話が書きたかったという書き手の気持ちが文章からひしひしと伝わってくるようで、終始作品に飲み込まれてしまうような迫力がありました。
萌えただとか萌えないでは語れないのかもしれない。
とにかく凄い作品です。圧倒されました。
ささいなきっかけから始まった、数十年にも渡る長い愛憎と執着愛が描かれています。
少しずつボタンをかけ違ったまま進む2人の心理描写がとても丁寧で、普通の関係ではない彼らからふわりと香る危険な香りに気が付いていながらも、歪な形をした心地の良い唯一無二の関係性に身を任せてしまいたくなる。
こちらの作品をキーワードで表すのなら、きっと依存だったり狂愛や執着という言葉が合うのかなと一瞬考えましたが、私はこのお話は純愛なのではないかなと思うのです。
もの凄い熱量と展開の数々に、読み終えてからしばらくぽかんとしてしまいました。感情がざわつきます。
万人にはおすすめ出来ないかもしれません。
ですが、濃厚な人間ドラマが読ませる文章力で描かれた読み応えのある1冊でした。
傑作だと思います。
読み終わって2日経ちましたが、読後の高揚感と余韻が消えてくれません。助けてください()
ストーリーの内容は他のレビューで書いていただいているので割愛。以下感想です。
ものすごく萌える本に出会ってしまった!!
この本が読める時代に生まれてきてよかった!!
最初から引き込まれ、あっという間に読み終えました。
夏乃先生の言葉選びが本当に巧みで、すらすら読めながらも、一言一言が心に入り込んでくるんです。最初から最後まで。息を呑むような臨場感、自分もそこにいるかのような錯覚。主人公の一稀が感じている今その感情を、そのまま私も受け取りました。ストーリーの波に飲み込まれているうちに、現実の時間があっという間に過ぎていきました。
表現したい心情や物事一つ一つに対して的確な単語を選んで読み手に届けてくるので、読み手の日本語の表現力も養えていって一石二鳥(と個人的に思っています)
あとがきにも、夏乃先生の作家としての繊細で胸が詰まるような気持ちが書かれています。あとがきを読むのは、本編を読み終わってからがおすすめです。
表紙と挿絵も美しい。この小説をより引き立ててくれています。
端から端まですばらしい。心と日常に潤いを与えてくれます。まさにあっぱれ。
手放したくない一冊です!
BLが好きな全ての人に読んでほしい一冊です!!
坊ちゃんで女王様な受けがボロボロな使用人の息子を自分だけの忠実な犬にしようと躾けますが、チワワのような犬と思ったら実は狼並みの狂犬~!
精神的にも立場的にも上だったはずが、逆転して受けが怯える姿にはゾクゾクします。
受けを中心に世界が回っていて、受けと離れるくらいなら死んだ方がマシ、というヤバい攻めです。
受けに隠れて裏でヤバいことしちゃうし、受けに彼女が出来て殺したいと言っちゃえるくらい受けに盲目。
執着好きの私としては大満足の執着具合です!
他の執着系とちょっと違うなぁと感じたのは、ちゃんと受けも依存気味なところ。
本当は好きだけれど、社長子息で同性愛へのハードルが高く受け入れ難いだけ。
その偏見とプライドが高いせいで攻めにボロボロにされてしまい、どちらかというと受けザマァ展開なのですがこういう設定が好きな人はもう、この先ネタバレ見ずに買った方がオススメです!!
夏乃穂足先生の作品は「ワンコは今日から溺愛されます」以来なんですが、こちらの作品はずっと本棚に眠ってたんです。厚さに怯んでいたんだと思いますが、なんでもっと早く読んでなかったのかと後悔してます。
多くの方がレビューして下さってるのですが、備忘録程度に感想を書きたいと思います。
まず「愛玩飼育」での一稀が、とても嫌な奴なんですよ。傲慢で自分だけが不幸だと思ってて、他者にも痛みや思いがあると思って無いです。ガチガチに凝り固まった常識やこうあるべきだと理想に縛られていて、唯一無二の存在である猛に出会っているのに最初から失敗してるんです。そして失って初めて損失感に苛まれる事になります。
そして二人が再会する「調教不全」、ここでも一稀は何にも変わってないんです。猛のセリフに何度も変われるきっかけともなるヒントが隠されているんですが、ガチガチに凝り固まった思考の一稀は気付きもしない…。そんな中、一稀が社長を務める四ノ宮グループを狙ったテロ事件が起きて、それをきっかけに一稀は猛の手によって全てを奪われて行きます。
ハッキリ言って一稀が嫌な奴なんで、この時点で気の毒だとか可哀想なんて思いませんでした。一稀がとうとう壊れてしまった時には、これからどう展開して着地点をどう持って行くのかドキドキした程です。
猛の一稀に対する執着や全てを捨てても構わないという激しいまでの愛にとても萌えました。
そして終盤の一稀と父親の会話で父親の愛情にやっと気が付いた様子にホッとしました。
そして明かされた猛の父の苛烈なまでの一稀の父への愛に感動さえしました。
再びの別離を経て今度は一稀が猛を失わないように行動に移すんですが、なかなか首を縦に振らない猛にドキドキしながら読みました。やはりここでも一稀は鈍感なんです。肝心なことが分かって無い。でも一稀が社長の座を託した白木の言葉でやっと気が付くんです。
一稀の言葉を聞いて初めて泣き顔を見せた猛と、唯一無二の存在をやっと手に入れた二人にとても感動しました。一稀が猛の為に用意した思い出のアレにも、なるほどと唸ってしまいました。
あとがきで知ったんですが、こちら夏乃先生の復帰作なんですね。素晴らしい作家さまが戻って来てくれた事がとても嬉しいです。
過去作を調べていて「茜色デイズ」は何となく記憶があるので読んだ事があるかも知れません。本棚から見つかったら再読してみようと思いました。